第39話 雷竜族の主になる

 ワイバーンを数分でサクッと片付け、南の戦場へと向かうのだがそこには誰もいなかった

 あっれぇ~?と思い待つこと3時間・・・現在の時刻は9時過ぎ位だろうか?

 その時間になってようやく聖騎士団と冒険者達が来たのだが、聖騎士団は畏怖し冒険者達は何でここにいる?的な顔だ

 教会本部と冒険者ギルドにはワイバーン殲滅についての情報は報告されていた

 しかし、冒険者ギルド側に殲滅に関する詳しい情報は来ておらず、結果だけが伝えられていたのだ

 結果、冒険者達は俺が南に向かっているだろうと予測はしていたが、既に来ているとは思っていなかったようである

 逆に聖騎士達には詳しい情報が伝わっており、枢機卿含め総師団長から絶対!ぜぇ~ったい!!に機嫌を損ねるな!と厳命を受けていた

 尚、半殺しにあった先の聖騎士は減給と降格を言い渡されており涙目だったそうだ


 そんな中、集団の中から聞きなれた声が聞こえた

 声の主はミリアとリリィで、二人の方を見ると何故か学院組に王族の方々までおり、思わず「何でいる!?」と声を出してしまった

 怪訝そうな顔をしてると一人の聖騎士が事情を説明してくれた

 説明してくれたのは第2聖騎士団団長である

 彼曰く、止めたのだが自己責任で良いからという事で着いてきてしまったそうだ

 本来なら後1時間は早く着いたのだが、王族が一緒でその護衛もあり準備にも時間がかかってしまい合同で来る予定だった冒険者達も遅れてしまったと言われて頭が痛くなった

 護衛組も苦笑いしてこちらを見ている

 これは一言注意しないとダメだなと考え、王族組の元へ行き注意すると手痛い反撃を受けてしまう


「何故リリィは良くて残りの者はダメなのですか?王族はダメと言うならリリィもダメでしょう?リリィは確かにあなたと婚約しましたが式はまだなのですから王族ですよ。南になら来ても良いと言ったのはあなたでしょう。他にもありますがまだまだ聞きたいですか?」


 こんな感じで矢継ぎ早に口撃されてしまったのだ

 他の王妃は黙して語らず

 王女達はお任せしましたな感じでフェルは笑いを堪えていた

 ルラーナ姉は困った様子

 俺は深い、ふか~いため息を俺は一つ吐き


「一番後ろにいて下さいよ?何かあったら真っ先に逃げて下さい。他の人も申し訳ないですが王族優先でお願いしますね」


 とだけ言って、再びため息をついてその場を後にしようとした

 しかし、両脇を固められミリアとリリィに捕まってしまう


「朝ごはんにしましょう。ラフィはこちらに」


「今日の朝はサンドイッチにしました。スープは持ってこれませんでしたが紅茶はありますよ。ラフィ様」


 と、強引に乗ってきたであろう馬車へと連れ込まれてしまう

 聖騎士達からは「御子様~、もう少し緊張感を~」と聞こえてき、冒険者達からは「死んでしまえ!ハーレム野郎!」と怨嗟と嫉妬の声が聞こえてきた

 まぁ気にしても仕方ないと諦めて二人にされるがまま馬車へと入る


 王族の面々と学院組は既に朝食を済ませて来ていたが二人はまだらしく一緒に食べる事になった

 今日のサンドイッチは野菜サンドのみだが、味付けや挟んである野菜が違かったりしてとても美味しくて満足した

 デザートは果物でリゴンと呼ばれるものだが早い話がリンゴである

 名前が微妙に違うだけで形・色・味は同じである

 唯一違うとすれば甘みが強い位なのだが酸味も少しあるのでリンゴと大差なく、強いて上げるなら甘めのリンゴ(そのままだな)である


 食事を済ませ紅茶を飲んで余韻を楽しんでいるとティアがやってきた

 馬車に入ってくると俺に向かって一言「凄い甘い雰囲気が馬車から出てたよ」と言われ、危うく吹き出しそうになる

 二人に至っては顔を赤くしてくねくねしていた

 それを見たティアはリリィに対して


「もしかして、告白したの?」


 と聞き、リリィはそれに対して


「したわ。まだ発表はしてないけど婚約者よ」


 と、返答するとティアは


「何それ!?ずるい!抜け駆けはしないって約束したのに!」


 と、声を荒げるがリリィは


「事情もあったから。だから私はティアが気持ちを告げるまでは婚約発表はしないつもりよ。それが私の今出来る最大の謝罪。でも、期限はあるけどね」


 そう言うとティアは、何だろうか?瞳の中に炎が見えた気が?

