第186話 二度光る凶刃
「死ねぇっ!」
現在、殺意マシマシの襲撃者と交戦中なのだが、口を開けばやれ殺せ、死ね、見つけたぞしか言わない襲撃者達。
そんな相手に対して、いちいち返すのも面倒になった俺は無言で無力化している。
「がはっ!」
今も単独の襲撃者を撃退したので、拘束魔法を行使する。
「
闇魔法で拘束して、皆との合流を目指す。
早歩きで進むと、またも襲撃者達に見つかって交戦。
まぁ、交戦って言う程の時間は掛かって無いがな。
「死ねっ!」
廊下が広いと言っても、一斉に襲い掛かるには狭いので、大体一人で突っ込んでくるか、二人での同時攻撃が来る。
対処は簡単なので右手に持つ雷剣と左手に持つ炎剣で対処中だ。
ただ、屋敷が燃えない様に炎剣は幅が広い短剣程度に調整しているが。
二人同時に攻撃を仕掛けてきたので、向かって左側の襲撃者の攻撃は躱しながら雷剣で斬り付ける。
対する右側の襲撃者に対しては、炎剣で受けて相手の武器を溶かし、隙が出来た所で雷剣で斬る。
「!?」
「はいはい。驚いたまま、気絶してろ」
そして、残りの2人には一気に近付き、右からの横薙ぎ一閃で気絶させ、闇魔法で拘束する。
「はぁ……。これで10人か。3分の1は処理したが、他はどうなっているんだろうか?」
始末したのか、辿り着けなかったのか、初めから俺しか狙っていなかったのか。
襲撃者達の優先順位が不明なので、考えても無駄だな。
分かっているのは、目標の一つが俺の暗殺と言う事か。
更に調べて行くと、玄関広間で戦闘が行われていることを確認した。
敵の数は17人と言った所か。
続いて大広間だが、生命反応はあるが動いていない。
ハクが大暴れして、ルリが拘束したっぽいな。
屋敷の外の反応は3つ。
戦力の逐次投入とか馬鹿じゃねぇの。
「多分、外の3人は連絡要員だな。状況的に不利と感じて残りを投入した様だが、大広間からの反応は15人。残りはどこだ?」
考えながら廊下を進み、玄関広間の方へ続く角を曲がると、ナリアとブラガスがこちらに気付いて合流してきた。
「「お館様!」」
「ナリアとブラガスか。状況の報告を頼む」
「はい。ブラガス様との合流中に侵入者1名と交戦。無力化して拘束しています」
「こちらは2名ですな。執務室へ侵入しようとしていたので、無力化して拘束しています」
「……数が合わないな。残りの2名は何処にいるんだ?」
考えようとしたところで、ナリアに止められた。
「お館様、今は……」
「……そうだな。まずは全員の安全と撃退が最優先だな」
お互いに頷き、玄関広間へと向かう。
◇◇◇◇◇
玄関広間では、戦闘メイド数名とノーバスに加え、冒険者から家臣となった数名が防衛戦を敷いていた。
「ここから先には通しませんぞ!」
とは言え、既に大部分が玄関広間を突破していた。
戦闘メイドは1対1で敵を足止めしており、家臣となった冒険者達も今夜に限って戦闘方面で弱い冒険者達となっており、二人で強めの襲撃者を抑え込んでいる。
そんな中、流石はウォルドと言うべきだろうか?
残っていた襲撃者の大部分を一人で押さえていた。
尤も、拘束する暇が無いので、回復されて戦線復帰を許してはいる。
そして、意外なのがノーバスであった。
元王宮執事長のノーバスは戦闘面でも優秀な男であった。
一人で4人を足止めしていた。
「じいさん!」
「ウォルド殿、そちらの状況は?」
「抑えるだけなら問題ねぇが、拘束までは無理だ」
「こちらも似たようなものですな。さて、誰か手が空けば良いのですが……」
お互いに背中を合わせて話をする。
二人は、上に向かう階段の前で敵を抑え込んでいたのだ。
このままでは打開策なしと判断したノーバスであったが、実はウォルドが手加減していると判断していた。
その理由の一つが、相手を殺していない事だ。
生け捕りに拘っているのだが、何故だろうか?
