第218話 ナユの本気

 ウォルド、八木と試験が終わり、予定していた次の試験者に変わり、急遽、4人がクッキーさんから指名される。


「ミリアちゃん、ナユちゃん、ユウカちゃん、スノラちゃんが、次の受験者ねぇん」


 何故この4人が? と思ったが、ウォルドを見て直ぐに気付いた。

 治療が済んでいなかったのだ。

 御指名の4人中3人は、回復系統を主軸とした冒険者でもある。

 そこにスノラを含んだ理由は恐らく、回避に関して見るのだろうと予測。

 そして、そそくさと八木の治療に向かおうとする春宮だったが、クッキーさんから待ったが掛かり、誰が誰を治療するか指名が入った。

 当然、春宮は盛大に顔を引き攣らせた。


「ミリアちゃんはウォルドちゃんを治療してねぇん。ナユちゃんはぁ、一番酷いソウタちゃんねぇ。ユウカちゃんは私よぉん」


「え? 超イヤなんですけど」


「優華、あなたねぇ……」


「だって桜花ちゃん、あの顔だよ? 百歩譲ってあの服とキャラと性格は個性として認められるけど、あの顔だよ!」


「その顔の人と、私は1対1で戦うのだけど?」


「できるならっ、私も戦いの方が良かったっ」


「あなた達もぉ、お仕置きが必要なのかしらねぇん?」


 クッキーさんが口を引くつかせながら、地味にオコである。

 そんなクッキーさんに触れたくないのだろう……ミリアとナユはササっと要治療者の元へ。

 春宮、完全に出遅れる。

 そして、俺に救いの視線を向けるが、こればっかりはどうにもならん。


「春宮」


「ラフィさん……」


 救って貰えると思っていた春宮の期待は、この後、木っ端みじんに砕かれた。

 いや、砕いたのは俺だけど。


「ガンバレ!」


「両手サムズアップで、すっごく良い笑顔!?」


 春宮、両膝から崩れ落ち、四つん這いになる。

 クッキーさん、こめかみに怒りマークが現れる。

 比喩ではなく、物理的に。

 そして、地味に殺気を放ち始めたのを感じた春宮は、直ぐにクッキーさんの治療に。

 どうにか試験が開始され、三人の回復魔法を見て採点をしていくクッキーさん。

 回復魔法を観察しながら、何かを思い出したクッキーさんがこちらへと話してきた。


「言い忘れてたわぁん。ランクの発表はぁ、全員終わってから纏めて言うわねぇん。もっともぉ、ウォルドちゃんだけはぁ、誰が見ても明らかだけどねぇん」


 言い終わると同時に、3人の治療も終わる。

 何かを確認するように、うんうんと頷くクッキーさんは次の試験を発表した。


「次はぁ、身のこなしを見るわよぉん。私は当てないけどぉ、そっちからは攻撃しても良いわよぉ」


 挑発的なクッキーさんにカチンと来たのか? ミリアとナユの目つきが変わった。

 多分、殺る気である。

 こうして、4人の第二試験が開始された。

 一番手は春宮。

 審判の掛け声で試験が開始される。

 されるのだが……。


「い、いやぁぁぁ!」


「ほらほらぁ、さっきの勢いはどうしたのぉん?」


「あ、今チッてなった! 掠った! うそつきぃぃ!」


「まだまだいくわよぉん」


 クッキーさん、先程の春宮から言われた言葉を忘れていないらしい。

 お仕置き込みで追い詰めて行く。

 とは言え、それなりにメナトからも鍛えられていたせいか、それなりに躱し、あるいはギリギリを攻めてからカウンターを繰り出そうとして失敗、そしてまた回避していく。

 そして数分後、満足したクッキーさんから終了の合図が出るも、息を上げ捲っている春宮の姿が。

 地味にボロボロな姿になっていて、姫埼の顔色が青褪めている。


