第195話 似た者同士の共闘

 ???の使徒。

 鑑定結果に表れた、誰の使徒かわからない表記。

 更に斜め上過ぎる情報も相まって放心しかけるが、どうにか耐えて能力を確認する。

 能力自体は、この世界の生物全てを軽く凌駕しているが、俺や神喰には遠く及ばない。

 だが、気になるスキルがいくつかある。

 まず気になるのは、弑逆と言うスキル。

 自分の階位より上の者に対する特攻スキルだ。

 これは俺に対してだと思われる。

 だって、もう一つのスキルに神への反逆ってのがあるからな。

 次に、狂神への神罰と堕神の救済。

 こちらは神喰特攻だろう。

 そして、神気を持っている事。

 それに加え、女は情報を喋り過ぎた。

 以上の事から、間違いなく神の誰かが関わっているのは確定だ。

 次に男の方の能力を確認する。

 こちらも能力はかなり高い。

 だが、この世界の生物の中で、敵わないクラスがいる位の能力だ。

 上位には食い込んでるから、油断は禁物だな。

 そして、気になるスキルと言うか、状態表記が一つある。


 ――強制限界突破フォースィングリミットブレイク――


 限界突破と言うスキルは、確かに存在する。

 その効力は、己の能力を倍以上に引き上げる代わりに、効果終了後に肉体ダメージが襲ってくるというもの。

 長時間使えば、死に至る可能性があるスキルだが、緩和する事も可能なスキルだ。

 そして、このスキルは任意発動が出来る。

 にも拘らず、強制的に限界突破させられている状態。

 更に、???の使徒と言う表記。

 異常と言うならば、男の方が明らかに異常で異質な存在であった。


「神喰」


「ちぃっと、面倒だな」


「どう見る?」


 俺の言葉に神喰は考え始めた。

 どうやら向こうは、律儀にも待ってくれるらしい。

 わざわざ待つとか、目的が見えない。


「余裕ぶっこいてるだけなら良いんだがな……。絶対に何かあるだろうぜ」


 そう言って、神喰は戦闘態勢に入った。


「同感だな」


 神喰の言葉に返事をして、俺も戦闘態勢に入る。

 それを見るや、相手も戦闘態勢に入るのだが、女の方はその視線を神喰に向けて離さない。

 端から見れば、ストーカ女に見えなくも無いな。


「話し合いは終わりましたか?」


 女が語り掛けて来たので、ちょっとだけ煽ってみるか。


「一応な。しっかし、ずっと目を離さないとか、まるでストーカーみたいだな」


「挑発には乗りませんよ。それに、あなたの相手はこの男ですから」


 相変わらずの無表情で受け流す女。

 感情が無いにも限度があると思うんだが?


「話しはもう良いだろうが。っ! 来るぞ!」


 神喰の声と同時に、こちらへと距離を詰めてくる使徒共。

 お互いに目標と定めた方へと突っ込んでくる。

 だがな、それは想定内の行動なんだよ!

 こちらも相手の思惑に乗って距離を詰めて攻撃する――と見せかけて、一瞬でお互いの相手を入れ替えて反撃する。

 神喰は四肢を腐竜化させて男の方へ。

 俺は一気に距離を詰めて女の懐へ飛び込み、崩拳――と見せかけて、足で魔法を発動させて、地面を爆発させる。

 と同時に、石礫を浴びせるのだが、ただの石礫ではなく、爆発する石礫を浴びせる。

 相手も意表を突かれたのか、若干反応が遅れるも即座に対応した。

 但し、相対者の入れ替えには成功。

 神喰の攻撃に男は防御と回避で反応して、対峙する形に。

 俺の方はと言うと、対峙には成功するが、思っていた行動とは違っていた。

 実は、俺の最初の攻撃はプラフで、相対する者を有利に運ぶために放った意味合いが大きい。

 普通の生物が相手なら、ちゃんとした殺傷能力が期待できる魔法だが、今の相手だと目くらまし程度にしかならない魔法だ。

 もし、俺が同じ攻撃を食らったのならば、対応方法は二つ。

 一つは、防御に徹して距離を取る。

 もう一つは、魔法障壁を展開して突っ込むだ。

 前者の場合だと、相手の次の攻撃が致命傷になると想定した場合にしか取らない。

 相対者の入れ替えが無ければ、前者を取ると言った感じだ。

 逆に、相手に思惑があってされたのなら、それを潰すために敢えて突っ込んで攻撃に転じる方法を取る。

 今回の場合だと、確実に後者を取った方が有利に働くだろう。

 だが結果は、防御に徹し、お互いの間合いギリギリの距離を取るに留まってしまった。

 うん……マジで狙いが分からん。


(狙いは一貫して神喰なんだろうが、行動が読めなさすぎる)


