第227話 クロノアス家防衛戦 ~ここは化け物の巣窟か!~

 時間は少し前、郊外前線で直轄部隊が暴れていた頃に戻る。

 反乱軍とランシェス軍がぶつかっていた頃、王都内でも動きが出た。

 各所で火の手と暴動が起き、駐屯兵が出動する。

 当然、兵が各所に向かえば、その分手薄になる場所も出てくる。

 そして、見計らった様に王城と主要上級貴族家へ押し入る反乱貴族達。

 当然クロノアス家も例外ではなく、王都内は混乱に……包まれはしなかった。


「おらっ! 大人しくしやがれ! そっちはどうだっ!?」


「問題無いっ。手の空いてる者は、民の避難誘導を!」


 実は、軍が行動を開始した時に軍事密書が配られていたのだ。

 開封は、外の戦闘が開始された時に設定されていた。

 それに加え、密かに非番の駐屯兵にも召集がなされていた。

 結果、混乱を増長させようとしていた者達は、手早く捕縛される形となった。

 但し、全てが上手く言ってる訳でもない。

 何処でどのように行われるかは不明であるから、即時対応しか出来ない。

 故に……ここで、グラフィエルの策が上手く機能する。


「こっちだっ! あっ、くそっ。上手く逃げられた!」


「問題無いっ。封鎖は完了している」


 グラフィエルの策そのⅠ、冒険者の協力。

 本来、国の戦争などに冒険者は不介入である。

 今回も郊外の戦闘には、冒険者の雇用はされていない。

 しかし、王都内となれば話は別である。

 冒険者も住んでいる都市であるからして、争乱などは御免なのだ。

 だが、それでも、国の貴族達のいざこざとなれば、不介入を決め込む。

 若しくは、他国へと移動するのだが、今回はがっつり介入している。

 何故か? グラフィエルが頭を下げたからである。

 冒険者でクラマスとは言え、お貴族様である。

 そのお貴族様が頭を下げた。

 少なくとも、話を聞くと言う形にはなったのだ。

 但し、他のクランと冒険者ギルドの冒険者は――という注釈が付く。


『どうしても、冒険者の協力が不可欠なんだ。どうか、頼む』


 そう言って頭を下げられたのだ。

 結果、話を聞き、協力体制に至った。

 目に見える報酬は無い。

 だが、明日も笑い合える未来は確実に迎えられる。

 それが報酬だと、力説されたのだ。

 しかも、クロノアス家の守りは一切盟約されないとも条件を出されている。

 議論はあったものの、結果として協力を取り付けられた。


「白銀の! そっちに行ったぞぉ!」


「任せろっ! 絶対に、逃がさんっ」


「くそっ。聞いてた話と違うじゃねぇか!」


 他のクランの冒険者と白銀の翼の冒険者が連携して、反乱貴族に手を貸している者達を追い込んでいく。

 そう、グラフィエルの策その2は、自身のクランの冒険者の総力投入であった。

 クランの大部分の冒険者達は、他の冒険者達ともに治安維持へと回されている。

 そしてその中でも、古株であり高ランク冒険者は二つの部隊に分割投入されていた。

 一つは、王城へと向かう部隊。

 勿論、陛下以下、関係各所への根回しも済んでいる。

 加えて、例の貴族との食事会で一緒だった、反乱貴族の息子の一部も同道している。


「良いか? あんたらは武芸は嗜んでいるだろうが、実践不足だ。こちらの指示には従ってくれよ」


「無論です。クロノアス卿には感謝しかありません」


「ええ。陛下にも話をして頂いてるとの事で。暫くは監視付きとの事ですが、無関係の家族を守れるならば安いものです」


「良い覚悟だ。合図するまでは、ひたすら潜むぞ」


 王城部隊の目的は、反乱貴族が王城へ練り込んだ後、挟撃して近衛に加勢する事である。

 故に、今は潜伏する。

 絶好の機会が訪れるまで。

 そして、その結果は最良のものとなった。

 そんな中、別動隊の冒険者は、貴族街を駆け抜けていた。

 否、より正確に言えば、主要上級貴族家を助けに回っていた。

 上級貴族とは言え、法衣貴族である。

 多少の私兵は抱えていても、戦力不足は否めない現状なわけで、数の暴力には抗えない。

 捕縛されたり、殺されたりする貴族家は多くなるだろうと予測したグラフィエルの一手が、官僚職の法衣貴族家から助けて回るというものだった。

 官僚が減れば、国が回らなくなる。

 陛下からも頼まれたグラフィエルは、分割した部隊の一つを救援に回し、自身の屋敷への避難を促すと共に、最終防衛ラインとしたのだ。

