第201話 対ダグレスト会議・下

 陛下のせいで、秘密の一端を話すことになった俺。

 傭兵王と代表に関してはどうするのかと言われると、代表は薄々感づいていたのでしょうがない。

 そうなると、傭兵王だけボッチになってしまうので、仲間外れは可哀想と言う事で、同じく聞いてもらう。

 但し、他の人間に喋ったら、問答無用でボケてもらうがな。

 そして、陛下とヴァルケノズさんが知っている部分だけを、話していく。


「……以上です。何か質問があれば、答えられる内容ならば、お答えしますよ」


 話を聞いた各国首脳陣は、腕を組んで唸っている。

 俄かには信じられないのだろう。

 当然と言えば、当然の反応である。


「クロノアス卿。何か思い違いをしてないかの?」


「思い違いですか?」


 唸っていると思いきや、皇帝に話しかけられた。

 しかし、思い違いとは何であろうか?


「言っとくがな、この場にる者で、今の話に疑いを持っている者はおらんと言う事だ。より正確に言えば、幾つかの話には証拠が欲しいとは思うが、納得は出来る話だと言う事じゃよ」


「疑わないので?」


 俺が再度聞き返すと、今度は皇王が答えた。

 口調は相変わらずだが、こういった説明に答える人物ではないと思っていたので、意外っちゃあ意外だ。


「何か失礼な事を考えてるくせぇが――まぁ、良い。それよりも疑わない事に関してだがな、今更なんだよ」


「はい?」


「はぁ……。お前さんのしてきたことを言ってみろよ」


 俺がしてきた事?

 色々あるから、どれの事を言っているのだろうか?

 頭を捻る俺に、再びため息を吐いて、皇王が答えた。


「まずな、ランシェスの集団暴走スタンビードの解決。次に、神聖国での翼竜戦と竜との対話。竜王国での傭兵国との防衛戦に腐竜の撃滅。次いで皇国のダンジョン異変の解決と帝国での内乱戦。そのどれもで、強大な力を見せているだろうが!」


「でも、力だけですよね?」


 皇王の言葉に返すと、竜王国王が別の説明を始めた。

 まだ何かあったっけ?


「我が義息子は、大物なのか抜けているのか……。他にも、同盟の設立に、養鶏技術の確立。飛行船の稼働。牧畜関係の改善。食の変革。他にも上げようか?」


「そういや、そんな事もしてましたねぇ」


 あっけらかんとしていると、全員から三度ため息が……。

 あれ? 俺がおかしいのか?


「それと、魔法に関しても、他の誰も使えないものを普通に使ってますよ。ラフィ君は、自重を覚えた方が良いと思います」


「これでも自重してるんですけどねぇ」


 ヴァルケノズさんの言葉に返答すると、全員から「今でか!?」と言う視線を貰ってしまう。

 言葉にはしないけど、目を見開いて、全員が驚いた表情をしているから、間違いないと思う。


「因みにですが、食に関しては今後も色々とやります」


「グラフィエルよ。もしや、今までのは……」


「ただの下地作りですが?」


 俺の言葉に、疲れ切った息を吐く首脳陣。

 ともあれ、話が逸れ始めているので、軌道修正を行う。


「それで、質問は無いですか?」


 再度、同じ言葉を投げかける。

 全員が腕を組んで考える中、皇帝が真っ先に手を上げた。


「一つ、良いかの?」


「どうぞ」


「クロノアス卿は、全て話したわけではないと思うのだが、間違っておらぬかの?」


「どうして、そう思われるのですか?」


 先の説明で、俺は不自然な話し方はしていない。

 陛下とヴァルケノズさんが知りえる内容は、簡潔に話した部分はあるにしても、違和感や不信感を持たれる話し方はしていない。

 勿論、嘘偽りなく話もしていた。

 以前、メナトが陛下とヴァルケノズさんに言った『踏み込むならば、相応の覚悟がいる』部分に関しては話してはいないが、二人も知らない事なので、話してはいないが……。

 だが、その部分を除いたとしても、疑問を持たれるような事は無い筈である。

 ならば

 だからこその返しをしたのだが、皇帝の返答はこちらの予想を超えて来ていた。

 正確には、あの内容でどうしてそこに行きつく!? であるが。


「お主が、二人の知る事を全て話しているのは本当だろうとも。そこに疑いは無い。だがな、余らには知らぬことを、お主は知っていたりする。力に至ってもそうじゃ。ならば、二人にも話していない事があっても、不思議では無かろうよ」


