第112話 肉壁ダンジョン……キモッ!

クリンバソ子爵が物資の準備をしている間、俺は陛下の書斎へと通されていた

そして、そこにいたのは複数名の人物


「やぁ。何とも大変だったね」


「フェル?なんでここに?」


「余が呼んだ。他の者も呼んだが、これで本音を聞けるか」


陛下の言葉に頷く王太子殿下、財務卿、軍務卿、ドバイクス侯爵、そして…


「お前は…また、何かやらかしたのか…」


父上の辛辣な言葉だった




「クリンバソ子爵が何かせぬように、兵士数名を物資調達に加わらせています」


「用心に越した事はないか」


軍務卿の言葉に頷く陛下

書斎には椅子が並べられ、メイドが一人だけついている

本音で話せると言ったが、メイドは聞いて良いのだろうか?

俺の疑問を察した陛下が答える


「そのメイドはな…まぁ、なんだ。余のお手付きだ。後はわかるだろう?」


「え~と……申し訳ありません?」


「謝るな…フェルも、微妙な反応をするでない!」


陛下の何とも言えない言葉に、空気がちょっと凍る

気まずい雰囲気の中、書斎の扉がノックされる

登場した人物は……はい、王妃様でした

場が波乱に満ちそうな予感……


「あら、皆さんお集まりでしたのね。それと……あなたもいたのね。私のお茶も用意してもらえるかしら?」


「はい、リアフェル様」


メイドさん……慌てることなく、お茶を用意して差し出す

王妃、お茶を一口飲んで、一言


「あなた、身籠ったのかしら?」


「何のことでしょうか?」


女の戦いが始まる……と、思ったのだが


「隠さなくて良いわよ?陛下とあなたの事は知っていますから。勿論、咎める気はないですよ。寧ろ、身籠って欲しいのだけれど」


「おい、リアフェル」


「私が知らないはずがないでしょう?それよりも、話を進めなさいな。どうせ、空気が悪くなっているだろうと思って、来ただけですから。私は、このメイドとお喋りしておくわ」


