第108話 父からの依頼と陛下からの相談

 お見合い大会が成功を収めて4日後、俺は父と陛下に呼ばれた


「(もしや、お見合い大会でやり過ぎたから、お説教?)」


 などと考えていたが、どうやら違う模様

 何があったかは父も知っている・・何をやったか迄は、誰も語らなかったけどな

 午前に父、午後に陛下に呼ばれた

 となると、別件の可能性が・・いや、油断は禁物だな


 午前10時過ぎ、父の屋敷を尋ねる

 侍女に案内された部屋は執務室では無く、応接間であった


「こちらでお待ちください」


 それだけ告げて、メイドは退出する

 応接間に通されたという事は、家族としての話では無い?

 とすると、貴族的か冒険者的な話なのだろうか?

 そう考えながら待つこと数分、父がやってきた


「待たせたな」


 そう言ってから父はソファーへと腰を下ろす

 その姿は父としてではなく、貴族としての風貌であった


「さて、今日来てもらったのは、依頼を受けて欲しいからだ」


「依頼・・ですか?」


「ああ。グリオルスからの相談を受けてな。物と場所だけに、信頼出来る人物に頼みたい」


「遺跡ですか?場所は領内ですよね?」


 他領や他国ギリギリだと後が面倒だからな

 特に境界線の真上とかだと、更にややこしい事態になる

 だが、父上の話は少し違っていて


「お前の言う通り、遺跡だな。場所は帝国との境界線近辺だが、境界線上には乗っていない。ただ、遺跡の一部が魔物の領域内に入っているのだ」


「それはまた面倒な場所ですね」


「そうだろうな・・だから、お前に頼みたい」


「それは家族にですか?貴族としてですか?それとも・・・」


「冒険者グラフィエルへの依頼だ。午後に冒険者ギルドへ出向き、指名依頼として受理してもらう。但し、依頼人はグリオルスで私は代理人とするが」


「兄弟でも独立した貴族ですからね。しかし、何故俺に?」


「下手な冒険者に頼むと、盗掘の可能性があるからな。まぁ、限りなく低い話だが。お前なら、必要な物だったら報告後に交渉するだろう?領地運営は意外に金が掛かるからな」


「そう言う事ですか・・・人の財布を当てにしないで欲しいですね」


「あくまで必要な物だったら・・と言う話だ。必要でないなら、それはそれで構わんよ」


「わかりました。緊急性がある依頼ではないので、明日にはギルド経由で指名が来るでしょう。それでよろしいですか?」


「わかった。グリオルスには、明日には領地に着くと連絡しておく」


「父上・・明日には依頼が来るだけで、クロノアス領に着くのは・・・」


「ゲートで行くのだろう?なら、時間など関係ないではないか」


「普通に馬車で行こうとしたんですが?」


「は?」


「え?」


 まさか、行き方で話が噛み合わないとは思わなかった

 今までゲートを使い過ぎてた弊害だな

 お互い咳ばらいをして、話を再開する


「何で今回は馬車なのだ?」


「婚約者達とゆっくり出かけようかと」


「依頼と旅行を共に行おうとするんじゃない!」


「・・・わかりました。確かに、父上の言う通りですね。では俺からも父上に、冒険者のルールとして一言だけ言わせて頂きます」


「なんだ?」


「抜け駆けして、先に依頼内容を話してから指名依頼を出さないでくださいね。依頼人への規則としてはアウトですから」


「ぬ・・・そうだな。悪かった。この話は聞かなった事に・・」


「いえ、受けますよ。貴族の場合は依頼内容によっては駄目ですが、今回はギリギリって事になるので。今後は気を付けて下さい。父上が後見人ではありますが、既に父上の領地ではないのですから」


「わかった。よろしく頼む」


 話は終わったので、部屋から出ようとすると


「これから、何か用事はあるのか?」


 と、父から聞かれたので


「午後から王城に呼ばれています。時間には余裕があるので、のんびり歩いて向かおうかと」


 そう答えを返す

 そこで父は溜息を吐き、俺を注意した


「お前はまだ、侯爵としての自覚が足りんな。良いか?爵位が上の者が歩いて王城に行くと、下の者もそうしないといけなくなるのだぞ。家族の元へ出向く分には良いが、王城に向かう際は相応の行動を・・・せめて馬車で行くことをするのだ。・・出来れば、家紋付きの馬車を一台は所有するのが最良だな」


 そして、貴族とは侯爵として気を付ける事等々、1時間程のお説教と注意を受けることに

 どうしてこうなった!?



 父の話が終わる頃、時刻は昼前となっていた

 そこで、昼は久々に実家で食べることに

 両親との食事を楽しんだ後、王城へ向かおうとして、父に呼び止められる


「我が家の馬車で行きなさい。こちらの用事に呼び出したのだから、送り迎えは当然のことだしな。王城まで送ろう」


「父上、ありがとうございます。父上は、その後に冒険者ギルドへ?」


「その予定「グラキオス殿はおられるか!」」


「・・・どうやら、お呼び出しみたいだな」


「そのようですね」


 どちらともなく笑い、実家の馬車で父と共に王城へ向かう

 王城へ向かうまでの間は他愛ない話で時間を潰した




 午後2時前、俺は謁見の間にいた

 父は他の貴族達と同じように壁際の方で並んで立っている

 さて・・・一体、何事なのだろうか?


