第113話 実際の触手は気持ち悪い

遺跡から転移し、部屋を上がった先は一面ピンク(所々は赤黒い)の肉壁に覆われていた

当然だが地面も肉壁で、歩くたびにブヨンブヨンする

全員の気持ちは同じで、出た言葉もハモる


「「「「「「キモッ!!」」」」」」


この先、この中を進んで行かないと思うと、気が滅入ってしまう

早くも精神攻撃?に悩まされていた

ナユに至っては、女性にあるまじき嘔吐をしている

気持ちはわかるが……


尚、ヴェルグを除く全員が、吐きたいのを我慢していたりする

ヴェルグは吐き気は無い様だが、先程からしかめっ面だ


「(これは一度立て直した方が良いかも)」


等と考えて、先程上がってきた階段を見ると、既に肉壁の中に埋もれていた


「げっ!退路を断たれた!」


精神衛生上宜しくない中、退路を断たれ、進むしかなくなる

どうにか全員が精神を持ち直し、先へと進むのだが


「うう~、歩くたびにブヨンってして気持ち悪い」


「壁に手を突きたくない」


「これ、戦闘があったら地獄だな」


ヴェルグ、リア、俺の言葉に後方の3人は嫌な顔をする

とは言え、探査魔法を使ってみると魔物の反応は無かった

ただ、この部屋自体は結構広い

無駄に歩きたくないので探査魔法で最短距離を提示する


「とりあえず、さっさと抜けよう」


「「「「「賛成!!」」」」」


こうして歩く事数時間

休まずにひたすら最短距離を突き進む

現在、5階層目を踏破中


「ラフィの探査魔法様様だな」


「普通に探索してたら、頭がおかしくなりそうだしね」


ウォルドとナユが冒険者…いや、人としてかな?とにかく、至極真っ当な意見を交わし合う

とここで、一つ考えてしまった

先の冒険者達はどうしたのだろうか?と


「無心だろうな…唯一の救いは、戦闘が無かったんじゃないか?」


「あれ?そうなると、遺跡…いや、ダンジョン化してる遺跡ってかなり広い?」


「もしかしたら、この先で戦闘があったのか、既に戦闘をした後で、俺達が楽をしているのか」


「この先も肉壁で戦闘有りとか勘弁して欲しい」


俺の呟きにウォルドが答え、ヴェルグが締める

ヴェルグの言葉は、この場にいる全員の気持ちだった


精神的な疲弊を軽減するために、雑談しながら5階層目を踏破し、6階層目に入った所で違和感を感じる

俺以外には、ヴェルグとナユとミリアも感じたみたいだ


「何でしょう?変な感じがしたのですが?」


「膜みたいなのを潜った感じ?」


「感覚的には合ってるよ。状況はかなり残酷だけど」


「やっぱりか……ここから先は時間の流れが変わるから、速度を上げるべきだな」


ミリアとナユが感じた疑問にヴェルグが肯定し、俺が状況を説明

ウォルドとリアが特に何も感じていないと言う事は、一定以上の魔力保持が必要と言う事か

俺も事前情報が無ければ、詳細は分からなかっただろうな


探査魔法を使い、6階層目を探査していると8つの反応が出る

どれも単独反応で、無作為に移動している様だ

となると、魔物なのか?