王妃の一人勝ちであった

メイドさんは丁寧にお辞儀をして、リアフェル王妃に書斎の端へと連れて行かれ、お喋りを開始

それを見た男衆はというと


「なんか怖いですな。私も気を付けなければ」


「俺んとこは大丈夫だな。隠し事なんざしてねぇし」


「私もだな」


「私もですよ。ダズバイア卿」


「俺も、ミリア達には全バレしてるからなぁ」


「お主等、さりげなく非難しとるだろ?」


陛下のジト目と溜息後、話が再開される

リアフェル王妃は、見ざる聞かざる言わざる、に徹する模様


「さて、話の続きだが、本音を聞こうか」


「貴族派閥も一枚岩では無いようですな」


「ダズバイア殿、何か掴んでいるのかね?」


「財務卿閣下、この情報は軍務卿閣下も知っていますよ」


「俺に振るかよ…まぁ、あれだ。貴族派閥の主流派はグラフィエルを引き込みたいんだ」


「下の者の暴走ですか?」


「いや、多分だが既定路線に持っていきたかったんだろ。あいつらが想定外だったのは、陛下の対応だったと思うぞ」


「あやつらは、余に思う所があるからの。何かあれば、処断してやるのに!」


「陛下、お言葉が乱れておりますよ」


「グラキオス、この場なら問題無い。お主も、崩せ」


陛下の言葉に皆が驚く

しかし、俺、フェル、軍務卿は適応力が高いのか、直ぐに言葉を崩す

父上たち?クソ真面目なので無理だと思う


「では、お言葉に甘えて。遺跡ですが、恐らくダンジョン化していると思います」


「理由は?」


「普通の遺跡じゃ、有り得なさそうなので」


「……軍務卿はどう思う?」


「同じですな。問題は深度でしょう」


「ダンジョン化すると、階層が増えたり、一部屋が広くなったりしますからねぇ」


「ラフィ、お前が潜るのか?」


「現状、それしかないので。父上が代替案を持っているなら、奏上して見ればどうでしょうか?」


「無いから、聞いているのだが?」


「グラフィエル殿はそこまでだ。子を心配せぬ親はいないからな」


「ありがとうございます、ダズバイア卿。すみませんでした、父上」


「気にしなくて良い。親としては歯がゆいがな」


少しの沈黙、そして、陛下が口を開く


「それで、お主一人で行くのか?」


「いえ、今回は複数名で行く予定です」


「珍しいな。して、誰を連れて行く?」


「ウォルド、ヴェルグ、リア、ナユを含めた5名です」


俺の言葉に全員が驚く

そんなに驚く事……あ、今まで一人でやって来たからか

驚くと共に、疑問のあった軍務卿が質問をしてきた


「なんで今回は5人なんだ?お前さんだけじゃきついのか?」


「理由は簡単ですよ。今回は探索ではなく、捜索ですよね?そうなると、回復薬や護衛役が必要になります。流石に、全員が生存していた場合、一人じゃ手に余りそうなので」


「残りの婚約者達が反発しそうだな」


「そこは……陛下、宜しくお願いします」


「そこで、余頼りか。……わかった。こちらで手を打とう」


「ありがとうございます。それで、探索もついでにやるんですよね?」


「気付いておったか。探索で見つかった物は、別途報酬だな。今回は冒険者ギルドからも色々言われてな。流石に、お主を出さざるを得なくなったから、詫びだ」


「そう言う事ですか。心中お察しします」


「心にもない事を。…ガマヴィチ、文句は無いな?」


「今回は仕方ないかと。見つかった物が、高額で無い事を祈りたいですな」


「遺跡までは、軍から護衛を出そう。内部には入れんが、道中で何かあっても面倒だ。お前だと、皆殺しにしかねんしな」


「流石に半殺し位に留めますよ?」


「それでもやり過ぎだっつうの!」


「我が息子ながら、冗談に聞こえない……」


とまぁ、裏で色々と決めて、翌日に出立することになった

屋敷に帰って説明すると、予想通り婚約者の反発

で、一緒についてきた軍務卿からの説明

更には、陛下のお言葉まで飛び出し、リリィ、ティア、シアは黙ったが


「私は神聖国なので、問題無いですね」


「私も皇国ですから」


「ラナは竜王国です」


「お前らなぁ……」


こめかみをピクピクさせる軍務卿

しかし!こんなこともあろうかと手を打っているのだよ!

数時間後、手紙を持った騎士の一人が屋敷に来る

そこには、神聖国、皇国、竜王国のトップ陣からのお説教じみた手紙が!

と思っていたのだが、神聖国は違っていた


「うふふ、教皇様は、着いて行っても良いそうです」


「ヴァルケノズさーーーーーん!」


思わず大声で叫ぶ俺

尚、リーゼとラナは予想通りの内容だった

こうなっては、ミリアを止める術はない

結果、ミリアも同行することになった

後でヴァルケノズさんには苦情を言いに行く!



翌日、馬車で王城まで向かい、庭に山積みにされた物資を空間収納に納める

その光景をクリンバソ子爵は遠い目で眺めていた

相当な額を出したんだろうな…ご愁傷様です


そのまま軍務省へ向かい、護衛の兵と合流

3日かけて、遺跡へと向かった

道中は特に何も無く、平和であった



遺跡の前では、十数名の兵が遺跡の警備にあたっている

その中に一人、時空間相互認識魔法を教えた者を見つけた

近寄って話を聞き、俺が中に入ることを告げる


「SSSが入るのですか。相互認識が必要ですかね?」


「念の為ですね。報告は、2週間経ってからでお願いします」


その後はお互いに認識魔法を使い、昼過ぎに遺跡内部に入る

まずは、通常の遺跡を探査魔法を駆使して探る

特に何も無い

隠し扉も見つかっている物だけの様だ


次に隠し扉を進みながら探査を使うが、こちらも特に何も無し

隠し扉から続く道は1本道

その先には扉があり、10人ほどが入れる部屋があった


「特に何も無いな」


「問題は、ここからだよね」


ウォルドとリアは警戒度を最大にまで上げながら進む

対するミリアとヴェルグは


「遺跡って埃臭いよねぇ」


「ヴェルグさん、遺跡とは過去の人達の英知なのですから」


ヴェルグの言葉にミリアが窘めている

そして、俺とナユは


「こうも反応が無いとなぁ」


「ラフィ、油断は禁物です」


ナユのおねぇさん力が発揮されていた

油断している弟へ姉の叱責みたいな感じだな

そして6人が部屋に入る

……あれ?なにも反応が無い?


「どういうことだ?」


「起動する手順とかがあるんじゃね?」


「その手順は?」


「聞いてない」


ウォルドの言葉に答えを返すが、全員の目がジト目である

え?起動方法聞いてない俺が悪いの?

そもそも、起動方法なんて聞いてないんだけど?


全員の溜息が出た直後、扉がいきなり締まる

全員が一斉に振り向いた時には扉は完全に閉まった後だった

部屋が暗闇に包まれる

そこへミリアが魔法で光を灯す


「これからどうしますか?」


「扉が閉まったのが起動の前準備なら、これから?」


とここで、光が弱まっていった

代わりに地面が赤く光り、魔法陣が展開されるが


「!?まずい…魔力が吸われている!」


「ちっ!そういう類かよ」


「破壊する?」


「破壊すると、先に行けなくなるんじゃ?」


「どうしますか?」


「魔法薬があるなら、先に進んでも」


俺の言葉に、ウォルド、ヴェルグ、リア、ミリア、ナユの順に答えていく

この時、ある種の勘が働き、一つの答えを出す


「俺が魔力を放出させる。皆は、温存させてくれ」


何か言いたそうな5人だったが、反論が出る前に魔法陣に魔力を放出させて吸わせる

徐々に魔法陣が赤い光を強く放ち、部屋が紅に染まり始め


「何処に飛ぶかわからない。皆、手を繋げ!」


俺の声に全員が手をつないだ直後、全員の姿が消える







「……さま!……ィさま!」


誰かが肩をゆする

「もう、後5年……」とお約束を言いたくなったが堪え、目を開ける

そこには、先に目を覚ました模様のミリアとリアがいた

他のメンバーは……まだ、気を失っている様だ


「良かった……他の皆さんの安否も直ぐに見ますね」


ミリアはそう言って、全員の安否の確認に移る

どうやら全員が気を失っていただけみたいだ

ただ、何故あの転移で気を失ったんだ?

