第5話 ゼロール=スカーレット

「そういや、今何時でいつなんだ?」

「そうか、お前らは知らないか。今は4044年の七月六日、午後三時だ」

「って事は夏なのか?」

「まあそうだな」

「あっちと気温差がなくて助かったぜ」

ボブスキーが引き続き運転手を務め、助手席にプリスキン、後部座席に俺とセレナが座っている。

乗っている車は黒のセダンだが、冷房が効いていてとても涼しい。

「プリスキン少佐、二人にこの国の説明を」

「そうだな。よし、よく聞け」

俺とセレナはプリスキンの話に耳を傾けた。

「ようこそ、セベラル王国へ。この国は軍司令官、ゼロール=スカーレットによって発展した国だ。人口は約6300万ととても多い。国は中央の王城とセベラル王国軍基地を中心に、東西南北で四つに町が分かれている。貴族や身分の高い平民が住む北町、平民達が住む南町、娯楽施設が集まる西町、フード店や商業で賑わう東町だ。今俺達が走っている道は東町の車用の道だ。車と歩道は分けられていて、事故を未然に防いでいる」

「それで人が少ないのか」

「ま、歩道に行けば人にも店にも会える。また後で連れて行ってやるよ」

少し興味があるな。セレナと行ってみようかな。

「で、俺達は誰に会うんだ?」

「この国を発展させた現軍司令官様だよ。お前らの処遇をボスに相談するんだ」

「ゼロール=スカーレットだよな?どんな奴なんだ?」

「元は民間軍事会社の社長だ。射撃の腕が良い、皆から慕われている男だ。平民や貴族達は銃士様と呼び、兵士からはボスと呼ばれている。性格は気さくだから、すぐ仲良くなれると思うぞ」

フレンドリーな司令官かよ。てっきり頭の固い奴だと思ったぜ。

「ボスはまだ三十五歳だ。若いが、戦う司令官で、実力がある。だから兵士達に慕われるんだ」

「確か、結婚されていますよね?」

「そうだ。同い歳の妻と、お前らと同じ歳の娘に恵まれ、仲の良い家族で有名だ」

家族持ちか。いいなぁ。

「お。ここからでも見えるぜ。」

町をしばらく走ると、前に大きな城と軍基地らしい大きな建物が山の上にあるのが見えた。

大きな城はこの王国の城か。千葉のテーマパークの城に似ているな。結構大きいな。高層ビルぐらいあるぞ。

で、隣の大きな建物が軍基地か。大きな建物しか見えないが、規模が大きそうな基地だろう。

「今向かっているのは軍基地だ。それまでの森の道は監視カメラや探知魔法で警備されている。厳重だぞ。許可なしに立ち入りが出来ない場所だ」

軍基地近くになると、警備が厳重になるな。

科学と魔法で警備している軍基地か……

町を抜け森に入り、厳重な監視で固められている森を抜け、ようやく軍基地に着いた。

「プリスキン少佐にボブスキー三等兵ですね。錬子さんから聞いています。すぐに司令官室に向かってください」

軍基地の門兵にそう言われ、ゲートが開く。

『転生者を乗せた車両が通る。各員、失礼のないようにしろ』

拡声器からそんな指示が流れる。

その司令官がいる建物に入るまでいろんなものを見た。

隣を走り抜ける戦車、ハンヴィーの整備をする整備員、行進する兵士達、飛行場に戦闘機が着陸するところ、離陸するブラックホークヘリなど、現代の軍基地と変わらない風景を見た。

そして、建物裏の駐車場に着き、車を停める。

「降りるぞ」

車を降り、プリスキンとボブスキーに付いて行く。

建物の大きさは総合病院ぐらいあって、高い建物だった。

白と黄色を混ぜた色の兵士達が住む建物だった。

玄関に入ると、緑のメイド服を着た、金髪のエルフの少女が待っていた。

「お待ちしておりました。プリスキン様、ボブスキー様、赤木様、セレナ様。私は基地メイドのコスモスです。私が司令官様の部屋に案内致します」

丁寧な口調と仕草で自己紹介した。

この基地はメイドがいるのか?それもエルフの?