「良く来たな、クロノアス侯爵。楽にせい」


 陛下のお言葉が下り、顔を上げる

 雰囲気的に賞罰ではない様だが、少しピリピリしているか?

 辺りの気配を確認しながら、陛下のお言葉を待つ


「そう緊張せんでも良い。今回は、そなたへの依頼だ」


「依頼・・で、ございますか?」


「うむ。実はな、直轄領にて遺跡が見つかったのだ。第一陣は冒険者を複数名雇い、安全が確保された後、学者達が学術調査をしておったのだが、学術調査中に隠し部屋が見つかってな」


「はぁ・・・ですが、そのご様子ですともう探索はされたのですよね?」


「探索に向かった冒険者だがな、連絡が取れなくなった。現在、第二陣を向かわせたが、未だ連絡が無い」


 陛下の言葉にどよめきが起こるが、俺はそこまで悲観的な感情は沸いていない

 遺跡が大きければ、探索には数か月掛かることもある

 ただ一点、問題はどの程度のランクかと言う事

 ここでの問答は、冒険者としての意見と侯爵としての発言が必要なわけか


「陛下、ご無礼を承知でお聞きします。第一陣のランクと第二陣のランク、それと出立日と何日程連絡が途絶えているかが知りたのですが」


「若造が!陛下は質問を許しておらんぞ!」


「これだから、成り上がりは」


 他の貴族から罵詈雑言が飛ぶ

 だが俺は気にせず、陛下のお言葉を待つ

 その様子に、陛下は小さく笑みを浮かべ


「静まれ!グラフィエルよ、その質問の意図は何だ?」


 おや?陛下の呼び方が変わったぞ?

 これは「気にせず言え」と言う合図っぽいな

 後は、最高ランク冒険者の意見として扱うとの事かな?

 では遠慮なく言うとするか


「私は詳しい場所を聞いておりません。ですが陛下は『第一陣は最初の仕事を達成した』と仰いました。と言う事は、実力は足りていたことになります。しかし、隠し扉が見つかった後は連絡が途絶え、第二陣も連絡が着かないとの事。遺跡探索は数か月掛かることも珍しくありません。なのに、第三陣を考えていらっしゃる模様。少々、急ぎ過ぎでは?と考えました。しかし、陛下が急ぐ理由があるとすれば、合点もいきます」


「ふむ・・・道理だな。しかし、それだけではあるまい?」


 ありゃ?何かバレてるっぽい?

 これ言って良いのかなぁ?

 陛下の雰囲気は・・・ワクワクしていらっしゃるご様子

 はぁ~、仕方ない・・言うか


「それでは、失礼ながら申し上げます。場所は魔物の領域、若しくはそれに準ずる場所。第一陣及び第二陣は全滅したとお考えではございませんか?」


「ふっ・・・戦闘に関しては、場所当てまで聡いの」


「お褒めに預かり、光栄にございます」


「はっはっは!化かし合いはここまでの様だな。第一陣はDランクで編成し、第二陣はCランクで編成した。第一陣からの連絡が途絶えて1カ月で第二陣を送り込んだが、既に2カ月経っておる。第一陣に至っては3カ月になる。これを聞いて、お主はどう思う?」


「いくつかは想像できますが、まだ焦るほどでも無いのでは?とも思えます。先にもお答えいたしましたが、探索には数か月掛かる事もありますので」


「想像した物とはなんだ?」


「ダンジョンの場合は基本、大量の食糧を持ち込み、食料と相談しながら踏破していきます。それは、帰還の方法が無いからです。フェリックの大規模ダンジョンは例外でしたが、その難易度は他のダンジョンを凌ぐほどでした。遺跡探索にも本来のダンジョン踏破と同じ方法で行われます」


「ふむ・・・それで?」


「重要なのは、食料の持ち込み量と帰還方法です。例えば、食料が足りなくなっても、パーティーに帰還魔法を使えるものがいれば、前者の条件を満たす必要はありません」


「第二陣には、帰還魔法が使える者を編成していたはずだが?」


「そうなると、連絡が途絶えた理由は二つ。一つは陛下のお考え通り、全滅した。もう一つは、妨害です」


「妨害・・とな」


「フェリックでの大規模ダンジョンでは、帰還の魔法陣が設置されているにも関わらず、異変が起きてからは使用不可能でした。前例がある以上、何らかの方法で妨害しているのが妥当かと」


 ここまで話、陛下も大臣達も考え込む

 貴族達はざわざわしっぱなしだ

 さて、ここでどういう判断をするのかな?

