幕間 各国首脳会談・帝国城編

 帝国内乱終結後、戦後処理を終えた我々は、同盟首脳会談を開いた。

 再度集まるよりも、今の方が楽だと言う事もあったからだ。

 この会談の主な話の内容は、クロノアス卿に対する各国での爵位と、今後の情勢の擦り合わせを行うものだ。

 ああ、当然だが、雑談と愚痴も含んでいる。


 帝国城内で行うので、進行は皇帝である余が取り仕切っておる。

 それと、急遽ではあるが、ネデット傭兵団長も参加している。

 時間的な問題は、転移魔法で短縮している団長殿だが、何故帝国に今来たのかが疑問である。

 全員が、団長殿へ話を聞くと……。


「クロノアス卿へ、我が団員達の保護の礼と、娘との婚約話をですね……」


 この団長の言葉に各国首脳陣は不快な顔をしたのだが、次に団長殿が話した本音によって、微妙な顔になる。

 勿論、余も同じ顔になったとも。


「親バカと思われるかもしれませんが、娘は団内での華でして。ただ本人は『自分より強い者が絶対条件』と譲りませんで。他にも細かい話はあるのですが、クロノアス卿に断られると、娘の嫁ぎ先がですね……」


「世知辛いのぅ……」


 余の言葉に各国首脳陣も頷いておった。

 国は違えど、悩みは同じ、と言う事らしい。

 親としては子の将来は心配と言う事だ。


「クロノアス卿へは、この話もするつもりです。礼には礼を尽くさねばなりませんから」


「判断を下すのはクロノアス卿だが、我々としては思う所が無いわけではない……と言うのは、理解しておられるのかな?」


「ランシェス王、何もそこまで……」


「教皇殿、ネデット傭兵団の後ろには、傭兵国の影がある。言われても仕方ないのでは?」


「竜王国王の言う通りだな。俺としても、その辺りはハッキリとさせたい」


「余も皇王と同じだな。同盟外での協力要請など、されても敵わんしの」


「皆様の懸念はごもっとも。なので、落ち着いてからになりますが、傭兵王との会談をこちらは提示させていただきたく。仮に敵対関係になったとしても、我が傭兵団は娘を盾に何かをするつもりは無い事を、ここに宣言します」