 そして、俺と女は膠着状態に。

 神喰と男は接近戦で殺り合っていた。

 横目で神喰の戦いを見ながらも、意識は女の方に向けている。

 女の方も同じ様で、神喰の戦いを観察している。

 勿論、意識は俺に向けた状態でだ。

 迂闊に動けば、それが隙となるのだが、俺は裏技を使用していた。

 その裏技とは、リエルとの意識分割である。

 俺の意識とリエルの意識を同調させ、半分に分割する。

 要するに、神喰の方には俺とリエルの意識が半分ずつ向いており、もう半分は女の方へと向けて、相手の意識がきちんと自分に向いてると偽装しているわけだ。

 だから、神喰と男の戦いを分析して、隠し玉を暴くことに注視出来る。

 戦う相手を入れ替える為に、あの僅かな一瞬で、視線だけで作戦を伝えていたのだ。


 因みに、以前、ゼロ&ツクヨVS俺&神喰で訓練を行った時にも、同じ方法を使ったことがあったりする。

 その時に言われた言葉がある。


『『この、似た者同士め!』』


 作戦勝ちで苦戦させた時に言われたのだが、断固として拒否した。

 俺と神喰が似た者同士?考えただけで吐き気がするわ!

 ただ、この話には続きがある。

 ミリア達やクランの人間にも話をしたのだ。

 そうしたら、言い方は様々であったが、同じ答えが帰って来たのだ!


『ラフィと神喰が似てる? ……言われてみればそうかも』


『ラフィ様って、変に面倒見が良いですよね。後、面倒だって言いますけど、最後まできっちりされますし』


『あ、分かるかも。神喰も変に面倒見が良いもんね。口は悪いけどさ』


『クランでも有名な話。二人共、最後までやる』


 これと全く同じ内容を――言葉は違うが――クランでも言われたのだ。

 とっても心外である!