「ウォルド殿。何故に加減を?」
「全力でやれば周りを巻き込む可能性がある。それと、ラフィなら今回は生け捕りにすると踏んだからだ」
なるほど――とノーバスは思った。
だが、そうなるとますます打開策が無い。
お館様なら大丈夫だろうが、ナリア殿だと4人を相手にすると厳しいのでは?と考えていたからだ。
(ブラガス殿は……多分、大丈夫でしょう)
家宰のブラガスも、元は高名な冒険者だ。
暇を見つけては鍛錬していたのを見ているので、腕は鈍っていないと考えたのだ。
そして、考えながらも手は休んでいない。
どこからともなく出した食器ナイフを投げて牽制を。
敵の攻撃には、これまたどこから出したのか分からない銀トレーで防御しながら、これまた何処に仕舞っていたのか分からない果物ナイフで反撃。
その隙を突いて抜けようとした襲撃者に対して、裁縫用の糸を足に絡ませて転倒させる。
糸が切れない理由 ?そんなことわかるか!
「すげぇ……」
ウォルドから感嘆の声が。
勿論、手は止めてはいない。
そんな声に反して、ノーバスの返答。
「いえいえ。やはり、寄る年波には勝てませんよ」
等と言いながら、間合いに入った襲撃者にボディーブローを決めて戦線からリタイアさせる。
まぁ、回復魔法で直ぐに復活してくるのだが。
「ラフィの周りって、人材集まり過ぎだろ……」
そう愚痴るウォルドを尻目に、両手の袖から計6本の食器ナイフを出して指の間で掴み、敵に向かって投げるノーバス。
4つは叩き落されたが、1つは襲撃者の腕に刺さり、もう一つは別の襲撃者の太腿へと刺さる。
そして、また回復魔法で治されて、相対するの繰り返し。
そんな状況の中で、一人の声が聞こえた。
「エ……ナニコレ」
それは、ノーバスの主人であるラフィの声だった。
◇◇◇◇◇
玄関広間に着くと同時に、ノーバスが食器ナイフを6本投げて、襲撃者に手傷を負わせていたのだが、なんで食器ナイフ?
理解が追い付かない。
戦闘執事なのは前から知っているが、なんで食器?
普通に暗器使っても良いだろ!と思わずにはいられなかった。
そんな中、防衛戦を繰り広げているノーバスとウォルド。
多勢に無勢なのか、倒しはしても拘束には至っていない。
「ウォルド!」
「ラフィか!」
大きい声を出して、俺の存在を確認させてから防衛戦の場へと降り立つ。
同時に、襲撃者の殺意がマシマシになった。
俺、君らになんかしたかね?
「お館様」
「ノーバスもご苦労だった。拘束と回復は俺がやるから、半殺し程度で仕留めてくれ」
「了解しました」
頷くや否や、ノーバスは相手に肉薄してボディーブローを叩き込む。
ゴフッ!と言う声と共に、白目を剥いて床に沈む襲撃者。
ビックンビックン痙攣してるので、内臓に致命的なダメージを負った様だ。
すかさず拘束してから、魔法で回復させる。
とりあえず、気絶状態にはなったようだ。
「鬼だな」
「怒らせてはいけない執事みたいだな」
手傷を負わせても、魔法で回復して復帰してくるので、ゾンビを相手にしているような感覚だったのだろう。
ちょっとだけ鬱憤が溜まっていたみたいだ。
「やり過ぎてしまいました。次はもう少し、威力を落とさないといけませんな」
ノーバスは良い笑顔で、襲撃者達に向かって告げた。
ある意味、ノーバスからの死刑宣告に近いな。
その後、一瞬で残りを片付けて、ウォルドのサポートに入ろうとするノーバス。
だが、入る必要はなかった。
「これで最後だ」
ノーバスが残りの3人を倒す間に、ウォルドは残りの襲撃者達をあっという間に片付けていたのだ。
ついでに、1対1で対峙していたメイドさんの方も終わった様だ。
残るは二人で対峙している襲撃者の方だが……。
「遊びは――」
「――終わりだ!」
連携していた元冒険者の家臣二人が、相手の両腕を斬り落とし、身体には切り傷をクロスさせて床に沈めた。
そして拘束&回復を俺が行使。
どうにか、襲撃者を一人も殺さずに拘束する事に成功した。
さて……この後は衛兵に突き出して情報収集かな?
