第69話 色々な事の顛末
王城・謁見の間
俺は臣下の礼を取り、陛下を待つ
謁見の間にはあまり人がおらず、少し珍しい
ほどなくして陛下が玉座に座り、謁見が始まる
「クロノアス卿。この度は大儀であった。して、どうであったか?」
「失礼ですが陛下、この場で話してもよろしいのですか?」
「問題無い。この場にいる者はあの地を知っておる者だけだ」
「承知いたしました。では、まずこちらを」
そう言って聖魔剣を取り出し、陛下に見せる
大臣が持ち上げ、渡そうとするので、直ぐに止める
周りが訝しむので事情を説明し、近衛筆頭が試しに触れると、その場に蹲り膝をつく
何故、俺は平気なのか?と問われ、どう答えるか迷っていると、陛下が助けを出してくれた
元々、聖剣も認められなければ、引き抜くのは不可能らしい
俺は認められたから大丈夫なのだろうと擁護してくれたのだ
聖域が迷宮化していたことも話し、聖剣が迷宮攻略の証になっていたことも話す
聖域の迷宮は消滅し、元に戻ったことも伝えた
この話はあの5人の証言もあったので問題無く終わる
謁見はこれにて終了かと思ったが、寝耳に水の話が始まる
「グラフィエル・フィン・クロノアス辺境伯は勅命を見事果たし、役目を全うした!余より褒美として、聖魔剣と侯爵の地位を贈る!」
なんですと?全く聞いてませんが!?
陛下の横にいる王妃が、肩を震わせて笑うのを堪えている
クッソ!王妃の差し金か!
断るのは無礼なので受けるしかない状況である
「グラフィエル・フィン・クロノアス。有難くご拝命申し承ります」
良く見たら陛下も笑いを堪えてやがる
この夫にしてこの妻か・・似た者同士だよ全く
これで謁見は終わり、帰路に着こうとすると、両脇を固められ連行される
あれ?前にもこんなことがあったような・・・
応接室には婚約者が勢ぞろいである
何故、皆がここにいる?
状況が全く理解できないまま、ソファに座るよう促される
メイドさんが紅茶を入れて差し出してくれる
お茶請けは・・・クッキーか
さりげなく皆を見るとミリアと目が合ったので、このお茶請けはミリアの手作りか
クッキーを口に含むと・・ん?これは、ミリア作じゃない?
だとしたら誰が作った?リリィやティアでもない
ラナはクッキーよりケーキ系だし
リアとナユはお菓子系はあまり作らない
全く解らんがミリア、リリィ、ティアは違うと断言できる
ラナ、リア、ナユかとも思うが、なんか違うんだよなぁ・・・
悩んでいるとそこに陛下と王妃とダズバイア侯爵と・・ノスシアちゃん?
そこで何かが閃き、まさかと思う
それは正解で、この後の話の序章であった・・・
現在、応接室ではとある話が行われていた
6人の婚約者は、怒ってはいないが半分呆れている
俺に至っては居心地が悪い
何故こんなことになっているのか?
話は家庭教師終了後にまで遡る・・・
家庭教師が終り、封印の聖域へ向かった後、ミリアはノスシアちゃんに魔法を教えに行ったが、ノスシアちゃんは僅か半日の独学で適性属性を超級まで覚えていた
どうやったのか誰にも言わず、俺にしか言わないと頑として口を閉ざしたそうだ
更にミリアの授業をボイコットし、郊外に勝手に出る始末との事
俺が帰ってきたと知れば、俺がいる先に乗り込もうとしたそうだ
あ~・・兵庁に乗り込もうとしたのね・・・
で、父親であるダズバイア侯爵が明日、俺が陛下へ謁見しに王城に来るから、その時に会えるようにすると言って今に至ってるとの事だが・・・
俺はノスシアちゃんを見ると俺をじっと見て目線を外さないのだ
「ダズバイア侯爵?これは一体どういう事なんですかね?」
我慢できずに尋ねるがダズバイア侯爵は
「わしも想定外だったが、娘はクロノアス卿にご執心みたいだな。貴族としては嬉しいが、父としては複雑だよ・・・」
そう言って、ちょっと落ち込むダズバイア侯爵
6人の婚約者は・・他人事の様にするなよ・・・
対する陛下と王妃は頭を抱えていた
ドバイスク家は中立派筆頭で貴族寄りである
対する俺は王族派であり、このままだと派閥がどう転ぶかわからないのだ
