第60話 収穫祭迄の日々

6人に自分の気持ちを伝え、皆に受け入れて貰えてから数日が経ち、本日は収穫祭の初日である

この日を迎えるまでに色々あった

ミリアとのデートがバレて、収穫祭までは皆とずっとデートだった


初日はリアとナユ以外は貴族のお勤めがあり、俺もお勤めがあったので、2日目からは2人ずつ連れてのデートになった

とは言え、今までも色々あってきちんとしたデートは出来ていない

なので3日間は2人ずつ交代で趣味が合う者同士のデートになった


誰が先にデートするかは婚約者でペアになり、勝負で勝った順番にとなる

この世界は娯楽が少なく、あるのはトランプだけだったのでそれで決めた

遊び方もポーカー位しかなかったので7並べを教えてみた・・これが1日目である

尚、他にはないのかと言われたので皆で遊べるのを教えて楽しく遊んだ

夕方の短い時間だけではあったが


2日目、7並べを1抜けしたティアとリアのペアでデート開始だ

この二人は意外だが結構話が合うし、趣味も合ったりする

ティアは幼少期とは違い、体を動かすのが好きになっていたのも新しい発見だった

尚、デートの内容は食べ歩きに、ウィンドウショッピングと商業区が中心だ

ティアがギルドに行ってみたいというので一緒に行く

ギルドに入るとリア達を救援した時の話と報酬に殻竜3体の買取査定と色々言われたがデート中だから後日でと言って逃げた

そんな感じで楽しく過ごしました


3日目、今日は2位のリリィとナユのペアである

二人はかなり仲が良かった

そもそも、昔からナユが護衛したりでそれなりの時間を一緒に過ごしていたこともあり、良く話す相手でもあった様だ

二人も商業区中心のデートだが服よりは小物系の店に良く立ち寄った

勿論、服飾店にも立ち寄った

二人は可愛いもの好き同盟の様だ

で、リリィもギルドに行ってみたいというのでまた一緒に行き、同じ問答が繰り返され、また逃げるという構図である


4日目、最後はミリアとラナのペアだ

この二人、意外と物を作るのを見るのが好きで知識欲が人一倍高い

なので、本日は鍛冶区を見てから商業区である

服も国によって微妙に違ったりするので勉強になるそうだ

そして、お約束の如くギルドへ行きたいとラナが言って、要望通り連れて行き、同じことが繰り返されるのであった


尚、デートでは何故か全員が一切買い物をしなかった

食事やカフェなどの休憩は別だが、それ以外でお金は全く使わなかったのだ

遠慮しなくても良いのに・・・


5日目、収穫祭前日は全員が別行動だ

リリィ、ティア、ミリア、ラナは婚約発表の為の衣装合わせ

リアも貴族なので両親と共に衣装合わせ

俺も衣装合わせなのだが、流石にメイドだけでするわけにもいかず、実家のクロノアス辺境伯家で衣装合わせ中

ナユは俺と実家に来ている

面識もあるので家族はナユを温かく迎え、リビングでナユとも結婚する事を伝え、父はこめかみを抑えつつ「まぁ、養えるなら文句は言わないが」と言ってナユと俺を祝福してくれた

更にもう一人いる事も伝えて、家族全員を驚かせたのは言うまでもない


衣装合わせは昼前に終わったので、両親にギルドへ向かうと告げてナユと二人で手を繋いでギルドへと向かう

ギルドも収穫祭前日のせいか依頼を受ける者は少なく、明日以降を暫く休むため依頼完了報告をしている者が多かった

そこに見知った人物を見付け声を掛ける・・ウォルドだ


ウォルドも明日以降は休みにして祭りを楽しむそうで、ついでにバルドとムムノの近況も聞いてくるそうだ

「後で俺にも聞かせろよ」と言ってその場を後にしようとすると、ウォルドが声を上げる

俺とナユが手を繋いでいるのを見たからだ

まぁ、そうなる様にしているのだから当たり前だが

ナユは俺の女だ!手を出したら・・と周囲に見せつけているのである


ウォルドもそれを理解したのか、ちょっと複雑そうな顔をしつつも祝福してくれた

ウォルドも「相手がいればなぁ・・」と愚痴っていたので「ナユに色々聞いてみたら?」と言うと、色々と質問をぶつけていた

ウォルドの質問に対し、ナユが出した答えを纏めると

〝ウォルドは面倒見の良いお兄さんが結構定着しているそうで、憧れや尊敬は多いが恋愛となると絶望的〟が答えであった


落ち込むウォルド・・・・世話にもなっているし1つアドバイスするか

俺のアドバイスに「やってやるぜぇぇ」と両手を上げて叫ぶ

周りは何事かと見るが「何でもない」との、俺の言葉に自分達の作業に戻った

因みに俺のアドバイスは、相手の良い所、悪い所を見て、それでも好きならアタックあるのみ!である


俺は受付のお姉さんにギルマスへの取次ぎを依頼する

そこに夏季休暇の護衛で一緒だったメンバーが勢ぞろいする

ウォルド含め全員が「「「何かあったのか?」」」と、聞くので「殻竜からの救助の事で」と言うと、全員が「「「あ~・・あれか」」」と、声を揃えた

「内容が気になるから同席させろ」とウォルドに言われた所でギルマスが降りてきた

隠す事でもないのでギルマスに会議室でと伝え、全員が移動する


会議室に入ると話の前に少し待っていてくれと言ってギルマスは部屋から出て行く

十数分後、戻って来るとあの時に助けた冒険者達がギルマスと一緒に来た

彼らの依頼に殻竜の討伐依頼は無かったらしく、詳しい話を聞きながら詳細を詰めていくそうだ

危険区域に指定するなら、詳細な情報が必要だからだ


先ずは救助された冒険者からの話だ

尚、リアは呼ばれていない

先に聞き取りを終えているそうだ

救助された冒険者達は治療などもあったので、本日に聞き取りを指定したとの事

話としては良くある内容で、不運な遭遇としか言えない話であったが、俺、ナユ、ギルマス、ウォルド、SS3人は疑問に思っていた

何故かって?過去に殻竜の目撃情報など一度も無い場所であったからだ

実は他にも、今まで目撃や遭遇情報が無い場所で殻竜の確認が取れている様で、SS3人とウォルドは3日前に依頼を受けて討伐し、今日戻って来たそうだ


殻竜は地竜の亜種でワイバーンなどと同じ扱いになる

肉は高級品で、ワイバーンは骨を武器に回し、殻竜の骨と鱗は防具に回される

中には珍しい客もおり、骨を買って自宅に飾る者もいる

軽い小遣い稼ぎのつもりであったが、警戒する必要はありそうだとウォルドとSS3人は同様に言葉を発する

現状は様子見で注意喚起はしておくとの事で纏まった


次に救助の話だ

隠す必要も無いので、素直に「ブチ切れて殴り殺した」と言うと、救助された冒険者はマジパネェっす!って反応とあれは破壊神だ!って反応に分かれる

護衛で共に過ごした者達で、高ランク組はまた派手にやったなぁって顔をし、中級ランクの6人は話を聞くだけで身が持たないっすわって感じだ

そしてギルマスは何か考えている様だ・・


話は以上だと伝えると次に報酬の話になるが辞退した

そもそも、依頼は受けてないし俺にも事情があったからな

ギルドとしても体裁が必要だというので


「救助した冒険者達の装備代にでも回してくれ」


と言って話を終わらせた

救助された冒険者達は全員が頭を下げて礼を言った


最後に殻竜の買取だが、1体は全員で均等に分ける様にした

残り2体の内1体は、そのままギルドで買取して貰い、俺の取り分に

残る1体は、明日の王城で開かれる収穫祭(貴族)パーティーで使うので、肉はこっちにくれと言った


そこでウォルドが口を挟む

流石に甘やかしすぎだと

救助された側もそこまでしてもらう訳には・・・と言った感じなので、代案として2体はギルドに降ろし、そのまま買い取り

残る1体は肉だけ貰い、残りの売れる部分は彼らの装備を新調か修理代の建て替えにして貰い、余ったらこちらにという形で話を終えた


ウォルドはそれでも甘すぎだと言うが


「俺の女が命を張って迄守ったんだ。少しくらい面倒は見るさ」


とだけ言って話を終わらせる


その言葉に女性冒険者はウットリとし、男性冒険者は「「「何かあれば直ぐに駆けつけます!」」」と子分化し、ウォルド達は俺には真似出来んわって感じだ


それを見ていたギルマスは帰ろうとする俺を呼び止めて提案をしてくる


「グラフィエル君・・大規模パーティーを作る気は無いか?」


突然の提案にどういうことか説明を求める

以前にゼロにも提案したが断られた案件で、高ランク冒険者を代表としていくつかのパーティーを所属させ、実力に見合った依頼と、技術指導や新人育成をするクランみたいなものだった


話は理解したが、結成のメリットとデメリットがわからない

そこを聞くとメリットは、名前が売れる、報酬の一部をクランに回す、自分達で新人育成が出来るとの事だ

逆にデメリットは、悪評が立つ可能性がある、クラン内で報酬の揉め事が起こりやすくなる、事務作業が増えるだ

他にも細々とはあるが俺のデメリットはそんな物位だ


さて、どうするか?と考えて、いくつか条件付きで試験運転的にならと答える

条件は、報酬に関しての協議、事務作業に長けた者の派遣、今会議室にいるメンバーとナユ、リアで構成し様子見である

この面子なら悪評はほぼ無いだろうし、報酬の協議も条件に織り込んだ

事務作業も基本的に任せれば負担は軽い

それに試験的になので、最悪の場合は解散も出来るしな

新人教育にはバルドを雇おう

面倒見の良いウォルドもいるしな

新人教育の際は別途報酬を用意すれば問題無いかな

ギルマスは考え込み、こちらの条件を渋々了承する


事務作業にはサブマスとサブマスが選んだ受付2名を交代で置き、クラン専門受付を作って依頼を受け付けるそうだ

人数は28名のクランとそこそこ規模が大きいが何とかなるだろう

クラン専用の建物もギルド近辺に用意しなければいけないそうで、そちらは後日、こちらで手配する事にした

高ランクは「しゃぁねぇか」と言って参加し、救助した者や中級ランクの者は「期待に応えられるよう頑張ります!」と直立不動した

こちらも暫くは忙しいので、クラン発足は収穫祭後に改めてという形で締めくくった

クラン名は後で考える事にしよう

どうせまだ公表しないし


話も終わり今度こそ会議室を出ようとして足を止め


「ウォルド。新人育成の為にバルドを引っ張ってきてな。条件は応相談で」


「オーライ・・定職決まって無いなら誘って見るわ。いつ報告すれば良い?」


「収穫祭が終った後で良いと思うぞ?そこまでは動かないし・・」


「わかった。屋敷へ伝えに行くわ」


それだけの会話をして、今度こそ会議室を後にする

受付に行くと殻竜の買取金と肉が用意されていた

冒険者達はそれを見て「すげぇ」とか「流石SSS」等と言っている

金は・・結構良い金額してるなぁ

大白金貨2枚と白金貨5枚であった

金と肉を空間収納に入れて、今度は王城へと向かう

当然、ナユも一緒である


王城の門前に着き、入ろうとすると門番に止められる

止めた理由はナユが一緒だからだ

ナユは平民だが俺の婚約者である

なので、俺が「ア゛」と声を上げると快く通してくれた

警備上は仕方の無い事なのだが、気持ちは別物である

俺と一緒なのに通さないとかあり得ないのだ

王城へ入ると陛下にお会いしたいと申し入れる

「どちらで?」と聞かれたので「食堂か応接室で」と言って案内してもらう


案内された場所は応接室の方だった

俺は座って待つと15分位で陛下が来た

リアフェル王妃も一緒である

ナユは立ち上がり平伏しようとするが俺が止める

俺は王族が来ても座ったままだ

公私はきちんと分けているのが俺だ

今は私事の方で来ているので遠慮は無い


陛下は何か言いたげだったが、リアフェル王妃に止められる

俺は二人に婚約者が増えた事を言っておく

気に入らないならそれで結構

迎え入れてくれる国は複数国あると強気でいく

陛下はこめかみがピクピクしていたが、リアフェル王妃が「別に何も言いませんよ」と告げ、その場を収拾させる


何故、何も言わないのか?

聞くと「言った所で無駄だから」と返ってきた

確かに無駄ではあるが納得いかず、無言のままで相対し、数分後にリアフェル王妃は


「下手な貴族と婚約するよりは・・・」


と告げたので納得した

ランシェス王国は王族派と貴族派がおり、対立している

クロノアスは代々王族派であり、父も俺も変わらない

そういう所もあるのだろう


今度はお養父さん、お養母さんと呼んで話を変える

陛下はリリィとの婚約に不満なのだろうが、裏の支配者はリアフェル王妃である

リアフェル王妃が決めた以上は、婿である陛下は何も言えないので、憤慨しつつ王妃を見て、腕を抓られて、涙を浮かべる

リアフェル王妃はまんざらでもないのか嬉しそうである

そんな中、俺は空間収納から殻竜の肉を全て取り出し


「明日のパーティーで使って下さい。殻竜の肉です。婚約者が仕留めたと言えば少なからず貴族派への抑止力になるでしょう」


そう言って全部渡した

陛下は怒りもどこへやらと言った感じになり、リアフェル王妃は


「流石、リリィの夫になる人ですね。国と私達の事を考えて衝撃的な品を用意するとは・・リアーヌさんでしたか?彼女にも感謝ですね」


そう言われて、俺は驚いた・・・

何故リアを知っているかではなく、何故リアとの婚約を知っているのかだ

2人婚約者が増えたとは言ったが、もう一人がリアとは言っていない

軽く睨むとリアフェル王妃はいつもの様に話す


「この前、覗き見してしまったでしょう?それで少し色々と調べたのですよ。まさか指南役の娘だとは思いもよらなかったですが」


「だから何も言わなかったと?」


「それもありますが・・一番の理由は、リリィが楽しそうだからですね」


それを言われるとこれ以上は追求しにくい

これ以上聞くのは藪蛇だなと諦める事にする

今日の用件はそれだけなので帰ろうとすると、リアフェル王妃からも少し話があるそうでしばし待っていて欲しいと言われた

竜肉を受け取りに料理人が現れ、その量に驚き、小躍りしながら竜肉を運んで行った

その後、メイドが来てお茶を入れ直し、話が再開する


「話しと言うのは二つです。一つは執事を雇いなさいと言う事です。もう一つですが・・正直話したくないのですが、別の貴族から娶るつもりは無いですか?」


「執事については探しているところです。別の貴族からは・・・自分の決めた事に違えなければ、と今は言っておきます」


「そうですか・・執事についてはこちらからも何人かリストを渡しましょう。王家推薦ですからそれなりに優秀ですよ」


「ありがとうございます。祭りの後にでも取りに来ます」


そして、今度こそ部屋を後にし王城を出る

いつしか時間は夜になっており、ナユと手を繋いで屋敷に戻った

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