 団長殿は思い切ったことをする。

 つまりは、敵対関係になった場合、親子の縁を切ると断言したに等しい。

 細かく言えば違うが、大筋ではそういう意味に捉えられる内容を、団長殿は言ったのだ。

 ならば、我々の答えは一つしかない。


「団長殿の覚悟はわかった。後はクロノアス卿と話してみるが良い。最後の判断は、クロノアス卿次第と言っておく」


「ランシェス王、寛大なご判断、誠にありがとうございます」


「それでだ。団長殿に聞く話はこれで終わりなのだが、以降の話を余が、クロノアス卿に伝えるまで秘密にしておけるなら、この後の話にも参加できるが、どうする?」


「傭兵王にはお話しても?」


「時期はあるがな。最終的には話してもらった方が良いかもしれんな」


「皇帝よ、もしや?」


「ランシェス王。面白くないかもしれんが、これは必要なことだ。事、同盟においては必須と言えるかもしれん」


「わかった。但し、クロノアス卿は我がランシェスの貴族である部分は忘れないで欲しい」


「お前は本当に、あの小僧に入れ込んでるな」


「皇王。ここは公の場だ。もう少し言葉をだな」


「腹の探り合いなんざ、今更無意味だろう。ここから先、俺は本音で喋るつもりだ」


「私はいつも本音ですけどね」


 教皇殿の言葉にお笑いする皇王。

 ランシェス王は苦笑いしている。

 全く、これでは余の方が道化ピエロではないか。

 ……そうだな、腹の探り合いは止めるとしよう。

 余はクロノアス卿に救ってもらったのだから、卿の事で探り合いは不義理であるな。


「余も皇王の意見に乗ろう。卿には借りがある。せめて、卿の事に関しては本音で話すとしよう」


「へぇ、あの【狂犬皇帝】がねぇ。歳食って、丸くなったのか?」


「ふん。皇王に言われるとは思わんかったの。【狸皇王】こそ、歳を食ったのではないか?」


「否定しねぇよ。それにな、あいつは義息子になるんだぞ?家族相手に探り合いは趣味じゃねぇな。お前らだって、親戚になるんだろうが」


「私は違いますけど、皇王殿の言う事にも一理ありますな」


「この場合、ランシェス、オーディール、ガズディア、フェリックが親戚ですか。そこにセフィッドが間接的に加わると。……我が神樹国だけ除け者ではないですか!」


「レラフォード代表も良い歳だろう? クロノアス卿に娶ってもらえや」


「皇王殿、流石にクロノアス卿でも彼女は……」


「オーディール王? それはどういう意味ですか?」


「話が纏まらんから、元に戻すぞ?」


 ランシェス王の言葉で、とりあえずは一度静まる。

 レラフォード殿はオーディール王を睨んでおったがな。

 余でもレラフォード殿は……無理だな。

 政治闘争しそうで、気が休まらん。

 レラフォード殿の春は遠そうじゃの。


「では、本来の話に戻るが、団長殿はどうするのだ?」


「同席させていただきます。傭兵王にお伝えしないといけない内容そうですし」


「では、時期に関しては後で伝えよう。それで、話の内容だが」


 余はランシェス王が不快になりかねない提案を出す。

 その提案とは、各国での爵位を辺境伯に統一しようというものだ。

 余がこの提案を出したのには、当然だが理由がある。


「余がこの提案を出したのは、クロノアス卿の各国での立ち位置を明確にするためだ」


「それが何故、統一爵位になるのかわからんな」


「ランシェス王の疑念は尤もだな。当然だが、これはランシェスにも配慮した提案になる」


「聞かせて頂こう」


 余はランシェス王を筆頭に、全首脳陣に対し、説明をした

 説明した理由は、以下の通りである


 1 各国ともにクロノアス卿を辺境伯へと陞爵させる

 2 各国での地位統一

 3 ランシェスは独自とする

 4 各国での統一化と同時に、国境検問の簡略化

 5 同盟盟主としての地位向上

 6 同盟関係の強化


 大まかに分けてこの6つである。


 当然だが、難色を示すのはランシェスになる。

 ランシェスだけがこの条約にほぼ無関係である様に見えるからであった。


「我が国は、関与するなと?」


「勘違いされるな。今からそれを説明する」


「どういう意図があるんだか」


「皇王、五月蠅いぞ。ごほん、各国へお聞きしたいが、この提案に異議のある者はおるか?」


「特にありませんね」


「オーディールも問題は無い」


「フェリックもだ」


「レラフォードは爵位制度が無いのですが?」


「神樹国で唯一の貴族を作れば良いのではないか?それに、辺境伯にした理由は聞いての通りだ」


「国に戻った後、議論しますよ」


「それが良かろう。それでランシェスについてだが、辺境伯と侯爵は階位が同じだが、違う点もあることはご承知だと思う」


「……なるほど。階位は同じだが、侯爵位はランシェスのみしか与えられない様ににするのか」


「もう一つ。侯爵は中央に近い領主か都に住む貴族のみになる。つまりは、そういうことになる」


「クロノアス卿は、あくまでも我がランシェス貴族と明確にするわけか」


「その通りだ。そして、同盟の本拠地はランシェスにあると明確にもする」


「各国が認めないだろう?」


「帝国は容認する。各国共、容認せざるを得ないはずだ」


「……そういう事か。確かに、オーディールは容認するしかないな」


「うちもか。借りと言えば、借りになるか」


「神聖国は元から容認国ですしね」


「神樹国も似たようなものですね」


「そして、ランシェスも容認せざるを得ないはずだ」


「各国ともに、クロノアス卿に救ってもらっているからか? それに対する見返りは出しているはずでは?」


「国家滅亡の危機に対して、あれだけの褒賞で済む方が可笑しいと思えぬとは……。ランシェス王よ。その考え方はどうかと思うぞ?」


 ランシェス王の言葉に、余は反論する。

 余の言葉にランシェス王も負けじと反論はしてきた。

 しかし、各国の反応は余の考え方に賛同の様だ。


「確かに、皇帝の言う事にも一理あるわな」


「ランシェス王の言葉は正論なのですが、流石に……」


「国として考えると……」


「クロノアス卿の優しさに甘えていませんか?」


 ランシェス王に避難轟々。

 余もまさかここまでになるとは……。

 各国の言い分に、ランシェス王は反論できずにいた。

 結果、溜息を吐いて負けを認めたのだが……。


「いや、勝ち負けの問題じゃねぇぞ? お前の考え方を改めろって話だ」


「皇王よ。さっきからお前お前と……。失礼ではないか?」


「悪いが、今のお前に王としての威厳を感じないからな。呼んでもらいたいなら、考えを改めることだ」


「……わかった。確かに、我が国も救ってはもらった立場ではあるしな」


「それでは、良いですな?」


 各国共、頷いて肯定してくれた。

 陞爵理由については、神聖国、竜王国、皇国は同盟関係の強化で行う方針になる。

 帝国は言わずもがな、救国に対して。

 そうなると、ランシェスだけが何も無いように見えるので、余から次の提案を行う。


「ランシェスは勲章授与を行っては如何だろうか?」


「今回は同盟の盟主として参戦しているのだぞ?」


「だからこそ、帝国からランシェスへ感謝状と金を送ろうと思う。それと同時に、ランシェス内で武勲を上げた際に送られる勲章に我が帝国の武勲勲章を混ぜたものを作っていただきたい。費用はこちらで持つ」