 そして、その最終防衛ラインには、バケモノ級が手ぐすね引いて待っている状態にした。

 その中には当然、当主不在に変わり、正妻候補であるミリアが当主代理を務めていた。


「ミリア様、総員、配置につきました」


「ご苦労様です」


「私達も、裏口へと参ります」


「武運を。ナリア、ノーバス」


「「はっ」」


 騒動後すぐに、家臣達への通達を行った二人は、当主代理のミリアへ報告をして、自身らも配置場所へと向かった。

 そんな二人を見送るミリアに、ブラガスが声をかける。


「大丈夫ですか? ミリア様」


「大丈夫ですよ。それよりも、良いのでしょうか?」


「あのお二方ですかな?」


「はい。ラフィ様は、我が家に冒険者は配置されないと確約されたのですよね?」


 ミリアの言葉に、ブラガスは何とも言えない表情になる。

 確かにグラフィエルは、冒険者をクロノアス家の守りに入れないと盟約を打っている。

 但しそれは、クラン所属冒険者以外を防衛に回さない――と言う、貴族的な言い回しだったりする。

 ブラガスもミリアも、グラフィエルの意図を理解してはいるが、後で何か言われるのではないか? と、考えてしまっているのだ。

 そんな二人の不安を取り除く様に、二人の冒険者――ウォルドを除いて、最古参で最高ランク――が声をかける。


「安心して下さい。その辺りも、クラマスが上手くやってるんで」


「ええ。だからわざわざ、表の迎撃部隊には、傭兵を雇ったんでしょうし」


 二人の言葉に、ブラガスはグラフィエルのやったことに気が付いた。

 流石は、元歴戦の冒険者だけはあったと言うべきか。

 対するミリアは、冒険者登録もしていて、実際に活動も少しはしていたが、理解できていない様子。

 察しの良いミリアにしては、珍しい姿であった。

 その様子を見たブラガスは、すかさず説明。


「ミリア様。これはですね、依頼――なのです」


「依頼、ですか?」


「はい。確かにお館様は、屋敷の防衛に置いて盟約を出しました。しかし、その内の一つにはお気づきでよね?」


「はい。あくまでも、クランの冒険者以外は――と。明言はしませんでしたが、言い逃れは出来る算段ですよね?」


「その通りでございます。そして我々は、それでも追及されるのではないか? と、考えましたよね?」


「ええ。……って、まさか?」


「はい。追及を更に逃れる為に、彼ら二人を臨時傭兵にした上で、依頼と言う形で配置しているのです」


 ブラガスの説明に納得するミリアであったが、そこまで徹底しているのか――と、驚愕もしていた。

 普段のグラフィエルなら、力押しの方法で行く事が多かったからだ。

 ミリアが思っていた以上に、貴族らしい搦手と言い逃れの方法を使っていて、少しだけ……心の中で謝った。


(ごめんなさいラフィ様。私、力押しだけしか出来ないと思ってました)


 心の中でひとしきり謝った後、冷静に現状の把握に努める。


(今、この屋敷にいる婚約者は、私とスノラさんだけです。ですが、手柄首として、私の首は好条件でしょう。問題は、私が屋敷にいると気付くかどうか……)


 流石は神子であり、貴族家の娘である……が、グラフィエルがもしこの考えに気付いたら、間違いなく大激怒するであろう。

 盟主の正妻候補婚約者として、考え方は間違ってはいないのだが。

 そして、意外にも顔に出ていた様で、ブラガスに窘められるミリア。


「ミリア様、そのお考えはいけません」


「ブラガスさん?」


「ブラガス――と、今は呼び捨てにして下さい。ナリア殿やノーバス殿の様に」


「……わかりました。それでブラガス、私の考えに気付いたのですか?」


「お館様から聞いておられると思いますが、私の家は――」


「そうでしたね。……ブラガス、こちらに引き寄せるには、どうすれば良いと思いますか?」


「心配はいりませんよ。もうすぐ、わんさか来ますから」


「もうすぐ?」


「はい。もうすぐ……どうやら来たようですな」


 ブラガスが窓に寄って、カーテンを開ける。

 外の様子が見え、先程の疑問に対する答えがそこにはあった。

 貴族街を馬が爆走していたのだ。

 それも、人を乗せて大量に。

 そして、それに続く様に追いかける者達の姿も確認できた。


「そういう事ですか」


「はい。お館様と親交の深い貴族家は、持ちこたえられないと判断したら、こちらに避難する手筈となっていますから。そして、避難してくる貴族の大半は、主要上級貴族家が多いので」


