幕間 ダグレストへの反撃~皇国編~

 時は各国が開戦となる1日前、ダグレスト国内に軍を進め、魔物軍を待ち構えている皇国軍本陣、その天幕の中でも特に大きい軍議を行う天幕内で二人の男が向かい合っていた。

 一人は、リーゼの父でもあるディクラス・モンテロ・フィン・フェリック皇王陛下。

 対面に座るのは、今はグラフィエルの半家臣となっている神喰。


「…………」


「…………」


 同盟戦力の振り分けによって、皇国へと派遣された神喰なのだが、色々とやらかしている事を皇王も知っている。

 同盟加入後、暫くしてからグラフィエルから色々と話されていたからだ。

 そしてその話の中に、大規模ダンジョン事変の事も、一部は曖昧にしながらも黒幕の話はされていた。

 ヴェルグも被害者であると印象付けるためで、父親みたいな存在が黒幕だと伝えていたのだ。

 で、その人物が今やグラフィエルの半家臣として、同盟戦力に加入して援軍としてきているわけだが、はいそうですか――と、受け入れられるはずもなく、今の状況になっていた。

 そんな重苦しい雰囲気の中、ヴェルグが口を開いた。


「あの、その節はご迷惑を……」


「ヴェルグ殿か。謝罪は不要。リーゼからの便りで知っておるからな。ただ、一つだけ聞いておきたい」


「何でしょうか?」


「今、幸せか?」


 皇王からの意外な質問に、ちょっと驚いた顔になるヴェルグ。

 皇国側からは、憎まれて当然だと思っていたからこその驚きでもあった。

 だが、直ぐに元に戻り、そして、嘘偽りなく本心を述べる。


「毎日が幸せで、楽しいです。リーゼとも話が合います。同じ婚約者であるながら、妹の様な感じでも接してくれます。……くれるのですが」


「くれるのですが?」


「たまぁに、リーゼの知らない知識を話してしまうと、鼻息が荒くなって詰め寄られて、何時間も拘束されるのは大変だったりします。まぁ、そういったのも楽しんではいますけど」


「……くっ、くくっ、そうかそうか、大変か。煩わしいとか、怖いとかではなく、大変だけど楽しんでいるか。わっはっはっはっ!」


 皇王が激しく笑い、ヴェルグは少し困った表情になる。

 どう収拾するべきなのかと。

 しかし、次の皇王の一言に、この場にいる誰もが驚く事となった。


「だ、そうだぞ? それで、どうするんだ?」


「…………」


「お前、それでも父親か? 正確には違うとしても、似たような立場なのだろう? はっきりしろっ!」


 国の王としてではなく、父親として叱り始めたのだ。

 当然、裏も思惑もあるにはあったが、王であっても人の親なのである。

 娘の便りにあった、幸せで楽しいという言葉と、ヴェルグへの想い。

 リーゼとして、当初は思う所が無いわけではなかったが、話していくうちに馬が合ったし、ピースがカチリと合うような感じだとも書かれてあった。

 今では、大事な家族であり、妹みたいな存在だとも書かれてあった。

 故に皇王は、王としては絶対にしてはいけない決断をしていた。

 但し、それは張本人からの一言があればであったが。

 それを神喰いは分かってはいた。

 いたのだが、グラフィエルの立場上、して良いもの顔迷っていた。


(変われば、変わるもんだな。この俺が、他人の心配かよ)


