第209話 どんな神が降臨しても結局カオスになる

 メナトが脳筋共にガチギレして、宥めていた俺。

 この場の空気を変えてくれ! と願っていたら、まさかの救いの音が鳴った訳だが、そこに現れたのはシルと、まさかのエステスであった。

 だから、俺がこういった反応になるのは仕方ないと思う。


「…………」


「ラフィ?」


「…………」


「脳の処理が、追い付いてないのでは?」


 エステスの言う通りで、フリーズした状態で絶句中である。

 そんな中、セブリーは即座に戦闘態勢に移行――いつでも動けるようにしているだけ――し、トラーシャも警戒度を一気に引き上げた。

 メナトも二人の気配から、状況をいち早く把握して、警戒度を最大にまで引き上げる。

 剣呑な雰囲気になって、ようやくフリーズから復帰した俺も、即座に警戒度を最大限まで引き上げて、屋敷内の人間を守護できる体制に移行する。

 それを感じ取ったエステスが、溜息を吐いて、来訪目的を告げた。


「別に取って食べるわけではありませんわよ?」


「…………」


「はぁ。良いですか? 今日、ワタクシが来た理由は、そこの3人に関してですわ」


「それは、我々に任されていたはずだが?」


 メナトがエステスの言葉に応える。

 そんなメナトに視線を合わせ、納得させようとするエステス。

 但し、納得するかどうかは別問題だが。


「こう見えても、ワタクシだって忙しいのですわ。ただ、ジェネス様の命で来ましたのに」


「ジェネスの?」


「ええ。ラフィなら、納得して頂けると思いますわ」


「話しは聞こう。納得するかはそれからだ」


 エステスは軽く頷いて、ジェネスの命を話す。

 その内容は、八木たち召喚者組の加護に関してだった。

 俺も、メナト達も疑問視があった八木達の加護に関してとなると、話を聞く必要はある。

 ジェネスが何処まで察して、何を気にして、エステスを送り込んで来たのか?

 そこも含めて、全て話すエステス。


「そこの3人ですけど、然るべき処置を施しませんと、直ぐに死んでしまいますわよ?」


「なに?」


「色々と、ジェネス様が調べていたんですの。そして、調べた結果わかった事ですが、彼らの加護ですが、とても歪だったことが判明しましたの」


 エステスの説明は理に適ってはいるし、本当だとしたら無視できえない問題だ。

 だが、信じられるのか? という不安は拭えない。

 しかしここで、シルが代わりに話始めた。


「ラフィも、メナト達も落ち着いて欲しい。その為に、監視役として私がいるのですから」


「シル、簡潔に答えて貰おうか」


「メナト……わかりました。私が同行しているのは、力による抑止力ではなく、仕掛けをさせない為――と言えば、納得できるのでは?」


「信用がありませんわね」


「証拠は無いが、証人と、今までの行動と状況。疑うなと言う方が無理だろう」


「メナトもですのね。ワタクシ、悲しいですわ」


「とてもそうは見えないけどね」


 そう言って、警戒度を少しだけ引き下げるメナト。

 そう言えば、ジェネスの思惑はまだ話していないと気付き、エステスに訊ねる。


「ジェネス様の思惑ですの? 簡単な話ですわよ」


「ああ。私も察した」


「メナトも?」


「「答えは簡単(ですの)。ジジバカだから(ですわ)」」


「お前ら……普通に酷くね?」


 ハモって答えた二柱にツッコむが、残る神三柱もうんうんと頷いていたりする。

 ジェネスよ……威厳が減ってるぞ。


「単純に、ラフィの悲しむ顔は見たくないのさ。孫みたいに思ってるからね」


「神の孫とか。流石、ラフィさんだよね」


「こら、優華。茶々入れない! あ、すみません。お話を続けて下さい」


 優華の言葉で、場の空気が一気に変わる。

 剣呑な空気は鳴りを潜め、その代わりに、耐えきれなくなったのか、笑い声が聞こえて来た。

 その声の主は――。


「あはははは。無理。もう、無理! 蒼が神の孫って。似合わなすぎ。あはははは」


「信心なんざ無いけどよ、流石に笑い過ぎだろうが!」


 何処がツボったのか知らないが、大爆笑する蛍。

 神々がいる前で、剣呑な空気がマシになったとはいえ、一触即発状態なのは変わらないのに、まさかの大爆笑して、場の空気を一気に変えてしまう。

 蛍って、意外と大物だったするのかね?