「お義父様の家もですか?」


「失礼な物言いになるのですが、お館様のお父上は、元領主ですので。今は私兵も少ないでしょうから」


「そして、ラフィ様のご家族ですから、我が家に続く重要貴族となる――ですか」


 ブラガスとミリアの分かり合った感の会話。

 二人が言っているのは、他の貴族家とグラフィエルの両親であるクロノアス家をにしたという話。

 この作戦の発案者はブラガスで、グラフィエルは渋々了承した作戦である。

 当然、家族の安全が最優先とは言われており、もし両親や姉夫婦に何かあった場合、罰が与えられるとも言われている。

 だからブラガスは、安全性を最大限に考慮した作戦を敷いた。

 まず、姉夫婦と母親は早めにこちらへ避難させ、今は非戦闘員の家臣達と共に大広間にて、世話をされている。

 そして、父親であるグラキオスとルナエラの夫がギリギリまで粘って、撃退できるならそれで良し。

 ダメなら、こちらへ避難して来る手筈となっていた。

 今の現状を見るに、屋敷は落ちたのだろう。

 男二人、必死に馬で駆けてきて、飛び込むように門を潜り抜ける。


「すまない、助かった」


「いえ、ご無事で何よりです。こちらへ」


「義父上、我らも参戦するべきでは?」


「いや、我らでは彼らの邪魔をしてしまうだろう。大人しく、屋敷内で待機するのが一番だ。尤も、侵入してきた敵の迎撃はするがな」


 ルナエラの夫は内政には強いが、戦場の流れを読む力は無かったので、大人しく従う。

 そして、二人が避難してきたのを皮切りに続々と避難者が集まってくる。

 迎撃部隊が誘導と指示を出して行くのだが、徐々に敵も近づきつつあった。

 最早、誘導に裂く人手も時間も無いと判断し、先に避難してきた者達に誘導を任せる事に。


「総員、戦闘準備! 先制の魔法攻撃が来るぞっ!」


「防御魔法、展開急げ! ここから先は、一歩も通すな!」


「裏口にも、避難者と追撃部隊が来たとの報告が来ましたっ。迎撃を開始するとの事です!」


「了解したっ。野郎どもっ、戦だぁぁぁっ!!」


 近付いてくる敵の軍勢音に負けない程の気合の篭った声に、防衛組が戦闘態勢に入り……思わず一人がギョッとした。

 そしてその情報は直ぐに部隊指揮者に伝わり、急いで後方へと駆ける事になった。


「ミリア様っ。何故、防衛に加わっているのですか!」


「正妻候補として、為すべきことをするだけですよ」


「御身に何かあったら、大変な事態になるとわかっているのですか!?」


「分かっていますよ。ですが、ラフィ様からの許可は取ってあります」


 共に防衛戦に加わるなど、グラフィエルを知っている者からすればあり得ないと判断しただろう。

 しかし、今、この場を取り仕切っているのは傭兵の中で、唯一、グラフィエルから信を受けている人物――胃痛傭兵であった。

 余談だが、この胃痛傭兵、後にクロノアス家の重要職に就く人物である。

 それほどまでに信用されて、防衛指揮を任せられているのだ。

 だが今、この場においてだけ見るならば、そこまで親密なわけでもない。

 故に、ミリアの言葉を否定する材料を持ち得なかった。

 だから胃痛傭兵は渋々引き下がるのだが、後で事の経緯を知ったグラフィエル、シャイアス、ジャバに苦言とお説教を受けることになる。

 そして、胃がシクシクチクチクして、やっぱり胃痛になる未来が待ち受けているのだが、本人はまだ知らない。


「さぁ、議論している時間はありませんよ」


「……作戦一部追加ぁ!」


 胃痛傭兵の声に、全員が振り向いて変更点を聞く体制に。

 敵が直ぐそこまで迫っているのに、今更変更するのか!? って顔がいくつもあるが、気にしたら胃痛に悩ませられるから気にしない方向で行く胃痛傭兵。


「ミリア様が、防衛の最後尾に入るっ。これだけで、わかるなぁ!」


「「「……嘘だろっ!?」」」


「マジだよっ。クソったレがっ!」


 仕事、増やすなよぉ……って表情がいくつも見えるが、議論してる時間は無い。

 変更点を伝え終わって少し、遂に敵が先頭とぶつかった。

 それを見たミリアは、高らかに宣言する。


「グラフィエル・フィン・クロノアスが正妻候補、ミリアンヌ・フィン・ジルドーラは、あなた方に投降を求めます! 今、投降するならば、私が口利きする事を確約しましょう!」


