第71話 帝国冒険者ギルド

年が明け、新年を迎え、7日間は久しぶりに何もせず、のんびりと過ごした

1日~3日の間は、使用人も最低限しかおらず、実家に帰省している

今屋敷にいるのは俺、ナユ、ナリア、執事と数名のメイドだけである

明日には全使用人が帰ってくるそうなので、少し賑やかになるだろう


そういえば6竜達と4神獣に変化があった

6竜達は身体調整を覚え、現在は屋敷内でサイズを変え暮らしている

4神獣はルリとタマモが人化の魔法を修得し、年末からずっと人型で過ごしている

フェニクはもう少しかかりそうだが、ハクは人語を全く覚える気配がない

理由は人語の勉強を嫌がってしないからである

魔法の修得条件は2種類あり、レベルが上がるか条件を満たすかになる

人化の魔法は後者で、その一つに人語理解が必須みたいだ


人化魔法を覚えて以降、ルリとタマモは人化以降は俺にべったりである

唯一の救いはパパと呼ばない事であろうか

現在の呼び方は「お兄ちゃん」か「ご主人」であるのだが、容姿が5歳~7歳位なので、ご主人ではなくお兄ちゃんにするように言い聞かせた

人前で、幼い容姿でご主人呼びは色々誤解されそうなので・・・

婚約者達も妹が出来たようだと、仲良くしている

そんなルリとタマモを見たフェニクはやる気を出し、今も猛勉強中である

ハクも羨ましいのだろうが、勉強が嫌なのもあり苦悩していた


4日~7日は俺の両親に挨拶に行ったり、婚約者達の家に挨拶しに行ったりである

10日目は王城でパーティーがあり、俺を目の敵にする者、友好な者、利権に絡ませて欲しそうな者等と様々で、他愛もない話をして終わらせる

一部驚いていたのがドバイグス家令嬢との婚約である

これが引き金となり「我が娘とも!」と婚約話を持ち掛けられ、断るのに苦労した


パーティーも無事に終わり、その後は冬と言う事もあって冒険者家業もお休み(稼げてる人限定)