 閑話休題


 さて、そんな神喰VS男だが、神喰が押している。

 ただ、そんな男なのだが、一貫して魔法を使っていない。

 いや、神喰も使って無いんだがな。

 どういう訳か、接近戦での戦いになっていた。

 四肢を腐竜化させた神喰の攻撃を、ガントレットで受け止めて反撃しているわけだが、そのガントレットの指先部分は鋭い爪になっており、地味に有効打を与えていた。


「がぁぁぁぁああ」


「さっきから、吠えてばっかりでうるせぇ!」


 そして、これである。

 限界突破リミットブレイクには魔法を使えない縛りは無い。

 にも拘らず、一切魔法を使わない男。

 いや、使ってはいるのだが、身体強化しか使っていない。

 だからこそ、神喰と殺り合えてる訳だが、これには神喰の弱体化も関係している。

 元食神である神喰だが、幾つかのスキルを喪失している。

 その一つに【変換】というスキルがある。

 実際には、俺に譲渡されたスキルなのだが、この変換というスキル、食らったダメージさえも力に変換できる優れものだったりする。

 それに加え、【貯蔵】というスキルも俺に譲渡している為、その代わりになるスキルで相対しているのだ。

 そして、その代わりのスキルが、吸収と変質と分割。

 相手の力を変質させるスキルだが、変質は変換の下位スキルに当たる。

 神喰が苦肉の策で修得したスキルだ。

 そして、吸収と変質のスキルにはデメリットが存在する。

 吸収のスキルだが、自身が保有する力以上は奪えない。

 仮に、神喰の力を10とした場合、10以下までしか吸収できないのだ。

 ただ、小数点が無限に続く過程で考えると、ほぼ同率までは吸収可能と見て良いと思う。

 そして、自身の力以上を取り込もうとした場合、逆に取り込まれてしまう。

 それを回避する為のスキルが変質だ。

 変換の場合、自身の力に合わせて変質させれるのだが、変質単体だと別の力に変えるだけしか出来ない。

 だから使い方としては、10に限りなく近い力を吸収して、別のものに変質させて取り込む形にする。

 そして、最後の分割は、吸収した力を分割して変質させ、早い段階で取り込めるようにするわけだ。

 そうする事で、自身の力以上を取り込めるようにしたわけだ。

 神喰自身、どうにかして効率スキルも取りたいらしい。

 まぁ、有ると無いとじゃかなり変わるから、気持ちはわからんでもない。

 そんな神喰相手に、まともに戦えてる時点でおかしいのは分かって貰えると思う。


「このままでは、埒があきませんね」


 不意に女が喋り出した。

 もしかして、男に手を貸すつもりか?

 まぁ、させねぇけどな。


「援護に入りたいなら、どうぞご勝手に。但し、俺から意識を逸らして、無事で済むとは思って無いよな?」


 女に殺気をぶつけて、動いたら殺ると宣告する。

 当然、女は動けない。

 時間は掛かっても良いから、神喰が勝てばこちら側が一気に有利になる。

 俺はそこまで、女を釘づけにしてれば良いだけだ。

 しかし、女の方もそれは理解しているのだろう。

 こちらの隙を探ってきている。

 だが、意識はがっつり女の方に向けてある――偽装込み――ので、隙など見当たらない筈。

 となれば、打つ手は限られる。

 その考え通り、女が動いた。


「予定には無い事ですが、お覚悟ください」


「俺は予定通りだな。お前を倒して、さっさと帰る」


 その言葉の後、俺と女の戦いが始まった。

 女は突っ込むと同時に、5属性魔法を乱射してくるが、放つ属性、威力、種類を即座に読み取って、同じ様にして迎撃する。

 それを見た女は足を止め、距離を開けて魔法を乱射。

 対する俺は、即座に迎撃しながら、手数を増やして攻撃して行く。

 大剣一振りでこちらの攻撃を迎撃して行く女だが、徐々に増す数に抗えなくなり、少しずつ傷が出来て行く。

 だが、やっぱりと言うか、自動治癒を予め付与していた様で、当たった傍から回復される。

 こちらは完全に千日手になりつつあった。

 とは言え、俺にとって不利ではない。

 時間稼ぎで見るならば、正に理想的だからだ。

 それは女の方も分かっている様で、無表情な顔なのに、少し歯がゆく感じているのが分かる。

 内心では少し焦っているのだろう。


「どうした? 起死回生の一手を打たないとジリ貧だぞ?」


「…………」


 わざと今の現状を言葉にして、女を煽る。

 返答は無言で返された。

 そんな中、金属が砕かれる音が聞こえた。

 見れば神喰が、男の左ガントレットを破壊して、腕を折っていた。

 相手の表情は変わらないが、脂汗らしきものをかいている様にも見えるので、痛みと焦りが伺える。


(あ、やけになって攻撃して、右腕を掴まれやがった)


 男の攻撃は空を切って、逆に神喰の右手に捕まり、左腕は相手の左肩を握りつぶす勢いで掴み、お互いに最後だと言わんばかりに頭突きをし合う。

 結果は、神喰の勝利。

 男は痙攣して倒れた。

 男の右腕もガントレットごと潰されており、引き千切られている。

 左肩も完全に握りつぶされ、大量に出血していた。

 もう、ここから助かる事は無いだろう。

 蓋を開けてみれば、神喰の完全勝利である。

 そして、介錯のつもりなのだろう。

 神喰は男の頭を踏みつぶして、息の根を止めた。

 生傷はあるが、自動治癒で傷を癒しながらこちらへと来る神喰。

 これで二対一。

 完全にこちらが優位に立った。

 そんな状況にも関わらず、女は冷静だ。

 ここから逆転できると思っているのだろうか?

 俺は切り札の一つすら見せて無いと言うのに。


「はぁ……。あの男も情けない。まぁ、人間にしてはまだマシと言う事でしょうが」


「辛辣だな。仮にも原初の使徒とそれなりの戦いをしたんだ。労い位してやっても良いだろうに」


「死ねばそれまで」


 軽く言葉を交わしている内に、神喰は女の背後に回った。

 挟撃で一気にケリを着けるつもりなのだろう。

 だが、何故か引っ掛かる。

 女が冷静過ぎるのだ。

 もしかして、この状況を打破できる一手を持っている?


