第83話 黒竜と群れ長

 現在郊外

 時刻は昼過ぎ

 こわ~い笑顔をした婚約者に見送られた訳だが、現在は徒歩で皇都から離れて行ってる最中だ


 何故徒歩で歩いているのか?

 それは勿論、竜達の背に乗って現地へ向かうためだ

 皇都より南へ、馬車で3日の距離

 ダグレスト王国寄りの場所に黒竜達はいる


 普通に歩けば6日と言ったところだ

 身体強化して走れば4日くらいかな?

 それでは時間がかかるので、裏技と言うわけだ


 皇都近辺で竜化すれば、要らぬ騒ぎになるので、少し離れた場所で竜化して現地に向かう

 道中、俺の婚約者達について騎士2人が


「しかし、クロノアス卿は羨ましいですな」


「本当に。私も複数の女性と結婚してみたいものです」


「はは・・まぁ、色々とありまして」


「ラフィはモテるからなぁ」


「そういうウォルド殿も、奥様がいると聞きましたが?」


「とても可愛らしい顔をしたお嬢さんだとか。確か、クロノアス卿が産まれてから、直ぐに専属侍女を任された方とか」


「ええ・・まぁ。今年の収穫祭前に式を挙げる予定です」


「それはそれは。おめでとうございます」


「収穫祭の頃には新婚ですか。羨ましい・・私にも誰か来てくれませんかねぇ」


「はは・・まぁその内、良い出会いがありますよ」


 とまぁ、女性関係の話になる

 その間、六竜達は沈黙を貫き、黙々と歩いていた

 小1時間ほど歩き、開けた平原へと突く

 周りには森があり、街道からも少し外れた場所に俺達はいる


「クロノアス卿?ここで何を?」


 不思議そうに質問する騎士に


「出来れば他言無用に願いたいのですが・・まぁ、報告とか必要だと思うので、あまり言いふらさないでくださいね」


「はぁ・・わかりました」


 騎士の了承を得てから、六竜達に竜化を指示する

 竜化するのは2竜

 リュミナとブラストだ

 全員で竜化すると、誰も見てないとはいえ、要らぬ騒ぎになりかねない

 なので、4竜達はブラストの背へ

 俺達はリュミナの背に乗って現地へと向かう





「うおぉぉぉ!」


「こ、これは凄い!」


 竜達の背に乗った騎士のテンションがちょっと高い

 まさか、竜の背に乗って空を飛ぶなど、体験できる事はまず無い

 このテンションも仕方がないと言えば仕方ないのだが


「(初めて派手なアトラクションに乗った人にしか見えない)」


 これが率直な感想だ

 ウォルドは何度か乗っているので大人しいが、たまに震えている

 もしかして、高所恐怖症なのか?

 ・・・まぁ、問題ないな!

 そして一行は、黒竜達を監視している兵の元に着く




「いやはや、まだ驚きが治まらんな」


「私もですよ。フェリックの騎士で竜の背に乗ったのは我々だけでしょうね」


「こちらは多少混乱したんですがね・・・」


 騎士のちょっとした自慢に、嫌みを言う現場指揮官

 どうせバレると思って、直接野営地に降りたのがいけなかった

 新たに竜が2匹増えたと、駐屯部隊が混乱したのだ


 先に攻撃を仕掛けて、黒竜戦の二の舞は御免だと、警戒はするも静観

 そうしたら、竜の背から人が下りてくるので、まぁびっくり!

