第193話 救出大作戦!

 お仕置きを敢行した翌朝、神喰は静かに部屋を後にした様で、朝食は俺と八木だけで取っていた。


「いやぁ……ラフィさん、容赦ないっすわ」


「あれはあのバカが悪いと思うんだが?」


「そうっすけど、神喰さんの話に納得したからこそ、途中で止めたんっすよね?」


「…………」


「沈黙は肯定と取るっすよ」


 八木が言った納得の部分。

 実は神喰、お仕置きを受けながらも、俺に必死で参加理由を説明したいたのだ。

 で、途中からはお仕置きを中断して、話を聞くようにしたのだ。


『マジでいつか死にそうだ……』


『あ?』


『ナンデモナイデス。セツメイシテモイイデスカ?』


『ラフィさん、とりあえず聞いてあげましょうよ』


 八木の口添えもあって。カタコトで話し始めた神喰からの理由を聞く。

 神喰があの大会に参加した理由だが、どうやらあの主催店はダグレストでも超有名高級店らしい。

 で、優勝賞品は、完全個室超VIP席の無料招待券なのだと。

 一見様お断りの席で、上級貴族か王族クラスが良く利用しており、お値段も超お高いそうだ。

 だが、今の時期は来年の準備で、どの貴族も少し忙しく、出歩く頻度が落ちる為、予約数があまり取れないそうだ。

 そこで、宣伝も兼ねた大会を開催して、新規客を取り込むのが狙いだそう。

 特に大店の商会を狙っているらしい。

 品位を落としたくない狙いもあるそうで、事前に常連貴族達には話もつけてあるらしく、もし平民が優勝したのならば、高額取引すらされる代物との事。


『で? そんな大会に参加した理由は?』


『理由は二つだ。一つは、今回の経費になればと思ってな。そりゃあいくらかは貰うけどよ、それでも大分回収出来る品なんだ』


『そんな大会だったら、事前申し込みとかあるんじゃないのか?』


『欠員が出たんだよ。で、急遽予選になって……』


『本戦に出て優勝した――と。で、もう一つの理由は?』


 神喰の話によると、一つ目の方は副産物的な意味合いが大きいらしく、二つ目が本命の理由らしい。


『あの優勝賞品、裏の取引でも相当高額な値段で取引されてるんだよ。でだ、俺らの目的は情報収集だろ? 裏で売りさばくついでにだな――』


『売値を下げる代わりに情報を買い漁っても良いし、情報屋に半値で売る代わりにヤバそうな情報まで出させるか』


『半値でも、白金貨数枚クラスのプレミア券らしい。あの店の料理自体は、普通の高級店と変わらない値段らしいが、部屋の料金が異常なんだと』


『因みにいくらなんだ?』


『大白金貨が余裕で飛ぶらしい』


『その代わり、機密性は折り紙付きなのか』


『密談するには最適の店なんだと。後、時期によっては予約が全く取れないそうだ』


『王族でも?』


『横やりは店主がさせないんだってよ。王族でもしないらしいが、多分、弱みを握られてるんじゃねぇの?』


『なにその店……こっわ!」


 他にも色々と理由を言われたが、これ以上のお仕置きは止めておこうと思った話がこれだった。

 ただ、念話でも良いから、事前に連絡と相談はしろ――とだけ厳しく言っておいた。

 初めのお仕置きはその分と、尤もな理由も付けておいたので、神喰からの愚痴も封殺出来たのは僥倖だったな。


「まぁ、結果良ければ全て良しっすよ」


「まぁ、そうなんだが……それでも事前に相談か連絡はなぁ」


「予選の受付がギリギリだったとか?」


「それなら、お仕置き緩和の為に話してるだろう? 単純に、これくらいなら大丈夫だろう――と、勝手に決めつけていた方が大きいと思う」


 八木はちょっとだけ違うと言いたげな表情をしたが、実は大正解だったりする。

 と言うのも、リエルさんは危険度合を落としてはいるが、神喰に関して手を抜いてはいないのだ。

 当然、要監視対象であるので、RE・コードをフルに使って神喰の嘘を暴く事にしている。

 そのリエルからの進言なので、神喰が報連相を甘く見ているのは間違いないのだ。

 もし、一つだけ擁護するとしたら、神喰にだけ報連相の頻度が厳しいと言うか、常に細かくしているところだろうか?