探査魔法で6階層踏破の最短距離を探ると、1つの反応とぶつかるな

全員に情報を渡し、一気に進んで行く


7階層目の階段付近で、先の反応とぶつかったのだが……


「「「「「「…………」」」」」」


その物体を見た瞬間、全員が絶句する

歩いていたのは、金属製の人型兵士ゴーレム

但し、隙間からウニョウニョと動く物体

所謂、触手であった

そして、全員が次に放った言葉は……


「「「「「「キ…キモーッ!!」」」」」」


細い触手から太い触手がゴーレムの中に入ってウニョウニョ動く

隙間から先端が出てウニョウニョ

思わず、火魔法を出しそうになって止める


「あ、あぶねぇ…あまりの気持ち悪さに焼き尽くすところだった」


「気持ちはわかるが、良く止めた。腐っても遺跡内部だからな。火魔法使って延焼や酸欠は避けたい」


「凍らせる?」


「僕は触りたくないんだけど」


俺の言葉にウォルドが注意を促し、ヴェルグが解決案を提示

リアの言葉に誰もが頷く中、ミリアは思考停止中

このままでは先に進めないので、ヴェルグの提案通り凍らせてみたが…


「うわぁ~…氷突き破って来たよ……」


「氷で覆うんじゃなくて、触手自体を凍らせられないの?」


「う~ん……見えてる部分なら出来なくもないけど」


で、ヴェルグの言う通りにやってみる

……効果は抜群だ!…視認出来てる部分だけだが

打開策が浮かばない中、触手に寄生されたゴーレムが攻撃態勢に移行して向かってくる


「キモッ!マジ、キモッ!」


「うげ…地面がグチャってなってやがる」


「重量も結構あるんだね」


「ラフィ様!焼きましょう!汚物は焼却処分です!!」


俺、ウォルド、ヴェルグの言葉を掻き消すように、ミリアが叫ぶ

気持ちはわかるけど、流石になぁ…

チラッとウォルドを見ると、頷いてきた

試しに火魔法を使ってみろって事か


とりあえず、上級クラスの火魔法で攻撃してみる

火魔法が当たると、あら不思議!触手は水分が蒸発して干からび、最後には塵となっていった

それを見たウォルドが一言


「弱点は火か……遺跡内部で火が弱点とか、この遺跡を造った奴は、頭おかしいだろ」


「ゴーレムも溶けてるしなぁ」


空気(酸素と言う概念がないので)に問題は無いが、使うには躊躇われる魔法が弱点とか、普通に厳しいよなぁ

ゴーレムすらも弱点が火なのだから、通常時の状態でも頭おかしい奴が造った遺跡は間違いないと思う


空気が微妙に死んでる中、7階層目の階段を上がると、そこには何も無かった

肉壁も無ければ、物も置いていない

まるで、空き部屋の様な部屋だった


「何も無い?」


「……いや、多分だが」


ウォルドの言葉を遮る様に、赤い魔法陣が地面に展開される


「またかよ!」


「まただよ!クソが!人の言葉を遮りやがって!このクソ転移陣が!」


そして俺達6人は、またも転移することになる

赤い光が部屋を照らし、6人の姿が部屋から消える



時間にして数秒程だろうか?

今回は気絶せず、意識を保って転移出来た様だ

辺りを見回すと……あれ?ミリアだけ?

……まずい!分断された!?


何度見回してもミリアしかいない

これは非常にまずい

最悪な組み合わせでは無いだけマシだが、不安要素が残っている

もしリアとナユのペアだと、生存率が一番悪くなる


「ラフィ様!」


「ああ!急ぐぞ!」


ミリアも気付き、お互いに頷き合って階段を上がる

階段を上がった先は……前と変わらぬ肉壁の部屋と、先に上がって来ていたリアとヴェルグだった


「「え?」」


「「そういう反応になるよねぇ」」


俺とミリア、リアとヴェルグがハモる

声を出す前にウォルドとナユが部屋に到着する

全員が微妙な反応になる


「分断の意味がねぇ…」


「全員無事で何よりなのですが…」


「この遺跡って、ホント!ふざけてるよね!」


「そう言いながら、ヴェルグだって…」


「ちょっ!それは言わない約束!」


「リア、何があったのか、聞きたいなぁ」


俺とミリアが呆れ、ヴェルグが少し怒り、リアが秘密を暴露しようとして、ナユがそれを煽る

ちょっとしたカオスだった


「ヴェルグってね、ものすご~く焦ってたんだよ。『もし、ミリアとナユがペアだったら、生存率が一番低い!早く探さないと!』てね。いやぁ…あの時のヴェルグ、マジ男前!」