「ラフィ様!」
先の事を考えていると、ミリアがこちらへと駆けて来ている。
どうやら心配させてしまった様だ。
しかしそこで、ほんの一瞬だけ何かが光り、それに気づいた俺はミリアの元へ向かった。
(間に合え!!)
潜んでいた者の凶刃が、ミリアの首筋に当たる寸前に左腕を反転させて内側を外に向けて受け止める。
右腕はミリアを抱き寄せていた。
「ぐっ!」
「ラフィ様!」
「大丈夫だ! それよりも、怪我は無いか!? それに皆は!?」
「皆さんは天竜の方々が護衛しています。私だけこちらに」
「そうか。無事なんだな」
ゆっくりと話しているが、俺の腕を指した短剣の持ち主の腕を掴んでいるので、相手は逃げられずに必死で抜け出そうとしていた。
当然だが、逃がす気は無い。
恐らく暗殺者だろう。
俺は腕を刺している奴の方へ顔を向け、掴んでいる腕をおもいっきり握って、相手の腕を折った。
「っ! ~~~~!!」
声を出すのを我慢している暗殺者。
かなり痛いはずなのに、それでも俺から距離を取ろうと必死だ。
逃がすわけにはいかないので、折った腕を握った状態で雷魔法を叩き込む。
「大人しく寝とけ!」
ちょっと強めに魔法を叩き込んでおく。
暗殺者からプスプスと焦げた音と匂いがするが、死なない様にはしてある。
俺に腕を持たれた状態で、力なく床に倒れ込んだ。
多分、暫くは目を覚まさないだろうが、念のために闇魔法で拘束しておく。
拘束し終わってから、腕に刺さった短剣を引き抜き、治療を開始。
「ちっ。ご丁寧に猛毒を塗ってやがる」
「直ぐに治療します!」
「あー、大丈夫だ。状態異常無効状態にしてあるから。ただ、解毒はしないと駄目だから、ミリアには傷の方を任せて良いか?」
「はい! 直ぐに治しますね、ラフィ様」
「頼む」
とりあえず一段落したと考えて、治療をして行く。
十数秒後には治療も完了して、玄関広間に降りて指示を出していく。
ただ、この時の俺は全部終わったと思って完全に油断していた。
「ラフィ!!」
呼びかけられると同時、首筋まで後少し迄迫った刃を確認した。
(駄目だ。これは避け切れない!)
そう考えたのと同時に、ガキンッ!と言う金属同士がぶつかる音が聞こえた。
ハッ!と気付くと、目の前には神喰が部分的に腐竜状態になって目の前に立っていた。
「馬鹿野郎! 油断し過ぎだ!」
「す、すまない。助かった」
思わず、謝罪と礼を言ってしまった。
しかし、こいつは何で俺を助けたんだ?
「お前、なんで助けたって顔してるな?」
「な、なんでわかるんだよ」
神喰は俺の顔を見ずに、もう一人の暗殺者を警戒しながら話しかけてきた。
そして、俺の疑問にため息を吐きながら返してきた。
「見ないでもわかるわ! このドアホが! お前は俺の娘の旦那になるんだろうが! いきなり未亡人とか可哀想だろうが!」
「……ぷっ、くくく、あはははは」
「何が可笑しいんだ!」
いやだって、これが笑わずにいられるか。
あの神喰が、人間らしい言葉を口にしたんだぞ。
ヴェルグを道具として使った神喰が――だぞ。
よくもまぁ、ここまで人間らしくなったもんだ。
「あー、笑った」
「あの、ラフィ様?」
「わるいわるい。あまりにも可笑しくてな」
「クソが。で、お前がやるのか?」
神喰の言葉に頷いて答える。
「なら、あの小剣に絶対に傷をつけられるなよ」
「何かあるのか?」
「呪いが掛けられてる。俺の腐竜モードの鱗に傷を付けられるほどの呪いがな」
「お前は、問題無いのか?」
「同種の力だ。こっちが喰った」
「同種……欠片か?」
俺の言葉に頷く神喰。
もう少し正確に言うと、神喰の欠片の力を付与された呪剣と言うのが正解だそうだ。
薄皮一枚傷つけられても、死に至る呪いらしい。
神喰が無事なのは、腐竜モードの腕に傷を付けられた時に瞬時に見抜き、一気に喰らったそうだ。
逆に言えば、同種の存在でさえ危険と判断せざるを得なかった武器の方か。
「やれるのか?」
「誰に言ってやがる」
そう言うと、神喰はミリアの護衛に入った。
気にせずに戦えと言う事らしい。
何時の間に気遣いが出来るようになったのやら。
では、遠慮なく暴れるか――と思ったが、目の前の暗殺者から知っている反応が。
(この反応は……おいおい、マジかよ)
目の前の敵から出ている反応。
とある人物に飲ませた魔道具の反応だ。
それも起動状態にある。
つまりは、防護機能が働いていると言う事。
「お前、八木か?」
「…………」
俺の言葉に少しだけ反応するも、何も話さない。
魂の保護はされているはずだが、肉体まで縛っているのか?