 そう思うと同時に腕を取られ馬車の外に引きずり出されてしまう

 この時思ったのがティアも随分と変わったなぁだ

 ちょっとじじ臭い気もするが出会った頃と比べるとかなり変わったのだ

 出会った頃はオドオドしていて人見知りの控えめな印象だったが、ここ数年は真逆の性格で、例えるなら肉食系とも言うべき行動派になっていた

 まぁどっちも行動は可愛らしく、ちょこちょこついて回るのは変わってないのだ

 そんなティアに外に連れ出され、馬車から少し離れると俺に向き直って


「ラフィ君、好きです!大好きです!!ティアと婚約して!!」


 決意揺るがぬと自分の想いを打ち明ける

 俺もティアは嫌いではないし、むしろ好きな方だが婚約となると話は変わる

 ティアは公爵令嬢で一人娘だ

 跡継ぎが彼女だけなので色々とお家問題が付いて回る

 そうなると嫁には行けないし、公爵家との釣合などもある

 どう答えるか正直迷ってしまったのだが、自分の気持ちに嘘はつきたくないので今思っていることを正直に答えた


「俺もティアの事は好きだよ。でも、二人に言ったように愛してると言えるかわからないし家の事もある。今すぐには返事はできない。でも、ご家族の許可を貰えた時には婚約しよう。誰かに渡したくない気持ちは本当だから」


 嘘偽りない気持ちにティアは笑顔になって


「大丈夫!いざとなったらおじいさまを味方にするから!!」


 そう言ってご機嫌のまま俺の手を引き馬車へと一緒に戻る

 その時に俺が感じたのは、目的の為には手段は選ばなくなったか、である

 尚、ティアの声が大きかったためそれなりの人には聞こえていた様で聖騎士と冒険者の一部が「死ね!この女たらし野郎!」と嫉妬の声が集中したのは仕方のない事だろう



 ティアの告白から半日が過ぎ、王族を無視して俺、ミリア、リリィ、ティアの4人で昼食を済ませ、現在はティータイムを楽しんでいたのだがここにきて状況が一変する

 龍島の竜達を視認したので聖騎士と冒険者達は戦闘態勢に入り緊張が加速していく

 日が落ちる前には接敵する距離になったのだが俺はふと違和感に気付く


「殺意も敵意も無い?」


 俺の探索魔法は探すだけでなく殺意や敵意等の敵対行動の意思を察知する

 応用すれば誘拐等の犯罪者共も察知する事が出来るのだ

 好意や恋慕はわからないのである意味鈍感系と言われても否定はしない

 探索魔法はあくまでも安全の為の魔法なのだから


 警戒をする中、1匹の竜が速度を上げこちらに接近してくる

 全員が迎撃準備をする中、俺は声を上げる

 風属性を利用した広範囲拡声魔法で攻撃しない様に指示をする

 周りからは反対の声が上がるが威圧して黙らせ、近づいてくる竜に最初に接触を図れるように最前列から飛び出て距離を開けて先頭に立つ

 聖騎士達が止めようとするが時すでに遅く、俺は防衛陣地から200m離れた所で接近してくる竜を待つようにする

 俺の行動を見た竜は速度を上げ、30分程で俺の前に降り立ちこちらを睥睨した

 体格差があるから見降ろされるのは仕方ない

 しかも見下されてる感じがするけどここは我慢だ

 降り立った竜は一息吸い、咆哮する

 防衛陣地の方は委縮したが俺には柳に風である

 それを見た竜は


「ほう?我が咆哮に怯えぬか。中々の人間よな。汝が人間たちの長か?」


 おお!人語を話す竜には初めて会ったな

 ちょっと感動しつつこちらも返答する


「長かは知らないが一応代表だ。まさか喋るとは思わなかった」


 と、返すと竜は目をパチクリして


「汝、我が恐ろしくは無いのか?」


 と、聞き返された返答は


「敵意や殺意があればここに来る前に撃ち落としてるからな。対話しているのは俺の意思なのに何で怖がる必要がある?」


「ふ、ふはは、ははは!何とも面白く豪胆な少年であるか!面白いぞ人間の少年よ!では用件を伝える!我らが長が対談を望んでいる。代表者数名を連れてこの場で対談せよ!返答はいかに!?」


