第一一〇話 南蛮貿易で得たもの
■天文十七年(一五四八年)十月上旬
さて、今回の軍事パレードもとい畿内制圧戦のメインイベントといって過言ではないほどの『お買い物』です。信長ちゃん率いる織田軍ご一行様が、南蛮貿易の中心地――堺の町にやってまいりました。
十万の将兵たちが支給された天正通宝のお小遣いを手に、故郷へのお土産などを思い思いに買い物しているだろう。
好奇心の塊のような信長ちゃんを堺の町に放流すると、きっと本人はとても楽しんでくれると思うけれど、さすがに危険極まりない。信長ちゃんや軍神虎ちゃんには本陣で待機してもらって、南蛮商人を呼ぶことにした。
ポルトガル商人らしき欧米人と、通訳らしき日本人の商人がやってきた。
「ほーっ!? 目の色や髪の色が面妖であるなっ!」
信長ちゃんは早速、目をキラキラさせて南蛮商人の観察を始めている。
「姫サマ達、かすていらアリマスヨー」
せっかく来てもらったけれど、南蛮商人は日本語が堪能で通訳は必要なさそうだぞ。
「うむ。かすていらは美味であるゆえワシの好物であるのじゃ」
「わーっ! かすていらちょうだいっ! かすていら以外にお菓子はないの?」
「かすていらドウゾ。姫サマ、びすこうトぼうろハ要ラナイ? タクサン持テキタヨー」
「要る要るー! びすこうととぼうろも買うよっ! でも買う前に味見させてよね?」
「姫サマ、ドウゾ。びすこうとトぼうろデスヨー。味ミテクダサイネー」
「うむ。ワシは、かすていらとぼうろをいただくのじゃ」
「姫サマ、かすていらトぼうろデスヨー」
軍神虎ちゃんと信長ちゃんが、不思議と南蛮商人とうまく意思疎通して買い物をしている。
彼女たちはお菓子に夢中だが、おれも南蛮貿易でしか手に入らない欲しいものがあるんだ。
「殿サマノ欲シイモノ、ナンデスカー?」
「パンは持テキテ、ナイデスカー?」
カタコトの日本語を話す外人と話すと調子が狂って、自分までカタコトの日本語になってしまうのはなぜだろう。
「ぱんネー。ぱんナラ少シアルヨー」
「固くなっていても構わないぞ。むしろ固くなったパンがほしいのだ。少しばかり分けてくれないか。甘くないビスケット(クラッカー)でもいいぞ」
固くなったパンは、パン粉にして料理に使うため。商人や水夫たちの主食はもちろんパンだから、多少の在庫や余りもあるはずだ。
「固クナタぱんナラ美味シクナイケド沢山アルヨー。殿サマ不思議ネー」
「固クナタぱん全部欲シイネー」
どうにも調子が狂ってカタコトの日本語になってしまう。
「ワカタ。殿サマに固クナタぱん全部売ルヨー」
よし、いいぞ。パンが手に入れば、パン粉を使ったあの揚げ物ができるだろう。パン粉がなければ、あのサクッとした衣ができないんだ。
「さこんは、美味しくないものを所望するとは、面妖なことをするのじゃな」
「姫がきっとお気に召す料理の材料です。そのまま食べるわけではないですよ」
「ほー!? この間はきしめんであったが、他にも作ってくれるのじゃな。実に楽しみなのじゃ」
南蛮貿易で買いたいリスト第一のパンは達成したぞ。那古野っ子ならば外せないあの料理を、おれは信長ちゃんに食べてもらいたいんだ。
そうだ。パンで思い出したがパン以外にも欲しい食材があるぞ。牛乳だ。牛乳がほしい。特に幼少期の発育のために牛乳はいいだろう。お菓子の材料にも使えるし。
「ソレカラ、みるく出ス牛ヲ連レテキテマセンカー?」
どうにも調子が狂うが、伝わるだろうか。牛乳のための乳牛が欲しいんだ。
「アー。牛の乳取るタメの牛ネー。次ニ来ルトキ持テ来ルヨー」
さすがに今すぐに牛乳ゲットは無理があったか。奈良平安期には、牛乳を使って
「牛乳を定期的に欲しいので、雄雌何頭かずつ本国から連れて来てくれ」
「殿様、ワカタ。牛ノ乳用ノ牛ヲ
なんだよ。普通に話しても通じてるじゃないか。
今回は無理だけれど、いずれ牛乳は生産していくとしよう。
もし牛乳が過剰になったり、乳がとれなくなった牛は肉にしてアサードにしてもいいだろう。
「ワシはこれ二つと、これ三つと、これ四つじゃ」
「わたしは、残ったぼうろ全部買うっ!」
「姫サマ達、オ菓子大好キネー。次モ美味シイオ菓子タクサン持テクルヨー」
「うむ。楽しみじゃ」
「やったあ!」
「ええと、おれには金平糖を一瓶もらえないか? あるかい?」
「殿サマ、こんふぇいとアルヨー」
金平糖は好物というわけではないけれど、甘いお菓子は貴重だし血糖値が上がるから、頭の働きを高めたいときに使えるかもしれない。それに安土保育園の子ども達のおやつにすれば、きっと喜ぶはずだ。
「それから、ぽてーとでなくジャカタライモはあるか?」
「じゃかたらいもハ持テキテルヨ」
「ジャカタライモは、あるだけ全部貰うぞ」
「殿サマ、金持チ。アリガトネー」
ジャカタライモはインドネシアのジャカルタが名前の由来のジャガイモのこと。
ジャガイモは以前から欲しかったのだ。きっと、飢饉に備えた
救荒作物といえば、カボチャも外せないぞ。
「カボチャはあるか?」
「かぼじあ、アルヨー」
「カボチャもあるだけ全部くれ」
確か、カボチャの語源は、産地というわけではないけれどカンボジアだったはずだ。カボチャは甲斐の佐久間信盛にも送ってあげよう。
カボチャは栽培も楽だし、のちに甲斐名物になるはずの『かぼちゃほうとう』の材料にもなるぞ。
「殿様、金持チダシ食ベ物ニ詳シイネー。次来ル時イロイロ持テ来ルネー」
◇◇◇
こうして、南蛮商人と何とか意思疎通をしながら、楽しいお買い物タイムが過ぎる。
「吉ぅ~。お菓子たくさん買えたねー」
「うむ。安土の子らも喜ぶのじゃ」
望み通り好物を買えてホクホク顔の女子二人である。
だが今回の南蛮貿易で、信長ちゃん、虎ちゃんとおれの三人が得たものは、よくよく考えれば食べ物ばかりじゃないか。
(第三部 覇者編 了)
現代大学生がタイムスリップした先は戦国時代。まんまと織田家に仕官したけれど信長様が美少女な姫でどうしろと。〜未来知識で天下取り〜《なろう700万PV超の戦国ファンタジー》 里見つばさ @AoyamaTsubasa
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