第183話 その喧嘩、爆買いしてやるよ!

 級友達とのお祝いパーティーを終え、収穫祭を迎える日になった。

 今年も例年通りにデートをして過ごしたわけだが、この後に面倒なイベントが控えている。

 そう、ギルドと各クラマスとの話し合いだ。

 正確には、謝罪になるのか。

 俺が悪い訳では無いのだが、貴族な俺に色んな貴族家が指名依頼を出した結果、依頼が回らずに他クランとギルドに皺寄せが行ってしまった事を謝罪するわけだ。

 色んな冒険者達が頑張ってくれたので、金銭を支払って労う予定である。

 ただ、収穫祭迄日数が無かったので、収穫祭終了後に話し合いの場をギルマスに設けて貰った。

 そして、収穫祭が終わった3日後、ギルド会議室に全クラマスとギルマスが集まった。


「本日はお忙しい中、こちらの呼びかけに応じてくれて感謝する」


 俺の挨拶から始まり、ギルマスの説明が始まる。

 今、この会議室にいるクラマスは、俺を含めて18名。

 その中で、最古参クラマスが俺を含めて3名となっている。

 最古参の顏は勿論知ってるが、それ以外のクラマスの顏は一部しかわからない。

 付き合いがあるクランだけとも言えるが。

 顔を知らず、付き合いの無いクラマスは横柄な態度を取っているが、気にせずに進めて行こう。


「今回は、貴族達の指名依頼の為、皆さんに迷惑をかけてしまった事、深く謝罪する。今後は、こちらも体制をもう少し整えて行く」


「白銀の。あまり気にすんな」


「そうそう。あれはどうしようもないと思うぞ」


 古参のクラマス二人が、こちらに非が無いと援護してくれた。

 更に追随して、付き合いのあるクラマス達も援護してくれる。

 何ともありがたい事だ。


「だがよぅ、おたくの体制がもっとしっかりしてれば防げたんだよな? そこんとこ、どうなんよ?」


 顔を知らないクラマスの一人が、俺に対して責任追及をしてきた。

 言ってる事は至極まともなので、こちらもきちんと返答する。


「見通しが甘かったと思っている。今まで回してこれたって事もあるが、不測の事態への対処が甘かったと認識している」


「で? 今後の対策は?」


「模索中の部分はあるが、もう少し人員を増やそうと思っている。後は、鍛え上げるだな」


「……今後を見据えているなら、それで良い。ただ、話はそれだけじゃないんだろう?」


 相手の言葉に頷き、俺は金銭をギルマスへと渡す。

 渡した金額は、白金貨18枚。

 ギルドと各クランへ白金貨1枚を迷惑料として支払うと話す。


「これが謝罪の気持ちだ。申し訳ないが、金銭で解決する以外を思いつかなくてな」


「……なるほど。そっちの謝罪を受け取ろう」


「感謝する」


 ギルド側も頷き、謝罪は終わりを迎える……と思いきや、幾つかのクランが反発してきた。

 ギルド含めて18長に対し、反発してきたのは5長。

 おおよそ3分の1が納得いかないらしい。


「危機管理の甘いクランをこのままにするのか?」


「ギルマスは白銀に甘すぎる!」


 等々。

 真っ当な意見を言うクラマスも居れば、ギルマスに対しての批判を言うクラマスも射る。

 ただなぁ……クラン創設はギルマスの許可が必要って事を忘れてないかね?

 だが、次の一言でこいつらの意図がわかった。


「白銀には罰金と更なる謝罪を要求する!」


「「「「異議無し!」」」」


「……お前ら、本気で言ってるのか?」


 ギルマスの声量が一段低くなって問い返される。

 どうやらギルマスはご立腹らしい。

 本来、謝罪する必要性は無い!と前段階で話した時にギルマスから言われたのだが、それでもと言って今の話し合いが持たれた訳だ。

 忙しかった分ギルドの収益は増えているし、冒険者達も例年より稼ぎは良い。

 パンク寸前と言う以外、どこも不利益は被っていないのが現状だったりするので、ギルマスはやり過ぎだと異議を唱えた訳だ。

 その言葉に追随する残りのクラマス達。


「そもそもよ。キチンと詫びを入れて、改善もしていくと言ってるんだ。これ以上は不必要だろ」


 先程、こちらの回答に納得したクラマスが、異議を唱えたクラマス達を追及する。

 意外に常識人だった様だ。

 反論されたクラマス達だが、言葉に詰まっている。

 そこへ、またも顔を知らないクラマスが追い打ちをかける。

 いや、ぶっちゃけあいつらの本音かな?