「年金についてはどうするのだ?」


「我が帝国が全て負担しても良いが……」


「愚問だったな。年金は分担するが、こちらで纏めて支給しよう。額は同一額で合わせたいのだが?」


「その辺りは、後で擦り合わせるとしよう」


「二国だけでするのか?」


「皇王、こればかりは呑んでく……「出来んな」」


 余の言葉を遮り、皇王が反論する。

 だが、次の皇王の言葉に余もランシェス王も耳を疑う。


「ダンジョン異変の武勲を渡してねぇな。こっちも噛ませろ」


 皇王の言葉に追随するように神聖国、竜王国も同じことを言う。

 果ては神樹国までもが同じことを言う始末。


「こちらは武勲ではありませんが、民を助けて頂いた事実があります。いっそ、武勲ではなく、各国からの勲章として、一つに纏めてしまっては?」


 神樹国の提案に、各国共乗り気である。

 こうなると、最早止められんか。

 余も提案を承諾し、新しい勲章が作られることになった。


 その名も【七星勲章】


 竜を星に見立てた、この世でただ一つの勲章である。

 七頭の竜に双剣と天使の翼を施された勲章。

 後に、この勲章を依頼された鍛冶屋は、栄誉であると同時に、尤も困難な依頼だったと、話していたそうだ。

 余の耳に入っているとは、この鍛冶屋は知らぬだろうがな。


 次に先の予測の話へと移るのだが……。


「あの国は動かなかったな」


「一体、何を考えておる?」


「さぁな。動かなかったのは幸いだが、こうなってくると不気味だな」


 答えの無い問答しか出ない。

 不毛であるが、情報の擦り合わせは大事である。

 しかし、出てくる情報はこちらで掴んでいる情報と差異は無い。

 結論としては、要注意。

 救援要請には応えることで話は終わる。


 その後も細かい打ち合わせを行い、大筋で合意がなされる。

 そして始まる雑談であったが、話の内容はやはり、クロノアス卿の婚約者達の話となる。


「しかし、婚約者が10名か。多いの」


「多分だが、増えるな。恐らく、14名になるだろう」


「ランシェス王、理由を聞いても?」


「良いか、教皇殿。余……いや、敢えて口調を崩すが、俺の見立てでは、亜人3名に団長殿の娘もあやつが好みそうな女性だからだな」


「と、言いますと?」


「あやつはな、努力する女は好みだ。そして、気が楽に出来る女も好みだ」


「私が聞いた話だと、料理の出来る女性は必須だと聞いていますが?」


「当時は実感が無かったのと、断る口実もあったのだろうよ。だが、全員がグラフィエルに毒されてきているの。良い意味でも、悪い意味でもな」


「嫁ぎ先の家風に慣れるのは、良いことでしょう」


「オーディール王、あのグラフィエルの家風だぞ? この先どうなるのか、皆目見当がつかんわ」


「そう言われると、怖いですな」


「うちのリーゼが止めそうなもんだがなぁ」


「度が過ぎれば止めるであろうよ。だがな皇王、あの家風に染まるのだぞ? 線引きが狂うとは思わんか?」


「おい……お前が止めに入れよ」


「他家に干渉しろと? 皇王よ。その言葉、そのまま返しても良いか?」


「ああクソ! そういう面倒な話かよ!」


「ミナは……憧れておるから無理だの」


「皇帝、次に会ったら、娘の成長は見られるぞ。どっちに転んでいるかは知らんが」


「良い方に行ってくれ……」


 各国王たちの好き勝手に言われるクロノアス卿だが、一番身近で見てきたランシェス王が言うと、恐ろしく感じるものだな。

 その後も言いたい放題であったが、何故か余らの話へと脱線していく。


「まぁ。多いとは言うが、まだ14人だ。それに、妾などはおらぬからな」


「いたら大変だろうが!」


「皇王よ。英雄、色を好む、と言うしな」


「リーゼを泣かせたら、国総出で行くからな!」


「とは言え、皇王にはブーメランだろう」


「何を……」


「俺が知らないとでも? 妻10人に妾が36人だったか?」


「おまっ!」


「皇王よ、何を焦る必要がある? ……お主、まさか?」


「認知はしてるわ! 継承権はやってねぇけどな!」


「それなら何も言わん」