「うっさい!男前言うな!僕は色気のある女性だ!」


「それは…嬉しいけど、ちょっと凹みます」


ヴェルグの言葉をリアが暴露し、ヴェルグは照れ隠しをする

そして、冒険者として上位ランクの実力のあるナユが、ヴェルグの言葉に凹んでいた


「私って、信用度0」と


俺とミリアはそんな3人を温かい目で見ていたが、何故かウォルドが黙ったままだった

気になったので声をかけるが、何かを考え込んだまま、微動だにしないウォルド


危険が無いか探知魔法で確認しながら、ウォルドを待つ

特に危険も無いので、ウォルドを待つこと数分、全員がウォルドの傍に集まる


「すまない。少し思う所があってな。色々と仮説を考えていたんだが、一番しっくりくるのが出た」


「それで、どういった結論になったんだ?」


全員が興味津々でウォルドの答えを待つ

ウォルドは一息吐いてから、仮説を話し始める


「良いか?本来は分断して、最低でも1階層はペアで突破が条件だったはずだ。じゃ、何で違うのか?恐らくだが、ダンジョン化で遺跡の創造主の思惑と変わったと思う」


「それには同意するが、思惑ってのは?」


「それは分からないが、防衛機能がかなりの鬼畜仕様だった可能性があるな。あの金属の人型兵士ゴーレムが数千とか?」


「マジか…この面子なら問題無いが」


「全員でじゃないぞ?分断されて数千だ」


ウォルドが言った最後の言葉に、身震いするミリア、ナユ、リア

俺とヴェルグ?余裕ですけど、なにか?


ここまで、精神的に疲れていた遺跡ダンジョンだが、初めてグッジョブ!と思える出来事だった

いや、グッジョブって言うのも変な話ではあるが…


ウォルドの話も終わり、再び進んで行くが、道中で触手入り金属人型兵士ゴーレムの数が増えていた

とは言え、探査魔法に引っ掛かった反応は100弱

階層が広いので、遭遇する数はそこまで多くは無かった

そう…多くは無かったのだが……


「うう、相変わらずキモい」


「うふふふ、全部焼却処分です」


「ミリア?ちょっと怖いよ?」


「気持ちはわかるけど」


リアの言葉から始まり、ミリアが俺に焼却処分のを下し、ナユとヴェルグが結構引いている

ミリア本人はお願いのつもりなのだろうが、言ってる事は完全に命令であった

既に尻に敷かれつつある俺は、ミリアの言葉にはこう答えるしかなかった


「へい!喜んで!」


その言葉にウォルドが温かい目を向ける

その目はまるで「ラフィ、お前もか」と言っていた

この世界の女性陣の扱いは低い?間違ってはいない

ただ一つだけ違うとするならば、婚約者や妻はと言う事だ

いくつかの貴族家ではとも言われてるらしいが


そんなミリアの言葉を忠実にこなす俺

ウォルドも負けじと駆逐していく

そして、転移後の二階層目で、ミリアは絶句する


部屋は一部屋だけなのだが、かなりの広さがある部屋に触手入りゴーレムが並んでいた

目算で、最低でも3千体

それがこちらを認識すると、軍隊みたいな行動を取って進軍してくる


ウニョウニョ、ビシャ!


部屋は相変わらずの肉壁なので、重さのある触手ゴーレムは肉地面をめり込ませ、血肉をばら撒く


「うっ!」


チートな俺でも、一歩引いてしまう

想像以上にグロテクスだった

しかし襲ってくる以上、撃退しなければならない

全員が戦闘態勢に入る中、大丈夫かとミリアの方を見たと同時だったと思う


ブチッ


何かが切れる音が……きっと幻聴だな

ただ、その音を聞いたのは俺だけではなかったようで


「ミ、ミリア?落ち着いて」


「うふふ、私は落ち着いていますよ、リアさん」


「笑顔が怖いですけど」


「いつも通りですよ、ナユさん」


「ミ、ミリア…その声、止めようよ」


「いつも通りの声ですよ、ヴェルグさん」


ミリアさん、完全に限界を超えていらっしゃった

微笑む姿は美少女で、深窓の令嬢と呼ぶに相応しい笑顔であったが、目の奥が笑っていない

全員に冷や汗が流れる


ウニョウニョ、ガシャン!ブシュ!


触手入りゴーレムが距離を詰める


ウフフ、ウフフフフ


ミリアの笑い声が静かに響く


全員の心はこの時、瞬時に一致した!

代表して、俺が号令を上げる


「全員!可及的速やかに前方の敵を殲滅せよ!塵一つ残すなぁぁぁ!!」


「「「「おう!!!!」」」」


そこから僅か10分で、ゴーレム軍団は消滅した

文字通り、塵一つ残さずに……




次の階層に辿り着き、捜索対象者と合流するのだが、ミリアの微笑みと目の奥が変わる事は無かった

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