エルフを初めて見るな。やはり、エルフは可愛いのが固定だな。

「どうぞこちらへ」

メイドのコスモスに司令官室へ案内される。

途中のエレベーターで最上階まで登る。

エレベーターがあるのか。建物は現代チックだな。

最上階の十階に到着し、少し歩いて司令官室と書かれている部屋に到着した。

「お待たせしました。王国軍司令官、ゼロ様がお待ちです」

コスモスが扉を開ける。

中に入ると、中世ヨーロッパ風の執務室みたいな部屋が目に入った。

高級そうな背中が見えない椅子と机、その手前の客人用のソファー、ガラステーブルが置かれていて、司令官というよりはどこかの資産家の部屋に見える。

「皆さんはソファーにおかけください」

コスモスに言われ、高級そうな一人用のソファーに座る。

コスモスは机の横に立つ。

「で、司令官様はどこにいるんだ?」

「安心してください。ここにいますよ」

は?

後ろに向いていた高級そうな椅子が回転する。

「よお。初めましてだな」

そこには一人の男が座っていた。

暗めの青髪に紫の瞳の整った顔で、黒の軍服を着ている。

軍服の胸のところにはたくさんの勲章、金色のボタンで締めていた。

人差し指には指輪がはめられている。


これが……軍司令官のゼロールか。

プリスキンとボブスキーが慌てて敬礼する。

「別にいいよ。直って座れ」

「分かりました」

「分かりました」

ゼロールに宥められ、二人は座る。

「改めて自己紹介しようか。セベラル王国軍司令官のゼロール=スカーレットだ。よろしくな」

優しそうな顔で自己紹介するゼロール。

「で、そこの二人が転生者か。名前を教えてくれ」

「三日月赤木」

「ほ、星野セレナです!」

俺は普通に名前を言ったが、セレナは緊張した声で言った。

「何で緊張するんだ?」

「だって偉い人だよ!緊張するに決まっているじゃん!」

そうか?俺はあまり偉い人に会った事が無いから、緊張しないな。

「ははは!面白い奴だな。悪くない」

でも、気に入られた。フレンドリーだなぁ。

ゼロールが机の手前のソファーに座る。

「さてここで話す前に飲み物を用意するか。コスモス。皆に冷たいお茶を」

「かしこまりました、ゼロ様」

そう言って、コスモスは部屋を出た。

「メイドが軍基地にいるとは思わなかったぞ。あんたの趣味か?」

「ちょっと赤木君。そんな態度だと、ゼロールさんに失礼だよ」

「ははは!それでいいよ。敬語だと堅苦しいからな。ちなみに、俺の事はゼロって呼んでほしいな。そっちが気に入っているから」

「は……はあ」

「赤木の質問の答えはイエスだ。ミニスカのエルフのメイドは良いだろう?」

「確かに。悪くはない」

「だろう!コスモスは優秀なメイドだから、多分そろそろ……」

ポケットから懐中時計を出し、時間を見るゼロ。

「お待たせしました。冷たいお茶を持って参りました」

ドアからコスモスがお茶の乗ったお盆を持って現れる。

「やっぱりこの時間に来るな。さすがコスモスだ」

「ありがとうございます、ゼロ様」

そう言いながら俺達の前にお茶を置くコスモス。

「では、私はこれで……」

「ああ。また呼ぶ時があったら、鳴らすよ」

「分かりました。失礼します」

コスモスは一礼して、部屋を去った。

「さて、お茶が届いたことだし、そろそろ始めますか。えーと、何の話だっけ?」

プリスキンがカバーする。

「赤木とセレナの処遇ですよ、ボス」

「おお!そうだな。さあ、どうしようかね~?」