 俺は直ぐに動けないけど



 ちなみに、帰還魔法とは時空間か無属性で使える魔法だ

 大半は無属性魔法で使える者が多い

 どちらも起点と起点を繋ぐのは同じだが、無属性の場合は予め設置した場所に戻る事しかできない

 時空間は起点軸の場所がわかれば、設置不要


 例えば、無属性の場合はAに設置したら、AとBの間しか繋げない

 時空間の場合は設置が要らなく、AからCとかBからCとか自由自在に繋げられる

 空間認識と空間把握に座標認識と座標把握を必要とするのが時空間のやり方である

 ダンジョンや遺跡探索の場合は前者の方が使い勝手が良いけどな


 閑話休題



 陛下達が沈黙して数十秒が経った頃、一人の貴族が口を開く


「陛下!クロノアス卿の世迷言に惑わされてはいけませんぞ!若輩者の言葉など、信憑性に欠けます!聞けば、フェリックでも活躍したとか言われておりますが、その真偽も疑わしい!」


 この言葉を皮切りに、何人かの貴族が追随し始める


「そもそも、想像と言っていたではありませんか。クロノアス卿の言葉よりも、陛下のお考えを優先すべきです」


「我らは、陛下のお考えを尊重しますぞ」


「陛下は神にも等しい知略の持ち主なのですから」


 この言葉を聞いた陛下は、誰にも分らない様に、俺へ視線を送る

 なるほど・・彼らは貴族派閥の方々ですか

 陛下を煽て、失敗したら徹底的に追及して、利益を得ようとする輩ですか

 少し陛下の苦労がわかった

 そして、信頼出来る者が如何に少ないかも

 そんな彼らの言葉を聞き流した陛下は、再度俺へと問う


「グラフィエルよ。お主ならどうする?」


「行け・・とは、言わないのですね」


「お主は最終だな。手がある間は、そちらを使う」


「承知いたしました。第三陣の派遣をするべきだと具申致します」


「その根拠は何だ?」


「情報収集が主になります。但し、ランクは多少低くても良いので、時空間が使える者を最低二名。帰還魔法が使える者を最低二名。それと、高ランク冒険者でパーティーを組ませます」


「何故、条件付けをした?」


「帰還魔法が使える者は、万が一に備えてです。時空間魔法が使える者については、私が直々にある魔法を伝授します」


「その魔法とは?」


「時空間が使える者同士を把握する魔法でございます。ただ、この魔法には大きな欠点がありまして」


「ほう・・欠点とな?」


「はい。この魔法は素質と両者の合意が必要な魔法になります。魔道具で再現も可能ですが、作成者しか位置を探知できませんので、使い勝手が悪いです」


「情報は持ち帰れるのであろうな?」


「問題ありません。ただ、突入する時空間使いは一名のみになるので、揉めそうではありますが」


「わかった。宮廷魔導士に時空間適性を持つ者がおる。その中から、二名を選抜しよう」


「承知しました。冒険者ギルドには、どの様に依頼しますか?」


「普通に依頼するつもりだが?」


「指名依頼にした方が良いと思います。王家からの指名依頼とあれば、報酬も良いですが箔も付きますので」


「そこまでする必要性があるのか、疑問だな」


「士気や意欲は大切かと。今回は探索に踏まえ、捜索も行わなければなりませんから。同道する二名にも恩賞は必要かと」


「・・・わかった。お主の意見を尊重しよう。ランクはB以上と考えておるが、お主ならばどうする?」


「最低でも、A以上にするべきでしょう。可能ならばSかSSを加えたいですが、SSは厳しいでしょう。S以上は戦闘方面の者が多いので」


「グラフィエルもそうなのか?」


「私も、どちらかと言えば戦闘型になります。探索型の者は、高ランクに行き辛いですから。ですが、仕事にはあまり困っている様子はありません。ギルドも、その辺りのさじ加減が上手いとしか」


「なるほどの・・・褒賞に関しては一考するかの」


「陛下がお考えのままに」


 こうして、謁見は終わり解散となる

 解散後、王城の通路では二通りの視線が俺に注がれた

 一つは貴族派閥

 彼らの思惑通りにいかず、俺を敵対貴族とした様だ

 今回は、失敗しても俺の責任になるからな

 まぁ、何かあれば、俺への責任追及は紛糾するだろうな

 そしてもう一つは王族派

 彼らは賞賛の言葉を送り、味方だと判断した模様

 但し、王族派にも主流派と強硬派がいるので、今後どうなるかは不明ではある

 尚、父は王族派の主流派だ


 そんな父はと言うと、陛下への質問に返答し、意見する間は落ち着いておらず、ギリギリではあるが貴族らしく対応した俺を見て、少し泣いていた

 あ、同じ派閥の人らしい貴族が父を慰めたり、肩に手を置いて励ましたりしてる


 俺って、そんなに貴族として信用が無いのかね?


 そして三日後

 第三陣が出立するが、1か月後に音信不通となる事を、この時はまだ、誰も知らなかった

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