第114話 ミリアさん、マジ怖いっす!

ミリアの精神安定を図る為、最速最短で触手付きゴーレムを倒し、消滅させ、次の階層へと進むために階段を上がる

階段を上がると、転移陣が設置されており、警戒しながらも転移陣で次の階層へ


次の階層へ着くと、階段の上から戦闘音が聞こえてきた

誰も何も言わず、階段を駆け上がると、そこにいたのは、第三陣と思われるパーティーだった


「さぁ、皆さん…焼却処分の開始ですよ」


ミリアがニッコリと微笑み、俺達は即座に動く

だって怖いんだもの……


「君達は!?」


「話は後で。まずはあれを片付けます」


リーダーらしき冒険者の言葉に返答をしてから、即座に殲滅戦を開始

先程の階層より数は多いが、全く変わらぬ敵なので、十数分で殲滅させる

この場に留まるのも危険なので、次の階層へ続く階段で休憩をとりながら話をする


「まずは、礼を言わせてもらう。俺達は第3陣の探索者なんだが、第2陣と合流して戦闘をしていた」


「混合パーティーですか。第1陣は見ましたか?」


俺の言葉に、全冒険者が俯く

そんな中、第2陣のパーティーリーダーと言う男が話す


「迷路みたいな階層が続いただろう?あそこの最後の方で、触手に寄生された、スケルトンがいた。装備もしていたし、第1陣は全滅したと思われる」


彼の言葉は、信憑性が高いと感じた

探査魔法に人の探知が出なかった以上、情報を統合すると全滅が濃厚だった

確定できないのは、この場にいる誰もが、第1陣の全員を見ていないから

先に進んでいるとも考えづらいので、濃厚にしてはあるが、全員の考えは『全滅した』の一言で終わるであろう


「命に別状はないが、怪我人がいるんだ。誰か、強めの回復魔法を使えないか?」


他の冒険者から、回復の要請が出される

動いたのはミリアとナユ

二人で、怪我人の治療にあたるのだが…


「あ、ありがとう……(笑顔が怖い)」


「いえいえ、次の方」


「ミリア…もう少し、雰囲気を柔らかくしようね」


「あら?私は普通ですよ、ナユさん」


ミリアの笑顔にドン引きする怪我人

ナユが注意するも、普通だと言い切るミリア

それを端から見ている俺達以外の冒険者も引いていた


「なぁ、あの娘って何かあったのか?」


「あ~、予想外のダンジョンで、精神均衡を図るためにああなってる」


「わかります……早く帰って、お風呂に入りたい…」


男性冒険者の質問に答えると、その後ろで聞いていた女性冒険者がミリアの味方をする

このダンジョンは、女性冒険者にはかなり堪える様だ

3人いる女性冒険者は、全員がうんうんと頷く


男性冒険者も女性冒険者ほどではないが、精神的疲労と嫌悪感は拭えないらしい

ミリアの笑顔を見て「怖い…」とは思いながらも、同時に「仕方ない」と思っているようだから


話は少し脱線したが、このダンジョンについて、どの程度の認識でいるかを聞く方向に持っていく

第2陣と第3陣のリーダーは顔を見合うと頷き合い、代表として第3陣のリーダーが答える


「外と中で時間の流れが違う事は確認している。大体だが、どの程度違うのかも把握しているつもりだ」


「了解です。ここからですが、一纏めのパーティーとして行動したんですが、良いですか?」


「リーダーは誰がする?正直、俺は御免だな」


「俺かウォルドが「私がしますよ」」


会話に割って入るミリア

相変わらず、目の奥は笑っていない

それに加えて、何とも言い難い迫力もあった


「わ・た・し・がします。良いですよね?」


この場にいる全員が何も言えず、首を縦に振るしかなかった

結果、司令塔はミリアに決まるのだが……


「さぁ、焼却処分です!そこ!何やってるんですか!?」


ミリアの指揮は相変わらず、焼却処分の一点張り

情けをかける言葉は一言も無し

……ヴァルケノズさん、ミリアが神子で良いのかね?