「次は私も、優華みたいになるのね……」


 なんか哀愁が漂っている感じもするので、触れないでおこう。

 姫埼を放置して、次の受験者であるスノラを見てみるのだが、こっちも春宮みたいな……いや、春宮よりも悲鳴の数が凄かった。


「ひぃぃぃぃぃ!」


「あらん? これも躱すのねぇん」


「しぬっ。しんじゃうよぉぉぉ!」


「あらぁん? これもなのぉ?」


 スノラの回避能力がエグイ。

 亜人族の中でも、一族特有の固有スキルとして取得している【危険察知】と【危険回避】なのだが、どうやら昇華している様子。

【鑑定】を使って改めて確認してみると【確定察知】と【完全回避】になっていた。

 そして、その回避行動と素早さたるや、八木に劣らず。

 戦闘面は相変わらずであるが、探索者としては一級品なのかもしれない。

 そして数分後、スノラの試験も終わり、次はミリアが受ける番になった。


「よろしくお願い致します」


「んふふぅ。礼儀正しい子は好きよぉん」


 ミリアの言葉に好感は持つも、一切手を抜かずにクッキーさんは攻めた。

 ミリアも回避と攻撃をして相対するのだが、如何せん地力が違い過ぎる。

 攻撃こそ当てはしないクッキーさんであるが、拳風が巻き起こり、鎌鼬の要領でバッサリと頬が切れるミリア。

 そして、それにキレそうになって必死に押さえつけられてる俺。

 クッキー、許すまじ! 慈悲は無い!


「落ち着けっ。あっ、こらっ! 神器出そうとすんな!」


「ラフィ落ち着いてっ。 ちょっ!? その魔法は流石にダメだって!」


 ゼロとヴェルグが必死に抑える中、ミリアの試験終了の声が出た。

 よし、試験は終わったし、クッキーを処しに行こう!


「ラフィ様、落ち着いて下さい。私は大丈夫ですから」


「あの筋肉だるま、どうしてくれようか」


「本当に落ち着いて下さい! これは試験なのですから、怪我もしますので!」


「ミリアが怪我……だと? よしっ、あの筋肉だるまを滅しよう!」


「ナユさぁん! ラフィ様が元に戻りませぇん!」


 俺、絶賛パニック中であった。

 ミリアの呼びかけに対して、クッキーさんに軽くお辞儀をしてからこちらに戻って来て、杖で思いっきり俺の頭を強打。


「いっっってっぇぇぇぇ!!」


「元に戻って何よりです」


「……ナユさんや、このやり方は、流石に酷くないですかね?」


「ミリアを困らせた罰です」


「へぃ。ミリアもすまんかった」


「いえ。元に戻られてよかったです。さ、治療しましょう」


 ちょっとたんこぶが出来てしまっていたので、ミリアに甲斐甲斐しく治療……って、違うだろうが!


「ミリアっ、頬の傷は!?」


「え? とっくに治療しましたけど……」


「そ、そうか」


 なんか恥ずい。

 慌てふためいていたの、俺だけっぽいし。

 潤と輝明はニヤニヤしてるし。


「お前ら二人、スペシャルクッキーコースな」


「「八つ当たりにしても酷過ぎだろ!?」」


 ギャーギャー騒いでる二人は放置して、ナユの試験に意識を移す。

 今の彼女ナユは、冒険者界隈屈指の回復魔法の使い手として知られているわけだが、戦闘能力に関しては噂を聞かない。

 冒険者ランクにしても、回復魔法だけで伸し上がったとされる、天才としての扱いだったりする。

 確かに才能はあるのだろうけど、才能だけで伸し上がった訳じゃ無い事を俺は知っている。

 堅実に依頼をこなし、人に見えない所で努力をする。

 ナユはそんな女性だ。

 だからこそ、この試験がとても気になっていた。

 ただウォルドは、何処か誇らしげでもあるんだが、なんでだろうか?