「! いたぞっ! 手柄首だっ!」


「ですがっ! 尚、牙を向くと言うのならっ、この私、ミリアンヌが裁きを下しますっ!」


「てめぇらっ、押し切ってしまえっ!」


 ミリアの声は、彼らには届かなかった。

 そして、始まるのは、一方的な力の蹂躙であった。


「残念です。ルリちゃん、お願いします」


「うん。行くよ、神竜聖庭域ドラゴンサンクチュアリ・ガーデン!」


 ルリが固有スキルを使用して、結界を行使する。

 行使した神竜聖域ドラゴンサンクチュアリにはいくつかの種類があり、今回はその中でも、魔法減衰させる結界を使用していた。

 効果は、超級までの無効化及び聖級以上の減衰である。

 減衰率だが、聖級が初級程度の威力にまで落ちる。

 王都内で使える魔法に制限があり、且つ、聖級以上を使える者が敵にはいない。

 更に、味方には効力が及ばないわけで、実質、敵の魔法は無力化された状態であった。

 ただ一点、体内循環の魔法――身体強化は無効化出来ないが、それでも、属性剣や魔道具類も使えないわけで……。


「くそっ! なんで発動しな――ぐわっ!」


「剣が溶けて……」


「くるなぁ……くるなぁあぁああぁぁぁ!」


 敵から出る声は、阿鼻叫喚の声のみ。

 最後の敵に関しては、ハクが噛みついて殺そうとしていたのだ。


「怯むなっ! 手柄首は目の前――」


 最後まで言い切れずに、反乱貴族の一人がハクに嚙み殺される。

 牙と爪が敵を蹂躙していく中、剣戟の音が徐々に少なくなっていく。

 そして……ついに敵の一人が剣を投げ捨て、逃げ出した。

 恐怖をその身に刻み込まれて。


「ひぃいいいぃぃぃ! クロノアス家は化け物の巣窟だぁぁぁぁっ!」


「あの方、失礼ですね」


 ミリアの冷静なツッコミが入るが、逃げようとした敵の一人は……逃げる事は敵わなかった。

 最後に恐怖の言葉を発した彼は、フェニクの狙撃によってその命を散らしたのだ。


「流石はフェニクちゃんですね」


「ミリアおねぇちゃん、こっちはもう決まったよね?」


「油断は行けませんよ? ……ほら、向こうの隠し玉が来ましたよ」


 そう言って上を見れば、何処から近付いて来たのかと思う位の暗殺者たちが居た。

 そして、傭兵たちも確認して――絶望した。

 今、傭兵たちが居る位置からの救援は間に合わない――と。

 それを見た反乱貴族はほくそ笑み……笑みが凍り付く事に。


「ルリちゃん、半分は任せますね」


「はーい」


 その声と共に、ルリは半竜半人――人竜形態へと移行し、一撃で任された半分を八つ裂きにする。

 それを見た暗殺者たちは、後退りする……と同時に、その意識を闇へと落とす。

 醒める事無き闇の中に。

 そして、もう半分のミリアが担当した暗殺者たちも、目を見開く事になった。


「属性は雷と光――今、神の審判を! 雷聖鳴光剣ジャッジメントッ!」


「なっ――」


 ミリアが振り抜いた剣は、受け持った暗殺者の大半を一撃で葬った。

 ミリアが携帯していた剣、それは、グラフィエルが贈った物であった。

 その名も――九星魔杖剣エニアグラム――。

 七属性に加え、無属性と時空間をも発動できる魔道具。

 小剣の鍔部分に、九芒星を象った精霊石が埋め込まれており、魔力を流すことで好きな属性を発動できる、至高の一品である。

 グラフィエルが婚約者全員にと、以前から練っていた構想を形にしたものだ。

 尤も、制作にもの凄く時間が掛かるので、間に合ったのはミリアに贈った物だけではあるが。


「す、凄まじい威力ですね……」


「ミリアおねぇちゃん、やり過ぎじゃない?」


「ルリちゃんこそ、もうほとんど残っていないじゃないですか」


 ミリアの言う通りで、ルリが受け持った暗殺者たちも数人しか残っていない。

 そして、二人の圧倒的な力に、戦意喪失した暗殺者たちは、武器を投げ捨て、覆面を取って顔を表した。


