幕間 とある冒険者の体験談
始めに言っておく。
これは俺が体験した話だ。
正直な話、色々とマジでヤバかった。
そして、故郷に戻ってきた俺は、幼馴染でもあるマフィアの幹部と話をする為に、酒場で会う約束をして警告した。
酒でも飲まないと話せないからな。
「よう」
「きたか」
「なんだ? もう始めてんのか?」
「色々あったからな。飲まんとやってられねぇ」
「今日はその話か?」
「警告込みだな。言っとくが、上に必ず伝えた方が良いぞ」
「そこまでの話かよ。あ、俺にも酒をくれ!」
通りがかった店員に酒を注文して、向かい合って座る幼馴染。
ついでに俺も酒のお替わりを注文して、届くまでの間はだんまり。
酒が届くと乾杯して、一気に半分程飲み干す。
同時にテーブルへとコップを置き、今日の本題へ移る。
「まずな、前から言ってたクランへは入れたぞ」
「そりゃ、おめでとう。で、それと警告とどう繋がるんだ?」
「まぁ、黙って聞け」
初めに話すのは、クランで受けた説明会でのことだ。
後になって考えると、冒険者のちっせぇプライドを上手く利用したなと思う。
俺の感想も込みで、そこまで話して酒を飲む。
「そりゃまた、上手く乗せられたなぁ。お前んとこのクラマスってぇのは、思考誘導が得意ってわけか」
「挑発も扇動も仕込みってか?」
「違う違う。仕込みってのは、クラン側の人間がサクラとして入る事だな。対して思考誘導は、そう言った奴らは要らねぇ」
「冒険者ならどういう態度を取るか、予測されていたってか?」
「それも複数の状況をな。で、まんまと乗せられたってわけさ」
実力主義の帝国なら、文官にだってなれただろうに裏の世界にドップリだ。
多分、マフィアの中でも切れる奴は重宝されるんだろうな。
そんな奴が言うのだから、あながち間違いでは無いのかもしれん。
「で、その後は?」
「まんまと乗せられて、試験に挑んだが……」
「お前、落ちたのか?」
「うるせぇ! 正確には、再試験だっての!」
「……なぁ、不合格者はいたのか?」
「少数だがいたな。いや、1回目の試験だと不合格者はいなかったような気がする」
「なるほど。何となく読めたぞ」
その後も詳しく話をして行くと、途中から確信に変わったと言い始めた。
つまり、あの試験には深い意味があった?
いや、意味があるのは理解してるんだが、それ以上の意味があったとは思えないんだが。
「良いか? 俺の考えが正しいなら、そのクラマスは冒険者の質を上げたかったんだろう」
「どういう事だ?」
「お前の話の中に、依頼人とは揉めるな!って話があった。だけどな、相手が理不尽な要求をして来たら、普通に揉めるだろ?」
「当たり前だ」
「今は揉めようと思うか?」
「……いや」
「じゃ、その裏は何だと思う?」
裏の意味か……。
確か、依頼人とは揉めるなと言っていたが、理不尽な要求に関してはクランとギルドに報告義務を課されたな。
多分、ブラックリスト入りする為だと思うが……いや、ちょっとまて!
「まさか……」
「相手はブラックリスト入りされた事に気付けない。そして、次回からは、指名依頼は不可能になるし、優秀な冒険者は依頼を受けなくなるだろうな」
「えげつねぇな。静かに報復かよ」
「だから揉めるなと言ったんだろうが、他にもあるぞ」
「まだあんのかよ!」
ちょっとびっくりして、声を荒げてしまった。
その声に近くで酒を飲んでいた奴らがこちらを見て来たので、手ですまないとジェスチャーをして謝っておく。
それを見た幼馴染は軽く笑っていやがった。
なんかおかしなことをしたのか?
「いや、悪い。以前のお前なら、ガン飛ばしてたなぁと」
「……そういや、そうだな」
「クランに入った事で落ち着いたんじゃないか?」
「……かもしれねぇな」
俺の言葉に意外な顔を見せる幼馴染。
なんかおかしなことを言ったか?
「なるほど。確かに、質は上がっていそうだな」
「どういうこったよ?」
「簡単な話さ。喧嘩っ早さを矯正されたんだよ」
「あー、それはあるかもなぁ」
「それとな、品位の向上だ。言葉遣いはともかく、誠実さは行動にも出る。この辺は商売にも言えるが、リピーターを増やしたいんじゃないだろうか?」
「……なるほどな。仕事に困らない様に、予め手を打っておくわけか」
「お前も口は悪いが、面倒見は良い方だからなぁ」
「うっさいわ!」
急に褒められたら、背中が痒くなっちまうじゃねぇか!