 少し気にはなったが、審判の声が聞こえてきたので、意識を試験の方へと移す。


「行くわよぉん」


「はい!」


 クッキーパンチが放たれるも、冷静に、華麗に、危なげなく避ける。

 たった一撃――その一撃だけで、クッキーさんはナユに対して上方修正を行った様だ。

 先程よりも強く、鋭い拳がナユに繰り出される。


「くっ、流石は総合本部ギルマスですね」


「あなたもぉ、後衛職にしては強いわよぉん。でもぉ、まだ何か隠してるのでしょぅ?」


 言葉を交わしながらも、クッキーさんは攻撃の手を緩めず、またナユも回避していく。

 しかし、手数の増えたクッキーパンチは徐々にナユを追い詰めていき、遂に捉えた。

 ナユも回避は難しいと判断したのか、咄嗟に左腕で防御をする。

 防御した左腕に攻撃が当たり、クッキーさんの二つ名である爆発が起こる。

 俺は思わず立ち上がって、やり過ぎだと抗議しに行こうと踏みだして、ウォルドに肩を掴まれて止められた。


「離せウォルド」


「いいや、離さねぇ。まだ、終わっちゃいねぇからな」


「もう一度言う。離せ」


「なぁ、ラフィ。大切なのはわかるけどよ、もう少し信じてやれよ。そもそもだ……ナユを見出したのは誰だと思ってる?」


 俺とウォルドとの間に、剣呑な空気が流れる。

 そんな中、爆発の煙が晴れ、ナユが左腕から血を流しているのが見えた。

 多分、反射的だったと思う。

 徐に殺気を溢れ出してしまった俺に気付いたナユがこちらに振り向き、首を振った。

 その姿を見て、ふてぶてしく座って足を組む。

 但し、機嫌はすこぶる悪い。

 ナユがまだ終わって無い――と、目で訴えて来たから引いただけに過ぎない。

 だからクッキーは、後で〆る。


「ごめんなさいねぇ。どうやら、過大評価してしまったみたいなの」


 悪びれた様子もなく言うクッキーに対して、イラァッってくるが、ナユの邪魔はしたくないので我慢する。


「いえいえ。クッキーさんの評価は間違っていませんよ。私の身体能力はこの程度ですから」


 ナユ、それは自身を過小評価し過ぎだろう……と、危うく言いかけそうになって、次の言葉を聞いて驚いた。


「でも、冒険者として過小評価されるのは嫌ですので、本気で行きますね」


「言うわねぇん。ならぁ……全力を見せなさい」


 クッキーさんの空気が変わった。

 どうやら、他の後衛職の試験とは違って、前衛職に行う方法に切り替えるらしい。

 ナユもそれを感じ取ったのか、右手に握った杖をクッキーさんへと向ける。

 左腕の治療に対する時間稼ぎでは無かったのか? と思ったのだが、そこでウォルドがニヤリと笑った。


「ウォルド?」


「ラフィ、1つ言っとくぞ? ナユの凄さはこっからだ」


 ウォルドの言葉の意味はわからなかったが、勝算が無いわけではないらしい。

 本当に危険と感じたなら止めに入ろう――と決めて、試験の続きを見て行く。

 クッキーさんは相変わらず、拳にスキルと魔法を纏わせて攻撃しており、ナユが必死に避けて、時には防御して、そして傷を増やしていく。

 クッキーパンチがナユの鳩尾に決まり、そして爆発を起こす。


「あの攻撃はヤバい! 流石に止めないとっ……」


「いや、まだだ!」


「ウォルド、てめぇナユを殺す気か!」


「ラフィ! ナユをちゃんと見てやれっ!」


 珍しく語気を強めたウォルド。

 俺がちゃんとナユを見てない? そんなこと……。

 だが、その言い合いの中、ナユが口から血を吐いた。

 まずい……あれは、深手だ。


「ウォルド!」


「大丈夫だ」


 こいつ……と、胸ぐらを掴もうとして、ヴェルグに止められた。

 お前もか!


「ラフィ、本当に落ち着いて。ナユの怪我は既に治ってるから」


「何を言って……」


「ちゃんとナユを見て上げなよっ」


 ヴェルグに叱責され、もう一度ナユを見る。

 そこには、既に全快したナユが立っていた。


「どういう、ことだ?」


 クッキーから受けた傷は、瞬時に回復する傷では無かったはずだ。

 少なくとも数秒、長ければ十数秒は回復魔法の行使が必要な傷だった。

 あれ? 俺の頭がおかしくなったのか?


「驚いたわぁん。回復魔法だけでぇ、上位ランクになった実力は本物ねぇん」


 クッキーの言う通り、正に回復魔法の名手と言える。

 俺と同等……いや、魔力運用を考えたら、俺より上かもしれない。

 でも、疑問が無い訳じゃ無い。


「ウォルド、どういう事だ? ヴェルグも何か知ってる感じだけど……」


「4年前の、あれを覚えてるか?」


 4年前……魔物の暴走集団スタンビード

 でも、あれがどうしたと言うのだろうか?