 まぁ、その辺りは今までの行いが原因なので、擁護できんがな。


「まぁ、昨日の話はここまでにしておいて――今日の昼の段取りだが」


「軟禁場所が変わって無いかの確認と救出準備っすね」


 八木の言葉に頷いて肯定する。

 脱出経路については、スラム街からの脱出のみに絞ったが、そこに至るまでの経路は途中から4つ作っている。

 ただ、軟禁場所が変わっていると使えない経路もあったりする。

 八木曰く、軟禁できる場所自体が少ないとの事。

 制限自体はかなり厳しいらしいが、戦闘訓練が出来る建物は必須との事で、仮に変わっていても絞り込んで見つけるのは簡単だそう。

 それを見越した上で、経路を4つに絞っているのだが、一つだけ懸念事項があったりする。


「問題は、変わった先が王城内だった場合だな」


「そうなるっすと、経路はともかく、救出に手間取る可能性があるっす」


「多少は、その場の判断になりそうだな」


「変わって無い事を祈るばかりっすね」


 そう話してから、昨日手に入れた王都の地図を二人で見る。

 軟禁場所の特定に、わざわざ歩いて探す様な事はしない。

 彼女らには、あの魔道具を飲ませているのだから。


「【探査サーチ】」


 魔道具の反応を魔法で探る。

 移送先も含めて反応を探るが、ダグレストの王城だけは、わざと除外している。

 ランシェス王は黙認してくれてるが、本来、各王城には、魔法判別、妨害、相殺など、各種防衛機構が設置されている。

 範囲に入れた瞬間にバレてしまうので、王城内を魔法で探すのならば、ちょっと手の込んだ方法で最後に行う予定だ。

 尤も、その必要性はなくなったがな。


「見つけたぞ」


「何処っすか?」


 地図に書かれた屋敷を指し示す。

 それを見た八木は、少しだけ安堵の表情を見せた。

 つまり、軟禁場所は変わっておらず、八木が事前に用意した見取り図が役に立つ事を示していたからだ。

 次に、八木が用意していた屋敷の見取り図を広げる。


「八木が最後に会った時は、二人とも一緒の部屋にいたんだな?」


「そうっす。変化が無ければ、一緒のはずっすが……」


「わかった。これから調べてみる」


 今度は屋敷内に限定して、魔道具の反応を探って行く。

 直ぐに反応を見つけたが、思わず舌打ちをしてしまった。

 流石に、全てが上手く行くはずは無いか。


「ラフィさん?」


「流石に、全部上手くはいかないな。個別に軟禁されている」


「手分けして救出っすか?」


 八木が方針を聞いてくるが、どうしたものか。

 手早く救出するならば、二手に分かれた方が良いが、確実性と言う点で見るならば、各個救出した方が良いだろう。

 八木の戦闘力も折り紙付きだが、暗殺型の八木にとって、見つかった場合に守り切れるのか?――という不安が残る。

 もし、助けが必要になった場合、増援を相手にする事も想定しないといけない。

 それならば、初めから一緒でも良いのでは?――と思うが、各個救出する際に、一人救出して見つかった場合、残るもう一人が人質に取られる可能性がある。