「…………」


「沈黙は肯定と受け取るが、良いかの? さて、先の話に戻る前に聞いておくかの。二人も知らぬことを、お主は話さないのか、話せないのか、どっちじゃ?」


「…………どっちなんでしょうね?」


 俺の返答は想定外だったのだろう。

 皇帝は誰にでもわかるような、驚きの表情を見せていた。

 まぁ、気持ちはわかる。

 俺だって同じ質問をして、同じ様に返されたなら、呆れた顔をするだろうから。

 驚きになっているのは、俺自身もわかってないと、この時に初めて知ったからだろう。

 こうなると、誰も、何も話せなくなってしまった。

 沈黙が続く中、とうとう俺は耐えきれなくなって、ゲートを空中に開く。


「ラフィ君?」

「きゃっ」


 ヴァルケノズさんが訪ねるのと同時に、ゲートから出てきた人物が驚いた声を出した。

 そして、良い音を出して、尻もちをつく。

 その人物は女性で、右手には紅茶の入ったカップ、左手には食べかけの焼き菓子、そして、遅れて落ちてくる本。

 そして、尻もちをついた人物を視認したヴァルケノズさんは、顔面蒼白であった。

 そう、俺がゲートで強制参加させたさせた人物は、分身わけみのシルだったのだ。


「いたたた」


 ちょっと涙目のシルであったが、即座に状況を把握して立ち上げる。

 だがしかし! そこに威厳は皆無であった。

 立ち上がったシルは、状況を把握するや否や、左手に持った焼き菓子を素早く食べ、落ちた本を拾って左わきに挟み、右手に持ったカップの中身を一口飲んで、さも、わかってましたよ感を出すが、余計に残念臭が蔓延する。


