第35話 二人目の婚約者
俺は今、第1王妃の発言に頭を抱えている
そもそも陛下を通さなくても大丈夫なのかと思える発言だ
その言葉とは
「グラフィエル・フィン・クロノアス男爵。第5王女リリアーヌ・ラグリグ・フィン・ランシェスと今ここで婚約なさい」
「・・・・・・・・・・はい?」
こんな感じになっても仕方ないだろう
今ミリアと婚約したばかりだぞ
その舌の根も乾かないうちに王家とは言え婚約しますとか言えるわけねぇだろ
リリィもさっきまでの顏と違ってキョトンってしてるし
そもそも何故そんな結論に至ったんだ!?
俺も今は相当間抜けな顔をしているであろう
リアフェル王妃はそんな俺に追い打ちをかける
「私は前に言いましたよね?リリィと婚約しなさいと。先にこちらが声を掛けたのに二番目は風聞が悪いです。第5王女リリアーヌ・ラグリグ・フィン・ランシェスが先に婚約してもらわねば国としても王家としても認めるわけにはいかないのですよ」
プライドの問題か?あ、いや違うわ!貴族間のややこしいやつだこれ
しかしこんな形で婚約したらリリィにもプライドの問題があるのでは?
それにこれって一種の脅迫じゃね?
リリィも肩を震わせながら母親である第1王妃様に反対する
だが第1王妃は取り合わないどころか色々と暴露し始めた
「リリィ!あなたもグラフィエルが好きなのでしょう!?それをいつまでも気持ちを言わずさっさと婚約しないからこういう事態になるのです!!」
「お母様!何も今この場で言わなくても・・・・」
「この場だから言うのです!彼女を見なさい!!きちんと伝わるようにしているでは無いですか!!出遅れたのは事実ですよ!」
「それは!そうですが・・・でも!」
「でももへちまもありません!!だったらどうするというのですか!?今この場できちんと決めなさい!!!」
リリィは顔を真っ赤にして恥ずかしさと悔しさで今にも泣きそうだ
正直な気持ちを言うと俺はリリィの事が普通に好きだ
likeでもあるし、ぶっちゃけloveも有りだと思っている
問題は彼女が王族って事位かな
だからどうしても1線引いてしまっている
俺で良いのかな?と思ってしまうのだ
だけどこの状況では決断しないといけないよなぁ
そんな俺を察してかミリアが第1王妃様に質問をする
「リアフェル王妃様。私にはわからないのですがそんなに婚約の順番は大事なのですか?」
「ミリアンヌさん。王族には、立場という物があります。先に婚約の話を王家とクロノアス家で話題にしてなければ譲歩できるのですが。こちらに来る前にグラフィエル君には話をして、返事をまだ貰っていないのですよ。返事を貰った後ならばまだ色々手を打てたのですが」
「えーと、あれって話の流れでの冗談だったのでは?」
「はぁ。グラフィエル君は勉強不足ですね。王族は婚約の話に関して冗談は言いませんし、相手が気に入らなければ理由を付けてのらりくらりと躱しますよ。ましてや王家側から言い出した話ですから冗談はありえません」
そうだったのか!リリィが婚約して欲しいけど親に反対されているとかなら真剣に考えただろうが
親が言うと冗談で言われてる気になるんだよな
これはリリィに悪いことしちゃったな
だが俺はミリアと婚約したばかりで、いくら一夫多妻制とは言え不義理な事はしたくないんだよな
さて、どうしたものかと考えるが良い案が出る訳も無く、俺は少し黙り込んでしまう
リリィも母親である第1王妃に言い返すことが出来ず黙ったままだ
そんな中でミリアが一つ提案をするが、それは両国の仲に間違いなく亀裂を入れる内容であった
しかし意外にも、リアフェル王妃はその提案を飲んだ
「リアフェル王妃様。私から提案なのですが、セフィッド神聖国滞在中、ランシェス王国へ帰る10日前まで、猶予を設けてはどうでしょうか?ラフィ様も悩まれているみたいですし」
「その提案の本題は、どこにあるのかしら?」
「リリアーヌ第5王女様が、猶予期間までにラフィ様に想いを伝えるための期間です。もし伝えられなければ、婚約の話自体を無かった事にしてしまえば良いのです」
「それで、ミリアンヌさんにはどのような得が?」
「私に得などはないです。セフィッド神聖国にはありますが。婚約の話自体を無かった事にするために、ラフィ様をセフィッド神聖国の貴族にしてしまうだけです。そうすればリリアーヌ第5王女も思いを断ち切れるでしょう」
「リリィに残るのは後悔と自責の念ですか。一つ訂正して頂けるならその案を飲みましょう」
「どの部分でしょうか?」
「グラフィエル君がセフィッド神聖国の貴族になるという点です。代わりにリリィを修道女として生涯を捧げましょう。これがこちらの覚悟です」
「私が反対する理由はありません。これはリリアーヌ第5王女とラフィ様の問題ですので。私はラフィ様に何かあれば助け支えていくだけです」
何という会話をしてるんだこの二人は
だけどこれってミリアは間違いなくリリィを援護してるよな?
