第11話 優子の過去

「何!?部隊の三分の二がやられ、私の子飼いの冒険者が全滅しただと!!……クソ!あの青いガンマンめ…………」

報告を聞いたリーダーは怒り、暴れていた。

「…………そろそろ私の所もマズいな。撤収しよう。覚えていろよ……ゼロ!!」







20:03

シェアハウス

赤木

あの一騒動の後、すぐに警察が到着し、俺達は優子と共に、先に家に帰った。

優子が言うには、何か分かったら、すぐ伝えるとの事だ。

夕食を食べ終え、俺達と優子は話ながら飲んでいた。

もちろん俺とセレナはジュースだぞ。

「優子さん。あの時は助けてくださり、ありがとうこざいます」

「気にしないでください。錬子さんに言われて、助けただけですから」

「それにしても、あの時の光の盾は何だったのですか?」

「アレは軍で作られた試作品のシールドデバイスです。光の魔石を埋め込まれていて、デバイスを起動したら、弾が自分の半径約三十センチメートルの所で自動的に発動、小さな光の盾が発生し、弾を防ぎます」

「魔石とは……貴重な代物を使うんだな。確か魔石は高価な石で、世にそんなに回っていないはずだが……」

「もちろん、それなりにコストがかかりますので、小さい魔石をデバイスに埋め込んで、後はデバイスの電力で補って抑えています」

「戦術が変わる代物だな」

「ええ。ボスも言っていました」

優子がコップに入っているお茶を飲む。

「そういえば、あの時の優子は雰囲気が違ったが、あれはお前が戦闘モードに入った時の顔か?」

「ふふふ。それを説明するには、少し私の過去を話さないといけませんね」

「優子の……過去?」

「ええ。ちょうど時間はたっぷりありますので」

「……皆、聞くか?」

「もちろんだ」

「むしろ興味がある」

「聞きます!」

全員から了承を得た。

「何々?私達も聞きたい!」

「優子さん、よろしいですか?」

「ええ。良いですよ」

シノ達三人も加わった。

優子は一回深呼吸した後、自分の過去について話し始めた。

「さて……まずは私の幼少期の頃から話しましょう。私はここの世界とは違う、地球という星のアジアのタイで生まれました」

「タイ?米の出荷が多い国か?数十年前の軍事クーデター以来、犯罪都市が増えたあの?」

「はい。その国の中で最も治安が悪い町で生まれました。というより、捨てられていました」

「捨てられていた?優子さん、孤児……だったのですか?」

「はい。私の生みの親は生まれたときには、とっくに町のヤクザに殺されていました。残された私は、とあるヤクザの組長に拾われて、その組長の直属の護衛にしたいと私を育ててくれました」

「良い奴じゃん。ヤクザの組長には思えないな」

「ええ。当時の私もそう思っていました。しかし、その組長は確かに護衛としての技術を私に叩き込みましたが、私が十歳の時に私を犯そうとしました」

「え……」

「何でだ?」

全員が疑問を募らせていた。

なぜ護衛として育てた優子を、拾った組長が襲ったんだ?

「後になって知りましたが、その組長は女好きで、身よりの無い女性を攫って、たくさん犯していたそうです」

「え!何ソイツ!?気持ち悪!」

ニノが恐怖を感じながら言った。

「まったく……あの時の私はどうしてあの人に拾われてしまったのか……今でも後悔しています」

「……で、その続きは?」

「犯されそうになった私は、躊躇なく拳銃で撃ち殺しました」

「え?」

「躊躇なくか?躊躇わなかったのか?」

「まさか……あんなクズ、早く撃ち殺したくて疼いていましたから、迷いなく殺れましたよ」

ん?今優子がクズって言わなかったか?

「……失礼しました。つい言葉が悪くなりました」

「いや、とりあえず続けてくれ」

言ったら恐ろしい事になりそうだからやめとこ。

「組長を殺した私はすぐに組長の手下に追われ、逃げ続け、十八までフリーのヒットマンとして過ごしていました。今両脇に付けているホルスターのM92Fは、その時に稼いだお金で買った物です」

「スライドのフレームに英語で何か書かれているな。何て書いてある?」

「SHOOT BULLET AT ENEMIES。敵に弾を撃ち込め。そう刻まれています」

「優子さん。カッコイイ」

ユノが尊敬の眼差しで優子を見る。

「褒められるものではありませんよ。十八までフリーのヒットマンをやっていたある日、一人の男と会いました。その男こそ、当時のボス、ゼロ。それが初めてボスと会った時です」

「へぇ。その時のボスはどうだったんだ?」

「今と変わらないですよ。どんな時でもヘラヘラしていました」

ずっと前からあの性格なの?