一月ほどは趣味と実益を兼ねた新作料理や調味料の開発に勤しんだ

ここ1か月で色んな料理や調味料が出来たが、それは機会があれば話そう


2月の中旬に入り学院が再開される

短い期間の再開は1年の成果の発表を提出する期間である

最上級生のみ冬季休暇前に発表し、3月初旬の卒業迄に片付けをしなければならない

申請すれば1年は猶予期間も貰えるのでそこまで焦ってはいないそうだ

俺達Sクラスは、皆それぞれ提出をしているのだが、俺は少し悩んでいた

どれを成果として提出するか難しいのだ

色々と秘密もあり、詳細には書けないので悩んでいたが


「今年は、4国同盟を成果として取り上げます」


と、学院側から言われた

詳細な報告は国から提出されたと言われ、来年も期待してると言われて終わったのだ



3月に入り、いよいよ帝国に向かう日がやって来た

今回は冒険者パーティーとして向かう為、表向きは依頼無し

裏ではウォルドに依頼がなされていて、後から聞いた話では、リアとナユの護衛を王家からの指名依頼で受けていたそうだ

理由は言わずもがな、俺の婚約者に何かあっては一大事だからである

まぁ、何かあれば帝国を焦土にするつもりだったので良い判断だと思う


お供の竜はリュミナとバフラムにした

リュミナは帝国領に光竜の住処があり、詳しい為で、バフラムは竜達の中でも得に攻撃特化な部分が多い為だ

いざとなればバフラムをけしかけるつもりだったのは、先の焦土発言で分かって貰える事だろう

リュミナには俺とウォルドが乗りバフラムにはリアとナユが乗る

進化し、昇華した竜達は、空力制御を全竜が修得しており、快適な空の旅が約束されていた


春とは言え、まだ寒いので防寒具は必須であるのだが、そこは俺の出番

冷暖房完備の外套を作っていたので全員に渡す

道中は拡張馬車を宿代わりにするのでかなり快適な旅になるだろう

1週間かけて、ガズディア帝国の帝都ギルザスへと出発する


1週間後、一行はガズディア帝国の帝都ギルザスへ無事についた

道中、冒険者のパーティーが明らかに格上の魔物と戦闘していたので助けに入った

魔物はクリスタルドラゴンと言う名の魔物で、別名は水晶竜

ドラゴンと名前は付いているが全くの別物で、核が存在しており、破壊すれば良質な水晶が手に入る魔物である

強さはSで希少魔物であり1体で一財産になる

個体差はあるが、小さくても大白金貨数枚は確実に手に入る魔物だ


戦闘してた水晶竜はそれなりに大きく黒金貨に届くかどうかであった

冒険者達は劣勢で、既に戦闘不能者も何人かいる

実力主義な帝国ギルドの冒険者で、命に危険がある者がいないのは流石であった

しかし、撤退しようにもできず、全滅は時間の問題であったところを助けた訳だ

水晶竜を軽く片付け、水晶を回収し、治療をし、その場で別れ、帝都に向かって今に至る


帝都は王都よりも大きく、人種も多彩であった

王国ではあまり見かけない亜人族もいるのだが、よく見ると奴隷の様だ

帝国は人族の奴隷は基本禁止で、犯罪奴隷と借金奴隷に加え、自ら奴隷になる場合のみ例外として認められている

帝国には非合法の奴隷売買組織もあるそうで、誘拐には気を付けないといけない

まぁ、俺に牙を向くなら全力で潰すがな!


亜人族は半分が奴隷で、もう半分は普通に暮らしたり、冒険者をしている様だ

帝国にも奴隷法があり、無下に扱うのは法に触れるので衣食住は完備されている

されているはずなのだが・・どうにも奴隷たちを見ると、そうでは無い様に見える

周りを見渡しながら俺達は帝国冒険者ギルドへと着き、扉を開けて中に入る


ギルド内は入って来た俺に視線を向ける

やはりどこのギルドでも同じかと思い


「(今回はどんな奴が絡んでくるかなぁ)」


と内心は楽しんでいた俺を、ウォルド、リア、ナユの3人は呆れて見ている

しかし、どういう訳か一向に絡んでくる気配がない

でも、興味津々って感じはしてるんだよなぁ

そう感じながらも、何事も無く受付へと到着し


「ギルマスからの召還に応じたんだが」


そう言って、手紙を渡す


「確認しますので、少々お待ちください」


受付嬢は手紙を受け取り、階段を上がって行った

帝国ギルドの受付嬢は他に比べて愛想は無いが、それなりには出来る人物っぽい

振舞いに隙が無く、一目置かれている感じだ

上から降りて来た受付嬢が


「確認の為、冒険者カードの提示をお願いします」


と求めてくるので応じ、確認後


「あちらにてお待ちください」


と、併設されている酒場を指定されたので、酒場へ向かい、待つ事とする

そこで、帝国に来る際に助けた冒険者達と再会する事になった


俺達よりなんで先についているのか疑問だったが、全員が再度お礼を言ってきたので、とりあえずはそれに応え、注文しようとすると「奢らせて欲しい」というので、それなりの酒とつまみを用意して貰う

成人はしてないが、冒険者足る者、酒を飲めなくては話にならない

どうせ酔わないのでグイッと半分ほど空け話を聞くことにする

尚、リア以外は酒で、リアは果実水を注文している


話を聞くと、帝国の郊外に魔方陣を設置しており、転移で帰還したそうだ

ちょっと気になったので詳しく聞きたい


「話せないなら構わないけど」


と言えば、そこまで大層な物では無いらしく、教えてくれた


話を聞くと、原理としては召喚魔法を利用しているっぽい

拠点の魔方陣を設置し、別の場所で魔方陣を使って拠点へと帰って来るそうだ

拠点の魔方陣を破壊されるか設置してないと使えなくなる

拠点魔方陣への召喚みたいな感じかな?