「クソ……とんだ藪蛇だ。それよりも、あんたらはどうなんだよ?」


「俺か? まぁ、少ないがいるな」


「余も結構居るな」


「自分も数人は……」


「私は独身ですね。もう結婚は諦めてます」


「教皇殿! 仲間ですね!」


「レラフォードが嬉しそうなんだが?」


「相手、見つけますかねぇ……」


「裏切者!」


「お前も、見つけたら良いだけだろうが」


 等と、最早会談でも何でもないのだが、ここで空気になっていた団長殿が声を掛けてきた。

 傭兵とは時に豪胆で、時に小心者と言うが、彼は今の話を聞いて、娘が心配になったのであろう。

 余でもそう思うので、話を聞くことにする。


「今の話を聞くと、クロノアス卿はお姫様コレクションをしている感じに聞こえるのですが……」


「言い得て妙じゃな。だが、その心配は杞憂だろう」


「そうだな。リーゼも楽しそうではあるし」


「ラナも同じですね」


「ランシェス王、彼の心配ごとを解消して差し上げては?」


「それは、教皇殿の役目ではないか?」


「一番身近な方の言葉が、説得力がありますよ」


「レラフォード殿まで。はぁ、俺から見た感想とそう見える理由についてだが、構わぬか?」


「お願いします」


 こうしてランシェス王が語った内容だが、余も肯定せざるを得ない話であった。


「そもそも、貴族自体が柵の中での政略結婚だらけなのだ。そんな中であやつは、僅かながらに抵抗しているのだ」


「と、言いますと?」


「悪く見えたら、お主の言った通りなのだが、貴族や王族から見たら、抵抗だの。そして、その抵抗の証があれだ」


「理解が……」


「簡単に言うとな、選り好みしているのだよ。あやつは新興貴族で初代当主だ。多少の型破りは仕方ないと思われる。それを利用しているのだよ。意識的か無意識かは知らんがな」


「な、なるほど?」


「そして、貴族家であやつに見初められるというのは、かなり希有な者だと思うの。だからこそ、皆が笑い合えているのかもしれんが」


「まぁ、ランシェスの言い分は当たってると思うぞ。俺はリーゼが、あそこまで楽しそうなのは知らねぇからな」


「俺も同じだな。リリィも城にいるよりは楽しそうだな」


「ラナもそうですね」


「神子であるミリア嬢が上手く回しているのでしょう」


「否定は出来んな。そしてな、グラフィエル・フィン・クロノアスと言う男は、家族に甘い。危険なことは極力させぬが、彼女たちの意思を尊重している」


「その全てが、こちらが感じたことだと?」


「それだけではないが、器が大きい、資金は潤沢、奇抜な発想、そしてあの強さだ。女性なら、何としてでも見初められたい人物なのではないかな?」


 ランシェス王は、レラフォード殿の方を見て、そう話す。

 余もランシェス王の言いたいことはわかるが、あまりレラフォード殿を煽るのはどうかと思うのだが。


「そうですね。では、グラフィエル殿と既成事実を作りに行ってきますね。ランシェス王の差し金と言う事で」


「俺が悪かったから、そう睨むな。そして脅すな」


 やはりこうなったか。

 何事もやりすぎはいかんな。

 余も気を付けるとしよう。


「まぁ、冗談は置いておきますが、ランシェス王の言う通り、女性から見れば、超優良物件でしょうね。だからこそ、婚約者達監視の下で、選り好みしているのでしょうが」


「もし、レラフォード殿があそこに入ったら?」


「入れませんよ。婚約者達が許しません。彼女達もまた、グラフィエル殿の好みをわかっているからこそ、受け入れている部分もあるのでしょう。私には無理な話ですね」


「と言うわけだ。女性の意見も参考になったのでは?」


「ありがとうございます。後は自分の目で確かめてみようかと」


「その方が良いだろう」


 丸く収まったようだな。

 団長は早々に会談場から席を外し、迎賓館へ向かうようだ。

 クロノアス卿も大変だなと余は思う。

 その後は懇親会と化したが、クロノアス卿がおらぬと、少しつまらなく感じてしまった余もまた、毒されてしまっているのかもしれぬな。

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