「その当時の私は……恥ずかしい限りですが、言葉遣いがとても悪く、辛く彼に当たっていました」

「今の言葉遣いになったのはいつだ?」

「それも含めて話します」







地球

タイ ????

優子 ゼロ

「よう。可愛いお嬢さん」

「てめえ、何者だ?」

仕事帰りの途中、黒のジャンパーに白のTシャツ、青にジーンズの男に会った。

何者かは分からないが、歳は同じぐらい。

そして、ここらのチンピラより鍛えられている。

おそらく、只者ではないはずだ。

「そんな怖い顔すんなって。可愛い顔が台無しだよ」

「うるせぇ。それで、何の用だ?」

「それじゃあ単刀直入に言おう。俺の傭兵部隊に入れ」

「は?お前、馬鹿か?この私が素性もロクに分からねぇ奴に入らないかと言われて、はいそうですかと言うわけねぇだろ」

フリーのヒットマンの私だぞ?傭兵部隊に入れって……何か裏があるな。

「ご明察だよ、お嬢さん。よろしければ、同行願いますよ」

「はっ。誰がお前なんかに……」

すると、後ろから三人の男が現れた。

「おうおう。ずいぶんと手際が良いな。最初から逃がす気は無いって事か」

「もちろんさ、青いガンマンさん」







「その時に後ろから来たのは、クランさんとレギーさんとダッチャーさんです」

すると、プリスキンが驚いた顔で誰なのか分からない俺とセレナに説明した。

「クランと言えば、第二部隊隊長の男だ。レギーは第五部隊隊長で、狙撃の腕が良い奴だ。ダッチャーは前第九部隊隊長で、今はこの国の王族の執事をやっている伝説級の奴らだ!」

「え!?そうなの、プリスキン!」

ニノがプリスキンに聞く。

「ああ」

「えー!この国の英雄ばかりじゃん!」

「英雄?」

「ゼロの部隊はこの国を世界大戦から救い、英雄となったからな。今でも人気は減っていないぞ」

「へー。会ってみたいなあ」

「それはまた今度な。それより、優子の話を聞こうぜ」

改めて、優子の話に耳を傾けた。

「タイの高級ホテルに連れて来られて、ボスはもう一度、部隊に入らないかと言いました。私は反対していましたが、彼は私の事について調べていて、私の経歴を話し、そこで私の尖った心をすべて変えてやると言われました」

「返答は?」

「渋々でしたが、了承しました。その後からは、私の人生は180度変わりました。すぐに錬子さんの部隊に入り、彼女に戦闘技術、優しい言葉遣い、勉学などを教わり、過去の私はここで入れ替えられました」

そこで今の優子が完成したって訳か。

「そこからは楽しい毎日でした。何度か任務はありましたが、錬子さんと楽しく話したり、他の皆と話したり、一緒に食べたり飲んだりしました。今でも夢で思い出します」

嬉しそうな顔をする優子。

それだけ楽しく暮らしていたのが分かった。

「あと、私に親友が出来ました。名前は夜桜。彼女と私の幼少期はほとんど同じで、違うのは彼女が捨てられた場所はシリアで、最初から言葉遣いが綺麗だった事です。訓練中に初めて会って以来、話が合って仲良くなりました」

「ほう。初めて聞いたな」

プリスキンが優子に言う。

「俺は召喚前からの古株だが、優子の親友とやらは見ていないぞ」

「プリスキンさんが入ったのは、日本支部が設立されてからですよね?」

「ああ。……まさか」

「…………」

その間に何かあったのか……

「日本支部が設立される四年前、各部隊隊長が揃い、副隊長も揃いそうになったある日。アフガニスタンの住宅街で、政府から警備の依頼がきて、私達はアフガニスタンの住宅街の警備をしていました。その時は私と錬子さんと夜桜が一緒で、学校近くの道路にいました」

「アフガニスタンはその時、治安が悪かったのか?」

「はい。イスラムの過激派組織の一つがかなり暴れていまして、アフガニスタンが一番荒れていたから、政府が私達に依頼したのだと思います」

「傭兵が町の警備?」

「私達の部隊は慈善活動もやっていましたので、世論からは良い意味でも悪い意味でも優れた傭兵部隊として、各国から人気を集めていました。只の警備で楽に終わる……誰もがそう思っていました……しかし、」