「決まっていないのか?」

「んー?別に自由でもいいじゃない?」

「そういう訳にはいきませんよ。なにせ二人は各陣営に狙われています」

「まー、そうだな。どうしようかな?」

気軽に悩んでいるゼロ。

軍は別に俺達の処遇は決めていないようだ。

「実は貴族達からたくさん電話が来てね。どっちにしようか迷っていたんだよね」

「貴族達から?それで?」

「片方からはうちに身柄を預けろと、もう片方はすぐに殺せと言われているんだよね~」

「二つの陣営が?」

「多分そう。でもなぁ、俺はその二つの陣営が嫌いだから、俺は保護すると決めたよ」

「そんな簡単に貴族達を断っていいのか?」

「ま、俺の名前を出せば、あいつらは大人しくなるからね。その方が良いと思うな」

確かに人々から人気のゼロが保護すると言えば、簡単に手出しが出来なくなる。

悪い話ではない。

「何か握っているのか?」

「ま、この国の貴族達は保護派だから大丈夫だ。殺害派と捕獲派の貴族達は全員、握っているからね」

「例えば?」

「浮気やら奴隷やら色々だよ」

「奴隷?」

「この国では禁止しているけど、他の国では奴隷制度があるぞ。使い方はまあ、色々だよ」

ああ、何となく察しがついた。

「それをネタにしているから、奴らは簡単に手を出せないって訳よ」

「なるほど」

「そうなると、君達のお金と住む場所が問題になるねぇ。どうしようか?」

「アテがあるのか?」

「うーん。あ、一つあったわ」

ゼロが手をポンと叩く。

久しぶりに見た気がするぞ。

「ウチが所有しているシェアハウスがあるんだわ。そこなら問題無いと思うよ」

「それは何処に?」

「南町の方だよ。でっかいからすぐ分かると思うよ。シノからは俺が言っておくよ」

シノ?

「シェアハウスの管理人だ。他にも二人住んでいるけど、事情を話せば、納得すると思うよ」

「ま、家の問題は解決した。金の問題は……」

てかこの世界の金持っていないぞ。

どうしよ?

「安心しろよ。俺の懐から出すから」

すると、見えない空間から四つの袋を出し、私達に渡す。

「いいのか?というか、どうやって出した!?」

「異空間収納だよ。知らない?」

「魔法の一種?」

「んまあそうだね。ま、勉強していけば覚えられるさ」

「ちなみに袋にいくら入っているんだ?」

「んー?金貨五枚と大銀貨二枚、銀貨五枚だよ。それだけあれば充分でしょ?」

すると、プリスキンとボブスキーが驚く。

「ボス!こんな大金……いや、なぜ俺達にも?」

「それはお前らが軍を辞めて、赤木達のサポートを任せたいんだ」

「軍を辞める?」

「あくまで一時的だぞ。退職金は残すから安心しろよ」

そう言われてホッとする二人。

プリスキン達も来るのか。ま、仲間は多い方が良い。

「車はツケで一台やる。その方が良いだろ?」

「ありがとうございます、ゼロさん」

「気にするな。ところでセレナって言ったか?」

「はい」

「……なるほど。苦労してそうだ。頑張れよ」

「え?あ、はい」

?セレナの何を感じ取ったんだ?

「じゃ、それで頼むわ。迎えまで時間があるから、それまで待機ね」

そう言って席を立ち、机からカスタムされたイスラエル製のデザートイーグルを出した。

「護身用にしては火力があり過ぎる銃だな」

「これは俺の愛銃だ。色はステンレスとメタルブルー。銃口にはマズルブレーキ。トリガリングは軽くしていて撃ちやすくしている。スライドストップは長くして掛けやすくしている。ちなみにこれがもう一丁あるぜ」