「一つ、面白い話をしましょうか」


 女が唐突に話し始めた。

 さて、何を聞かせてくれるのやら。


強制限界突破フォースィングリミットブレイクですが、どうやって行ったと思いますか?」


「なに?」


「神ならば、相手の魂に直接干渉して出来るでしょうが、私には無理です。では、何故、出来たのでしょうか?」


 女の言葉が真実とは限らないが、仮に真実だったとしよう。

 そうなると、考えられる方法は一つ。

 投薬による発動。

 だが、そんなものがあるのか?と、疑問が浮かぶ。

 そんな俺達に、女は口を裂くようにして、笑いながら答えを言い始めた。


「うふふ、そう、その通りですよ。貴方の考えている通り、薬による限界突破。そして、それらを水に混ぜたのなら、どうなると思いますか?」


「……てめぇ」


 濃度とか関係なく作用するならば、口にした者は全員、男みたいになってしまう。

 こいつは、俺の大切な者達を人質に取ったと言っているのだ。

 俺の中で、どす黒い感情が沸き上がる。

 だが、次の言葉にその感情は、一旦、鳴りを潜める事になった。


「まぁ、そんな事はしませんが」


「は?」


「私にも事情があるのですよ。任務遂行は困難。この辺りで引かせて頂きます」


「逃がすとでも?」


「無理でしょうね。だから、情報を提供しましょう。代わりに……」


「この場から見逃せってか? その情報が真実である保証がない以上、無理な相談だ」


 今この場で、危険因子は排除する事を告げる。

 しかし女は、その答えを想定していた様で、動揺すらしなかった。

 剣を空間収納に入れ、代わりに別の何かを取り出して、こちらへと投げて来た。


「それが、言っていた薬です。ああ、製造場所を調べても無駄ですよ。全て跡形も無く潰してきましたから」


 女の言う事が本当かどうか確かめる為に、鑑定で薬を調べる。

 薬の名前こそ違う結果が出たが、薬の効能は女が言った通りの代物であった。


(この女の目的が分かんねぇ……)


 一体何をしたいのか、まるで見当が付かない。

 そもそも、この女の後ろにいる神は誰なんだ?

 神の関係者であるのは間違いないので、せめて背後関係だけでもわかれば良いのだが。

 そんな顔をしていたのだろうか?

 女が徐に喋り出した。


「誰かは言えませんが、一人だけ違うと言える神はいますね」


「……誰だ?」


「生命神エステス様です」


「あっさり喋るのな」


「どちらかと言えば、敵ですからね。まぁ、敵いませんけど」


 となると、こちら側?

 いや、中立もいるのかもしれない。

 一度情報を整理する可能性があるな。


「一つ聞きたい」


「何でしょうか?」


「今、神達の立ち位置はどうなっている?」


「そうですね……」


 女が話した内容は以下の通りだ。

 まず、俺の意思を尊重するこちら側が大多数。

 要は、エステスに対し疑心を持っている神達で、いざとなればこちら側に同調する神達だ。

 次に中立派。

 少数ではあるが、どちらにも付いていない派閥。

 最後にエステス派。

 こちらは無し。

 理由はどうあれ、エステスに対し疑心を持っている神しかいないと言える。

 但し、中立派は面白そうな方に付く可能性と何を考えているかわからない神が多いらしい。

 どう転ぶかはわからないとの事。

 そこまで聞いてから、俺は戦闘態勢を解いた。

 多分こいつは、こちら側の神の先兵の可能性が高い。

 神喰に固執した理由が分からないが、勇み足だった可能性もある。

 となれば、わざわざ争うのは得策じゃない。

 まぁ、こいつ程度の実力ならば、ダース単位でも切り札の一つを切ればどうにでもなるしな。

 女からしたら、わざわざ神達の情勢を話すメリットは無いし、寧ろ、デメリットの方が大きいだろう。

 そう考えて、神喰に視線を送る。

 神喰も頷きはしたが、狙われた事実があるので、戦闘態勢は維持した状態だ。

 但し、無理に戦闘をする意思は無いと、視線で伝えて来た。


「そちらの条件を飲もう。但し、情報次第になるが」


「交渉成立ですね。では、まずは、男の情報からにしますか」



 こうして、何とも締まらない形で戦闘は終了した。

 さて、どんな情報が手に入るのやら……。

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