「4年前、ナユはラフィに助けられた。その後も活躍を続けて行っただろう?」


「活躍と言えるのか分かんねぇけどな」


「謙遜すんな。立派な功績だよ。そして、ラフィに告白されて、でも、功績を上げて行く姿を見て、置いてかれると思ったんだよ。ナユは」


「そんな事……」


「ラフィがどう思うかじゃねぇ。ナユがどう思うかだ。それで俺は、色々と相談を受けていたんだ」


 ウォルドに相談……か。

 俺には話しづらかったのか。


「言っとくけどな、俺に相談しに来た理由は、冒険者家業が長いからだ。そこんとこ、誤解すんなよ」


「するか」


「はぁ……まぁ良い。でだ、ナユは後衛職として大成すると踏んでたからな。長所を伸ばすことを第一に考えろと言っといた」


「ありきたりだな」


「堅実と言えよ。それとな、焦った冒険者の末路とかも聞かせたな」


「へぇ。それは俺も聞いてみたいな」


 さっきまでの剣呑な空気はなりを潜め、ナユに関する事を聞いて行く。

 そんな中で、ナユの中にある決意を聞かされた。


「ラフィはどんどん功績を上げて強くなっていく。自分はその傍に立てるだけの強さが無い。隣には立てないって、ずっと悩んでたんだぞ」


「そんなこと……」


「でもな、そんな中でも、努力することを諦めなかった。だからナユは、強くなった。見てみろよ」


 ウォルドの指の先には、逆にクッキーを押しているナユの姿があった。

 試験をしているクッキー本人も、驚きの顏を隠しきれていない。

 でも、疑問が消えた訳じゃ無い。

 その疑問に関しては、ヴェルグが教えてくれた。


「ラフィさ、帝国で……ボクがどうなったか覚えてるでしょ?」


「忘れるわけがない。正直、絶望したよ」


「うん……。ナユも、皆も、あの時のラフィの顏を覚えてる。だから皆、悲しませないようにと努力をしてる。でもね、ナユはバカなんじゃないの!? って方法を模索して、実践して、ものにしたんだ」


「何をしたんだ?」


「簡単に言うとね、クッキーさんの超回復版」


「…………はぁっ!?」


 え? どゆこと? 言ってる内容が正しければ、クッキーの回復力を上回ってるって事!?

 改めてナユを鑑定してみる。

 ナユ本人からは、気になったらいつでも鑑定して良いと言われていたので、問題は無い。

 婚約者とは言え、その辺りはデリケートな部分なので、全員からの許可は前以て貰っている。

 その結果、本気で馬鹿じゃねぇの!? ってスキルが山盛りだった。


「【痛覚軽減 大】【自動治癒オートリカバリー 極】【循環運用】【魔力消費 極】【遅延発動ディレイスペル】【攻守反転】【瞬間再生モーメントリブダクション】……頭おかしいスキルだらけなんだが?」


「だよねぇ……。一撃で死なない限り、魔力があれば継戦可能とか、おかしいよねぇ……」


「一番ヤバいのは【破邪ブレキングバッド】ってスキルなんだが? 状態異常になっても一瞬で完治とか、無効と変わらんのだが?」


「一番ヤバいのは【攻守反転】だと思うよ。耐久力を全て攻撃に変えるんだよ?」


「さっきからクッキーを押してるのは、そのスキルのせいか」


「まぁ、それだけじゃないんだけど……」


 何やら歯切れが悪い。

 まだ何か隠してんな?


「吐け」


「うっ。えーっとね……。ナユの努力に心打たれまして……」


「打たれまして?」


「ボクの剣を参考にして、メナト監修の杖を贈りました……」


「お前、何してくれてんの? もっかい言うぞ? 何してくれてんの!?」


 ヴェルグの両肩を掴み、揺さぶっている俺を尻目にして、ナユはヴェルグからの贈り物である杖の本骨頂を晒した。


「『我が力を糧として、その力を示しなさい! 聖光刃杖【ヤルンラウダ】!」


「ちょっと、シャレにならないわぁん……」


 クッキーパンチを食らいながらも、致命傷だけは避けて杖で攻撃をしていたナユから、解放リリースの言葉が迸る。

 それと同時に、杖に光の魔力刃が宿る。

 杖の形状は、円を描いた中心に魔石が固定されていて、円と魔石の間はほぼ空洞となっており、その円の穂先と呼べる部分は少しだけ尖っているのだが、その円と穂先の部分に魔力刃が展開している。