逆召喚とも言うべき代物だが、消費魔力は運ぶ人数にも依存するそうで、やはり転移系より召喚系の亜種って感じだな

それを使い、先に戻って来て、報告をし、遭遇戦と助けられた事を話したそうだ


「(あ~、それで絡んでこなかったのか)」


と、納得してしまった

ギルド内なら半日もあれば噂は広まるしな・・・

その後、他愛もない話をしていると、上から一人の男性が降りてきた


歳は40代位だが、一目見て強い!と、瞬時に悟った

明らかに纏っている雰囲気が他の冒険者と違う

恐らくギルマスだと思うが、ちょっと睨み合いみたくなってしまい、沈黙が流れる

沈黙が続く中、不意に向こうから喋り始めた


「君がグラフィエルだね?俺は帝国のギルドマスターだ。先ずは彼らの救助について礼を述べさせてもらう」


「いえ、お構いなく。こちらも通りすがりに見つけただけなので、彼らの運が良かっただけですよ」


お互いそっけない感じで会話をすると、ギルマスがニヤリと笑いだし


「一つ、手合わせをしないか?手紙の用件も似たようなものだし」


「構いませんが武器は訓練用の木剣ですか?それとも・・」


「無論、刃先を潰した武器だ。その方がより実践的だろう?どちらかが降参するか戦闘不能迄で良いかな?」


「それで良いですが、場所は?」


「ギルド内の鍛錬所を使う。昇級試験の一部などでも使われているから、それなりに広いぞ」


「わかりました。ああ、武器はいくつか用意して下さい。魔法はどの程度まで使用可能で?」


「直接攻撃は無しだ。補助系統と後遺症が出ない異常系程度にしておこうか」


俺は了承の旨を伝え、内心では溜息を吐きつつ、ギルマスの後に続く

このギルマス、どうも脳筋っぽいんだよなぁ

模擬戦して強さを図りたいのはわからなくもないが、難しい依頼でも実力は計れるんじゃね?と思う程にギルマスはウキウキしていたのだ

ギルマスと俺が模擬戦をすると聞いた冒険者達は観戦する様で、鍛錬場の上の方に集まり・・賭け始めた


賭けの倍率は、ギルマス1.1倍、俺10倍であった

「(これは稼いでおいて損はないな)」と思い、3人に金貨1枚を渡し、俺に賭ける様に言っておく

この賭けは金貨1枚だけの賭けで、総掛け金から分配みたいだ

俺に賭けてる奴は皆無なので俺の総取り決定だな

助けられた冒険者達は賭けに参加しない様で、純粋にどれくらい強いか見たいっていう、好奇心と言った所かな?