「ようはこいつら、金が欲しいんですよ。今あるクランの中で、評判の悪いクランばかりだからな」


「てめぇ!」


「事実だろ。うちに所属の冒険者にちょっかい出してきてるくせによ」


「あれはお前んとこからだろうが!」


「うちは売られた喧嘩は買え! だからな。こっちからは売らねぇよ」


(うーん……話の流れがおかしな方向になって来たな)


 ギルマスも同じ考えだったのだろう。

 机におもいっきり手を叩きつけて、言い合いを中断させる。

 そして、ギルマスの決定がなされた。


「少し黙らんか! 白銀への追及は無し。但し、改善案の提出と監査を受けて貰う。それで良いな?」


「うちは構いませんよ」


「これでこの話は終わりだ。不服があるなら、後で俺に文句を言いに来い! 但し、覚悟を持って言いに来いよ」


 ギルマスが最後に言った覚悟を持って……。

 つまりは、余りに理不尽な申し入れなら、クランの更迭か最悪は解体も視野に入れているのだろう。

 強硬な手段ではあるが、そこまでの強硬策を匂わせたと言う事は、異議を唱えたクランの苦情が多いのかね?

 とにかく、ギルマスの一言で会議は終わり、全員が金銭を受け取って部屋を出て行った。

 最後にギルマスと俺が部屋を出ると、追及と庇護をしてくれたクラマスが壁に背を預けて立っていた。


「白銀、この後は用事あるか?」


「クランで仕事をする予定だが、時間は作れる」


「それじゃ、少し付き合え」


 ギルマスの方を見ると頷いていたので、悪い人間では無いのだろう。

 話をして損はない様だ。


「わかった。場所は何処だ?」


「お前さん、若いのに物怖じしねぇよなぁ」


「伊達に最古参のクラマスじゃないんでね」


「違いねぇ。酒場で良いだろう」


 そう言って、付いてこいと俺に背中を見せる。

 こういう人間は嫌いでは無いので、素直に従って付いて行く。

 着いた場所は、冒険者御用達の有名な酒場。

 中に入ると、先程言い争ってたクラマスと最古参クラマス2名に見知った顔が2名待っていた。


「待たせたな」


「そこまで待っちゃいないさ。しかし、流石ガルさんだな」


「ガルさん?」


「白銀は知らないのか? ……そういや、予備校を飛び級で卒業してたっけか」


「予備校関係者?」


 詳しく話を聞くと、ガルさん――本名ガルツード――は、必ず毎年、予備校で特別講師を引き受けている冒険者との事。

 特別講師には、現役の冒険者が数日だけ教壇に立つが、教え方は様々で本人のやり方に任せているそうだ。

 そんな中でガルさんは堅実な教え方をしている冒険者らしい。


「冒険者ってのは、ランクを上げて金を稼ぐんだが、自分の実力を過信する奴が多い。そう言う奴は早死にするか仲間を殺す。俺はそう言った部分の事を教えているのさ」


「へぇー」


「俺達もガルさんには世話になったよなぁ」


「顔はマフィアも逃げ出す強面なのに、面倒見が良いんだよな」


「強面は余計だ!」


 ガルさんの言葉に笑い声が巻き起こる。

 しかし、そうなるとガルさんはかなり年上?


「いくつ何ですか?」


「もうすぐ46だな。俺個人への指名依頼は、流石に断っている」


「どういったクランで?」


「予備校の延性上のクランだな。危なっかしい奴を少し矯正したり、長く活動出来る様に指南したりだな」


「うん、確かに面倒見良過ぎだわ」


 立ち話も何なので、俺とガルさんも席に座って注文をする。

 真昼間から酒を飲むのは初めてだな。


「病みつきになるぜ。まぁ、お前さんにはまだ早いか」


「成人して間もないですからね」


 その後は全員の紹介と軽い雑談。

 後、最古参のクラマスの片方はガルさんから矯正を受けたことがあるらしい。

 ……そういや、ガルさんってランクはどの程度何だろうか?