 そして、先の会話に至る


「それにしても、SSSとは凄いんですな」


 現場指揮官は未だに「信じられない!」って顔をしてるが、いい加減現実を受け入れような

 リュミナとブラストが人化したことでも混乱を招いたが、味方だとわかると警戒だけは解いてくれた

 警戒を解いた理由としては、フェリックの騎士が同乗していたことが大きい

 多分俺達だけでは、信じてもらえなかっただろう


「ひとまず、天幕へ。ご説明いたしますので」


 指揮官に案内され、天幕に入り、現状を聞く


 黒竜達が現れたのが約1か月前

 ランシェスで武術大会が開催されていた頃

 今の場所に住み着いてから、黒竜達からの攻撃は無し

 縄張りを決めたらしく、一定の距離まで近づくと威嚇される

 その際に、兵士数名が軽傷を負う

 以降は監視のみ


 そして今に至るわけだが、指揮官曰く、住み着いた場所が悪いらしい


 住み着いた場所は、フェリックで男爵位を持つ領主の領内で、魔物領域との中間になる

 近隣には村もあり、流通に支障が出始め、冒険者も魔物の領域に入れなくなり、経済にも大きな支障が出始めたらしい


「この話は、ご内密に」


 と、もう一つ情報を話す指揮官

 現在被害にあっている男爵領だが、国の恩情もあり、全ての税が免除されているらしい

 本来なら、俺達への依頼料も男爵家持ちなのだが、王家が全額立て替えると書状が届いたとの事だ


「明日は我が身・・かもしれませんからなぁ」


 なるほどね

 国としては男爵領に引き付けておいて、その場で解決させたいわけだ

 下手に皇都近郊に来られるよりは、金銭を出した方が被害は少ないわけだ


「現状は理解しました。それと確認なのですが、そちらの部隊からどなたかついて来られますか?」


「部隊全てを動かすのかね?」


「いえ、それでは相手を刺激します。出来るなら4~5名までに抑えて頂けると・・」


「それならば、私が行きましょう。副官は万が一に備えて残れ。私に何かあれば、貴官が指揮をしてまとめよ」


「承知いたしました。人選はこちらで直ぐに選抜します」


 敬礼をし、副官は選抜をするために、天幕を後にした

 俺達は暫く待機になったので、軽い昼食を摂って待つ

 30分後、4名の選抜者が副官と共に天幕へ入ってくる


 天幕内で最終確認

 黒竜の群れへ向かうのは、俺、ウォルド、六竜、騎士2名、現場指揮官と選抜者4名の計15名

 若干多い気もするが、過去の時とあまり差は無いので許容範囲だだろう

 当時とは若干異なるが、戦闘になっても守り切れると思う


 次に行動についてだが

 こちらからの攻撃は禁止

 武器は携帯していくが、戦闘にならない限り抜かない事

 威嚇は、攻撃ではないので間違えない様に


 そして目的を告げる


「竜は人語を理解できる。群れを率いているなら確実に人語は喋れる。故に目的は対話だ」


「少し、よろしいですか?」


 選抜者の一人が訊ね、質問をする


「人語を理解し、喋れるとして、対話は可能なのでしょうか?」


「それについては、基本問題ない。俺はここにいるすべての竜達と対話した。まぁ1竜、フルボッコした奴もいるが」


「主様。今この場で言わなくても・・・」


 選抜者の質問に答え、緊張をほぐす為に笑いを入れたつもりだったのだが、笑ったのはウォルドと5竜のみで、他の者は畏怖していた

 バフラムよ・・すまん!


「で、では、明朝出発で・・「いや、今から行く」」


 この言葉に即座に反応したのは、やはり指揮官であった

 彼は今からでは危険だと訴えるが


「だからこその六竜だ。流石に同じ竜族相手へ問答無用は無いだろう。・・・まぁ、仮にしてきたら、滅びを与えてやるけど」


 そう返し、ニヤリと笑う俺

 天幕にいた誰もが、ゾクッと悪寒が走り、冷や汗をかく

 ただ同時に頼もしいと思ったりもした


 天幕を出て、黒竜の群れへと向かう

 群れの縄張りへの境界線は、普通に歩けば1時間ほど

 しかし身体強化なら3分の1まで短縮して行ける

 なので当然、後者を選択し、縄張りの境界線へ


 境界線へ辿り着くと、早速群れの竜が威嚇してくる

 なのでこちらも対処方法を使用


「皆頼むよ」


 俺の頼みに呼応し、六竜が竜化する


 さて、先程から人化、竜化と説明しているがこれには訳がある

 六竜は種族が竜族から竜人族へと変わってしまっているからだ

 これは推測なのだが、竜が人化を会得したので竜人になっていると思われる

 人が竜化を覚えたら、種族名は恐らく人竜族になるのではないかと思う

 どちらも初めての事なので、確証はないが


 閑話休題


 竜化した六竜達は黒竜達を威嚇

 すると、1匹の黒竜が前に出てくる


「他種族の竜達が何用だ?事と次第によっては、一戦交えることになるが」


「我らの主が黒竜族の群れ長との対話を望んでいる。他の者は護衛と見届け人だ。こちらに戦闘の意思はない」


「・・・暫し待て」


 そう言うと黒竜は飛び立って行く

 待つこと15分

 先程飛びたった黒竜ともう1匹の黒竜が大地に降り立つ


「我が黒竜族の群れ長だ。元黒竜族の長だが、今はこの小規模な群れの長をしている」


「初めまして。俺が六竜達の主でグラフィエルという。いくつか聞きたいことがあるんだが、答えてくれるか?」


「・・・よかろう。何を聞きたい?」


 そして始まる対話

 俺以外の人間は間近で見る黒竜に畏怖しているが、構わず話を続ける


「まず一つ目。何故ここに群れを連れて住み着いた?」


「黒竜族は分裂した。我は敗れ、長としての立場を離れた。今この群れにいる竜達は、新しい長に従えぬと我についてきた竜達だ」


「分裂した?おかしいな・・本来は、次代を決めるんじゃないのか?」


 他の六竜達は全竜が跡目を決めてきた

 黒竜族だけ違うのか?