 徹底した安全策か、一気呵成に救出するか。

 非常に悩む所なので、八木にも意見を聞いてみる。


「確実に一人ずつか、同時救出するか――っすか」


「どっちにもメリットとデメリットがある。俺よりも八木の方がダグレストと言う国を知っているだろうから、決めて貰いたい」


 俺の言葉に考え込む八木。

 各個救出は戦力を集中させられるが、時間が取られると言う点も問題だ。

 時間が掛かる=敵に見つかる可能性が上がる。

 同時救出は戦力の分散なので、安全性は下がるし、見つかった際の対処にも問題が起きる可能性が大きくなる。

 どちらを選んでも一長一短なのだ。

 そんな中、八木が選んだのは、各個救出だった。

 但し、条件付きで……。


「見つかって、増援を呼ばれるまでは――って事にしたいっす」


「理由は?」


「どっちかを救出するまでは、想定の斜め上過ぎる不測の事態でも起こらない限り、見つからないと思うっす。なら、各個救出した方が後の逃亡も楽だと思うんっすよ」


「見つかった場合は?」


「自分が囮と殿を務めるっす。ラフィさんには申し訳ないんっすが、二人の事をお願いしたいっす」


 八木は真っ直ぐに俺を見る。

 どうやら引く気は無いみたいだが、少し甘く考え過ぎでは無いだろうか?

 囮に関しては、百歩譲ってまぁ良いとしよう。

 問題は殿の方だ。

 敵にわざと見つかるのは囮と同じだが、そこから足止めが必要だ。

 そして、その場を死地と定めながらも、生きて帰る等の帰郷に関する強い思いは必須だと思う。

 死にたくないではなく、必ず生きて帰ると、強い意思を持たないと俺は出来ないと思っている。

 実際に、その想いを叶えた人物なども前世今世問わず、存在していたのは確かなのだから。


「囮はともかく、殿に関しては、甘く見過ぎてないか?」


 質問に対し、八木は横に顔を振った。

 それなりに考えてのことらしい。


「俺のステータスは、仲間内じゃトップっす。ダグレスト王国内でも、自分クラスは稀っす。勝算は十分にあるっすよ」


「数の暴力を舐め過ぎてないか?」


 俺に物量戦は無意味だが、質が高いと話が変わってくる。

 例えば、自らに課した捕縛条件が生かした状態で――が、生死問わず――に、変わる位にはなる。

 俺でもそうなるのに、八木だと相当変わるんじゃなかろうか?


「下準備は念入りに――っすよ」


「なるほど。足止めした後に、逃げ切れる様に準備は済ませてる訳か」


 八木は頷いてから、懐の中に忍ばせていた物を見せて来た。

 なるほど……切り札に関しても、きちんと用意済みなわけね。

 しかも、俺にそれを明かしたとなると、更なる切り札も持っている可能性はある訳か。


「どこぞの狐盗賊も言ってたな。【切り札は先に見せるな】と」


「あ、知ってるっす。【見せるなら、更に奥の手を持て】っすよね」


 どうやら、前世で見たアニメを八木も見ていたらしい。

 お互いに少しだけ雑談に花を咲かして休憩を挟み、再び本題に戻る。

 とは言え、話す事って他にあったかな?


