第129話 ケモミミは最強!?

 レラフォード代表の紹介したい者を迎えに行くべく、俺はゲートを繋いで神樹国に来ていた。

 レラフォード代表の案内の元、その者達が隠れ住む場所へと案内される。


 尚、迎えに行っている間、会議は休憩時間となっていた。

 ついでに、ミリアには更なる【神託】が降り、休憩中に皇女殿下とお話しするとの事。

 OHANASHIで無い事を、切に願う。

 いや、後で俺にもOHANASHIが無い事も願いたい。


 そしてある事30分程、森の中に小さな集落が見えて来た。

 その集落には、妖精族は数えるほどで、ほとんどの住民は亜人だった。

 そして俺は、ここで一つの勘違いに気付く。

 亜人と獣人の違いだ。


 亜人は人間に耳や尻尾が生えた存在で、戦闘特化だったり、先祖返りだったり、血が濃ければ【獣化】と言うスキルが使えるとの事だった。

 対する獣人は二足歩行の獣がベース。

 動物が二足歩行で人の言葉を喋り、人と同じような生活を営んでいる。

 人語が理解できない獣人はいないらしく、その辺が魔物との区別にもなっているらしい。


 そして現在、俺はとある家の前で待っているのだが……。


(視線が痛いんですけど…)


 妖精族は精霊王様だ!って感じの視線で、亜人と獣人は人がここに居ることに、警戒を最大にしている。

 うん、早く帰りたい。

 完全にアウェーであった。


 そんな中、待つこと数分。

 レラフォード代表が中から俺を呼ぶので中に入る。

 そこにいたのは、亜人の少女が二人。


 一人は狼系の亜人で、皇女殿下の様な髪の色。

 いや、若干青みが強いかな?

 目も白をベースに青みがかっていた。

 一言で言うなら、氷を連想させる少女。


 もう一人は狐系の亜人。

 髪の色は金に黒のメッシュ。

 尻尾は9つあり、九尾の狐であった。

 タマモに似た亜人の少女だが、神気などは感じないので、神獣ではないと思う。

 神狐の係累の可能性は否定できないが。

 目の色は、琥珀色。


 そんな二人の後ろに控えるのは、豹系の色っぽいお姉さん系の亜人とガチムチの筋肉オバケな熊亜人の男性。

 どちらも俺に対して警戒感MAXであった。


「お二方とも、そんなに警戒しないでも良い。彼が先に話した精霊の王です」


「にわかには信じがたいですな」


 レラフォード代表の言葉に対し、懐疑的な言葉を述べる熊亜人。

 家の中には他にも亜人の姿は見えたのだが、獣人の姿はない。

 と言うか、この村には妖精族と亜人しかいなかった。

 獣人族とはまた別の種族なのか?


「信じられないのは無理もないとは思いますが、彼が同盟の盟主であるのは事実です。それに、敵愾心丸出しでは話にもならないのではないでしょうか?」


「一理ありますが、王と言うならば証拠を見せて頂きたい」


 今度は豹亜人の女性が証拠を見せろと言う。

 なんだろう?このイライラは……。

 人を呼び出しておいてこの言い分。

 レラフォード代表には悪いが、今直ぐに帰りたい。


 そんな気配を感じ取ったレラフォード代表が頭を下げて頼み込んで来た。

 ただなぁ…代表は悪くないけど、相手がこんな感じではなぁ。

 それに、いくつかの予想は付いてしまったんだよね。

 簡単に言えば、超面倒事。

 それも、帝国への内政干渉になりかねない話。


 ぶっちゃけ、色々とお腹一杯なんだよなぁ。

 皇女殿下のスキルとか神喰とかダグレストとか。

 厄介な話を更に聞かされたら、胃もたれしそうだよ。

 そんな俺の気持ちを汲み取ってか、精霊が姿を現した。


「王様~、私を呼んだ~?」


「いや、呼んでは無いけど、良いタイミングだった」


「そうなんだ~。褒めて~」


 精霊の頭を撫でて褒める。

 姿を見せた精霊は、水の精霊の眷属の様だ。

 おっとり型の精霊で、甘えん坊っぽい。

 暫く撫でてやると、満足したのか離れる。

 そして、去り際に一言。


「こいつら~、王様に対して~、失礼だよね~。お母さんに~、言っておいた方が~、良い~?」


「いや、用があれば俺から呼ぶよ。一応、話は通しといてくれるかな?」


「ん~、わかった~」


 そう言って消える精霊。

 しかし、消えて直ぐに別の精霊、いや、7大精霊が姿を現す。

 そして始まるカオス。

 今日あと何回、カオスを経験したら良いのだろうか?