ギルマスと俺はお互い鍛錬場に入り、軽く準備運動して武器を選ぶ

審判はサブマスがするそうだが、このサブマスは話を聞くとつい最近までSランクの冒険者だったそうだ

実力的にも申し分ないだろうと言われ、審判について了承する

お互い一定の距離を取り、審判が開始の合図をする


先手必勝!一気に距離を詰め、攻撃に移る

俺の武器は片手直剣の二刀流に対し、ギルマスは片手直剣に盾

双剣を同時に振り、剣と盾で受け止め、お互い拮抗する

この攻撃でギルマスの力量を大体見抜いたが、やはり帝国のギルマスである

第一線からは遠ざかってはいるのに、SSとして申し分ない強さを持っている

一方ギルマスは・・この程度かって顔しているな

俺がすっげぇ手加減してるのに気付かないのはダメだろ・・・


俺のステータスはErrorになっており、相当力を抑えているのだが、それを数値で表せと言われたら0がいくつ付くかわからない程である

自重しないと言いながらも力を抑えているのは、世界を壊さない為だ

力の開放加減は全智神核に任せているが、勘違いされているようなので、ちょっとだけ開放して、圧倒する事にしよう

拮抗させてた剣を弾き、その勢いを利用して後方へと飛ぶ

着地と同時にちょっとだけ力を開放して、一気に飛び込む

ギルマスも後方へ飛びつつ盾を構えていたので、蹴りを盾に放ち、一気に砕く

衝撃で更に後方へ吹き飛ばされ、転がるギルマスだが、直ぐに体勢を立て直し、こちらへと向き直るも、既に俺はギルマスの背後に立ち、双剣を両肩へと置く

殺気もかなりきつくしてあり、冷汗が止まらない様だが、敗北は理解したみたいだ

左腕は折れているので右手の剣を床に投げて右腕を上げ、holdup状態になり


「降参だ。まさか、読み間違えるとは・・・年は取りたくないものだな」


ギルマスは負けを宣言して模擬戦は終わる

賭けは当然、俺の一人勝ち・・ではなかった

ウォルドが実費で賭けていて、総掛金の半分しか手に入らなかった

ジト目で睨むも、ウォルドはどこ吹く風である

模擬戦後、ギルマスの折れた腕を治療するとまた驚かれる

戦闘能力に加え、治癒魔法も強力となれば継戦能力が半端ないからだ

外野は放心状態であるが助けられた冒険者達は何か頷いていた

その後、ウォルド、リア、ナユもギルマスと模擬戦をし30分後に執務室で話をすることになった


執務室で茶を飲みながら話をする

帝国のギルマスはいくつかの依頼達成を条件にEXを容認するそうだ


「ランシェスと帝国が容認すれば反対派も複数が意見を違えると思うが」


とギルマスは言うが、保留派が賛成に回れば、ほぼ容認されてしまうので関係ない

唯一の懸念としては、本部が強硬手段を取って、容認しない事だけかな?

俺としては、EXとかどうでも良いので、もう一つの用事を済ませたら帰ると告げ、執務室を後にしようとして、ギルマスに呼び止められる


本来の用事は依頼が本題で、ついでにEXへのテストも模擬戦し、さっさと終わらせてしまおう考えたそうだ

しかし、予想外の強さだったので


『容認するつもりの無かったEXを容認するから依頼よろしく!』


とギルマスは言いたかったのだが、俺の態度が素っ気ないので慌てたみたいだ

ため息を吐きつつ依頼内容を聞くと、ゴーレムの討伐であった

しかも、何の変哲もない普通のロックゴーレムで、単体でB位の強さが5体位纏まっていても、Aなら楽に対処できるはずなのだが?


更に詳しく聞くと、渓谷内の複数個所にゴーレムたちが密集しているそうだ

一つの場所にではなく、複数個所に少なくても15体以上で、密集場所は既に6つになっており、100近いゴーレムがいるらしい

依頼はその一つを討伐して一掃するものだが、15体以上だと流石にAでは荷が重い

Sに頼みたいが、生憎とダンジョンに篭っているそうだ

報酬は結構良いから、3人と相談し、引き受ける事にした


出発は、こちらの用事が終わってからにはして貰った

その用事がとてつもなく面倒なので、先に片付けておきたいのだ

ギルマスも構わないと了承したので、数日中に依頼を受けに来ると伝える

ギルマスは、ギルド運営の宿のVIP部屋を用意してくれるそうで、有難く使わせてもらう事にする

法はあるけど、治安がちょっと悪いので、安全を取るならこっちの方が断然良い

ギルド運営で、VIP部屋の客に犯罪を起こす奴は早々いないからな

ギルドを敵に回して、国に追われて、となれば生きていけないし・・・


執務室から出ると、助けた冒険者の数人が案内してくれると言うので、遠慮なく申し出を受け、ちょっと観光しつつ宿へと着く

話は既に来ているようで、最上階の部屋へと案内される

宿屋は5階建てで、最上階は二部屋しか無く、どちらもVIP部屋である

部屋の前には護衛もおり、交代で見張りに立つ、最上級宿屋と同じ徹底ぶりだ

他に食事や風呂など宿泊の際の説明を受け、案内が退出してから部屋に荷物を置き、俺達4人は寛いだ


ウォルドは俺達に遠慮していたが、今回はあくまでもパーティーで行動するので、同じ部屋である

但し、二人にちょっかいを出した場合には容赦しない

気を付ける様に告げると、大量の冷や汗を流しつつ首を縦に何度も振っていた


明日も面倒事だぁ!っと半ばやけになりつつ風呂に入り、夕食を取って就寝する

まさか、また朝一の戦闘になるとは、この時は誰も知らなかった

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