それをリアフェル王妃がリリィを追い詰める形になった感じだよなぁ
ミリアと話し合ってから時期を見てリリィと婚約した方が話は収まるんじゃね?
そこまで考えた所でミリアに腕を突かれ、振り向くと隣の部屋で話をしようと合図された
もう話すことはあまり残って無いが、休憩を入れる事にする
色々あり過ぎて頭が爆発しそうだし
ミリアと俺は別室で話をするが
「ラフィ様から婚約するとリリアーヌ王女に言っては駄目ですよ」
そうミリアに注意されてしまう
「これは、リリアーヌ王女への試練ですからね」
続けてそう告げられる
ミリアはそれで良いのかと聞けば
「私はラフィ様と結婚出来れば、それで良いですから」
はっきりとそう断言した
次いで出た言葉は
「奥さんが何人いても文句はありません。ですが、奥さん同士で気まずいのは嫌です」
とはっきり言った上で、リリィについてどうするかの意見をしっかりと告げる
「母親であるリアフェル王妃様はリリアーヌ王女とラフィ様の婚約を認めています。しかし、リリアーヌ王女が気持ちを伝えないのは、王族という固定概念が邪魔をしてるせいだと思うのです。ですから、それを少し取り払った方が良いと思った訳です」
「それで、俺から婚約を言っちゃダメな理由は?」
「ラフィ様がリリアーヌ王女を助ける形になるからです。リアフェル王妃様もそれに気付いて良くないと思い、内容を一部変更したのではないでしょうか?」
「その良くない事とは?」
「先ほど言った気まずい関係です。私は気持ちを伝えたのに、リリアーヌ王女は気持ちを伝えられず、助けられる形になります。心に棘が残り、良い感じにはならないと思いますし、同情での結婚は駄目です」
きっぱりと言われてしまった
確かに今のまま婚約すれば同情になってしまうよな
少し間を置き、ミリアは話を続ける
「多分ですけど、ラフィ様は〘先程、婚約したばかりなのに、直ぐ別の女性と婚約するのは不義理〙と思っていませんか?」
「な、なな、何故それが分かるの!?」
「ラフィ様の事ですから。・・・と言うのは半分冗談で、雰囲気がそんな感じでしたから。ラフィ様は顔には出ませんが、雰囲気で結構わかりやすいですよ」
クスッとミリアは笑い、俺はその笑顔にドキッとしてしまった
しかし俺って雰囲気で結構わかりやすいのか
今後は何にとは言わんが色々と気を付けよ
ミリアとの話し合いも終盤に差し掛かった所でコンコンっとドアが鳴り、誰かと思い扉を開けると、そこにはリリィがいた
ミリアは席を外そうとするが
「ミリアンヌさんもここにいて。証人にもなってもらいたいし」
リリィはそう言うと・・・俺に向き直り、深呼吸を一つして
偽りなき想いを告白する
「私は、6年前に助けてもらった時からずっとラフィが好きでした。でも、私は卑怯者です。お母様の強制婚約でも結婚できるなら・・と考えてしまって、それに甘んじようとしました。告白して今の関係を壊してしまうのが怖かったのです。でも!こんな卑怯者な私ですが、ラフィを思う気持ちは誰にも負けないと!嘘偽りない気持ちだと胸を張って言えます!だから私を・・ラフィの婚約者にして下さい!」
半分懺悔ともとれる告白をし、肩を震わせ泣くリリィを俺は優しく抱きしめる
強く抱きしめたら壊れてしまいそうだったから
涙を流し続けるリリィに俺も偽りなく答えを返す
「俺もリリィの事は好きだよ。でも、ミリアもそうだけど、まだ愛しているとかはわからない好きなんだ。だから時間をかけてゆっくり育んでいこう。それと、リリィは自分を卑怯者だと言ったけど、それを言うなら俺も卑怯者かな?リリィと同じことを考えていたからね。だから、似た者同士だね」