 展開された魔力刃の形状から、杖ではなくハルバードに近い状態へとなるのだが、あくまでも魔力を使っているので重さは変わらない。

 そして、その魔力刃に込められている魔力量と収束率がえげつない。

 劣化神器と言われても、遜色ないほどであった。

 当然、クッキーさんも武器を抜いて応戦する。


「でやぁぁぁぁ!」


「ちょっとぉ! これは本気でシャレにならないわよぉぉん!」


 突き、薙ぎ、振り下ろし、ナユは多彩に攻めるも、クッキーさんは回避するか、受け流しで対応していく。

 魔力で構成している以上、何時かは魔力切れを起こすと踏んでいるのだろうが、一向にその様子が感じられない。

 まだ何か秘密があるのか?


「ヴェルグさんや。あの武器、おかしくないかね?」


「あ、あはは~……」


「早く吐こうね」


「怖いっ、笑顔が怖いよ!」


 そして吐かせた結果、ナユが持つ杖の魔力刃だが、スキルと連動できる代物らしい。

【循環運用】【魔力消費 極】【攻守反転】【瞬間再生モーメントリブダクション

 これらを連動させてるせいで、魔力切れが起こらないそうだ。

 あれ? 一番ヤバいスキルって【瞬間再生モーメントリブダクション】?


『【瞬間再生モーメントリブダクション】ですが、魔力も一定量回復しますので、ナユの保有魔力量と回復量を考えますと、魔力切れは程遠いです』


「…………ナユも人間やめてね?」


 俺の呟きの中、試験は未だに続行中。

 ナユの烈声が響くも、なんなく躱し、いなし続けるクッキーさん。

 カウンターだって入れてるが、致命傷を避けるナユだからして、瞬時に回復して戦闘続行となる。

 完全に千日手であった。


「ナユ、大成したなぁ……」


「ウォルド、ジジ臭い」


 千日手になってから十数分後、未だに決着が着きそうにない状況を見ながら、遠い目をしてるウォルド。

 この状況は、流石に想定外だったらしい。

 だが、終わりは唐突に訪れた。

 クッキーさんが、一気に攻めに転じたのだ。


「押し切られるっ」


 ナユが呟いた直後、杖を弾き飛ばされた。

 慌てて拾いに行こうとするも、そんな行動を見逃すクッキーさんではない。

 その隙を逃さず、ショルダータックル&爆発で吹き飛ばされるナユ。

 態勢を立て直す前に、首筋に剣を当てられ、試験は終了となった。


「何とかなったわねぇん。でもぉ、同じスタイルの相手がこんなに厄介だとはぁ、思わなかったわぁん」


「まけ、ました……」


「ナユちゃん、良い線行ってたわよぉん。でもぉ、戦闘スキルが無いのが敗因ねぇ。ウォルドちゃんに教えて貰うと良いわぁん」


 こうして、ナユの試験は終わりを迎えた。

 迎えたのだが……全員の顏がちょっと引き攣ってる。

 ヴェルグは結構ヤンデレで、Мっ気もあるからして、多少のそういった話には共感したりもする。

 そのヴェルグですら、割とドン引きである。


「あ、あれ? なんで皆、ちょっと引いてるの!?」


 回復魔法の天才で、努力も怠らない女性ナユ。

 そんな彼女であったが、周囲がドン引くほどのドМだと言う事が発覚した瞬間だった。


「わ、私は、そんなに変態じゃない!」


 だがしかし! 類は友を呼んでしまうのだ! すかさず潤が、師匠! と言って平伏して、ドМの極意を! とか言っちゃてる。

 ナユ、潤にドン引きである。

 勿論、俺達も潤にドン引きである。

 そして、箒に思いっきり蹴飛ばされる潤。

 もうカオスである。

 そんな中、俺はナユを見ながら反省しないといけないな――と考えた。

 そして、俺の視線に気付いたナユは、ただ優しく微笑むのだった。

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