「オラオラ! 王様に文句言うバカはどこのどいつだ!? この俺、火の精霊が焼却してやる!」


「はしたないですよ。ですが、王様に無礼を働く者は、この水の精霊も黙ってはいられませんね」


「んっふっふ~! 風は大抵の事は許すけど、王様を馬鹿にしたのは許せないね」


「王様への無礼は、極刑。感電死を望むのは、誰?」


「土葬♪ 土葬♪ 土に還りたいのは、誰かなぁ?」


「はぁ、貴方たちは、少し落ち着きなさい。とは言え、私も少し怒ってはいますが」


「私が真夜中にブスリとやるから、他の奴は手を出さないで。そして王様は、私を重宝して…くふふふ」


 うむ、個性豊かで何より。

 ただ闇の精霊よ、ヤンデレやメンヘラ臭がするから、その発言は危険だぞ?

 そんな精霊を見た、先程の亜人は目を点にしている。

 そういや、精霊に対して過剰反応していたな。


「なぁ、亜人族も精霊信仰は盛んなのか?」


 ここで俺は重大なミスを犯す。

 どの精霊に明確に訊ねなったのだが、各精霊が好き勝手に答え始めたのだ。

 そして始まる精霊大戦争……。


「俺に聞いたんだ! お前らは黙ってろ!」


「おバカな火が答えられるわけないでしょう? 水が答えます」


「風は何でも知ってる情報屋だよ。僕が適任だ」


「雷の情報伝達速度は一瞬。私が答える」


「大地はどこまでも繋がっているんだよ。答えるのはあたしだ♪」


「光が一番物知りなのは、皆の共通でしょう。私が答えます」


「深淵から、情報を出すよ」


 闇だけ厨二病も入っている様だ。

 ってそうじゃない!

 このままだと、大惨事になりかねない。

 実際、精霊たちの力が蠢いている。

 こんな時は……。


「助けて! 時の大精霊!」


 助けて!〇えもん!的な感じで呼ぶ。

 すると即座に姿を現し、7大精霊に拳骨が落ちる。

 目にも止まらぬ速さではなく、実際に時を止めての拳骨。

 回避は不可能で、7大精霊はもれなく頭を抱えて蹲った。


「この大馬鹿精霊たちが! 王を困らせてどうするのですか! 王も王です! 質問者は明確になさいませ!」


「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」


 何故か俺まで怒られて、あやまってしまった。

 王とは一体……。

 そして7大精霊は、時の大精霊お母さんに促され、精霊界へと帰って行った。

 正しく、精霊たちのお母さんであった。


「それで、先の質問ですが……」


 Oh、すっかり忘れていたぜ。

 その事に気取られぬように、平静を装う。


「精霊信仰は、亜人、獣人、妖精族が主ですね。最近だと、人族も信仰し始めましたので、精霊の力は増しています。ただ……」


「ただ? 何かあるのか?」


「獣人族は精霊信仰もありますが、獣神信仰の方が盛んですね。年々、精霊信仰は衰退していってます。後、個人的に獣人は嫌いです」


「何かあったのか?」


「あいつら……貢物を勝手に食うんですよ。妖精族と亜人族は、貢物は腐らない限り、手を出しませんからね。ああ、そう言えば、闇の精霊たちは『腐りかけが一番美味い』とか言ってたので、少しくらい腐っていても、分けておいてください」


 最後はきっちり要望まで伝える時の大精霊お母さん

 精霊子供の躾と管理に忙しそうだ。

 聞きたい事は聞けたので、お礼として、蜂蜜で作ったお菓子を渡す。

 それを受けっとた大精霊はお礼を言ってから姿を消した。

 図らずも精霊からの要望を聞いた亜人とエルフはと言うと……。


「今度から、徹底させないと……」


「要望を聞けたのは、良い事なんでしょうが……」


 少し疲れた顔をしていた。

 何はともあれ、こうして疑いも晴れた俺は、熊と豹の亜人二人に謝罪される。

 精霊信仰が盛んな種族は、これで大人しくなるのだから楽だ。

 勿論、危険は孕んでいるのだが、警戒心が強い種族なので、多分大丈夫だろう。

 因みに危険とは、精霊の名を出せば、簡単に信じてしまう所だ。

 今回の場合は、呼んでもいないのに精霊が現れたので、信じざるを得ないと言う形ではあるがな。


 少し脱線はしたが、本題に入るとしよう。

 今頃になって、何故こちらと話す気になったのか?