そう言って銃の手入れをするゼロ。

「それにしても、俺達がこの世界に来てから、ずいぶんと変わった。常識を変えたり、文明を変えたりと色々この世界を変え、何十年も経っているんだもんなー」

「来たのは何年前だ?」

「二十年前だ」

「てことは、十五歳で異世界に?」

「まあ、そんなとこ」

?でもそれだと……

「よく司令官まで登り詰めたな。苦労しただろう?」

「ま、それなりにね」

手入れを終え、状態をチェックするゼロ。

顔は少し暗かった。

「ゼロ様、車の準備が出来ました」

コスモスがゼロに連絡する。

「よし、車に乗ってシェアハウスまで向かえ。場所はナビに入っている」

「よし、行くぞ」

俺達はゼロに礼を言い、司令官室を後にした。







「ふう~。行ったか」

赤木達が部屋を出て、ゼロが一息つく。

「とりあえず、彼らを保護することが出来て良かった。これで最初の問題が解決した。次はその後の問題だな」

赤木とセレナをこの国で保護しても、殺害派と捕獲派が刺客を送り込む筈だ。

例え犠牲が出ようとも。

ゼロはため息をついた。

「奴らめ……零の一件で好き放題暴れやがって」

二年に魔人達が全世界に戦争を布告した。

首謀者はゼロの妹のレイチェル=スカーレット。

任務中に今は亡きフィード帝国の兵士の奇襲に遭い、捕まって拷問された。

その時の怒りや憎しみで魔力が変異、魔人となったのだ。

フィード帝国から逃亡後、復讐を誓い、わざとフィード帝国に仕え、潜入工作員として働き、復讐の機会を待った。

彼女は自分の三人の幹部を魔人にし、帝国の生物兵器のゾンビ兵を操作し、遂には帝国を滅ぼしたのだ。

貴族や平民の大人は容赦なく虐殺し、残った子供達は魔人にさせ、このセベラル王国に何度も襲撃をした。

魔人が脅威だと感じた王国は連合軍を結成。

共闘して、魔人が滅ぼした国のフィード帝国に進軍した。

魔人達は滅ぼした後、その国を拠点としたのだ。

連合軍の中には、ゼロの娘、ミリー=スカーレットを含む魔法遊撃団がおり、多大な力と知識で魔人を倒し、魔人の幹部を倒した。

しかし、そこで悲しいことを聞く。

魔人の幹部達は零に一度救われた傭兵やメイドで、密かに零の魔人を治す薬を作っていた。

しかし、薬は一本しか生成出来ず、魔人の幹部はそれを零に投与しようと決意し、魔人達は連合軍と戦い、命を落とした。

そして、魔法遊撃団は零を倒し、薬を投与して、零の魔人の血を半分消した。

零は目を覚まし、正気を取り戻す。

しかし、彼女は真実を知り、涙を流し、こうして魔人戦争が終結した。

だが、問題はその後だった。

魔人達のリーダーだった零は王国に拘束され、しばらく謹慎をしていた。

だが、精神的なショックで鬱状態になっていた。

仲の良かった幹部が死に、取り返しのつかないことをして、彼女は自分を責めていた。

一方連合軍として協力してくれた一部の国からは、繰り返し彼女の身柄の引き渡しを要求した。

まだ彼女の中には魔人の血が半分残っていて、まだ魔人は生きているとして、処刑したいのだ。

だがゼロ達はそれを断り、零を説得して、ようやく精神が安定し、軍に復帰した。

そんな時、現セベラル王国国王が病で亡くなり、その息子の蒼太が引き継ぎ、ゼロを軍の司令官として任命したのだ。

ゼロはすぐに国の整備を始め、国を大きくし、強大な力を持つ国へと変えたのだ。

「……ま、赤木達が今後どうなるか、見極めるか」

この世界で初の転生者の二人。

彼らは知らないだろう。自分達の本当の力を。

もしそれを知ったら……

「ボス。来たわよ」

第十部隊が入り、ゼロは彼女達に向く。

「ああ。来たか」

「これで予定通り?」

「ああ。後は彼らがどう出るかだが……」

すると、執務机の電話が鳴る。

ゼロはため息をついて、電話に出る。

「もしもし?」

『ゼロ!貴様、どういうつもりだ!王国で転生者の姿を見たぞ!裏切る気か!?』

突然の男の罵声。

ゼロは捕獲派の貴族だと理解し、返事する。

「何を言っているんだ?俺は最初からあんた達の仲間ではない。勝手に裏切ったのはそっちだろ?」

『貴様!この私を侮辱する気か!』

「うるせえぞ、だだの子爵の貴族が。喚き過ぎだ」

ゼロは声を低くし、相手の貴族を威圧する。

「お前はただ言うだけの腰抜けだろ?汚れ仕事は自分の私兵に任せるんだろ?なら静かにしてろ」

『何だと?私に口出しする気か?なら、』

「お前の妻を襲うぞ……だろ?」

貴族は黙る。

「やってみろよ。うちの妻は導師様って呼ばれている実力者だよ?お前如きがやれるかな?」

『ぐぅぅぅぅ……!』

「それともしうちと戦う気なら、容赦はしない。いいな?」

『覚えていろよ!絶対に捕まえてやる!』

「はいはい。ところで、ドアに誰かいるの、知ってる?」

『……?な!お前ら何者だ!?』

受話器からドタドタと足音が聞こえ、カチャリと鳴るのが聞こえた。 

「悪いけど、殺害派の貴族達にあんたを売ったから」

『何!?』

「これも仕事なんで。バイバ~イ」

『貴様、ゼロ……』

受話器から銃声が鳴り響き、バタッと倒れる音が聞こえた。

そこでゼロは電話を切った。

「あんたも悪だねぇ」

「褒め言葉をありがとう」

ゼロは第十部隊に向け、ある指示を出した。

「以上だ。質問は?これでいいな?」

「分かったわ」

「了解しました」

「分かりました!」

「了解だぜ」

第十部隊はすぐに部屋を出た。

「………さて、アミリアに電話するか」

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