とまぁ、ミリアの有無を言わさぬ焼却処分命令で、3階層、4階層と短時間で突破していく

逆らうと怖いのもあるが、さっさと攻略したいのであろう

ミリアの指示は、意外にも的確だった


「右翼、火力が弱いですよ!左翼、前衛は堪えて!中央を焼却処分して分断するのです!ラフィ様!早く焼却処分を!」


「ミリア、人使い荒すぎ」


「言うな、ヴェルグ。今のミリアに逆らうと、後で大変になる気がするから」


「そうは言うがよ、ラフィ。小休憩後は休憩なしだぜ?流石に士気も落ちて……なさそうだな」


「ミリアお姉様に従うのよ!」


「そこの男性陣!キリキリ動きなさい!」


「女性陣は元気良すぎだろ!」


「ミリアさん、ハァハァ…」


最後に危ない方向に目覚めかけてる男性冒険者がいたので、冷や水ぶっかけて、正気に戻しておく

ついでに睨んでおくことも忘れない

ミリアは俺のこ・ん・や・く・しゃ・だ!


こんな感じで、遂に5階層を突破し、6階層へと到着する

流石に連戦で、魔力残量も乏しくなった冒険者が出始めた為、大きな休憩を入れることにしたのだが


「何を言ってるのですか?さぁ、次も焼却処分ですよ!」


「ミリア!落ち着け!流石にこの状態だと、死者が出かねない!」


「大丈夫ですよ。さぁ!次に行きますよ!」


ミリアの壊れっぷりが凄かった

休憩を入れるが、素直に仮眠出来ない冒険者ばかりなので、俺、ウォルド、ヴェルグを除く全員に、闇魔法で強制睡眠させる

全員を強制睡眠にさせた後、3人で話をする


「ミリアの精神、ヤバくない?」


「二重人格…いや、深層はドS属性だった?」


「ラフィ、後でミリアに言っとくね♪」


「やめろ!マジで言うなよ!」


「普段は大人しいが、精神均衡を保ちながら、ストレス発散もしてるんじゃね?」


「……ウォルド、俺ってそんなに、ミリアにストレスをかけてたか?」


「さぁ?他人にはそうでなくても、本人にはそうだって場合もあるしな」


「僕が後でケアしとくから」


「うぅ、もう少し気を付けよう…」


【ラフィ君、もう少し婚約者達の気持ちを考えよう!】みたいな話し合いになってしまった

確かに、結構好き勝手やっていたので、反論できない

……このダンジョンを攻略したら、皆と少しの間はのんびりと過ごそう


話し合いの後、ウォルドは仮眠に入る

俺とヴェルグは魔法で色々と強化可能なので、寝ずの番に徹する

一応ウォルドにも、睡眠魔法はかけておく

起きているのが二人になった途端、ヴェルグが俺の膝の上に載ってきた


「えへへ~、特等席だぁ♪」


「後で皆に知られたら、非難轟々だな」


「知られない様に、記憶改竄とかしておこうかな?」


「サラッと怖いこと言うな!……それで、話があるんだろう?」


ヴェルグがこういった場所でじゃれてくる場合には、明確な理由がある事を俺は知っている

それ以外だと、皆の前でわざとらしく、じゃれてくるからだ

最近、ヴェルグの頭に犬耳が、お尻には犬しっぽを幻視するほどであった

……何言ってんだ、俺?