 思わず自分に苦笑してしまいそうになる。

 ヴェルグの事は、ただの道具に過ぎなかったはずなのにと。

 しかし、今は少し違う。

 きっと、色んなものに触れ、喰ったせいだろう。

 だから、一つだけ前置きしてから言葉にした。


「これは、俺個人の謝罪だ。あいつとは無関係で願いたい。そして、当時はすまなかった。娘とは少し違うかもしれねぇが、これからも宜しくしてやってくれ」


「あい、わかった。こちらこそ、援軍感謝する」


 皇王側も、同盟側も、激しく驚く。

 あの皇王が、何の利権も取らずに矛を収めた事を。

 あの神喰が、グラフィエルの事を気にかけ、ヴェルグの事も気にかけ、謝罪したことを。

 そんな驚きの中で、二人は握手を交わした。


「よろしく頼む」


「当時の謝罪は、働きで返させてもらう」


 ここに、皇国と神喰との和解が成立した。

 ただ、皇国側は思う所があったのだろう。

 皇王に詰め寄って、賠償金くらいはと詰め寄ったのだが、一喝されてしまう。


「あの時の賠償金? 既に支払われておるわい! 寧ろな、神喰殿の働き次第では、こっちが報酬を払うべき立場なのだぞ」


 その後、皇王はわざと神喰にも聞かせるように話した。

 グラフィエルは金銭こそ支払ってはいないが、後に畜産関係の改善技術に関して他よりも安く提供し、且つ、帝国の飛行船便の締結に関しても間に入っていた。

 直接的な事はしていないが、間接的な事は多々しており、将来的な国益を考えれば、十分すぎるほどの賠償金を支払っているような状態だと語る皇王。

 流石に、皇国側の反論は封殺されてしまった。

 皇王のカリスマ性も相まってではあるが。

 そして、その事を聞かされた神喰は、強く拳を握った。


(あんのド阿呆がっ。この国でやらかした責任は俺が原因だろうがっ。俺個人で返すのが筋だろうにっ。……身内に甘過ぎんだよ)


 だから神喰は、皇王に一つ提案を持ち掛けた。

 普通なら承諾しかねる提案であったが、ヴェルグに加え、竜であるバルラムとアルバからも嘆願され、渋々承諾する。

 そして、魔物軍との開戦日、皇国軍は普通なら取らない陣形をしていた。


「うっし、殺るかぁ」


「クソ親父、本気なの?」


「あん? 当り前だろうが。こいつはケジメだ」


「で、なんでボクも?」


「抜けさせるつもりはねぇが、万が一ってのがある。ま、保険だな」


「ちっ。あんたって、いっつもそうだよね? 肝心な事は喋んない。そういうとこ、クッソムカつくんだけど」


 ヴェルグが悪態を憑くも、笑って誤魔化す神喰。

 その態度に、更にイラつくヴェルグであったが、お喋りはここまでだった。


「来たな」


「……守るよ」


「あん?」


「ボクは、ラフィが悲しむ顔が見たくない。だから、あんたも守ってやる」


「はんっ! そういう言葉はな、完全に力を引き出した上で制御してから言え。……(ま、時間があったら教えてやるよ)」


「なんだって?」


「なんでもねぇよ。それよりも、来るぞっ!」


 こうして、火蓋は切って落とされた。

 手始めにと、左腕を腐竜化させて薙ぎ払う神喰。

 その一振りで、数十体の魔物が喰われる。


「はっはー! てめぇらに、俺が殺せるかぁ!?」


 右腕も腐竜化させ、魔物軍を縦に削り取って食らう神喰。

 その状態で左腕も同じように伸ばして食らい、両腕に挟まれた魔物たちを超高温プラズマで灰へと変える。

 灰になった魔物たちを一瞥する事も無く、次は伸ばしたままの両腕を広げる様にしての、外へ一薙ぎ。

 僅か一瞬で、百体以上の魔物が屠られる。


「ば、ばけもの……」


 神喰後方に展開してる兵の一人が呟いた言葉。

 耳が良いヴェルグは、少しだけ顔を歪める。


(間違っちゃいないよ。でもさ、あんたらへの犠牲を最小限にさせる為に、一人で最前線にいるクソ親父に失礼でしょ)