「とりあえず、見つからない事が一番だな」


「っすね。後の問題は、どちらを先に救出するかっすが……」


「一番の悩みどころだな……」


 姫埼と春宮。

 戦闘職が先か、回復職が先か。

 一般論からすれば、人質にされにくい戦闘職である姫埼が後だろうが、八木曰く、精神的な強さだと春宮に軍配が上がるそうだ。

 とは言え、姫埼が劣っているわけではなく、春宮の精神力がおかしいだけらしいとの事。

 より正確に言えば、一歩引いた目線でパニックに陥りにくいのが春宮らしい。

 ただ、やっぱり女性なので、苦手な物にはパニックになるそうだ。

 そして、二人共パニックになるものだが、その一つはやっぱり、黒くてカサカサと動く、あれだそう。

 気持ちは良くわかる。

 そんな八木の話を聞きながら、本題に戻って質問をする。


「万が一、人質にされそうになった場合、持ちこたえられそうなのは?」


「うーん……正直、どうなんっすかね? 戦闘面だけで見れば姫埼なんっすけど、キレた春宮の場合、相手を撲殺とかしそうなんっすよねー」


「女性って、いざとなったら肝が据わるよなぁ……」


「そうなんっすよねぇ……。だから、わからないが正解っすかねぇ」


「わからないじゃ困るんだが?」


 そして、あーだこーだと話し合った結果、侵入経路などの事もあって、姫埼から救出する事が決定した。

 姫埼から救出になった一番の理由は、八木が話し忘れていた春宮の魔法とスキルの混合について。

 春宮は遮断結界が使えるそうだ。

 因みに、遮断結界に似た魔法で魔法障壁と言うのがあるが、それの上位版と思って貰って構わない。

 魔法障壁は魔法と物理攻撃を全方位で防ぐのだが、遮断結界は精神攻撃とデバフ系も全方位で防ぐ完全結界だ。

 ただ、消費魔力はかなり多いので、多用は出来ない。

 効率と集団戦を考えるなら魔法障壁で充分ではあるが、大多数想定の短期籠城戦なら遮断結界の方が良いのだ。

 ケースバイケースと思えば良いかな。


「そういや、春宮がこの結界を使った時に『〇・T・フィールド!』とか、叫んでたっすね」


「春宮もそっち系の……いや、有名だし、知っていてもおかしくは無い、か?」


「姫埼はわかんなかったみたいっすよ。後、春宮は『カ◯ル君推し!』とか、言ってたっすねぇ」


「もしかして、腐ってらっしゃる?」


「無いと思うっすよ。理想と妄想と現実は別物って割り切ってたっすから」


 そんな話をした後、最終の打ち合わせをして、夕方までは各自で行動、早めの夕食を取って就寝した。













 深夜3時。

 俺と八木は、二人の救出の為、行動を開始する。

 侵入経路は屋根裏から。

 八木の情報通り、屋根と外壁を繋ぐ部分に穴が空いており、そこから侵入する。


「下からだと、死角になって見えないんっすよね」


「雨漏りで気付きそうなもんだけどなぁ」


「この屋敷って、軟禁や監禁用なんっすよ。普段は誰も住んでいないっすからねぇ」


「駄目なら別を――ってか?」


 そんな話をしながら中に侵入して、一人目の救出者の元に向かう。

 道中、見張りが全くいないので拍子抜けなのだが、ちょっとだけ納得はしていた。

 そもそもこの屋敷、逃亡防止用なのか、至る所に設置魔法が施されていたのだ。

 その大部分は警報系なので、人自体は多いと見て良いだろう。

 まぁ、俺には全くの無意味だが……。


「ここっすね」


 八木が一つの扉の前で立ち止まる。

 あまり労せずに、姫埼の元に辿り着いた様だ。

 ただ、ドアやドアノブにも警報系や阻害系の魔法が徹底的に施されていた。


「今は開けるなよ? 解除するから」


「うっす」


 八木と代わってドアの前に立ち、解除をして行くのだが、ちょっと面倒であった。

 と言うのも、魔法自体は簡素なのだが、複数に渡って重ね掛けしているので、一つ一つ解除しないと気付かれてしまう。

 5つ位なら、一気に解除しても気付かれないだろうが、10や20になると流石に無理だ。

 しかも、同じ魔法を重ねている部分もあるから、更に面倒という始末。

 同じ人間がかけてもいないので、魔力波長も微妙に違うし、普通の人間なら時間を喰うのは必定だな。

 だから見張りや巡回も少なくできるわけか。


「180秒って所か」


「カップ麺っすか。警戒は任せて欲しいっす」


「頼む」


 ご丁寧に遮音結界もしてあるので、俺たちの会話は姫埼には聞こえて無い様だ。

 騒がれる心配が無いので、これについては有難いな。

 きっちり時間通りに解除し終わり、後は物理的な外鍵だけだな。


「八木」


「了解っす」


 物理的な鍵開けは、スキル持ちの八木に任せた。

 いや、だって俺、鍵開けスキルとか持ってねぇし。

 わざわざRE・コードから引っ張ってくるのもねぇ……。

 と言う訳で、八木に任せたのだが、あっさりと開けたな。

 前世であった緊急鍵開けの店とかに就職したり、自営でやったら儲けそうだなぁ。


「中に入れるっす」


「了解」


 とりあえず、アホな考えは横に置いて、寝ている姫埼を揺すって起こす。

 あ、中に入ってから、変装の魔道具の効果は一度切ってるぞ。

 つうか、姫埼も肝が太いと言うか、適応能力が高いと言うか……助けに着たら普通に爆睡してたからな。

 わざわざ助けに来なくても逃げられたんじゃねぇの?