「俺のランクか? Aだな」


「意外ですね」


「そうか? 俺には不分だと思ってるんだがな」


 ガルさん自身、実力はBだと思っているそうだ。

 Aに上がれたのは、偏に慕ってくれる冒険者が多いからだと言う。

 あのギルマスがその程度の理由でランクを上げるとは思えないので、他に理由があるんだろうな。

 そして話は本題へ。


「今日誘った理由だがな、ちーっと気ぃ付けた方が良い」


「どういうことです?」


「異議を唱えた奴らだが、そのうちの二つに良くない噂があるんだわ。お前さんは大丈夫でも、所属冒険者全てが大丈夫じゃねぇだろ?」


「襲われると?」


「可能性の話だな。だが、警戒はしといた方が良い」


「白銀の。ガルさんの見立ては割と当たるぜ。用心はしといた方が良いと、俺も言っとくわ」


 ガルさんの意見に全員が頷く。

 長い間、冒険者をやって来て五体満足で経験豊富な人の言葉。

 軽く受け流すのは出来ないか。


「わかりました。まぁ、あまりに酷いなら潰します」


「クラン同士のいざこざはご法度だろうに」


「抜け道はあるんですよねぇ」


「聞かないでおくよ。やり過ぎるなよ?」


 ガルさんは、敢えて聞かない事にする様だ。

 それからは過去の話を聞いたり、狩場の情報共有をしたり、クラン同士での連携や技術指導の話などで盛り上がり、お開きとなった。

 そして、その翌日から早速嫌がらせが始まった。

 初めはしょうもない嫌がらせであったが、1週間も経つと更に過激になって来た。

 一番酷いのは、狩場での怪我に関して。

 所属冒険者に話を聞くと、明らかに狙って怪我をさせに来ているそうだが、誤射だと言い張って立ち去るらしい。

 証拠も無いので言及できず、日に日に生傷が増えて行く冒険者が増えているのが現状だ。


「怪我をされた方はこちらへ!」


「直ぐに治します!」


 最近では、ミリアとナユに怪我人の治療をお願いしてる状況だ。

 我がクランは教会経由で治療専門のシスターが数名駐在しているのだが、治療する人数が増えすぎて回っていなくなった。


「クラマス、流石にマズいですよ」


「そうは言うが、証拠が無いと動けないぞ?」


 潰すだけなら簡単なのだ。

 ただ、きちんとした理由とそれに伴う証拠が必要。

 クラン同士の争いはご法度だが、正当な理由があればその限りでは無いのだ。

 故に、どうにかして証拠が欲しかった。

 そんな状態が更に1週間ほど続いた頃、瀕死の冒険者が運び込まれてきた。


「容体は!?」


「全身打撲、両腕の骨折、裂傷、それに……」


「片足を火魔法で焼かれているのか」


 どうみても普通なら再起不能の傷であった。

 明らかに普通の治療では完治不可能。

 一体どうしたら、こんな怪我を負うのであろうか?


「もう一人来ます!」


「そっちの容体は!?」


「再起不能まではいきませんが、完治には日数が掛かるかと」


「くっ! 何があったと言うんだ」


 凶悪な魔物なのか、それとも……。

 もし後者なら、証拠などと言っていられる状況ではない。

 だが、証拠が無い以上、迂闊には動けない。

 完全に手詰まりであった。


「よぉ。少し良いか?」


「ガルさんか。悪いが、今は忙しいんだ」


「つれねぇなぁ。まぁ、忙しい理由は分かっちゃいるけどよ」


 分かっているなら出直して欲しいとも思うが、そんな考えはお見通しだと言わんばかりに、映像水晶を手渡してきた。

 映像水晶はかなり高価な魔道具だが、なんで渡す?