こいつって、昔から不意打ち気味に人を褒めるんだよな。
まぁ、それがこいつの美徳なのかもしれんが。
「で、その後は?」
「再試験に合格した後は、本部で依頼を受けまくってたな」
「休みは?」
「暫くは無休だったぞ。深酒出来ねぇくらい、忙しかったなぁ」
今思い返してみると、あの依頼量は尋常じゃなかったな。
それを新規者が来るまで回してたって言うんだから、かなり優秀な冒険者が多いって事だよなぁ。
その辺りも掻い摘んで話した。
「貴族御用達のクランって訳じゃ無いんだよな?」
「ああ。当時はランシェスの王太子が式を挙げるってのがあったんだよ」
「忙しかった理由はそこか」
「クラマスも言ってたからなぁ。『
「うん? もしかして、クラマスも貴族なのか?」
「そうだぞ」
「あー……柵か」
マフィアにも柵はあるらしい。
貴族や商人とらしいが。
以前だと、処刑された元皇太子なんかも裏では繋がってたらしい。
これは、墓まで持って行かないと駄目なやつなんじゃないか?
「口が滑った。今のは忘れてくれ」
「聞かなかった事にしとくさ。でだ、式が終った後は適当に依頼を受けてたな。休暇もあったぞ」
「休暇は個人で取るものなんじゃないのか?」
「いや、その休暇なんだがな、賞与付きなんだわ」
「マジか! どんだけ大盤振る舞いなんだよ! ……いや、飴と鞭か?」
「俺らは調教済みの獣か!」
ツッコミはしたが、言われてみるとそう感じてしまう。
だけどなぁ……あのクラマスに逆らう気は微塵も起きないし、怒ったりする気も無い。
と言うか、無駄なんだよなぁ。
諫言は聞いてくれるし、クランにとって良い事なら実践してくれるってのもあるから、余計に何も言えないってのもあるんだけどな。
その考えの元に、この先にあった事を話していく。
クラマス激怒事件をな。
「でな、俺の休みは割と長期だったのよ」
「収穫祭か?」
「そうだ。休みが明けたら収穫祭で、また休みだったんだ。で、休みが明けたら仕事なわけだが、その後に事件があってな」
「詳しく聞こうか」
収穫祭の休み明けの後、ギルドで各クラマスが集まって話し合いがあった。
その話し合いで、うちのクラマスは詫び代を支払ったと聞いた。
本来は支払う必要性を感じないと俺も思うが、クラマスは発端だからと支払ったそうだ。
それで味を占めたんだろう。
複数のクランが、こっちに嫌がらせをするようになった。
初めは気にするほどの物でもなかったが、次第にエスカレートしていき、最後には重傷者と重体者迄出た。
「で、クラマスがキレた」
「そこまで手を打たなかったクラマスに減点」
「その辺りは色々とあるんだよ。抗争の禁止とか」
「でも、やったんだろ?」
「結果的にはな。俺も参加したし……」
「ん? 歯切れが悪いな?」
「いや、な。あれはマジでヤバかったんだよ」
話すかどうか迷ったが、どうせこいつのことだから、どっかで情報収集するだろうと思い話すことにした。
……クラマス、怒らないだろうな?
「他言はしないから話してくれ」
「実はさ、俺の所属するクランって試験運用から採用になった最古参のクランなんだわ」
「で?」
「他にも2つ最古参のクランがあるんだが、その3つは繋がりが深く仲も良いんだ」
「となると、問題のクランは割と新しいのか」
「そうだな。それでも、クラマスとそれなりに付き合いのあるクランだったり、敬意を払ってるクランがほとんどなんだが、一部には敵視しているクランもある」
「その敵視しているクランが、今回の首謀者ってわけか」
「話しが早くて助かるわ」
「お前の言い方からすると、抗争になったのか?」
「いや、あれはただの蹂躙だな。喧嘩にすらなってねぇよ」
蹂躙と言う言葉に反応する幼馴染。
そういや、裏でも暗黙のルールが追加されたとか言ってたな。
何か関係があるのか?