「んん……八木、君?」


「おはよう。詳しい話は後にして、さっさと着替えて付いて来てくれ」


「優華は?」


「この後、助けに行く」


「了解よ。ちょっと待って」


 言うや否や、さっさと準備を済ます姫埼。

 しっかし、罠とか思わんのかね?


「なぁ? 罠とか疑わねぇの?」


「グラフィエルさんが居ますので」


「何で俺がいたら疑わないのか、わからんのだが?」


「え? だって、グラフィエルさんになりすますとか、何処の命知らずって話ですよ? 色々逸話があって、こっちでも警戒している人物なんですから」


「……変装していて正解だったな」


「っすね」


 軽くやり取りを終えた後、姫埼を連れて春宮の救出へと向かう。

 巡回の者と出くわしたが、向こうが何か叫ぶ前に、俺の麻痺電撃と八木の掌底顎打ちで、一瞬で意識を刈り取った。


「良いんっすか?」


「何がだ?」


「いや、トドメを刺さなくても――と」


「無用な殺生は避けるべきだし、ちょっと考えがあってな」


 そう言ってから、倒した相手に闇魔法を掛ける。

 ちょっとした暗示だが、いざと言う時には攪乱してくれるだろう。


「何をしたんっすか?」


「ちょっとした暗示さ。万が一、早めに見つかった場合、逃亡経路とは逆を教える様にってね」


「なるほどっす」


「って言うか、八木。あんたの喋り方……」


 姫埼の言いたい事はわかる。

 敢えて触れないで置いたが、なんで『~っす』になってんだ?


「まぁ、なんとなくかな? おかしいか、姫埼」


「八木がそれで良いなら何も言わないけど。違和感は半端ないわ」


「慣れだな。あんまり深く考えると、ドツボにハマると思うぞ」


「グラフィエルさんの言う通りですね。深く考えないようにします」


 暗示をかけてる間、ちょっとした雑談タイムに入り、八木について色々と考察の時間はあったが、それらを終えて再び進む。

 春宮が軟禁されてる部屋に着くが、姫埼と同じ処置を施されていたので、同じように解除していき、物理的な鍵開けは八木が行って中に入る。

 同じ様に魔道具の効果を消して、春宮を起こす。


「……なんで八木君とグラフィエルさんが居るの? ……あー、まだ夢なんだね。……おやすみなさ~い」


「いや、夢じゃねぇから」


「優華、ほら起きて」


「いやぁん。まだねむい~」


 春宮、寝起きは最悪だった。

 その後、姫埼がっ必死になって起こし、ちゃんと目が覚めたのは5分後だった事は伝えておく。


「寝起き最悪じゃん」


「ううっ、恥ずかしい」


「ほら、恥ずかしがる時間も惜しいから、さっさと準備して」


「先に姫埼を助けに行って正解だったな……」


「っすね。姫埼様様っすよ」


 さっさと準備した姫埼と違い、時間が掛かる春宮。

 適応能力で見れば、春宮の方が高いのかもしれない。

 だって、軟禁されてるとは思わない位、羽を伸ばしていたのだから。


「うー、言い訳すると、暇なんだもん。どうせ暫くは今の状態だしぃ、のんびりしていても良いかなって」


「のんびりしすぎでしょう。せめて、直ぐに動けるようにはしておきなさいよ」


「はぁい。それで、逃げるの? 残りの2人は?」


 春宮の質問に俯く八木。

 八木の出した答えは、二人を確実に助け出す事。

 来栖と阿藤については約定外だ。

 それを知らない姫埼と春宮だったが、何かを察した春宮が、正解を言い出した。


「二人は助けないのか。まぁ、何処にいるかもわかんないし、しょうがないよね」


「いや、場所は予想が付くけど……」


 そう言って、俺を見る八木。

 どうやらヘルプらしい。

 はぁ、仕方ない。


「八木との約束は、二人の救出だけだ。俺が二人を見限った」


 俺の言葉にどんな反応をするのか?