「了解だ。ただそちらの方が早く着いてしまい待ってもらう可能性があるが構わないか?」


「汝が長ではないのか?」


「戦闘に関するのなら正解。対談や交渉なら正解であって不正解って所かな」


「人間とは面倒くさい生物よな。少し待て。」


 そう告げ、竜は再び咆哮する

 咆哮し終わるとこちらに向かってくる群れから咆哮が聞こえ目の前にいる竜から返答が来る


「こちらは構わんとの事だ。但しなるべく早くせよと言われておる」


「了解だ。じゃ、一度本陣に戻るわ。あ、間違って攻撃とかあるかもだからここから先には進むなよ」


「傲岸不遜な物言いだな。まぁ、了承するとしよう。人数は30人迄にせよ」


「了解。じゃ、また後で」


 そう言い残し俺は本陣へと踵を返す

 姿が見えなくなった俺に対し竜は


「不思議な少年よ。だが、我らが長にも同じ態度が出来るかな?」


 不敵に嗤い呟くと羽を休め始めた



 約1時間後、竜の群れが指定の場所へと次々に降り立つ

 一言で表すならば圧巻だ

 こちらは現在ヴァルケノズさんを含めた枢機卿数名が到着したところだ

 で、誰が行くかなのだが、ちょっと揉めていた

 何故揉めているのか?簡単な理由でミリア、リリィ、ティア、リアフェル王妃が行くと言って聞かず、周りは当然止めるが折れないのだ

 神聖国側としては、万が一に何かあった場合の責任が怖いので絶対に止めたいのだが、王妃側は自己責任で良いと言って引かないのだ

 疲れた俺は面倒くさくなったので勝手に決めた

 聖騎士団長5名にヴァルケノズさん含めた枢機卿3名にリアフェル王妃と婚約者3名(内1名は予定)と俺で行くと勝手に決めて準備させる

 周りの聖騎士からは「何を勝手に!」と言われたが「じゃ、お前ら行け」の一言で黙り込んだ

 そこにギルマスも行くというのでサブマスも追加となり計15名で行くことになった


 対談場所に行くとツインヘッドドラゴンが待っており、対面時に一言「何を揉めていた?」と聞かれたので「色々あるんだよ」と疲れた声で言うと大笑いし対談が始まった


「まずは、自己紹介から始めるのが人間流で良いのか?」


「それで構わないが名前とかあるのか?」


「ないな。だが主らの呼び方では長くて大変であろう?故に雷竜と呼ぶが良い」


「じゃ、雷竜さんで。俺はグラフィエル・フィン・クロノアス。近しい者はラフィって呼ぶ。よろしく」


 俺が自己紹介をすると続いてヴァルケノズさんが挨拶しリアフェル王妃以下、他の聖騎士達も挨拶をしていき最後にミリア、リリィ、ティアが自己紹介をする

 3人の自己紹介は婚約者の部分(ティアは予定)が強調されていたが

 雷竜さんもちょっと苦笑いだ

 そんな中、雷竜さんが言葉を発し、対談が始まる


「まず、我らがこの地へ出向いた理由だが、東から脅威が迫っており人族と事に当たらねば大事になると思ったからだ。何か心当たりは・・・あるようだな」


「東の山にワイバーンが群れで巣を作っておりました。当初は気付かなかったのですが東から群れを伴い神都へ侵攻との報告があり、その中に灰色がいると報告されました」


「ほう?灰色のトカゲか。教皇よ、あまり焦ってはおらぬようだが良いのか?」


「既に群れは殲滅し終えておりますので。こちらにいるクロノアス卿によって脅威は潰えたかと」


「なんと!?少年があれを滅ぼしたと!?いや、多大な犠牲は出たのであろうな」


「いえ、クロノアス卿お一人で全て。付け加えるなら脅威は戦場にすら立てず潰えました」


「なん・・だと!?少年!!グラフィエルと言ったか?一体どの様な手段を用いたというのだ!?」


「見せても良いんですが危ないので、絶対に動かない様に全竜達に言って下さい」


「了承した。早う見せよ!」


「はいはいっと。超電磁陽光砲っと」


 空に向け魔法を放つと全ての・・・いや、ミリア、ティア、リリィ以外の全ての者が口を開け呆然とする

 尚、3人の感想は「キレイ・・」の一言だった

 十数秒の沈黙の後、雷竜は口を開き警戒をする


「汝は一体何者だ?あれは人はおろか竜の長ですら出来ぬぞ。我も長ではあるがあのような物は出来ぬ」