「すまない。それで?」
「新しく知り合いになったクラマスが気にかけてくれていてな。証拠を持って訪ねて来たんだ。で、ギルドも巻き込んで抗争開始って訳なんだが……」
「なんでそこで止まる?」
不思議そうにする幼馴染だが、ちょっとだけ放置して考えを纏める事にする。
何処まで話すか――をだ。
別に箝口令を敷かれているわけではない。
本部があるランシェスの裏は、今回の事で騒ぎにもなったと聞いたしな。
問題は、どう話すかだ。
……ありのまま話すのが一番な気がする。
「おい」
「悪い。どう話すか悩んでた」
「それ程の事なのか?」
「クラマスが悪い訳じゃねぇからな」
「で、結論は?」
「見たまま、聞いたまま、体験したままの事を話すわ」
「ありのままか。と言う事は、誇張されて噂が流れてるのか?」
「あー、あながち間違いじゃないから何とも言えねぇ」
ありのまま体験したことを話すと、幼馴染の顔が引きつって行く。
気持ちはわからんでもない。
本当に容赦がなかったからな。
「証拠品に映ってた実行犯の内、チンピラに関しては低ランク冒険者に高ランクが付いて回って探してな。見つかったら、応援呼んで連行だよ」
「クランにか?」
「ああ。当然だが、クラマスは容赦なかったぜ。ありゃあ、完治するまでに何カ月掛かるんだろうな」
「いやいや、治癒魔法があるだろう?」
ごもっともな意見なので、その辺りについても説明する。
簡単に言えばクラマスが手を回していて、教会では治癒を受け付けないようにしていたんだ。
当然、ギルド常駐の者も受け付けない。
回復魔法に関しては、適性も必要なのは知っているので、光属性が使えても回復魔法が使えない者も多いからな。
そんな中での治療拒否だ。
両腕と両足を折られたチンピラは、生きて行くのも大変だろうな。
まぁ、綺麗に折っていたから、必要なのは時間と金だろうけど。
「お前んとこのクラマスって、教会にも顔が利くのかよ……」
「俺も驚いたわ。でな、チンピラが吐いた情報を元に、今度はマフィアの本部へカチコミしたんだよ。俺も一緒にな」
「……もしかして」
「壊滅まっしぐら! ……って言いたいんだがよ、手打ちしたんだわ」
「関わった奴は引き渡しか」
「それも、徹底的に痛めつけられた状態の奴をな。情報も全部出してきたなぁ……」
「そして次はクランに殴り込みになるのか」
ため息を吐きながら片手を額に当てる幼馴染。
まぁ、こっからが一番引く話になるんだがな……。
「続きを話すぞ? 殴り込みに行ったんだが、首謀者のクランにはクラマスと俺を含めた数名が乗り込んだんだ」
「それで?」
「当然だが応戦するんだけどよ……元々、相手のクランの冒険者達の中では不満があった様でな、結構な数がこっちに協力してきたんだわ」
「そのクラマス、人望ねぇなぁ」
「ありゃ、クラマスじゃなくてゴロツキの頭だな。うちのクラマスを見て思ったよ。器じゃねぇって」
「今の話からするに、協力した冒険者と一緒に事を成して万々歳か?」
「いや、こっからがある意味恐怖なんだわ」
俺は見た事を全て話す。
乗り込んだクランの冒険者の数は多くなかった。
50人程だったのだが、その中で30人程がこっちに協力する形になった。
勿論、映像で見た顔はいない。
全て敵になっていたからな。
そして……うちのクラマス一人に、全員が地に伏した。
相手のクラマスは徹底的にやられていたな。
この時点で冒険者としての復帰はかなり絶望的だと思ってた。
怪我の度合いに関してだけ言うなら、チンピラたちと違って、かなり雑に骨を折っていたからな。
「もしかして……残り二つも?」
「似たような感じだな」
「言い方は悪いが、そっちに寝返った冒険者達はどうなったんだ?」
「嫌がらせや傷害の事件に関与していないけどな、潰されたクランに居た奴らだぞ? 何処も引き受けたくないって断ってたよ」
「それはしょうがないよな」
「だから、100人近い冒険者をうちで引き受けることになったんだわ」
「……は?」
まぁ、そんな反応になるわな。
話をしていたクラマス達も同じ反応だったし。
ただなぁ……あいつらからしたら、半分は罰なんだよな。
これから先、暫くの間は地獄を見ることになるしな。
「まぁ、性根を鍛え直すらしい。加担はしてなかったけど、評判が悪い冒険者が多かったしな」
「ある意味罰って事か」
「そうだな。上納金も依頼10回分は割増しになってるし」
「納得したのか?」