 少しだけ、本当に少しだけ、今の言葉を呟いた兵士を殴り飛ばしたい気持ちにかられるヴェルグ。

 だが、その想いは神喰によって止められる。


『ヴァカが。いちいち気にすんじゃねぇよ。俺が化け物なのは、覆しようのない事実だっつうの』


 何とも明るい声に、毒気を抜かれるヴェルグ。

 しかし、この念話の油断が、神喰に怪我を負わせることに繋がってしまった。


「あっ! くそっ」


「クソ親父!?」


 四足獣の魔物に食い付かれ、どうにか引き剥がすて殺すが、一瞬の隙を突いて数十体の魔物が神喰の防衛線を抜けて本陣に迫る。

 だがしかし、その後詰はヴェルグである。

 今や神格も得た、まごう事無き神であり、現世に顕現せし現神であり、原初の使徒である。

 見た目は幼い少女なので、侮った魔物たちは一気呵成に攻めて、ヴェルグを食らおうと押し寄せて……一瞬でこの世から姿を消した。


「ふん。ボクを甘く見過ぎだよ。見た目で判断しないで欲しいね」


 何時の間にか握らていた魔剣から、何故かする咀嚼音。

 神喰以外、この場にいる誰も分かってはいないのだが、瞬時に魔剣を召喚したヴェルグの一振りによって、全ての魔物が喰われてしまっていた。

 その光景に、目を見開く皇国軍人たち。

 そして、そんな皇国軍人たちに、ヴェルグからの踏み絵宣告がなされた。


「ねぇ、ボクも化け物かな?」


 一瞬の間の後、勝鬨を持って応える皇国軍人たち。

 実は、先程の兵の呟きは、皇王へ即座に報告されていたりする。

 士気が落ちるかもしれないと考えた皇王は、自身も前線に出て勝鬨と言う答えを以て応えたのだ。

 その結果、士気は落ちず、逆に上昇傾向にあり、布陣している陣形を押し上げる形となった。


「うわぁ……いらねぇ」


「黙れクソ親父。そしてよそ見してない」


 神喰の言いたい事は、ヴェルグは直ぐにわかった。

 神喰が前日に提示した布陣、その内容は、U字布陣だ。

 両翼を突出させ、中央は最後方で布陣させるという奇策。

 中央誘因を以て、神喰が屠るという作戦だった。

 結果論として見れば、この作戦は大当たりであった。

 但し、神喰への負担はかなりあったのも事実。

 最凶の個VS有象無象なわけだが、数の暴力もまた最凶と言える。

 その結果、翌日からは一部作戦変更となる訳なのだが、被害という面では皇国が一番低い形となった。


「しっかし、俺から言った作戦とは言えきっついぜ。あいつらは大丈夫なんかね?」


 自分で言った言葉なのに、あれ? と疑問に思う神喰。

 環境が人を作るとも言うが、そんな自分に対して、嫌では無いと思い、笑いながら雄たけびを上げて突撃する。

 そんな神喰を見ていたヴェルグであったが――。


「アホ……」


 一言、笑いながら呟いて、自身も後に続いて行った。

 そんな戦場での6日間は、皇国側の圧勝となった。






 皇国軍左翼。

 U字型に展開した陣の先頭では、同盟軍が盾としての役割を担っていた。

 配置されているのは、アルバを指揮官として、リア、輝明、澄沢の4名のみ。

 少ないと感じるだろうが、これにはきちんとした理由があった。


『アルバの防御は、天竜の中じゃピカ一だ。だから左翼は、最小戦力を配置する』


『狙いはわかったが、左翼側の意味は?』


『ねぇとは思うが、増援が現れた時にでも対処可能にするためだ。帝国側だからな、ブレスってわけにもいかねぇ』


『そういう理由か。よかろう』


 神喰とアルバの会話に、皇国将校たちを交えた話し合いは直ぐに終わった。

 尤も、皇国将校たちに口を挟むことなどできはしなかったが。

 そして、現在に至る。


「儂の結界は、早々の事では破れはせん。臆せずに行け」


「アルバさん、目標地点まで引いた後は?」


「不退転だ、輝明。天音も良いな?」


「わかったけど、ほんっとうに大丈夫なの?」


「天竜内では一番強固である。案ずるな」


「僕の役割は遊撃と挑発で良いんだよね?」


「はい、リア様。但し、余り陣地からは離れぬようにお願い致します。御身に何かあれば、主様になんとご報告して良いのやら」


「防御は完璧なんでしょ? なら、大丈夫だよ。身軽だしね」


 リアはそう言って、自分の胸を指差した。

 所謂、自虐ネタである。

 しかし、誰も笑わない。

 アルバに関しては、そっと視線を逸らす始末。


