最初に言いますけど、これ、私はお金出して買いますよ。
内容についてのレビューは他の皆さんのを参考にしていただくとして、せっかくなので別の切り口から。
まず、牽引力が尋常ではないです。
公募に出された作品とのことなので、一話ごとの文字数や引きなどは計算していなかったかもしれませんが、とにかく一話の引きがいい。絶対に続きを読みたくなる。
数日かけて読もうと思って夜に読み始めたのが運の尽きで、読み終えたら朝の4時ですよ。「続きはまた明日」ってのを許さない凄まじい引力に、読者はただただ翻弄されるだけになっちゃいます。覚悟して読みましょう!
それと、なんていうかな、機械への愛を感じます。機械というかなんだろうなぁ、ヒトじゃないもの。マシンだったりプログラムだったり数字の羅列だったり確率だったり、そういうものに愛情が注がれてる。
0と1を語るのに、こんなに愛を持って書く作者がいたかなぁ……って思うほど、「概念」や「無機物」「文化」のようなものに深い愛情を示してるんですよ(なんか私の日本語が変ですね。語彙力飛びました)。
そして登場人物たちの持つ優しさ。登場人物全員がびっくりするほど優しい。みんなそれぞれにベクトルは違うものの、どの人もみんな愛情深いんです。
最後に作者は読者に挑戦するかのように難問を残しています。
――本当のバグは何なのか――
読者によってその回答は変わるような気がします。
それがどう偏るか、それこそがランダムナンバーなのかもしれません。
まず、この小説は骨太な本格SFです。
それこそ、アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」やグレッグ・イーガン「宇宙消失」、あるいは伊藤計劃「ハーモニー」のような作品群に名を連ねても遜色の無いレベルの。
小説現代長編新人賞の選考委員、宮内悠介が「ファーストコンタクトにタイムスリップ、並行宇宙の全部盛りをしながら、ストーリーも読ませる力技」と評していましたが、全くその通り。
というわけで、一流のSFが読みたければ、一も二もなく、貴方はこれを読むべきです。
ですが、この作品の真の魅力はそういったSF仕掛けとは別のところにあると私は思います。
主人公の未理亜は終盤、タイムスリップした先で娘を設けるのですが、この娘と自分のDNA型が同一であることが分かり、以降彼女を“じぶん”と呼びます。
未理亜のタイムスリップの理由は「自分が生まれないようにするため」なので、“じぶん”である娘を手にかけるのですが、この殺害は成功するがゆえに失敗し、繰り返され、ついには「入れ替わり」(つまり殺される側)のイメージに捉われ、死の覚悟をした瞬間、宇宙空間(プロキシマb)に飛ばされる。
そこで未理亜は自らが作ったレディ・バグ(宇宙探査ドローン)の真の姿を見届けるのですが、最後まで“彼女”に対し「飛べ」と呼びかけます。
その飛翔の気高いこと。
レディ・バグは未理亜が幼い頃試作機を作って以来、ずっと科学者としての彼女と共に在ったもの。
これはつまり、自分を孕み、自分を殺し、そしてまた自分を飛翔させる物語なのです。
未理亜と娘とレディ・バグ。
彼女達がブレと重なりを繰り返すトリプルイメージが非常に危うい魅力を放っており、「だから、あなたを誘惑する」というキャッチフレーズがまさにふさわしい作品です。
どこか官能的な文体も相俟って、終始作品の向こう側から誘惑されているような感覚を覚えました。
「浮遊するランダム・ナンバー」というタイトルも見事です。「このストーリーならタイトルはレディ・バグにすべき」などと言っていた某選考委員は何も分かっていない!と敢えて言わせていただきます。
こんな作品が無料で読めてしまうなんて、本当に恐ろしいことだと思います。
一読者として、また書き手として、作者の西条彩子さんに最大限の敬意を表します。
素晴らしい作品をありがとうございました。
太陽系外惑星探査プローブから送られてきた情報から始まる、誰もが予想もできなかった事態。
世界の異変を救うために、天才美女科学者のとった行動とは!
彼女は世界を救えるのか?
近未来SFとして世界設定と技術的詳細が見事だと思います。
主人公を含めた登場人物たちは科学者が多いのですが、その科学者達が専門家として人間として魅力的なのです。
そして、最後まで飽きさせない話の展開と構成であり、ミステリー風な展開のスパイスが効いて、それが最後の感動のクライマックスへ繋がる。
SF×ミステリー×パラドックスものが好きなあなた。きっとこの話にとりこになるに違いありません。
捕捉:
本作に出てくる「ランダムナンバー(乱数)」による意識の検出は、とある分野では有名な現実の実験です。それを小説に取り入れたという先進性と着眼点の鋭さは特筆すべきです。