「それで、結論はどうなったんですの?」


「メナト、どうするよ?」


「無視はできないんだよね」


 エステスが、空気が変わったのを見越して訪ねて来るが、正直どうしようかって感じだ。

 メナトも判断しかねている。

 だが、ここでまたもやらかすのが脳筋クオリティー。

 警戒度はかなり下げながらも、戦闘態勢を維持したセブリーが結論をぶっちゃけた。


「エステスが何かやらかしたら、現行犯って事で、神殺しで良いんじゃね? 流石に、ラフィと戦闘系三柱相手なら、楽勝だろうしよ」


「おまっ! 勝てるか勝てないかで言えば勝てるだろうけどな……周りの被害とか考えろや!」


 思わず素でツッコむ俺。

 勝てば良かろうな脳筋二柱に、メナトが思わずこめかみを抑え始める。

 気持ちは良くわかるぞ。

 この脳筋共、悪気が無いから、余計に質が悪いんだよ。

 完全に善意で話してるからな。


「こんの……バカ共がぁ! この国を滅ぼすつもりか! ラフィの立場も考えて発言しろ!」


「メナト、どうどう」


 メナトのガチギレ、再燃。

 どうしてこう、この脳筋共はメナトの怒りに燃料をくべるのか?

 わざとやってる疑惑が、ちょっとあるんだよな。

 どっちも素の頭は悪くないだけに。


「そして、私は放置なんですね……」


 シルのぼそっと言った一言に、ミリアが素早く反応する。


「シル様。こちらへどうぞ。美味しいお菓子もありますよ。今、お茶をご用意いたしますね」


 流石のミリアである。

 何故、ミリアが正妻であるのか?

 貴族としての振舞いと、王族や皇族としての振舞いの、どちらもこなせる女性だからである。

 どうしても、王族や皇族は、上に立つ者からしてワンテンポ遅れがちなのだ。

 とは言え、遅れがちなだけで、何もしないわけではない。

 される方が多いから遅れるだけで、作法自体は学んでいるからして、婚約者の面々はシルを甘やかし始めた。

 正確には、宥めているが正解だが、この際それはどっちでも良いだろう。


(シルはミリア達に任せて大丈夫そうだな)


 一つだけ誤解がありそうなので、敢えて言っておく。

 誰もシルを放置してるわけではない。

 今だって、気には掛けているのだから。

 ただな、優先順位ってものがあるんだよ。

 今は、メナトを宥める方が優先順位が高いだけ。

 エステス? むしろ、そっちが放置だな。


「今、放置とか考えませんでしたこと?」


「気のせいだろ。こっちはメナトを宥めるので忙しい」

(あっぶねぇ)