俺は肩を竦める。
それだけこいつは理解したみたいだ。
納得するのではなく、納得せざるを得ないと言う事に。
「ただな、上納金の割り増しはギルドに関してなんだ」
「クランの方は?」
「……クラン名物『やったね! 10日で矯正スペシャルメニュー!』の罰だな。内容は……聞かない方が身のためだ」
「……そうしよう」
そして、その後の話と俺の今の立場についての話となった。
当然、事件を起こした3クランは解体。
クラマス3名はギルドカード剥奪の上、ブラックリスト入り。
しかも、全世界規模でな。
冒険者としては、完全に終わったと言える。
加担していた冒険者達は、ランクを最底辺にまで降格させ、ギルド本部に連行されて矯正させられるらしい。
らしいってのは、ギルド本部に連行までしか確定していないからだ。
その後の話は、クラマスから聞いただけなので詳しくは知らないってだけだ。
「で、お前の立場は?」
「訓練補佐って立場だな。うちのクランって、ちょっと変わっていてな。役職付きは給金が出るんだ」
「いくら出るんだ?」
「役職にもよるんだが、俺の場合は1か月で銀貨3枚だな」
「雀の涙程しか出ないのかよ」
「ほとんどは役職無しだぞ? 出るだけありがてぇさ」
「貰ってる奴だと、どれくらいなんだ?」
「1か月で金貨1枚とか2枚らしいな。まぁ、そう言う奴らは古参が多いけどよ」
「それって、クランへの所属年数とかになるのか?」
やっぱりそう思うよなぁ……と思ったので、役職について説明する。
役職に関しては、古参でも付いてない冒険者はいる。
本人が辞退したり、クラマスや他の高ランクが適性なしと判断したらずっと付かない。
では、役職が付く条件とは?
簡単に言えば、冒険者以外の仕事が出来るかどうか。
俺の場合だと、自分より下のランクや実力の冒険者に訓練をしたり、情報を教えたり、勉強なども含まれている。
補佐なのは、より適性のある人物がいるから。
当然だが、査察なんてものもある。
査察では訓練師の適性再検査なども行われ、総合的判断で外されたり、昇級したりする。
後、役職の基本給は一律銀貨3枚。
金貨を稼げるかに関しては、講習を受けた冒険者の寄付で決まったりする歩合制だ。
人気があれば稼げる仕様だと伝えた。
「上手いこと考えてるんだな。あ、だから補佐は少ないのか」
「補佐の仕事は雑用と手が回らない時だけだからな。冒険者としての仕事もあるから、週1出来たら良い方だ」
「なるほどな。で、クラマスの名前は?」
俺が名前を教えると、一気に顔が青くなる幼馴染。
……あれ?そういやクラマスって……。
「おまっ! その名前って
「あ、やっぱりそうか。お前から聞いてたから、多分そうなんだろうなぁ――と」
「こうしちゃいられねぇ……ボスに伝えないと」
「そういや、金貸しやってたっけ?」
「滞納した冒険者は借金奴隷とかにしてたが、それも出来なくなる。あー、商売あがったりだ……」
「こっちに優遇してくれんなら、1つだけ良い事を教えてやれるが?」
「是非頼む!!」
まぁこの話って、クラマスが俺の故郷を知って、幼馴染に裏の人間がいるって話をした時に、独り言で話して内容なんだけどな。
今思えば、伝えろって事なんだろう。
「うちに所属の冒険者が借りに来たら、適性金利なら怒らないらしいぞ」
「……いくらだ?」
「年利15%、月1%だな」
「支払いが遅れた場合は?」
「日程決めて、借用書持って来いってさ。当事者も同席させて話し合い」
「クラマスがか?」
「いればだな。大抵は、支部のトップかお偉いさんになると思う」
「お前も?」
「多分としか言えんな」
「見極めはどうするんだ?」
「ギルドカードに所属クランを記載するらしい。時間は掛かるだろうから、荒稼ぎするなら今の内か? いや、査察で借金奴隷になっていなくなったとかだと怒るかも?」
「金払うから、冒険者達の借用書を全部見てくれ! 名前と顔はわかるんだろ!?」
「オーケー。但し、たけぇぞ?」
「幼馴染料金で」
「わかったわかった。だから、しがみつくな」
クラマスの名前聞いて脅えるとかどんだけなんだよ。
その後は酒を飲みながら、クラマスが思いつきそうな範囲を考えて話し合った。
ある程度日が経った頃、金貸し屋から悲鳴が上がっていたが俺は知らねぇ。
さぁて、今日も仕事を頑張りますか!
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