優子はポケットから、一個の録音機を出す。

「これはその時の無線を録音機で録った音声データです。かなりショッキングな所もありますが……聞きますか?」

優子が真剣な顔で皆に録音機の音声を聞くか、確認する。

皆は聞くと答えた。

「……分かりました。では、どうぞ」

優子が録音機の再生ボタンを押し、無線の声が聞こえてきた。

『こちら錬子。学校近くを警備。異常はありません』

これは錬子の声か。

『了解。こちらも異常は見当たらない』

これはゼロの声だな。

『了解……え?……分かったよ。ボス、夜桜から一言』

『何だ?』

『Fack youだって』

無線から他の仲間の笑い声が流れる。

『嘘つけ!優子だろ、夜桜が言うはずがねえ』

『当たりです』

優子の声が流れる。

『おいおい。任務中だぞ、集中しろよ』

これは……

「クランさんの声です」

『何だよ~。こちとら暇で暇でしょうがないんだよ。夜桜が笑わせてくれるのが、すごい助かる』

『ありがとうございま~す!ボス!』

多分これが優子の親友、夜桜の声か。

『さあ、あと一時間で警備は地元政府軍が引き継ぐ。終わったら、皆でパーティーだ!』

仲間の歓声が流れる。

そこで録音機の再生が終わった。

「次に移します。これは……聞けば分かります」

優子は録音機の再生ボタンを押した。

『こちら夜桜。学校の校門で生徒の下校を見守っていま~す』

録音機からは子供の無邪気な声が流れ、時折車の通る音が流れる。

『了解』

『ちょっと!ベタベタ触らないで!』

錬子の声が流れる。

ちょっと嫌がっているようだ。

『あはは。隊長が大変そう……ん?』

『こら!あまりくっつかない!』

『え……やばい!』

突然、夜桜が叫んだ。

『え?どうしたの夜桜……ってやばい!』

『間に合え……』

車が猛スピードで近づく音が流れる。

『夜桜!逃げて!』

『そこの車!止まりなさい!!』

車の停まる音は聞こえない。

『…………やった。これでラスト』

『夜桜!!危ない!!』

『夜桜!!』

『え?何です、』

録音機からぶつかる音、骨の折れる音、その衝撃で転がる音が流れた。

『夜桜ああああ!!』

『クソ!夜桜!!』

『大丈夫夜桜!?』

『ひどい……体が血まみれ……内臓が……う!』

優子の吐く声が流れる。

『どうした?何やら悲鳴が聞こえているが……』

『緊急無線!!夜桜がひかれた!!ドク!!早く来て!!』

『何だと!?ドク!すぐに向かえ!』

『了解!』

『早くして!!もう……もたない……夜桜……』

そこで録音機の音声が終わった。

…………。

終わった頃には、ずいぶんと重苦しい空気になっていた。

優子の親友の突然の死。それは優子をかなり苦しめたのだろう。

皆涙を流していたり、言葉を失っていた。

「警備している途中で、猛スピードで走る車を夜桜は見つけて、私達が呼び止めている内にまだ道に残っていた子供達を誘導していました。そして最後の子供を誘導し終えたその時…………車が猛スピードで夜桜に……うう……ううう……」

優子がぽろぽろと涙を流し、涙を堪えながら話を続けた。

「ドクが到着して治療したけど……内臓を損傷していて……手遅れで……治しようがないと言っていました……夜桜は痛そうに、痛そうにお腹を押さえて……痛い。痛い。死にたくないと言って……私は頑張ってと励ましていました……そして、夜桜は最後に私とボスに感謝の言葉を言って……私に親友になってくれてありがとう……って……言って……」

シノが静かにハンカチを渡した。

優子は流している涙を拭いた。

「私はあの後決心しました。夜桜のように明るく皆を和ませよう。夜桜みたいに優しくしようと……そうあの世にいる夜桜と約束しました……これで話は終わりです」

優子が話を終え、皆が黙っている事を確認してから、俺は優子に話し掛けた。

「優子。話してくれてありがとう。俺からも一つある。俺には一人だけ、尊敬している先生がいる。偶然かもしれないが、夜桜という名前の先生だ」

「え?」

「俺も最初は疑っていたが、優子の話で確信した。夜桜先生は生徒想いの先生で、優しく明るい立派な先生だ。俺の高校の担任だ。先生に聞いた事がある。なぜそんなに優しくしているのか、と。返答は、名前は分からないけど、親友の人と約束したから……優しく明るい人になってね、親友になってくれてありがとう、とな」

「夜……桜。馬鹿だよ……本当に馬鹿だよ……でも……私もありがとう。あなたは……私の大好きな……親友だよ……」

優子は涙を流し、あの世にいる夜桜に感謝を伝えた。

どうか、優子に感謝を受け取ってくれ。

お前みたいに優しく明るくしている優子を、どうか見守ってくれ……

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