 普通ならば罵倒なんだが、二人は何故かうんうん頷いていた。

 あれ? もしかして、二人も見限ってたりする流れか?


「まぁ、良いんじゃないかしら。私も見限っていたし」


「正直に言ったら、凄くウザかったよね。誰があんたらの女になるかっての」


「そうそう! 来栖も阿藤も、なぁにがハーレムよ! 一遍死んでこい!」


「桜花ちゃんの気持ち、すっごくわかるよぉ! 私は好きな人が出来たからって断ってるのに、超しつこいの!」


「優華も苦労したわよねぇ。それで、諦めたの?」


「未だに言い寄られてる。正直、二人も連れて行くとか言われたら、全力で止めたよ」


「私も同じね。ほんと、一回と言わず十回くらいボコボコにしてやろうかしら」


「桜花ちゃん、胸大きいから、あの二人にいっつも見られてたもんねぇ」


「男なら、覗く様に見ずに、凝視しなさいよ!」


「いや、最後のはおかしい」


 思わずツッコんでしまった。

 俺のツッコミで冷静になったのか、二人は恥ずかしそうに謝って来た。

 いや、何の謝罪かわかんねぇんだけど!?


「と、とりあえず、脱出するっすよ」


 八木の言葉で、全員が今の状況を再認識して動き出す。

 あ、いつの間にか春宮の用意は終わってたのね。


「どっちから行く?」


「なるべく騒がれたくないんで、屋根裏から行くっす」


 八木の指示に従って、侵入してきた場所から逃走を図る。

 かなり運が良いのか、自分達の軟禁方法に自信があるのかは知らんが、脱出も問題無く終わり、今はスラム街へ走っている。

 ただ、想定していたより姫埼は速く、春宮は遅い。

 八木に視線を向けると、頷いてきた。

 どうやら、姫埼の身体能力が上がっているらしい。

 だから、春宮が遅く感じるのだろう。

 まだ騒がれてもいないので問題無いが、二人がいない事に気付かれるのは時間の問題だろう。


(……しょうがない。担ぐか)


 再び八木に視線を送り、第二プランで行くことを伝える。

 八木は頷き了承した。

 それを見てから、後方から付いてくる春宮の後ろに回り込んで、片手で持ち上げる。


「ひゃっ!」


 春宮から変な声が漏れるが、気にせずに速度を上げて、八木と姫埼に並ぶ。

 ん? 姫埼が羨ましそうにこっちを見ているような気がするんだが?

 そう思うと同時に、姫埼は八木に近付いて行った。

 何か小声で話をしているが、俺には丸聞こえだ。


「(八木、あれはどういう事!?)」


「(何の事だよ)」


「(グラフィエルさんが、優華を抱き上げてるじゃない!)」


「(第二プランだよ。春宮が遅いのは分かっていたから、姫埼と差が開きすぎるなら、ラフィさんが担ぐって)」


「(訓練が仇になるなんて……)」


「(元の職業的な問題もあるんだから、仕方ないと割り切れよ)」


「(八木、後でぶっコロね)」


「(なんで!? おかしいだろ!)」


 とまぁ、何故か八木が有罪ギルティ判定を受けていた。

 そんな姫埼とは逆で、春宮は凄く大人しい。

 二人共になんか心境の変化でもあったのかね?

 ちょっと殺伐とした雰囲気にはなったが、予定通りスラム街に到着。

 例の二人とも合流して、外で待つ神喰の元に向かった。

 さて、ここからが本番だな……。































(ラフィさんって意外と鈍感っすよねぇ。それとも、気付いていながら気付かないフリをしてるんっすかねぇ。正妻のミリアンヌさんってそんなに怖いんっすかね?)

 八木は姫埼に有罪判決を受けた後、そう思ったのだった。

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