思考をニュートラルに戻し、ヴェルグを見る


「そんなに見つめられると、照れちゃう♡」


イラッ


俺のこめかみがピクつくと同時に、ヴェルグが本題を切り出す


「そんなに怒らないで。ちゃんと話はあるから」


「で、その本題とは?」


「ん~とね、ミリアが王様に噛みつきかないかな?と」


「あ~……今回は、ありそうかも」


「皆、ラフィloveだもんねぇ…」


「最悪の場合、ヴァルケノズさんを召喚だな」


「止められるの?」


「俺とヴァルケノズさんのタッグで止めるしかないだろうな。ただ、そこまで心配はしてないんだよなぁ。寧ろ、陛下よりも財務卿殿の方が心配かな?」


「なんで?」


「財務卿の気持ちが少しは分かるからだけど、国庫って有限なんだよね。報酬を出すにしても、値切りたくなる」


「理解したよ。そこに、ミリアを筆頭にリリィやティア、後はリーゼ辺りが口撃するわけだ」


「あの人、1日で禿げるんじゃなかろうか?」


そんな他愛もない話をしながら、時間を潰す

時折、ヴェルグの頭を撫で、ヴェルグが穏やかな表情を浮かべ、何故か悪戯したくなって頬を摘み、ヴェルグが軽く怒る

うん…どこぞのリア充っぽいな

こんな現場を世の独身男性が見たら『爆発しろ!!』と言われても、反論出来ん

……皆に知られたら、間違いなくジト目&冷たい視線の総攻撃だ

この事は、二人だけの秘密にしよう

その事をヴェルグに伝えると


「ラフィと二人だけの秘密……えへ、えへへへ」


思いっきりにやけて、上機嫌になる

……あ、これ、もう駄目だわ

完全にヴェルグの嫁フラグ立ったわ

半ば諦めながらも、最後まで抵抗……出来る気がしないのは、何故だろうな


その後は、お互い会話もなく、休憩時間の終了になる


全員に強制起床魔法をかけ、叩き起こす

ミリアの状態は……あ、こりゃ駄目だ

未だに目の奥が笑ってない

笑顔を崩さず、俺とヴェルグの前にやってきて一言


「二人はお楽しみでしたよねぇ?帰ったら、私も労って下さいね?」


俺とヴェルグから、大量の冷や汗が流れ出る

『『何でバレているんだ!?』』と

その会話を聞いたナユも参戦し、プチ修羅場が発生する

そんな光景を温かく見守る(一部男性冒険者は呪詛を吐いていたが)冒険者一同

強制的に話題を切り替え、次の階層の攻略に移る


「インフェルノ!インフェルノ!インフェルノー!!」


「ファイヤーボール!フレイムランス!ファイアブラスト!!」


「右翼!防御が弱いですよ!中央、一気に分断です!左翼!下がらない!」


「ミリアの指揮が鬼がかってる……」


「ヴェルグ、無駄口叩いてると、ミリアさんに怒られるぞ?」


「わかってるよ……ウォルドこそ、攻撃の手が弱くなってるよ?」


「そこ!無駄口叩いてないで、焼却処分ですよ!」


「「はい!!」」


現在、6階層攻略中

敵の数は、1階層のおよそ3倍

はっきり言おう……鬼畜仕様にも限度があるだろうが!

これ、普通の状態の方が俺達以外は攻略不可能なんじゃね?