 まずはそこからである。


「妖精族が帝国の奴隷制度から解放されたと聞きました。もしかしたら、我らの同族も出来るのでは?と」


「あれは、レラフォード代表が妖精族だった事と同盟への参加で一悶着あったからですね。普通は無理ですよ」


「しかし、帝国は現在、内乱だと聞きました。そして、過激派も挙兵したと」


「何処からその情報を?」


「我らの方にも『挙兵するから、加われ』と連絡がありました。過去に戦争で負けているのに、勝てるとは思いません。そもそも、過激派は獣人族なのです」


 それは初耳だ。

 となれば、現在挙兵しているのは獣人族だけなのか?

 その事を聞いてみると……。


「残念ながら、虎の亜人族は参戦しました。しかし、獅子は様子を見ている模様。戦闘亜人は、それほど多くはいないですから」


「そうなると、虎については擁護できないな。いや、亜人族自体の擁護が難しい」


「ええ。なので、虎を除く全ての亜人保護をお約束して頂けないでしょうか? 代わりと言っては何ですが、そちらの陣営に参戦したく思います」


「これは……俺一人では決められないな。レラフォード代表もそう思いますよね?」


「いいえ? 私の意見を述べても?」


「どうぞ」


 レラフォード代表が言うには、他国の擁護ではなく、俺の庇護下に入りたのだと。

 何故に?と思うのだが、これには精霊信仰が関係しているらしい。


「精霊…それも7大精霊や時の大精霊様まで認めてるとなると、妖精族と亜人族では神と同義です。加えて、神実すら食される方ですよ? 神樹国ですら、庇護下に入りたいですよ」


「神実を食べて、何ともないのか……。本当に神なのでは?」


 豹のおねぇさん、大正解です。

 尤も、神を創った原初ですけどね。

 と、ここまで黙っていた少女二人が口を開いた。


「あの、ご結婚のお相手はおられるのでしょうか?」


「いるけど、何故に今その話を?」


「私達は獣王国王家の子孫です。血を残しているのは、私達二人だけなので……」


「あれ? でも種族が……」


「王家の種族は、何種かおります。女王政だったので、父親は同じですが、母親が違うのです。そして、亜人族は血が濃くなり過ぎない様に、必ず人族の男性が父親になるのです。それも、私達に嫌悪感を持たない人族の男性が……です」


「でもそれだと、女王になる時点で揉めない?」


「女王になるには、複数の王族女性の投票が必要なのです。当然、自分には投票出来ません。そして、7割の票を取るか、一騎打ちになって相手を上回る事でしか、女王にはなれないのです。勿論、順位で役職もある程度決まります」


「完全に女性優位の国だと?」


「いえ、当然ですが男性もいますよ。職場で恋仲に落ちて、結婚する者もいます。王族は違いますが」


「つまりは、女王政の男女平等国家だと?」


「はい。最重要役職だけは、王族で固めてしまう以外はそうです」


 何とも極論な中央集権国家である。

 軍部も当然だが、亜人獣人の混合部隊。

 但し、獣人に貴族はいても、王族にはいないらしい。

 今回の挙兵は、元獣人貴族の暴走に近いのか。

 あれ?そうなると一つ確認事項が出来るんしゃね?

 疑問をぶつけると、豹のお姉さんが答えてくれた。


「虎の亜人だけ、参戦したんですよね? 彼らはそんなにも好戦的なのですか?」


「いえ、どちらかと言えば穏健派です。あくまで基本ですが、亜人が穏健派で獣人が過激派になります」


「となると……獣人に人質を取られている可能性がある?」


「まさか……いえ、彼等ならやりかねないかもしれません」


「確認する方法は?」


「獅子は虎と一番近しい関係だったはず。直ぐに確認を!」


 指示を出された亜人の……あれは鷲?鷹?が確認のために動く。

 さて、もう一つ確認しないと。


「もう一つ確認します。あなた方は、国を再建したいのですか?」


「叶うなら……そうしたいですが、一番は安住の地を得る事です。少なくとも、精霊王様の庇護下に入れば、不埒な輩を減らすことは出来るのでは? と考えてます」


「ここは安住の地ではないと?」


 この質問には、レラフォード代表が答えた。


「残念ですが、帝国との条約は妖精族のみに適用されています。最近では、森に帝国の奴隷商人が来ますが、妖精族には一切手を出していません。ですが、亜人族には……」


 苦悶の顔を浮かべる代表。

 精霊信仰を是とする者として、親近感があるのだろう。

 最近では、神聖国から派生して、同盟各国でも精霊信仰は普及し始めている。

 但し、神に準ずるとした扱いなので、同じ信仰者には甘いと言う事なのだろう。


 さて、色々と面倒な事になってきたが、どうしようか?