 相変わらず、考えてる事を読まれるので、メナトを宥める事に集中しよう。

 後は、脳筋共に拳骨を落としておかないといけないな。

 そして、どうにかメナトを宥め終え、脳筋共にお仕置きを敢行して、本題へと戻る。

 そうそう、脳筋共には、次に何かしたら……と、脅しておいた。

 因みに、次のお仕置きは――神喰がトラウマになった刑である。

 それを聞いた脳筋共は、流石に大人しくなった。

 どうやら、対神喰結界は、神にとっても相当イヤらしい。

 ……エステスへの切り札になるか、要検討案件だな。


「それで、どうするんですの? どうしても無理だと言うのなら、ジェネス様に取り成しはして欲しいのですわ」


「……どうするよ?」


「ジェネス様が絡んでいるとなると、無下には出来ないね。だから、ラフィが決めるしかない」


「またかよ……」


 冷静になったメナトと話すが、最終判断は原初として下して欲しいと、遠回しに言われる。

 ジェネスには世話になったし、今も色々としてくれてるからなぁ。

 とか考えてると、暗号化した秘匿念話が飛んで来た。


『すまない、少し手間取ってしまったよ』


『暗号化と秘匿か。盗み聞きに最大限警戒してるな?』


『だね。それでだよ。実は、ラフィに頼みたい――いや、時間稼ぎに付き合って欲しいんだよ』


『ちっ。やっぱり、そっちが本命か』


 実は、そうじゃないかなぁ――と、候補の一つに上がっていた。

 今、メナトが秘匿念話をしてきた時点で、確信に変わったけどな。


『この機会を最大限に生かして、証拠を集めるつもりだな?』


『正確には、それも――だね。さっき話した理由も本当なのさ』


『どうだか。それで? どの程度、引き延ばしたら良い?』


『出来る限り――と、言いたい所だけど、エステスだって馬鹿じゃないからね。こちらの思惑には気付くはずさ』


『そうなると、証拠なんて見つからないんじゃないか?』


 疑問をメナトにぶつけるが、それは百も承知だと言う。

 ただ、前にも言っていたが、神だって全知全能ではない。

 何処かに、綻びがある筈だと睨んでいるとの事。

 ただ、周到に隠しているだろうし、見つけにくいだろうから、出来る限り引き伸ばしたいらしい。

 メナトから提示された時間は、最低でも1日。

 後は、出来る限りとの事だった。


『了解した。1日半は確実に稼いでみせる。だから……分かるよね?』


『寝ずの番かい? 酒は欲しい所だね』


『交渉成立。ついでに、つまみも提供しようじゃないか』


 脳内で握手を交わす、俺とメナト。

 手を離した瞬間、念話を終わらせ、結論に入る。


「本当に、ジェネスの命だけこなすなら、とりあえずは任せようじゃないか。ただし――」


「不穏な動きや気配を察知したなら、神殺しでも何でもすれば良いですわ」


「良い覚悟だ。と言う訳だから、シル。仕掛けに関する見張りは頼んだぞ」


ふぁいはいひゃひゃふぁれふぁふぃふぁ任されました


 口をもごもごさせながら、まるでハムスターみたいに口にお菓子を詰め込んでいるシルの返事。

 両頬はパンパンである。

 そして、紅茶を一気に煽って、ごっくん――と良い音が。


「ふぅ。忘れらてなくて良かったです。頑張って見張ります」


「お、おぅ」


 なんだろう? シルから感じる、この気配は……。

 絶対に、シルは地雷系女神のような気がする。

 ……触らぬ女神に祟りなし! だな。

 忘れよう、そうしよう。


「お決まりになられたようですね」


「ああ。ミリア達も、シルの相手を任せて悪かったな」


「いえ。楽しんでましたから」


 そう言って、一歩下がるミリアに対し、エステスが近づいて来て、手を差し出した。

 どうやら、握手するつもりらしい。

 ミリアも直ぐに気付き、恐れ多いと思いながらも、握り返そうと手を差し出そうとして――突如、天井から刀が突き刺さった。

 刀は、丁度、エステスとミリアの手の間に、邪魔するようにして刺さっている。

 そして、その刀には見覚えがあった。

 事情を知っている全員の目が、俺の方へと注がれる。


「ちょっと待て! 俺は何もしてないぞ!?」


「本当ですか?」


「ラフィ、気持ちはわかるけどさ……」


 ミリアもメナトも、他の誰もが俺に対して、有罪ギルティだと言う目を向ける。

 それもそのはずで、未だ突き刺さってる刀は、神刀ゼロだったからだ。

 所有者が俺で収納しているのもなので、どうやっても言い逃れが出来ない状況なのだ。

 だが、ここで忘れてはいけない。

 そもそも、神刀ゼロは少なからず自我を持つ神刀である事を。

 そして、俺のスキルに干渉して、自由にできる奴がいる事をだ。


「マジで何もしてないからな。と言うか、犯人の目星はついてる」


「へぇ。聞こうじゃないか?」


 メナトが、納得できなかったら有罪ギルティ確定で、仕置きを敢行すると言う目を向けて来た。

 普通ならば臆して終わりだが、俺は原初であり、犯人の目星も付けているのだ。

 送すことなど何もない!


「メナトは忘れてるようだけどな、もう一人――正確には、俺のスキルを好き勝手に使える奴がいる事を忘れてないか?」


「……あ」


「納得して貰えたみたいだな。つう訳で……出てこいや!」


 ちょっと怒気を混ぜた声を出して、顕現させる。

 全員が何となく察した様で、俺に向けた目を犯人に向け始める。

 そう――犯人であるリエルに。


「バレちゃいましたか」


「バレるわ、ど阿呆が!」


「阿保じゃないですもん! リエルは、マスターの為に……」


 そう言って、泣きながら消えて行くリエル。

 全員が、何故か居た堪れない気持ちになる中、俺だけは違っていた。

 俺とリエルは、地味に繋がっている。

 だから分かっているのだ。

 さっきの涙が、嘘泣きだった事に。

 だが、残る全員は騙されてしまった様だ。

 だって、非難が俺に集中し始めたからな。


「ちょっと、さっきのは酷いんじゃない?」


「蒼夜って、鬼畜になってたんだな」


「小さな子を泣かすなんて、サイテー」


「ラフィさん、ちょっと幻滅です」


 等々……。

 俺は反論もせずに、甘んじて転生体組と召喚者組からの非難を受け入れていた。

 だがここで、春宮が異変に気付いた。

 何故か、婚約者達と神側が非難していない事に。

 そして、非難しようとしていた雪代さんも、口を噤んだ。

 状況判断に関しては、二人は合格かな?