「おい」
「…………剣」
それだけ言った後、攻撃に転じ始めた八木。
剣……手に持っている剣が肉体を縛る鍵と言う事か?
ならば、その剣を破壊してしまえば!
「後で事情聴取するからな!」
「…………」
躱しながら決定事項を伝えるが、反応なし。
相当強い呪剣の様だ。
そうなると、生半可な力だと破壊不可能臭い。
(仕方ない。浄化の神炎を使うか)
俺は右手に魔法剣を持つ。
続いて、光魔法と火魔法を融合させる。
実は俺、浄化の炎と言うオリジナル生活魔法を開発していたのだが、それを更に昇華させまくっていた。
浄化の炎と言うのは、お風呂に入れない状況下で清潔さを保つための魔法なのだが、昇華させまくった結果、どんな呪いも解呪可能な魔法になっていたのだ。
尚、熱さは皆無である。
比重としては、完全に光魔法寄りだったりする。
炎?もはや演出になってしまっています。
そんな魔法を剣として具現化して、八木が持つ小剣に叩き込む。
「解呪の際、ちょっとだけ痛いかもしれないが、お仕置き込みだから我慢しろよな!」
そう言ってから、呪剣を破壊する。
破壊自体は呆気ないものだったが、想定内の事と想定外の事が起こる。
「げっ」
「ちょっ! この馬鹿ちんが!」
「うっさいわ!」
神喰から馬鹿ちんと言われたので、五月蠅いと返しておく。
と言うのも、破壊した剣から呪いの元が溢れたのだ。
いや、溢れるのは想定内なのだが、その量と言うか濃さと言うか、呪いのレベルが想定外にデカかった。
「うわぁ、これを浄化すんの?」
「浄化できんのかよ!?」
「出来るけど、時間が……。と言う訳で、ヨロ!」
「てめぇ、丸投げしてんじゃねぇ!」
浄化できなくはないが、数時間は動けなくなる。
それはあまりよろしくないので、神喰君に丸投げしました。
頑張って喰って下さい。
……あれ、そういえば、元々はこいつのせいじゃね?
「よく考えたら、元はお前のせいじゃねぇか」
「……あんだって?」
「難聴のフリすんな! 責任もって喰らえよ!」
「ちっ! わぁーったよ! はぁ、胃もたれ確定じゃねぇか」
神喰君、元は自分の力なのに、胃もたれするらしい。
「変質してる力を喰って、元鞘に戻すんだぞ? その間は消化できねぇんだよ!」
言ってる事は分かったが、端から聞いてると、油物を喰い過ぎて消化出来ずに胸やけするみたいに聞こえるんだが?
その事を伝えると、理解としては間違って無いらしい。
「がんばれ、神喰」
「助けるんじゃなかったわ!」
と言いつつも、しっかりと後始末をしてくれた。
んー、最近、神喰が丸くなってきている気がする。
多分、気のせいではないはず。
今度、ヴェルグと話してみるか。
そして、今度こそ全部終わり、床には八木が倒れていた。
駆けよって色々と確かめるが、命に別状はなさそうだ。
(ただ、問題はこの後だよなぁ)
一波乱あるだろうなと考えていると、衛兵と……何故かヴィンタージ殿も来ていた。
「クロノアス卿、ご無事ですか?」
「え、ええ。でも何で近衛が?」
「詰所から王宮へと連絡が入りまして。上級貴族が賊に襲われた場合、王宮へと一報が入る仕組みなのです」
「あはは、そうなんですね……」
陛下の耳に入るのが確定した瞬間だった。
これ、絶対にややこしい事になると思う……。
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