 正直、亜人とは言え、この二人は美少女である。

 更には、ケモミミとケモ尻尾付き。

 前世でその手に関心のあった俺には眩しい存在だ。

 だが、ミリア達の顔を浮かべると……あ、こわ~い笑顔を思い浮かべてしまう。

 この話は断るのが吉かな?

 それに、俺も相手の事を良く知らないし、相手もそうだろう。


 そう決断を下そうとした所で、先程の亜人が入って来た。

 ノックぐらいしようぜ。


「失礼します。先程、虎の使者がこちらに。助けを求めています」


「内容は?」


 熊の亜人が聞くと、外に待機していた複数の虎亜人が入って来た。

 中には子供もいる。

 そして、全員が疲弊していた。

 だが、その疲弊の中でも、俺を見た瞬間に警戒度を最大にするのだから、人族は危険な相手だと認識されているのだろうな。


「何もしないよ。ああ、そうだ。光の精霊、いるか?」


「はい。珍しいですね? それで、何か御用ですか?」


「この虎亜人達の疲労と怪我を治してやってくれ。俺がやるよりも、精霊の方が警戒心は消えるだろうし」


「かしこまりました。さぁ、そこにお座りなさい」


 虎亜人達が治療されている中、先程の報告を聞くと、案の定当たりだった。

 元獣人貴族に虎亜人の家族数名が人質になっているとの事。

 ふむ……そうなると、あの皇帝に借りを作る羽目になるのか。

 気が重いなぁ……。

 だが、これも何かしらの縁だろう。

 どうせ参戦するのだし、皆が笑って暮らせるなら、それに越した事は無いと割り切ろう。


「事情はわかりました。ただ、会議には参加してもらわないといけません。だから、敵愾心丸出しと言うのは止めてもらいたい。思う所はあるでしょうが、それをしてしまうと、纏まる話も纏まらない。これは最低限守って頂く」


「わかりました。では私が……」


 とここで、豹亜人の言葉を遮って、発言する美少女。

 この流れは……あれだよねぇ。

 俺の予測は考えるまでもなく的中する。


「私達が行きます。二人は、集落の方をお願いします」


「代表者たちが集うのならば、礼儀を以て返すのは当たり前ですし」


「しかし!」


「これは決定事項です。後、先に謝っておきます。私達は国の再建はどうでも良いのです」


「願うのは亜人全体の安住の地と笑顔。国を一度は滅ぼした私達に、国の頂点に立つ資格は、とうにないのです」


 最後に狐の美少女亜人が放った言葉に、この場にいる全亜人達が黙り込んでしまった。

 う~ん……内乱終結後になるが、陛下にお伺いしてみよう。

 普段から無理難題を吹っ掛けて来るし、リアフェル王妃も巻き込んでしまえ。

 たまには、こちらに振り回されてもらおう。


 そんなわけで、レラフォード代表と俺を含めて、5人で会議場へと変えることが決定した。

 現地に残るのは男の熊亜人。

 同行者は女性3人となった。

 女性の豹亜人は、一応形式的には補佐役として付いてくる。

 実際は護衛だけど、その辺りは仕方ないかな?


「これからよろしくお願いします。そう言えば、まだ名乗っていませんでした。私はファリジア・ファラストと申します」


「私はナイーファ・ファラストです」


「では私も。近衛のシャストだ」


「あれ? 王族だと他に名前があるのでは? あとシャストさんは家名とか?」


「昔からこのような感じですよ。王族と貴族は家名がありますが、それ以外の方々は名前だけですね」


「そうなんですか」


 狼亜人がファリジアで狐亜人がナイーファだ。

 最後のやり取りは、シャストさんが話してくれた。

 こうして俺達は、会議場に戻る。


 しかし、俺は先程から誘惑に負けそうで怖い。

 ファリジアの耳やナイーファの尻尾をモフりたくて仕方ない。

 実はたまに、人化したハクやタマモをモフっていたりする。

 ただ、ミリア達に見つかると、物凄く怒られるのだ。

 

『お二人とも女の子なんですから、男性がその様な……特にラフィ様は注目の的なのですから、軽挙な行動は慎んでください!』


と言われて怒られるのだ。


 ケモっ娘は俺を社会的に抹殺できる、最強の種族なのでは?と馬鹿な事を考えてしまったのは言えんな。

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