俺もため息を吐きたいが、ノスシアちゃんの前では流石に・・
そこでダズバイア侯爵に交換条件を出す
「あの話、陛下と王妃にもしてください。俺はノスシアちゃんに叱る部分は叱りますので・・」
「それしか状況は打破できないか・・クロノアス卿、申し訳ないが頼む」
そう言って、ノスシアちゃんとミリアを連れて別室に向かう
残りの婚約者もついて来ようとしたが、俺とミリアの目がダメと物語っているのに気付き、応接室で待機する
リリィとティアには居て貰わないと困る部分もあるので良い判断だ
別室に入るとノスシアちゃんは思いっきり抱き着いてきた
顔が腰位にあるのでしがみつくが正解かもしれないが
まずはノスシアちゃんにどうやって魔法を覚えたか聞くと・・俺はこめかみをピクピクさせながら精霊召喚を行う
出てきたのは7大精霊達だが、ノスシアちゃんに魔法を教えたのはその眷属精霊なので、呼ぶ様に伝える
出てきた精霊は俺と面識はあるのだが、まさか精霊王から呼び出されるとは思って無く、ワクドキしていた精霊は思いっきり叱られた
精霊王の呼び出しは、精霊王が戻って良いと言うまで帰れない
なので10分間みっちり説教をしました
精霊と人間は魔力の扱い方が違う部分がある
なので、精霊が人間に教えるのは非常に危険なのだ
最も足る例が、魔力暴走である
これが起こると、良くて意識を失う程度だが、悪ければ死亡や周りを巻き込む可能性もある
精霊達はこのことを知っているはずなのになぜ教えたのか?
精霊達の返答は
『呑み込みが早くて、危険域もノスシアちゃん自信が判断出来ていたから、超級までなら問題無いかなぁ~って』
精霊達はそう判断して、教えたと暴露した
とりあえず、ノスシアちゃんに勝手に魔法を教えた精霊達に拳骨1発の刑をして、ノスシアちゃんに向き直り𠮟る
精霊が怒られているのを見たせいか、ノスシアちゃんはしょんぼりしていた
俺が手を上げると、拳骨されると思ったのかビクッと肩を震わせるが、俺は構わず手を振り下ろし・・頭を撫でた
目を丸くしながら見上げるノスシアちゃんに優しく語り掛ける
「間違った事をした自覚はあるみたいだね。なら、これ以上はこの事に関しては叱らないけど、何でこんなことしたのかな?それに、俺はミリアなら上手に教えてくれると思ったから頼んだのに何故ボイコットしたのかな?怒らないから話してごらん?」
「・・・・・・グラフィエル様は綺麗なお嫁さんが沢山で・・私は子供で・・・追い付くには一人で何でも出来ないとダメって・・グラフィエル様も凄いお方ですし」
今にも泣きそうになりながらもしっかりと答えるノスシアちゃん
彼女は思い違いもしてるようなのでしっかりと正しておこう
「俺は別に凄くないよ。今回だって家庭教師を続けられないからミリアに頼んだんだよ。俺は戦いには強いかもだけど、それ以外は皆に助けて貰ってるよ」
「私は何も助けられないです・・・ひっぐ・・・」
そう言って泣き出すノスシアちゃんを抱きしめて上げる
俺は次にこの言葉を伝えた
「一つ出来たじゃないか・・お茶請けのクッキーはノスシアちゃんが作ったんだろう?美味しかったよ。昨日から精神的に疲れてたから、あのクッキーは本当に美味しかった。お茶も、もしかして選んだんじゃないのかな?」
「ひっぐ・・帰ってこられても・・ひっぐ・・お忙しそうだったので・・ずず・・甘いお茶請けと・・ハーブティーならと」
「ほら、助けになってるじゃないか。何も急ぐことは無いんだよ。今、自分にできる精一杯をして、助けてもらう所は助けて貰えば良いんだ。だから、わかるよね?」
そう言ってノスシアちゃんを離し、ミリアの方へ行かせる
まだ泣いたままだが、はっきりとした声で
「ミリアンヌ様、ごめんなさい」
ミリアに対し、ノスシアちゃんは謝った
これはあれだな・・嫉妬もあったんだろうな
そんなノスシアちゃんに、ミリアは微笑み、抱きしめて
「ラフィ様の事、大好きなんですね。わかりますよ・・だから許します」
それだけ聞くと、ノスシアちゃんは大きな声で泣いた