「やっぱりおかしいね」


「えーと……春宮さんでしたよね? やっぱり、そうお思います?」


「雪代さんであってますよね? 私は付き合いは短いですけど、違和感が」


 春宮、実は何気に、八木を観察していた。

 実は、新規組で非難をしていないのは、春宮と雪代さん、そして八木だったのだ。

 そして、その春宮の言葉を聞いて、考え込む姫埼。

 尚、ミリアを除く婚約者とシルは、優雅に紅茶を飲んでいたりする。

 そして、当事者のミリアとエステスは、握手からカーテシーに切り替えてご挨拶中である。

 と言う事で、ネタばらしだ。


「八木は合格。春宮と雪代さんは合格寄りではあるけど、及第点かな」


「え? え? どういう事よ」


「落ち着きなよ蛍。ラフィがネタばらしするみたいだからさ」


 焦る蛍に落ち着けと言うメナトを横目にして、話を進めて行く。

 まぁ、非難してた面々は、混乱中ではあったが。


「半分は芝居さ。そもそも、リエルが本気で訴えたら、ミリア達が一考するか、文句を言う」


 俺の言葉に、何故か当人たちではなく、神々がうんうんと頷く。

 なんでお前らが頷いてるんだよ。

 その――分かってますよ、的な顔は止めろ。

 そんな中、メナトが説明を引き継いだ。


「この世界はね、判断1つで命を落としかねないのさ。だから私がラフィに頼んで試して貰ったのさ。それとね、今後の修練にどういった内容を組み込むかの判断にもしてるから、乗せられた人は覚悟しとくようにね」


「げっ!」


「今、げっ! って言った潤は、割増しだからね」


「そんなぁ……」


 最後は笑いで締った感じだが、実はこの説明、半分は嘘である。

 本当の所は、エステスに警戒を露わにした神刀ゼロを感じ取ったリエルが、スキルを勝手に使ってミリアの守りに入ったのだ。

 神刀ゼロに関しては、エステスに対する警告とも言える。


『わざわざ危険を招く必要はありませんので』


 全員の疑いの目が向けられた時、リエルが即座に話しかけてきて、ついでに色々やってしまおうと提案してきたわけだ。

 だからこそ、メナトも巻き込んだわけである。

 リエル的には、全ての神に疑いをかけていたが、メナトに関しては問題無いと言って協力して貰ったわけだ。

 そこからは、全て演技と言う訳だ。

 リエルの嘘泣きも含めてな。

 まぁ、流石に、泣くとかは想定外だったが。

 嘘泣きでも、心臓に悪いから、今後は勘弁願いたい所である。

 ただ、ミリア達と神側には確実にバレてるっぽいので、弁明は必要かな?


『悪者にしてすまなかったな』


『マスターの為ですから。ですが、出来れば一つだけお願いがあります』


 リエルからのお願いは、結構珍しい。

 その分、無茶難題とか言われそうな気もするので、出来る範囲でならと答えて置いたら、結構拍子抜けするお願いだった。


『マスターに子供が出来ましたら、魔法関連の教育をしたいです』


『うーん……今すぐの返答は難しいなぁ。ミリア達にも関係する話だし』


『その時が来たら、勝手に顕現して許可は取りに行きますよ。先に、マスターの許可だけ頂きたいのです』


『子供達に合わせて出来るなら、俺は構わないが……。後はミリア達の許可次第で』


 俺の許可に、リエルは小躍りして引っ込んで行った。

 そんなやり取りをしている間に、エステスがミリア以外の婚約者達との挨拶も終え――身体的接触は無し――本題へと入る事になった。

 なったのだが……。


「さぁ、張り切って行きますわよー」


「張り切り過ぎて、失敗しない事を祈ります」


「え? 失敗とかあんの?」


 最後にシルがとんでもない発言をして、召喚者組を怖がらせるのであった。

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