「ちょっと!? そこは笑ってよ!」


 皇国軍人たちは苦笑い。

 澄沢は、笑うに笑えないと、同情の眼差し。

 アルバは視線を逸らしたまま。

 そして輝明もまた、苦笑いしながら応える。


「蒼の奴、相当な愛妻家になってやがるからなぁ。自虐ネタとは言え、笑ったと知られたら、メナト様によるHELLコースの未来しか見えない」


「そこっ!?」


「保身は大切だと思う。後、天音も巻き込まれそうだから、迂闊に笑えない」


「自虐損だよっ!」


 リアの最後の言葉に、最前線にいる全員が大笑いする。

 場が和んだところで、その時はやって来た。


「来たぞ。さて、お主らの役目の再確認は済んだな?」


「「勿論」」


「リア様、くれぐれも……」


「わかってるよ。突出は避ける」


 そして始まる魔物軍戦。

 誰もが危なげなく、天竜内最強の防御結界を身に纏って役目を果たしていく。

 損害は皆無であり、懸念事項も無く、6日目を終えた。





 皇国軍右翼。

 配置されるのは、バフラムを筆頭にして、リジア、雪代、春宮、姫埼の5名。

 攻撃特化部隊である。

 この編成も、神喰による指示であった。


『南から増援が来る可能性は否定しきれねぇ。北よりも確率は高く見積もってるからな』


『だから俺か。……優華様と桜花様は理解できるが、残る奥方様がこちらに配置される意味は?』


『防御よりも、攻撃寄りだろ? 回復役の近くにいた方が良いってこった。左翼は防御とちょっとした遊撃が上手い奴らで編成。右翼は超攻撃特化って編成だ』


『増援が来た場合には、俺のブレスで良いんだな?』


『こっちに被害が出なけりゃ何でも良いさ。ラフィ曰く、フレンドリーファイヤ――味方からの誤射が一番怖いってよ』


『了解した。しかし、まさかお前がな……』


『俺だってそう思うさ。あいつも、思ってるより余裕がねぇって事だ』


 そうして布陣したバフラム達であったが、右翼は戦端が開かれた後、1時間もしない内に怪我人多数、重体、重傷者多数、死亡者も出ている有様であった。

 その結果を見て、思わず頭が痛くなるバフラム以下同盟戦力軍。


「こいつらは……今回の戦争の意味を理解しているのか?」


 バフラムが少し苛立ちながら呟く。

 その呟きは、この場にいる同盟戦力の誰もが思っていた事であった。

 と言うか、右翼の編成に疑問が尽きない。


「私も元王族だから勉強していたけど、この編成は無いわ」


 リジアの言葉に、戦闘しながらも全員が頷く。

 武功を求めるのは仕方ないにしても、欲に目が眩み過ぎではあるし、何か勘違いしている指揮官貴族が多い。

 勿論まともな指揮官貴族はいてるのだが、同爵位で仲が悪いとかで、指揮系統が滅茶苦茶なのだ。

 同盟戦力は危険と判断した場合、独自判断での行動権限が認められているので、現在はその権限を使って行動していた。

 いや、せざるを得ない状況に追い込まれていたというのが正解であろう。

 こうなると、皇王から与えられているもう一つの権限を使わざるを得ない。

 しかし、では誰が指揮をとるのか? といった問題が出てきたりする。


「どうするの!?」


 姫埼が少し焦って質問する。

 春宮は後方で、既に治療従事に専念と言う状況。

 最早一刻の猶予も無い状況下で、雪代がキレた。

 大きく金棒振り回した後、わざと指揮系統を混乱させている貴族達の元へと、魔物をぶっ飛ばしたのだ。

 ここにグラフィエルがいれば「ホームラー――ン!」とか言いそうだと、姫埼は密かに思ってしまい、頭を振って魔物戦に集中する。


「バフラムさん、少しだけ抜けても良いですか? 良いですよね?」


「う、うむ」


 雪代の圧に、思わず返事をしてしまうバフラム。

 本能が警鐘をならしたのだから仕方ない。

 今の彼女に逆らってはならないと。

 バフラムから了承を貰った雪代は、すぐさまぶっ飛ばした魔物の方へと駆けていき、大声を張り上げた。


「あんたらっ、ほんっとうにいい加減にしなっ! 今は被害を最小限にして生き残る方が先決だろっ!」


「小娘がっ! 生意気な事を言うなっ! それにだっ、お前達は最前線担当だろうがっ! なんでここに居る!」


 ごもっともな言い分ではあるが、それはまともな指揮系統をしていて、それでも被害が出てしまっていたらの話である。