何度もごめんなさいと言いながら・・・
数分泣いた後、ノスシアちゃんは精霊達にも謝った
ノスシアちゃんが精霊達へ無理にお願いしたそうだが、精霊は無理なお願いは聞かないので、やっぱり悪いのは止めなかった精霊達である
教えた精霊達は7大精霊達に「恥かかせやがって!」とか「これは教育です」とか言われながら、ボコボコにされていたのは笑い話だ
その後の余談だが、ミリアとノスシアちゃんはもの凄く仲良くなった
魔法の基本はミリアが教え、応用や精霊に関しては俺が教えた
こちらは話が終り、応接室に戻ると・・ん?陛下と王妃の機嫌が良いな
そこで一瞬、悪寒が走り、まさか!?・・と思うが、それは正解であった
そう・・・ノスシアちゃんとの婚約話である
もうね・・何となくわかってたんだよ
だが、その話の前にノスシアちゃんは父であるダズバイア侯爵に謝った
「お父様。わがまま言って、迷惑かけてごめんなさい」
その言葉にダズバイア侯爵は一言
「わがままも迷惑も子供の特権だ。でも、家族にはしても良いがミリア殿やクロノアス卿にしてはいけないよ。それがわかっているなら、もう何も言わないさ」
そして、ノスシアちゃんの頭を撫で、隣に座らせる
ダズバイア侯爵は俺に向き直り
「クロノアス卿、迷惑をかけた。娘に代わって謝罪する。ミリアンヌ殿もすまなかった。そして、二人共ありがとう」
「こちらも配慮が足りませんでした。なので頭を上げて下さい」
お互いに言葉を交わし、ダズバイア侯爵は頭を上げる
俺、ダズバイア侯爵は好感が持てそうだな
貴族ゆえの裏表か・・勿体無い御仁だな
そこで放置されていた陛下と王妃が、待ってました!と話を始めるが、何となくわかっていた俺は、二人の思惑に乗る前にダズバイア侯爵に告げる
「ダズバイア侯爵。唐突ですが娘さんを俺にくれませんか?」
この発言に全員が目を丸くする
気勢をそがれた陛下と王妃は悔しそうな顔をしていた
侯爵は何とか気を持ち直し、理由を聞いてくる
それに対する俺の回答は
「一途で一直線で可愛いですし、人を良く見てます。たまに暴走する事もあるでしょうが、しっかり謝れるのは善悪の判断がついている証拠です。彼女はもう立派な女性ですよ。なら、誰かに取られる前に自分の女にしたいと思うのは自然な流れでしょう?勿論、成人までは待ちますよ」
その言葉にノスシアちゃん・・いや、ノスシアは顔を赤くさせ、父であるダズバイア侯爵は大声で笑い一言「娘を頼む」と言って来た
婚約者達は茫然としているが、ミリアとリリィは何となくそうなるんじゃないかな?と予想していたようだ
予想外ではあるが、皆も反対はないみたいだ
俺はノスシアに2つだけ注意点を言った
「俺は皆が仲良くあって欲しいと思ってる。喧嘩は良いけど家族仲を壊すような真似はダメだよ。それと、これからはラフィって呼んでね」
「はい!ラフィ様!ノスシアの事はシアってお呼びください!」
シアは今までにない笑顔になり、大きな声でそう告げた
6人の婚約者はやれやれ・・的な感じではあるが、シアを快く迎え入れた
こうして俺に7人目の婚約者が誕生したのだ
先に言っとくが〇リ〇ンじゃないからな!
大事な事だからもっかい言うぞ!違うからな!!
その後、大人の話し合いが始まり、ドバイグス家は中立筆頭は変わらずだが、貴族寄りに見せかけた王族寄りを表面上は崩さず、裏では完な王族派へと変わった
こんな面倒な事をした理由は、中立派閥の空中分解を避けるためだ
とは言え、中立派で意見を纏め上げたら王族派へ入る事となり、中立派は事実上無くなる算段ではある
俺の名前も使わせて欲しいとの事で、ダズバイア侯爵が辺境伯と言おうとして、陛下が「さっき侯爵になったぞ」と告げ口し、ダズバイア侯爵は「では、私の後輩で娘の旦那か!」と大いに楽しそうであった
そして2週間後、勇者ご一行(偽?)は国境を越えたと連絡があり、収穫祭からの騒動は幕を閉じた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます