第187話 ミリアの正妻力

 襲撃にあった一夜が明け、全員が寝不足状態で朝を迎えた。

 昨夜、屋敷にいた人物はほぼ全員が欠伸あくびをしている。

 尚、ほぼと言っているのは、例外が二人いるからだ。


「お館様、眠いのは分かりますが……」


「シャキッとして下さい。示しがつきません」


「なんで二人共、そんなに元気なんだよ……」


 柔らかく言ってるのがノーバスで、ちょっときつめな言い方がナリアだ。

 二人共、寝不足を感じさせない動きをしている。

 この二人は、本当に人間なんだろうか?


「ふわぁふ……。ねみぃ」


「旦那様もシャキッとして下さい」


「そうは言うがな、ねみぃもんはねみぃ。なんでナリアはそんなに元気なんだ?」


「仕事ですから」


 ウォルドも不思議そうにしている。

 プロ根性ってすげぇなと思う。

 尚、昨晩交戦していたメイド達だが、ナリア指揮下の元、眠そうにしながらもきびきび働いていらっしゃる。

 クロノアス家はブラック企業ではないので、当主権限で午後から半休にしてあげないと……。

 ……ナリアに甘いって言われそうだなぁ、と考えながら、ミリア達の方の確認もしておく。

 まぁ、眠そうの一言だな。

 そんな眠そうの中でも、舟をこいでるのが二人。

 シアとリジアだ。

 シアは年齢的にも仕方ないかと思うが、リジアも眠気には弱かったりする。

 睡眠時間が足りていれば、スパッと起きるのだが、足りてないと隙を見て寝ようとする。

 なんで知ってるかって? 偶にナリアに怒られてるからな。

 そんな二人だが、完全に寝落ちた。

 シアは上手く椅子の背もたれを使って寝てるのに対し、リジアは思いっきりテーブルに頭をぶつけて、爆睡中。

 ゴンッと良い音がしたにも関わらず、爆睡中。


(普通、痛みで起きると思うんだが?)


 そんな二人に毛布を掛けながら、予定をミリアに聞かれた。

 どうやっても逃げられない予定が確定しているので、その後の話だと思うが。


「それで、どうされるのですか?」


「間違いなく、呼び出されるだろうなぁ。後は、尋問の立ち合いとかになるのかねぇ?」


「いえ、そうではなくて……」


 今日の予定の話ではない?じゃ、何の予定を聞いているんだ?


「暗殺者の……」


「ああ。そっちね」


 八木も含めた暗殺者2名と襲撃者一行は、衛兵と近衛に連行されて、今は鍵付きホテル牢屋に強制宿泊されられている。

 因みに、上級貴族への殺人未遂に関しての法は、どの国でも死刑となっている。

 死刑の方法も多々あるが、ランシェスの場合は比較的マシな縛り首絞首刑

 酷い場合だと、公開処刑だったりする。

 ただ、刑の執行も絶対では無い。

 司法取引とかがあるからな。

 後は、ほぼ無い話だが、襲われた貴族からの嘆願とかがある。

 尚、駆けつけてくれたファーグレット卿には後者を適用して貰って、八木だけは丁寧に扱ってくれと頼んである。


『暗殺者ですよ?』


『ちょっと訳ありなんですよ。ただ、色々と話は聞かないといけないので、機密性の高い部屋牢屋でお願いしたいのですが……』


『……後で陛下に説明して下さいね』


『それは勿論』


 以上のやり取りをした後、ファーグレット卿はため息を吐きながら連行して行った。

 ミリアもその話は聞いていたので、気になっていたのだろう。


「前に話した、勇者(笑)ご一行は覚えてるよね?」


「はい。……まさか、あの暗殺者がその一人なのですか?」


「正解。もう一つ言っておくと、例の魔道具を渡してある人物なんだ」


「だから話を聞きたいと……」


「そゆこと。何か状況が変わったんだろう。それも、相当悪い方向に」


 そこまで言うと、ミリアは暫し考えこんだ。

 爆睡中の2人を除いて、眠気で頭が回っていないであろう婚約者達も一斉に考え出す。

 そんな中、朝食が運ばれてきたので、食べながら思案を続けるミリア達。

 ちょっとだけ怖いんだが……。

 そして、さっさと食べ終わったヴェルグが、一番手で質問をしてきた。


「それで、ラフィはどうするの?」


「どう、とは?」


「ボクがミリアから聞いた話だと、襲撃者の勢力が何処か分かってるよね?」


「まぁ、な」


「乗り込んで潰すなら、暴れるけど?」


 どうやらヴェルグ、割と激おこのご様子。

 今日だけは七天竜と神獣4匹も、同じ食卓に着いており、全員がヴェルグに同意していたのだ。

 全員、殺る気に満ちていらっしゃる。

 とは言え、八木からの情報は得たいので、とりあえずは話をした後で決めると言って保留にしておいた。

 しとかないと、知らない間に乗り込んでヒャッハーしそうだったから。


「ヴェルグさんの言い分も極端ですが、八木と言う方の行動が気になりますね」


「やっぱリーゼもそう思うか。で、なんでそう思ったんだ?」


「わざわざ魔道具を渡したんですよね? それって手作りですよね?」


「そうだな」


「と言う事は、ラフィ様と友好的な関係を築けていたのでは? と推測します」


「肯定するよ」


「となれば、考えられるのはいくつかのパターンです」


 リーゼの話はこうだ。

 一つめは、あの呪剣に操心、若しくは操身の魔法が施されていたのではないか?

 それを利用した上で、助けを求めに来たのではないか?

 暗殺せざるを得なかったのは、呪剣の縛りが強すぎたせいでは?

 二つめは、単純に心変わりした。

 三つめは、俺が渡した魔道具に付随したことになるが、俺の想定を上回る力が働いたのではないか?


「他にもあるかもしれませんが、現状での情報だとこんな感じでしょうか。後、言っておいてなんですが、話を聞く限りだと二つ目の可能性は、限りなく低いと思います」


「その理由は?」


「わざわざ弱点を教えた様に思えるからです。短くはあっても、明確に剣と言われたのですよね?」


「ああ」


「だとしたら、一つ目の可能性が非常に高いと思います。そして、一行と言う事は仲間が居ると言う事です」


「……人質に取られてる人物がいる?」


「可能性は高いです。人質を取った人物に怪しまれることなく、接触を図るとなれば……」


「敵として相対した方が都合が良いか……。一種の賭けだな」


「分の悪い賭けでは無いと思いますよ」


 更に続けて、リーゼは説明を始める。

 まず、敵として来ると言う事は、こちらへと確実に接触可能と言う点。

 次に黒幕の目が届かない可能性が高い点。

 呪剣で縛りをしているので、その可能性は高いそうだ。

 そうなると、過去に渡してバージョンアップもさせた魔道具はきちんと動作していると言う事だ。

 そして、その魔道具は魂を縛るスキル〝隷属の魂印〟、つまりは縛魂を無効化していると言う事。

 リーゼは縛魂の事は知らないので三つ目を提示したが、状況的に考えると、三つ目はほぼ無い。

 となれば、やはり一つ目が正解っぽい。

 そして、先程リーゼが言った人質の可能性。

 その為に八木が賭けに出てまで動こうとする人物。

 ……戦闘能力から考えて彼女か、若しくは両者か。

 この辺りは、会って話をして確認だな。


「リーゼさんの推察には納得しました。ですが、ラフィ様が動く理由にはならないのでは?」


「ミリアさん、忘れてませんか? ラフィ様だからこそ、と言う事を」


「あの、二人共?」


 リーゼとミリアが睨み合っている。

 他の婚約者達?静観に徹しておりますとも。

 緊迫した空気の中、折れたのはミリアだった。

 ただ、会話が進むにつれて、解せぬ……と俺は思ってしまう事に。


「はぁ……。わかりました。私が折れます」


「ミリアさんの心配事は分かりますけどね」


 苦笑しながらリーゼがミリアの心情に同意する。

 対するミリアは、ちょっとだけリーゼに愚痴った。


「分かっているのなら、止めて下さい」


「仮に止めれたとして、それは本当にラフィ様なのでしょうか?」


「そうですね。それは、ラフィ様では無いですね」


 お互いに分かり合った雰囲気を出す。

 いや、だから、一体何の話をしてるんだっての!


「増えますよね?」


「増えますね」


「あー、そう言う話? なら、僕も納得」


 リアを皮切りに、シアとリジアを除く全員が頷いて肯定。

 いや、マジで何の話!?


「どうするのですか?」


「その時に決めましょう。それよりも……」


 そしてミリアは、俺の方へと向き直る。

 あれ?悪いことしてないのに、怒られるパティーンになってる気がするんだが……。


「ラフィ様」


「ひゃい!」


「ラフィ様はご自身の思う通りに動いて下さって構いません。私達はお帰りをお待ちしています」


「う、うん。ありが、とう?」


「で・す・が! 出かける前に、一度屋敷に帰って来て説明はして下さいね。約束ですよ」


「わ、わかった」


「皆さんも、それで良いですよね?」


 ミリアの言葉に全員が頷くが、その後直ぐにヴェルグが挙手した。

 それに対してミリアは頷き、ヴェルグが話を始める。


「ミリア達の見解にも答えにも納得してるから言うんだけどさ、護衛はどうするの?」


「ちゃんと考えていますよ」


 ヴェルグの質問に答えたミリアは、ウォルドに伝えてある人物を呼んでくるように伝えた。

 なんとなく、嫌な予感がするのだが、その予感は的中する。

 ウォルドが連れてきた人物。

 それは、神喰であった。


「「「え? マジで?」」」


 俺とヴェルグと神喰の声がハモる。

 三人同時は非常に珍しい。


「ウォルドさんから話は聞いたと思いますが、宜しいですね?」


「ア、ハイ」


 神喰、有無を言わさないミリアの迫力に負ける。

 更にミリアは、お願いしますとは言わず、決定事項として伝えたよな?

 神喰からの反論は許さず、やれと言う事らしい。

 ミリアさん、マジパネェっすわ。


「ラフィ様も、宜しいですね?」


「ア、ハイ」


 神喰の護衛は決定事項らしい。

 俺にも反論の機会は残されていなかった。

 だが!ヴェルグが黙っていな……「何か?」「何でも無いです」速攻で撃沈!

 神喰の護衛が決定した瞬間だった……。

 ミリアの正妻力が更に強くなった気がする……。


「さて、皆さんも食べ終わったようですし、少し仮眠を取りましょうか。ナリアさんはシアちゃんを。ノーバスさんはリジアさんをお願いしますね」


「「我々に、さん付けは不要なのですが……」」


「お願いしますね?」


「「御意」」


 ミリアの笑顔に向かう所敵なし!

 有無を言わさない笑顔は、正に正妻の佇まい!

 ミリアの正妻力は化け物か!?

 数値化出来たなら、きっとこう言われるはずだ。

 ミリアの正妻力は53万です、と。 


(これ、夫婦になったら、尻に敷かれるな……)


 この考えを、後でウォルドに言った所、俺はもう既に敷かれていると言われた。

 付け加えて、こうも言われた。


「尻に敷かれてる方が、夫婦仲は安定するぞ。それとな、尻敷く女の方が表では夫を立ててくれるぞ。だから、逆らうな」


 何とも悲しい現実であった。

 亭主関白?そんなものは幻想らしい。

 ウォルド調べだと、既婚者の7割が尻に敷かれているそうだ。

 ウォルド調べなので偏っていそうだな。

 後で色んな人に話を聞くとしよう、そうしよう。

 そんなこんなで、少し仮眠を取った後、兵士が呼びに来たので衛兵詰所の中でも、特に頑丈な牢屋がある詰め所へと案内された。

 あれ?陛下の呼び出しは?


「陛下からの伝言です。先に情報を聞き出してから来るようにとの事です」


「それって、尋問官の仕事なのでは?」


「クロノアス卿が一人だけ、口を出したではありませんか。陛下は、その人物から情報を聞き出す様にとの事です」


「……陛下、怒ってます?」


「…………」


「ちょっ! なんか言って下さいよ!」


「それでは、ご武運を!」


「ご武運!? 今、ご武運って言ったよね!」


「では!」


「ちょっ、待って!」


 伸ばした手は空を切り、衛兵はもの凄い速さで去って行った。

 陛下、結構激おこっぽい。


(行きたくねぇ……)


 そんな願いが叶う筈も無いので、言い訳を考えながら、詰め所へと入って行く。

 何か、この数時間の方が、襲撃にあった時よりも疲れた気がするのは気のせいではないはず。


(そして、多分、あの国に行くことになるだろうなぁ)


 そしてまた、色々と言われたり、気苦労するんだろうなぁ。

 今直ぐ帰って寝たいっす……。

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