「私も、話し合いに参加した方が良いのですね?」


 シルの言葉に頷く者はいなかった。

 いや、いないと言うか、あまりの早業と出来事に、脳の処理が追い付いていないと言うのが正解か。

 問いかけに反応が無く、シルは若干プルプルしてらっしゃる。

 だが、自業自得と言えなくもない。

 ジーラから観測を任されているにも関わらず、割と自由に、自堕落な生活を送っていたようにも見える。

 その辺りの確認をする為に、俺はヴァルケノズさんへ視線を向けるが……。


「? ヴァルケノズさん?」


「…………うぼぁ」


 ヴァルケノズさん、口から魂が出ていた。

 どうやら、許容量を超えたらしい。

 続いて、陛下からも同じような言葉が聞こえて来た。

 二人共、面識があるせいで、世界終了と思った様だ。

 そこから30分程、会議再開までに時間を有した事は言うまでもない。











「大丈夫ですか?」


「ああ」

「ええ」


 精神安定の魔法を行使して、陛下とヴァルケノズさんをどうにか復活させた。

 強制参加となったシルであったが、一国の頂点とは言っても信心深い者達であるからして、なんか崇め奉られていた。

 ただ、あまり調子に乗らせないで欲しい。

 この後の聞き取り調査次第では、ジーラに報告する予定なのだから。


「とりあえず、ヴァルケノズさんは、後で話を聞かせて下さい。あまりに酷い様なら、報告しないといけないので」


「それは良いのですが……。あの、誰に報告を?」


「知らない方が、精神的に楽ですよ」


 ヴァルケノズさんの質問に、にこやかに答える。

 それだけで、色々と察したらしい。

 触らぬ神に祟りなし――と、理解してくれたようだ。

 そして、一度場を鎮め、皇帝からの質問の続きに戻る。

 シルには、念話で伝えてあるので、良い答えを出してくれるに違いない。

 活躍次第では、ジーラへの報告は有耶無耶にするつもりであった。

 しかし、シルの答えは、期待値の遥か下だった……。


「大体の事情は理解しました。そして、結論から言うと、ラフィの好きにして良いですよ――が、答えですね」


「はい?」


「あの、それはどういうことなのでしょうか?」


 この場にいる全員が、シルの言葉の意味を理解できずにいた。

 いや、意味は理解しているが、陛下とヴァルケノズさんに至っては、過去の言葉と違う内容を言われ、ちょっと困惑気味だ。

 俺も思わず、素で聞き返しているのだから、二人は猶更だろう。

 そんな困惑絶頂の中、シルは続けて話す。


「私は、ラフィに関しての話をできません。ただ、今と以前では、ラフィと私達の関係性が少し変わっています。ですので、ラフィが話すと決めたなら、私は止められません」


「初耳なんだが?」


「それはそうでしょう。でも、今のラフィには、それだけの力と権限があるのですよ」


「……一応、聞いておくが、止められるのは?」


「敵対覚悟ならトラーシャ。諭すならジェネス様でしょうか」


「あー、トラーシャは何となくわかるわぁ」


「脳筋ですからね。後のは、その権限を持って――あ、ジーラに関しては、特機事項に関しては止めれますね」


「そっちも理解した。……呼ぶべきかね?」


「必要と感じたら、メナト辺りが勝手に来ますよ」


 俺の言葉に対し、あっけらかんと返すシル。

 どうやら、問題発言をしそうなら、止めには来てくれるらしい。

 だがここで、話の成り行きを聞いていた首脳陣の中で、皇帝がいち早く反応した。


「シル様とクロノアス卿の話なのだが、一部は理解した。そこで、シル様にお聞きしたいのですが……」


「答えられる事ならば」


「クロノアス卿から、続きの話を聞くうえで、誓約は必要でしょうか?」


「それも、ラフィが決める事ですね」


 皇帝からの質問に対し、バッサリと俺次第と言い切るシル。

 尚、皇帝の言葉が少しだけ砕けているのは、シルが気にせずに話して良いと行った為だ。

 そして、意を決して質問をすれば俺次第だと言う。

 だが、シルは一つだけ注意事項を話した。


「話の続きをする。制約の有無。これらは確かにラフィが決める事ですが、からも一つだけ確認せねばなりません」


「それは何でしょうか?」


「続きの話を聞くと言う事は、それだけの覚悟を示せるのか――と、言う事です。言っておきますが、生半可な覚悟では許しません」


 そう言うとシルは、全員に対して威圧プレッシャーを放った。

 神が放つそれは、普通の人間ならば耐えることは不可能。

 一握りの、神殺しを為せる可能性のある人間だけが、本来は耐えられる。

 だが、そこはシルも分かっているようなので、この場にいる全員が耐えれるくらいの力には抑えていた。

 俺? そよ風ですが?