「そこは誓約して貰わないと言えないな。それとも危険と断定して排除するのか?するのならばこちらも全力で相手するけど?」


「出来るはずも無かろう。すれば根絶やしにされるのは我らよ」


「賢明な判断で。でどうする?」


 問いかけると同時、ルリが俺の頭の上に乗って姿を見せる

 ルリを見た雷竜は絶句し、驚愕に目を開かせ問いかける


「もしや!?グラフィエル!汝の頭の上にいる者は神龍様なのか!?」


「ちょ!それ言うな!!あ~くそ・・・隠してたのに」


「あ~・・・すまぬ。でだ、本当にそうなのか?」


「直接聞けば良いだろ?はぁ」


「そ、そうか。してそこの子竜よ。汝は神龍様であらせられるか?」


「キュイ!キュイキュイ、キュイ!」


「まさか!?では神龍様は?」


「キュイ!キュイキュイキュイ!」


「なんですと!?それでは疑う余地は無いですな」


「キュイ!」


 念話使ってないので何を話したのかわからないが雷竜自体は納得したようだ

 周りの竜達も顔を見合わせ雷竜の言葉を待っている

 雷竜はいきなり頭を垂れ言葉を紡ぐ


「グラフィエル・フィン・クロノアス様。先程の無礼、平にご容赦を。我ら雷竜の一族は貴方様の配下に加わらせて頂きたい所存です」


 今度はこっちが呆然とする

 周りも同じ反応である

 雷竜が頭を垂れているのを見て畏怖してる者もいる

 俺も訳が分からないので理由を聞く


「我ら色持ちの竜族は神龍様の眷属です。竜族には色があり各属性を表しておりますがそれを束ね使えるのが神龍様です。神龍様が貴方様を主人と言っておられ、貴方様の正体も簡易的ではありましたが聞きました。我らは神龍様の眷属。故に神龍様の主である貴方様は我らが主でございます。我らが命果てるまで付き従う所存であります」


 周りがめっちゃ引いてる

 そこにハクが来て、雷竜が「おお・・」と声を上げ、更に周りがドン引く

 他の竜達も頭を垂れ言葉を待っているので受け止めるしか無いか、と天を仰ぎ


「雷竜達の忠誠を貰おう。ただ、今は何をするわけでもないので連絡があるまでは普段通り過ごして欲しい」


「我らが主のご命令通りに」


「後、一つ聞きたいんだけど、前にスタンビートがあって、それを黒龍が率いてたから、黒龍を殺して事態を収拾させたんだけど、それについてはどうなる?」


「問題ありませぬ。幼少期より神龍様の主で、その際にも神龍様はいたにも関わらず挑み負けたのですからどこからも文句は出ませぬ。むしろ、神龍様に弓引いたのですから滅ぼされるのは当然でしょう。仮にそれで黒龍族が報復に出るのであれば我ら雷竜族は黒龍族と敵対し身命を賭して黒龍族を滅ぼす所存であります」


「命は大切にね。そうだな、もしそういう兆候があれば知らせてくれるかな?敵対するなら俺がやればこちらの被害は最小限だろうし」


「何と言う頼もしきお言葉。承知しました。何かあれば直ぐにご連絡いたします。つきましては一つお願いが」


「出来る事なら聞くよ」


「ありがとうございます。我が龍島は3種族がおり、中央・内縁・外縁で分かれているのですが、我ら雷竜は内縁を縄張りとしております。主には中央と外縁の2種族とお会いして頂きたく存じます。彼らも主なれば喜んで配下になると思いますれば」


「ならこっちに滞在中に会いに行くよ。距離はどれくらい?」


「でしたら我が雷竜の一人を主の元へ置いて行きましょう。一番足の速い、先に斥候に出した者を置いて行こうと思いますがよろしいでしょうか?」


「構わないよ。それと神聖国に何かあった場合に、そうだな・・・最低でもヴァルケノズさんが教皇をしている間は助けてあげてくれるかな?」


「主の望みのままに」


「あ、それとヴァルケノズさんとは極力対等な関係でね。お互い殿とか付けると良いんじゃないかな?」


「承知しました。ヴァルケノズ殿よろしく頼む」


「雷竜殿、こちらこそよろしくお願いします」


 かくして未曽有の危機と思われたセフィッド戦線は最後は友好を結んで幕を閉じた

 だが俺は周りの目が心底痛かった

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