「相当追い詰められてんなぁ。俺が渡す理由なんざ一つだけだろうに」


 ガルさんの言葉に反応して、映像を再生させる。

 そこには、大怪我を負って運び込まれた冒険者達を嬲る映像が記録されていた。


「これは誰が?」


「うちの若造共だよ。偶々、こいつを取りに言って貰ってたんだが、白銀の冒険者達に何かあれば迷わず使えって話してあったんだよ」


 映像には、明らかに怪我を負った冒険者達よりもランクも実力も上の冒険者が数名と、裏通りを根城にしてるチンピラとマフィアが映っていて、怪我を負わせている。


「で、どうすんだよ? やるなら乗るぜ」


「いや、こっちでやる」


 ガルさんは肩を竦めて一歩下がった。

 そして一言だけ。


「ギルドへの報告はしといてやる。あいつらから被害を受けたクランは庇護してくれるだろうよ」


「……恩に着る」


 そう言ってから、重傷者と重体者の治療へと戻る。

 本来ならば全知1か月以上と命の危険がある状況だ。

 重傷者の方はミリアとナユに任せ、俺は重体者の治療に専念する。

 彼らには悪いが、生き証人として完治して貰う訳にはいかないのだ。

 全て終わったら、一気に治療するから我慢して欲しい。

 勿論、休業手当と見舞金は出すから、許してくれ。

 代わりに、君達が負った怪我に対しての報復はしっかりとやるから。

 彼らに懺悔をしながら治療をしていると、ミリアとナユに任せていた重傷者が肩を借りてこちらに来た。


「クラマス、相棒は助かりますか?」


「助ける。ただ……」


「事情は理解してます。後で完治させてくれると聞きました」


「約束する」


「なら、あいつらを完膚なきまでにやっちゃってください!」


「任せろ!」


 その後の動きは早かった。

 映像水晶から犯人の顔を紙に転写して冒険者達に配り、チンピラはクランへ連行するようにした。

 マフィアに関しては、その筋に詳しい冒険者に案内させ、直接乗り込むことに。

 両方からの証言と情報を元にして、怪我を負わせた冒険者に報復を敢行。

 当然だが、仕事に復帰できるまでには時間が掛かる様な報復処置を行っている。

 まぁ、当然ながら所属していたクランは怒り狂うわな。

 そこからは、我がクランと3つのクランとの抗争に発展した。

 結果だけで言うなら、3つのクランは崩壊したのち、ギルマスの決定によって解散させられた。


「横暴だ!」


「あ? あの会議にはクラマスしか参加してないのに、なんで会議の内容を下が知ってるんだ? てめぇらが悪意ありきで言いふらしたせいだろ? 言っとくが、こっちには証人がいるんだが?」


「俺は知らん!」


「そうか……。なら、仲間をやられたんだから、こっちもやり返したで通そうか。言っとくが、五体満足で帰れると思うなよ? やり返しだからな」


 俺の言葉に、話を聞いていたクランの下っ端共は、自分が所属するクラマスを簡単に売った。

 つうか、簡単に裏切った。

 元々、クラマスのやり方に異議を唱えていた者達らしい。

 辞めようにも辞めさせてもらえなかったと言う話を後で聞いたがな。

 尚、裏切った者達は依頼者からの評判は良いそうだ。

 なので、やる気のある奴はうちのクランで引き受けた。

 ただ、どうしてもどこのクランに所属していたかでの悪評は避けられなかったので、一時的に支部での活動にはなったがな。

 こうして、一連の騒動は幕を閉じた。


「はぁ……。評判が悪いクランだったから後腐れなく潰したが、もう少しスマートにだなぁ……」


「今回は実害が出たので。それに、舐められたのが原因で、仲間に被害が出たのは事実なので」


「気持ちはわからんでもないが……。ああ、言い忘れていた。こちらで調べた実行犯たちだがな、嫌がらせ程度の者は罰金と1ランク降格処分にした」


「重罪は?」


「クラマスは冒険者ギルドから永久追放にして、ブラックリスト入りだ。重大な怪我を負わせた冒険者2名も同様の処置だ」


「それは重畳」


 全てが終わった後、とある暗黙のルールがが全ての冒険者とマフィアの間で流れた。


【白銀のクラマスは、絶対に怒らせるな】


 この事件以降、何故か白銀の上位冒険者達がクラン同士の仲裁に呼ばれることになるのだが、所属冒険者達は仕事が増えたと嘆くはめになったのであった……。

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