 ついでに言うと、声を張り上げた指揮系統を混乱させている筆頭は、女のくせにや、グラフィエルに対する悪態迄つき始める始末。

 対するまともな指揮をしていた貴族指揮官は、手を額に当て、アチャーって態度を出してしまった。

 で、そんな態度を取られた雪代は、元ヤン全開に。


「”ア”ァ? てめぇがまともにしてねぇから、わ・ざ・わ・ざ・ア・タ・シが、ここまで来てんだろうが! あんま舐めた口きぃってっと、〆んぞ!」


「ヒッ!」


 雪代も、かなりの強者であるからして、濃密な殺気を浴びせられた貴族指揮官は悲鳴を上げてしまう。

 これは流石にヤバい! と感じたまともな指揮官であったが、一足早く、雪代が強権を発動した。


「指揮系統を混乱せている貴族指揮官全員を更迭して。そちらのあなたはまともなようですので、右翼最高指揮官として立て直しをしてちょうだい。皇王から与えられた権限だから、異論唱えたら……わかるわよね?」


 異論は認めない、やれ――と言う圧に、二も述べずに二つ返事で応える兵達。

 バフラムと同じで、本能が逆らってはいけないと訴えたのだ。

 雪代指示の元、素早く更迭して、皇王の元へと送られる更迭貴族達。

 伝令は既に走っているので、何の問題も無い。

 いや、実際には問題だらけなのだが、まさか本当に使うとは思っていなかった皇王の失態なのだが、後の祭りである。

 その後、まともな者達で立て直し、再編した右翼軍は強かった。

 ただ、雪代は終始不機嫌でもあった。

 何故かと言うと――。


「貴様らぁっ、無様な戦いを見せるなよっ! 見せれば、我らが神がお怒りになるぞっ!」


「続け続けぇ! 我らが神に続けぇ!」


「我らには、軍神がついているのだぁっ! 軍神シオン様に誇れる戦いをするのだぁっ!!」


『『『おおおぉぉぉぉぉ!!!』』』


「もう、やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 自業自得である。

 後の話ではあるのだが、バフラムが一頭の赤竜を連れてきて、側役にと推薦したりするのだが、これも自業自得だ。

 そして、運命の7日目、皇国軍は何もせずに勝利する。

 その後は、ランシェスや帝国と同じなのだが、少しだけ違うとすれば、捨て駒部隊の戦力。

 実は、捨て駒部隊の戦力は、皇国軍に割かれていたのだ。

 尤も、神喰以下、同盟戦力だけでフルボッコしているのだが。

 それから順調に進軍していき、被害も一番少なく包囲戦に参戦した皇国軍であったが、非常事態に見舞われる。


「あれは……ヴェルグゥゥゥ! 魔法で撤退の合図をだせぇぇぇ!」


「怒鳴るなっ! わかってるよっ!」


「くそっ! 最悪の状況じゃねぇか!」


「クソ親父っ! バカがツッコんでいく!」


「あ? ……あんのクソ共がっ。ほっとけ! 俺達も一度引くぞ!」


「良いの? って、限界線を越えちゃったか。もう無理だね」


 二人が見たバカたち――更迭貴族達とその私兵たちだが、神喰ですら危険と言わざるを得ない状況で、連れ戻すための限界点を超えてしまった。


(おっさんにゃ悪いと思うが、流石に無理だ。諦めて貰うしか……ちぃ! やっぱり、そういうことかよっ)


 バカ共が境界線を越えた瞬間、この世から消滅するのを確認する神喰。

 被害は最小限に抑えたとして、役目は果たしたと撤収を開始する。

 その道中、待っていたヴェルグと合流して、状況を話していく。


「あれは……まさか、だよね?」


「そのまさかだ。あの野郎、マジでやりやがった」


「でもさ、普通は無理だよね?」


「起爆剤は、間違いなく俺の欠片だ。問題は、どうやって起爆させたかだ」


「てかさ、ヤバくない? あれ」


「わぁーってるよ、そんなことは。あんなもん、神々が聖剣を託したとしても不可能だ。ただ、幸いにな」


「ラフィだね?」


「ああ。だが、問題はあるぞ?」


「集結も視野に入れた方向で進めた方が良いなら、ボクがこっちに残るよ。だからさ……」


 走りながら話すヴェルグに、神喰も走りながら頭をポンポンとする。

 任せておけと――そう、告げるように。


(最悪の場合は、俺との対消滅だな。……後始末はしねぇとな)


 神喰はそう決意して、ヴェルグと共に本陣へと帰還した。

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