「こ、降伏するっ。だから、命だけはっ!」


 一人の男が命乞いをし始めた。

 それを皮切りに、残る暗殺者たちも我先にと命乞いを始める。

 ミリアはどうしようかと考え始めると同時、ルリが一人の暗殺者を手にかけた。


「ルリちゃん?」


「お兄ちゃんなら、降伏勧告を蹴った人を生かしておかないと思うの。禍根は残さない方が良いよ」


「ひっ!」


「ですが、無暗に命を奪うのを嫌いますよ?」


 二人の意見が対立する中、それを好機と見たのか、一人の暗殺者が逃げようとして……あっけなくルリに殺される。

 残像すら残さない動きに、暗殺者たちは一歩も動けない状態になった。

 そんな後方であったが、前線の方も決着がついた様で、縛り上げられた反乱貴族家当主とその嫡男が連れて来られる。

 趨勢は完全に決した。

 そうなると、この暗殺者たちをどうするのかが非常に難しい問題になってしまう。


「この方たち、優秀ですよね?」


「うん。でも、優秀って事は手練れだから……」


「仮に捕縛したとしても、監視が大変ですか……これは困った問題です」


「だからさ、殺しちゃうのが一番だって。スライミーたちの餌にもできるし」


 実はこの防衛線、一部のスライム達にもご協力頂いてたりする。

 戦闘面ではなく、逃走防止と捕縛に尽力して貰っていた。

 縛り上げている縄は、適度な高度と伸縮性を持ち、粘着性もあるスライム液だったりする。

 後に色んな商品に使われる事になる液だが、それは一先ず置いておこう。


「た、たのむっ! 私には、病気の弟がいるんだっ!」


「まぁ、それはお気の毒に。それで、その弟さんは治療して貰えなかったのですか?」


 ミリアの言葉に俯く、声を出した暗殺者。

 何かを決意したのか、それとも観念したのかはわからないが、カードをミリアの足元に投げ落とす。

 ミリア自身が拾って、危険に晒すわけにはいかないと、傭兵の一人が拾い上げてミリアに渡す。

 投げられたカードは、冒険者カードだった。


「ランクC……冒険者ですか」


「金の為に仕方なく……。弟に効く薬を買うために……」


 実は先程から、光魔法の中にある、嘘発見魔法――正確には悪意を見分ける魔法――を行使しながら、ミリアは話していたりする。

 だからこそ、本当に困ってしまったのだ。

 だって、その言葉に悪意は無かったのだから。


(本当にどうしましょうか? 流石にブラガスさんを呼ぶわけにも……)

「ミリアおねぇちゃん、ブラガスおじさんからの伝言来たよ」


「えっ?」


「とりあえず、生き残りの暗殺者については、命の保証だけはする代わりに全部話せって。なんかね、裏門は全滅したんだって」


 ルリの言葉に、真っ青な顔になる反乱組織達。

 実は後で分かる話なのだが、戦力は正面門よりも裏門に回していたと判明するのだ。

 そして、防衛が薄いと判断した裏門から屋敷内に入り、正面門戦力と合流して挟撃――と言う算段だったらしい。

 この時、ミリアはちょっとだけ同情の目を主犯格に向けた。


(全部、裏目裏目だったようですね。なんて運の無い……。まさか我が家の精鋭部隊が配置されてるとは、露ほども思わなかったのでしょう)


 その後、荒らされ、血が飛び散っている庭で、1日監視される反乱組織の生き残りたち。

 主犯格であった貴族家当主とその嫡男は連行され、暗殺者についてはグラフィエルの一任となった。

 理由は、城内もばたついているから――である。

 別名、丸投げとも言う。

 反乱軍を片付けて帰ってきたグラフィエルは、一言だけ発した。


「陛下……マジで恨みますからね」


 そして、ちょっとの時間だけ、ミリアに甘やかされるのであった。

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