 それと、シルはわざとか本意かはわかりかねるが、我々と口に出していた。

 少なくとも複数名の神は、シルの言葉に同意、又は、シルに言伝していたと思われる。

 そして、それに気づかない首脳陣なわけが無く……全員が唾を飲み込み、威圧プレッシャーに耐えながら同意した。


「……良いでしょう。但し、全てはラフィが決める事なので、これ以上は何も言いません」


 そう言って、一歩引くシル。

 で、どうしたかと言うと、根本的な部分は話していない。

 ただ、神々からの頼まれ事と、ダグレスト宰相の件は連動しているかもしれないとだけ話しておいた。

 わざわざ、虎の尾を踏む必要性は無いからな。

 この辺りが無難だろう。


「ふむ。それで、今後はどうするつもりなのだ?」


「同盟の約定に従ってにはなるでしょう」


「だがよ、今回の場合は、ちと状況が変わるんじゃねぇか?」


 皇帝、教皇、皇王が話す中、陛下に視線を送る。

 視線に気づいた陛下は、軽く頷き、こちらの意思に同調する。

 とりあえず、方針は話せと言う事だ。


「皆さん。言いたい事はあると思いますが、まずは自分の方針を聞いて頂けないでしょうか?」


 改まって声を出す俺に、全員が見合わせてから頷く。

 尚、シルは自分の世界に入っていたりするので、ジーラのお仕置きは決定事項だ。


「ご理解、ありがとうございます。まず、今後の方針ですが、こちらからは仕掛けません。理由は、大義名分を得る為ですね」


「誰に対してだ?」


 傭兵王が質問してくる。

 周りからは、空気読めよお前! って視線が送られるが、想定内の質問なので答えて行く。


「民に対してです。侵略戦争で徴兵や出兵となれば、少なからず反感は買うかと。ですが、故郷を、家族を守る為となれば、話は変わってきますから」


「なるほどな」


 傭兵王を含めた全員が納得した様なので、次に進めて行く。


「しかし、手をこまねく理由にはなりません。国境砦と境界線には、増員が必要でしょう。それと、即応可能な部隊も必要かと」


「王国、帝国、皇国はそうでしょうが、残りの四国はどうするのです?」


 ヴァルケノズさんの疑問はごもっとも。

 なので、そこも説明して行く。


「傭兵国はリュンヌの兼ね合いがあるでしょうから、付け込まれない様にした上で、戦力を雇用したいと考えています。竜王国と神樹国に関しては、後方支援をお任せしたい」


「我が国はどうするので?」


「問題はそこなんですよね」


 傭兵国はその名の通り、戦力の貸し出しが商売だから問題ない。

 竜王国は、立地的な関係から、戦力を出すのは負担が大きい。

 戦争は金が掛かるからな。

 戦費で国が傾くとか、良くある話だ。

 だから、風竜族と共に、後方支援――兵站を任せる事にする。

 神樹国はそもそも、軍を維持していない。

 だが最近では、農業や畜産に力を入れていて、自然も豊富で魔物の数も一番少ない国だ。

 こちらも、竜王国と連携して、兵站を担って貰った方が良いと判断した。

 そして、今、宙に浮いている神聖国だが、軍を入れる訳には行かない。

 雇用と支援では全く異なるからだ。

 そして、神聖国軍、並びに、聖騎士を雇用は不可能である。

 そんな事をすれば、ランシェスが下に見られてしまう。

 ランシェスの貴族として、そこは妥協してはいけない。

 なので、かなりグレーな裏技を使う予定だ。

 ちなみに、その方法だが……。


「我が家の義勇兵って形で参加しません? 腕に覚えのある人間しか無理ですけど」


「それしかないでしょうね。リュンヌに対する警戒もありますし、師団二つは動かせないですからね。ただ……」


「競争率が激しいですか?」


「本国の守りとなる、近衛を組み込んだ第一師団は論外ですね。そこは上手くやります。問題は、第二以降が……」


「一個師団、義勇兵で……あ、流石に陛下が嫌がりましたね」


「それはそうでしょう」


 冗談で言っただけなのだが、流石に軽口では済まされない内容だったらしい。

 まぁでも、傭兵国に関する事は、陛下に飲んでもらうつもりだけどね。


「神聖国の話は後で決めてくれ。それよりも、こっちの方が問題だ」


「流石に、傭兵国軍の戦力は頼みませんけど?」


「傭兵共か。報酬は?」


「貸し、ありますよね?」


 にっこりと笑う俺、引き攣った顔する傭兵王。

 なので、作戦を実行に移す。


「さっきの魔道具代ですけど、チャラでも良いですよ」


「マジでか!?」


「代わりにですね……」


「傭兵たちへの報酬は、こっち持ちってか? どっちにしても割高なんだが?」


「無利息の貸し付けと、貸付金の恩もあったような……」


「ちょっ、おまっ、今、それを持ち出すのかよ!」


「俺、陛下に怒られても頑張ったんだけどなぁ……」


 思いっきり、恩着せがましくやっておく。

 そっちのほうが、誰も罪悪感とか無いからな。

 そう、陛下の為にも――な。


「ちっ。……わぁーったよ。クッキーの奴も貸してやる。好きなだけ暴れろや」


「さっすがぁ! 傭兵王、太っ腹!」


「くそがっ。で、作戦は?」


「その前に報酬ですよ。傭兵に対する報酬ですが、傭兵国とランシェスで折半。但し、こっちの作戦を一考してもらいたいですね」


「俺は構わねぇよ。それとな、傭兵国経由で冒険者ギルド全てに布告を出してやる。ただ、一度、こっちに集合はさせてくれ」


「そっちの方が楽なんで、採用です。陛下も良いですか?」


「……聞いてからだな」


 陛下からも一考はして貰えると言質は取ったので、全員で悪巧みをしていく。

 その話を終えた後、各人からダメ出しと改定案が出され、詰めて行く。

 ついでに、一応だが、戦勝後の話もしておく。

 後で面倒事にならない為にだ。

 そして、同盟盟主と首脳陣、神一柱を加えた話し合いは、これにて幕を閉じた。

 その後は、親睦会も兼ねて、夕食会――簡易晩餐会――が開かれ、雑談に興じた。

 尚、翌日、ヴァルケノズさんから着信が入った。


『グラフィエル君! 君、一体なにをした!? なんでもう一柱の御方が、我が国にご降臨された!? 吐け! 全部ハケェェェェェ!!』


 どうやら、シルへのお説教、又はお仕置きに、ジーラの分身わけみが来たらしい。

 朝、シルを起こしに行ったら、プスプスと煙を上げたシルと、もう一柱いたとの事。

 その現場を直視したお世話係は卒倒して、報告を聞いたヴァルケノズさんは心労が加速した模様。

 そして、事情を聞いて連絡してきた――と。

 まぁ、夕食会後に、ジーラに報告してたから、そうなるよね。

 だから、事実だけ告げた。


『全部、シルの自業自得なんです』


 そう言って、電話を切った。





 後日、陛下経由で怒られました。

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