 この疑問は直ぐに解消されることになるのだが


「若い竜が分不相応な力を手に入れおった。その力は禍々しく、やがて黒竜族は滅びると感じた。故に戦い・・敗れた」


 ・・・話は理解できる

 でも、なんか歯切れが悪いというか隠してるというか

 ここは一つ過去の話を出してみるか


「俺は過去に黒竜を一匹殺している。それについて思うところは?」


「・・・・一つ確認したい。それは人族の国へ魔物を率いて襲った竜か?」


「そうだ。対話を試みたが、弱肉強食を理由に対話を拒んだ。だから戦い、殺した。文句があるなら聞くが?」


 群れ長は暫し沈黙し、何かを考えた後、口を開く


「その件については、そちらに非は無い。寧ろ良く止めてくれた。感謝する」


 へぇ・・怒るかと思ったが、まさか感謝されるとは

 恐らくは、謝罪も込みの感謝だろうな

 となれば、話が通じない相手ではないな


「感謝と謝罪を受けよう。それで・・話す気になったか?」


 少し上から目線で〖何を隠している?〗と問いただす

 群れ長はまたも沈黙し考え込み、次に想定外の言葉を口にする


「我に勝利した竜だが、一部が灰色化していた。我は危険だと判断し、我に同調した数少なき竜達と幼竜を連れて袂を絶った。今この場にいる竜は行き場のない竜達だ」


「灰色・・だと?それは確かか?」


「間違いない。皮膚の一部とブレスが灰色だった。そして・・元我が部族の3分の2が既に汚染されている」


「そんなばかな・・・」


 斜め上過ぎる予想に絶句する俺

 周りの者達も全員が絶句している

 本物の色持ち竜の灰色化

 1匹でさえその脅威は計り知れないのに、それが3分の2

 絶望と呼ぶに相応しい情報だった


 だが俺は、絶句しながらも思考加速して思案する

 そして、とある可能性を導き出す

 正直、ばかげた可能性だが、今までの情報を精査すると捨て切れない可能性

 だから俺は群れ長に確認する


「情報を提供してくれ。代わりに対価を渡す」


「その対価とは?」


「お前達の新しい縄張りだ。条件付きではあるが」


「先に確約をもらえるなら、協力しよう」


「わかった。悪いが、俺以外の人間は暫くこの場で待機となる。丁重に、怪我をさせない様にしてほしい」


「承知した。お主が戻るまでは、一切の危害は加えん。但し・・」


「わかっている。こちらから先に手を出した場合はその限りではないんだろう?」


「わかっているなら良い。吉報を待っている」


 こうして、黒竜の群れ長との対話は一度終わる

 そして、次の交渉に向かうわけだが、その前に・・


「皆さん。聞いての通りです。食事の用意などは大丈夫ですから、少しの間、待機をお願いします」


「クロノアス卿はどうされるのですか?」


「少し厄介な交渉をしに行かないといけなくなりました。恐らく、1時間以内には帰ってこられると思います。遅くても2時間はかからないでしょう」


「・・・わかりました。では、2時間で戻らなかった場合は?」


「六竜達も待機させますので、戻らなければ彼らと共に一度本陣へ戻ってください」


「主様。それでしたら、黒竜の奴に自分が話を通した後、引き下がります」


「頼めるか、バフラム」


「お任せください。奴とは何度か戦った中でもあります故、自分の言葉を蔑ろにはしないでしょう。・・・それにしても」


「どうした?」


「いえ・・奴も老いたな・・・と」


 少し寂しそうにバフラムは呟いた

 きっと彼は、とても強かったのだろう

 そんなバフラムに俺は、空間収納から酒樽を10個出して


「昔話に花を咲かせるのも一興だろう。それをやるから、話をしに行ってこい」


「主様・・感謝致します」


 バフラムは群れ長を呼び止め、六竜と人間と黒竜達を交えた酒盛りが行われた

 俺はゲートを開き、交渉相手の元に向かおうとして


「人間はあまり飲みすぎない様に」


 そう釘を刺して、その場を後にした


 次の対話の相手は・・我が国の頂点、テオブラム・ラグリグ・フィン・ランシェス陛下だ

 気を引き締めて交渉しないとな





 ・・・そう言えば、陛下に本気で交渉とか、何気に初めてだったりするんじゃね?

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