魔力は……う~ん、かなり回復量が落ちている

吸われた魔力は……1万くらいか?


自身の状態を把握してから、全員の状態を把握しに行く

ウォルド、リアは地味に魔力量が減少

ミリア、ナユは4分の3ほどにまで減少

そしてヴェルグだが


「やられたね。結構持っていかれちゃった」


なんと、3分の1にまで減少していた

俺はほとんど持っていかれてないのだが、この差は何なのだろうか?

飛ばされた部屋は、先程の部屋と変わらず

全員の状態も把握したので、部屋に罠が無いか確認する


「なんだこれ?」


「え~と、ハングドマン?」


「ハングドマンって、あれだよね?」


「タロットカードですね」


「なんでこんな名前が?」


「ハングドマン……くそっ!そう言う事か!」


ウォルドが何か分かった様に悪態をつく

その理由を尋ねてみると


「普通は上から下に向かうが、こいつの場合は下から上。若しくは上から下に向かってから逆に進む。今回の場合は下からだが、下から上に向かって終了かどうかわからねぇ」


「続きがあると?」


「下から上の場合、上に転移陣があって、また下に飛ばされてから上に向かう可能性があるな。余程、重要な場所になっているみたいだ」


ウォルドの言葉に、げんなりとする一同

説明の後、会談を確認すると……


「下から上か……先輩冒険者として、一言どうぞ」


「くそったれが!」


「と言う事らしい。で、誰が先頭に立つ?」


先陣を誰が行くか…

ここは、ウォルドかナユの助言が欲しい

二人を見ると、何か話し合っている

数分後、話し合いが終わったようで、二人が布陣を決め、代表してウォルドが話を始めた


「後衛を先に言うぜ。ミリア、ナユの二人は後衛だ。護衛を誰がするかだが、俺かリアだな」


「その心は?」


「ラフィとヴェルグは、単体能力がこの中で最も優れている。殿と先頭にと考えているが、連携を考えないといけない。そうすると、先頭にはラフィとヴェルグが妥当だ」


「殿は?」


「経験の多い俺が受け持つ。必然的に、リアは後衛の護衛になるんだが…」


「僕、接近戦なんだけど?」


「と、こうなるわけだ。で、考えたのが長対強硬陣だ」


「その布陣は?」


「先頭にヴェルグ、次にラフィ、これで前衛と中衛を埋める。リアは中後衛で後衛を護衛しながら、抜けて来た奴のみに対応。殿の俺も後衛の護衛と兼任する」


「後衛の役目はどうなってる?」


「支援と回復のみに特化してもらうが、抜けてきた場合は近接戦だな。悪いが、前衛は孤立無援を前提にしている」


「……俺が前衛。ヴェルグが中衛だ。魔力量的にそっちの方が生存率が高くなる」


「駄目だ。ラフィは当主としての立場もある。これだけは譲れねぇ」


「ちょっと待って。僕に良い考えがるんだけど」


「言ってみな。ヴェルグが一番危険だからな。考慮はする」


「前衛は僕。中衛にリアを置いて欲しい。速さなら、リアも中々だし、前衛の僕とも連携が取れやすい。ラフィは殿と後衛の事も考えて、中後衛に配置すべきだよ。最悪分断されても、全員が生き残る確率は高くなる」


「………良いだろう。ヴェルグの案を採用する」


「待て。それなら、俺が前衛の方が「却下だ!」」


ウォルドの有無を言わさぬ一言で話し合いは終了する

俺はウォルドを睨むが


「睨むな。これがベストだ。分断は中衛と中後衛で考えたからこその採用だ。単体能力が高い者が双方に居れば、必然的に生還率は跳ねあがる。……ラフィ、最悪の場合は俺を切り捨てろ。時には非情さも必要だ」


ウォルドは茶化すことなく、冷徹に最善策を提示する

自分の命を切り捨てろと

ふざけんなよ……そんなこと出来るわけがないだろうが!

俺は戦闘型の冒険者でチートでバグ持ちだ

いざとなれば、どうにでもしてやる!


「(絶対に切り捨てたりはしないからな。無事に攻略したら、後で1発ぶん殴ってやる!)」


そう心に誓って、俺達は階段を上がる

階段を上がった先の部屋は……


「なにこれ……気持ち悪っ!」


一面ピンクの肉の壁だった

あ、中には赤黒い壁もある

……うげ、うねってる…きもっ!




全員が吐きそうになったのは、言うまでもない……

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