そう思えるほどの数であった


戦闘から約30分後、どうにか殲滅戦を終える

この階層だけで、かなり疲労した感じがするな

実際はそこまで疲労はしていない

精神的な疲労のせいでそう感じるだけであったが、魔法は魔力と精神力に想像力が必要なので、あながち間違いではなかった


外での時間は、既に1週間近く経っているだろう

このダンジョンがいつまで続くかわからないので、全員に焦りの色が見え始める

第2陣に至っては、約2カ月半も時間が過ぎている

焦る気持ちはわからなくもない

外に出たら、浦島太郎状態とか御免だしな

……浦島太郎状態って言っても、誰も分かってはくれないのがちょっと寂しい


そんなアホな事を考えながら、次の階層へと進む

転移した先は、今までとは違い、石と金属の壁に覆われた部屋だった


「触手も肉壁も無い?」


「攻略したのか?」


「……いや」


男性冒険者の言葉を否定する

部屋の奥、そこに膨大な魔力を持った何かが存在していたからだ

数歩踏み出して前に進むと、部屋が急激に明るくなる

そして、明るくなった部屋にいたのは…


「ギィアアアァァァ!」


「な!?メタルヒュドラ!」


「いや待て!ヒュドラにしては、頭が多い!こいつは亜種だ!」


冒険者の言葉を聞いた敵は、その眼光をこちらに向け、咢を開いてブレスの構えを取る


「マズい…魔法障壁展開!全員、耐えきれ!」


3陣のリーダーが指示を飛ばすと同時にブレスが放たれる……が、その攻撃は当たる事は無かった

全員が後ろに目を向けると、そこにはミリアとナユが障壁を張っていた


「うふふ、手癖の悪い魔物ですね」


「ら、ラフィ!ミリアが怖いから、早く倒して!」


「任せろ!」


ミリアの笑顔に怖がりながら障壁を展開したナユの切実なお願い

俺もミリアには、一刻も早く正気に戻って欲しいし、ナユのお願いを断るなんて出来ない

未だブレスが障壁に防がれる中、俺は全身に障壁を纏わせ、ブレスの中へと飛び込み、一気に距離を詰める


少し近付いて分かったが、こいつもゴーレムだった

但し、8つの頭を持ち、それぞれに1属性のブレスを吐く亜種ヒュドラゴーレム

吐き出されているブレスの属性は基本の7属性に無属性が合わさったブレス

普通の冒険者では、消し炭になる化け物ゴーレムであったが


「悪いな……俺達の安寧の為にぶっ壊れてくれ!」


神大剣で端から順に首を切り落とし、最後に胴体を真っ二つに斬り裂く

直後、魔力を溜め込んだ魔石が暴走を始める


「(ヤバい!)」


ミリアとナユの二重障壁だと破られる!と、直感した俺は


「ヴェルグ!」


彼女の名前だけを呼ぶ

それで理解したヴェルグは、長年連れ添った夫婦の如く、直ぐに意味を理解し、最大障壁を展開する

端から見れば「阿」と言えば「吽」と、分かり合ったように見えたであろう

それだけの余裕があればの話ではあるが


数秒後、魔石は大爆発を起こし、部屋を飲み込む

煙が立ち込める中、最初に声を出したのは


「ラフィ様!!」


今の爆発で、俺が怪我をしたかもと不安になったミリアであった

尚、これがきっかけで正気に戻った模様

その後、次々と声が上がるが


「大丈夫だから。怪我もしてないし、そっちに行くから」


返事をして安堵させる

風魔法で視界を確保し、全員の元に戻る

実は、最後のはちょっとヤバかった

気付くのが遅れていたら、重傷…下手したら重体だったかもしれない

何とか障壁の強化を間に合わせることが出来たので、大事には至らなかった次第だ


そんな中、ナユ、ミリア、ヴェルグ、リアが駆け寄ってくる

あれ?そう言えば、途中からリアって喋って無くね?

そんなことを考えていると、4人が身体を触り始める


「ほら、大丈夫だって」


何処にも怪我をしてないと見せる為、ゆっくりと一回転する

それを見た4人は


「無事で良かったです…」


「流石に肝が冷えました…」


「あれは、ちょっとヤバかったね」


「怪我も無くて、何よりだよ」


ミリア、ナユ、リア、ヴェルグがそれぞれ声をかける

そこでふと、先程考えてしまった事を言葉に出してしまった

そう……つい、出してしまったのだ


「なぁ、リア?なんで途中から喋らなくなったんだ?」


「え!?いや、それは…その」


「ラフィはデリカシーが無さすぎ」


「私もそう思います」


俺の質問にヴェルグとナユが非難する

ミリアはコテンと首を傾げ「何のことですか?」と可愛い仕草になる

そしてリアは…ミリアの方を見てから一言


「えっとね…ミリアの迫力に負けて、何も喋れなくなった」


「あ~…その、なんだ…ごめん」


その言葉の後、ナユとヴェルグから肘打ちを食らう

ミリアは「え~と、何の話でしょうか?」と、惚けているのか、それとも本気なのか、分からない言葉を出す

この場にいた全員がその言葉を聞き、全員の気持ちが一致したのは言うまでも無い事だった


「「「「「「「「「「(彼女ミリアだけは、マジギレさせてはいけない)」」」」」」」」」」と

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