リリィは俺の胸の中で泣きつつもしっかりと答えを聞いてから顔を見上げて
少し笑ってから俺の唇にキスをした
数秒ほどの軽いキス
リリィは顔を赤らめながらゆっくりと唇を離して
「不束者ですが末永くお願いします」
そう言って俺の腕の中から離れ、ミリアに向かって
「ありがとうミリアンヌさん。貴方のおかげで勇気を出す事が出来たわ」
「それは何よりでした。では、同じ婚約者ですし、さん付けは止めにしませんか?私もリリィと呼ばせて頂きたく思いますので」
「では、私もミリアと呼ばせて頂きますね」
と言葉を交わし、部屋を出る際に二人の手を握って会談中の部屋へと戻った
会談中の部屋へ入る際に俺は意思表示の為、手を繋いだまま入る事にした
扉はミリアが開けてくれた
リリィは顔を赤らめて恥ずかしそうだったが、手を少し強く握るとクスリと笑い、3人で中に入った
部屋に入り、3人とも座っていたソファの位置へと座り、事の顛末を話す
告白の内容は勿論内緒だが、リリィから告白をされた事だけは伝えた
ミリアもその場にいて聞いている事も伝え、全員が口を開けてポカーンとしている
先程、婚約に際して提案した王妃様までもが呆然としていた
まぁ、あの提案が出てから1時間と経たずにこれだからな
しかも同日に二人と婚約とか、男としてどうかと自分でも思うわ
そんな中、我に返ったリアフェル王妃が口を開く
「と、とりあえず、良くやりましたリリィ。グラフィエル君も娘の申し出に答えてくれてありがとう。問題は、発表時期と式の日取りね」
その言葉にヴァルケノズさんと俺がお互いに主張をする
ヴァルケノズさんの主張は先にミリアとの婚約発表をさせろ!だ
俺の主張は出来るなら高度学院を卒業してから数年後に式を!である
しかしリアフェル王妃は、両方の主張を一蹴して取り合わず、またも問題が出来てしまった
ヴァルケノズさんも譲れないと食い下がる
「では、王妃の主張を聞きましょう」
とヴァルケノズさんへ提案し、その主張に俺達は反発した
王妃の主張は婚約発表はリリィの後にミリアである
式は俺が成人後に準備し始めて、夏までには式を挙げるという内容
これには、流石に俺も承服しかねた
前者の方はヴァルケノズさんが反発し、後者は俺が反発したのだ
俺の成人は春なので1年間は在学中である
流石に在学期間中に結婚する気は無いので、今回は俺も引かない
こうして三者三様の主張が纏まるわけも無く、三竦みとなり、時刻も夕方な事もあって、この日の会談は一旦終了する事となった
次の会談は5日後にとヴァルケノズさんが告げると、もう少し早くならないのかと王妃が詰め寄る
しかし教皇としての職務もあり、ミリアの婚約に関して俺とジルドーラ家との顔合わせもあり、最短でも5日後でしか都合がつかないそうだ
これに関してはリアフェル王妃も渋々だが「仕方がありませんね」と引き下がった
ホント!国の面子って面倒くさいよね!
会談場を後にし、ランシェス王国側は屋敷の帰路に着く
尚、護衛の面々は待っているだけだったのだが、予定より大幅に会談時間が長くなってしまい、疲れた表情をしている
そして帰路に着く途中、王妃様方はずっと不機嫌であった
屋敷に着くと皆は思い思い楽しんできた様で雑談していた
だが、帰宅した王妃様方の不機嫌オーラ見て、黙り込んでしまった
その後、夕食になったのだが、触らぬ神に祟りなし!と言わんばかりに、王族を除く全員が外食をしたのは言うまでもない
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