第25話 災厄の襲来
学校生活3年目の春、級友も席次も変わらず平穏な幕開けだった
夏季休暇は例年通りで護衛も変わらず
夏季休暇も終わり秋になる
俺は入学当初から主席を譲らなかったせいもあり、この秋から多くの生徒に慕われ教師ではなく俺に教えを乞う者が増えた
そんなことになった理由は、3年目の秋の始めに冒険科・武術科・魔法科で合同野外実習が行われたのだがそこで魔物の群れと遭遇した話まで遡る
野外実習の授業で冒険者が数名付き添って監視と指導をするのだが不運にもゴブリンとオークの変異種をリーダーとした群れに遭遇してしまう
数は100とかなりの規模で、指導していた冒険者は最高でもCランク
魔物の群れはAランク相当(後で聞いた話)の群れであり全滅濃厚であった
俺は輝く星の名前を出して足の速い冒険者に救援連絡役にと教師へ進言し、以前にも似たようなことがあり対処に慣れている事を告げて
教師や冒険者は反対したが以前に俺が同じ状況下で人助けしたことがある事をを強調して告げ、時間稼ぎなら可能とさらに強調しつつ進言して俺はわざと一人で残れる様に持って行った
何人かが残ろうとするも戦闘経験が無いものを残せないと言う事で全員が撤退した
王都からは全体移動で小1時間程度の場所で実習しており、15分程足止めすれば援軍が来るからと告げられ、万が一の為にCランクのみ残り撤退戦が開始された
1人なら全滅させて時間を合わせてウォルド達と口裏を合わせられたのだが、他の冒険者がいるためにそれが出来なくなってしまった
これは面倒くさいと考えていると戦闘開始前にウォルド達が来た
会敵まで30分程で足止め15分の作戦だったが連絡役の冒険者は最速で救援要請しウォルド達は相当早く駆けつけてくれたと思ったが・・実は依頼を受けた帰りに近くを通りかかったそうだ
その時にたまたま連絡に出した冒険者と出会いこちらに急行したと言われた
ウォルド達はCランクを下がらせ、俺には参戦するように告げるが当然Cランクから反対される
以前にも似たような状況が別であり、その時に俺の機転で切り抜けられたので今回も俺の機転に期待してると告げ、俺の安全を第一に無事に送り届ける事を伝えるとAランクパーティーの言葉でもあるので渋々引き下がった
俺とウォルド達だけになったので、俺は魔法科の授業で習った事の1つを試してみた
魔力操作が優れている者は属性変換した後に更に造形をして撃つ方法があり、この方法が出来る者の威力は最低でも聖級はあるそうだ
開けた場所で火魔法を使っても問題なさそうなので造形していく
ウォルド達は戦闘態勢を取ってはいるが負ける要素は無いと気楽にしている
確かに負ける要素は皆無だけどな
俺は戦闘開始の合図とばかりに魔法を放つ火魔法を巨鳥の形にして放つ
火の鳥・・・不死鳥フェニックスを模した火魔法である
魔法名を付けるなら・・・・・・フレアバードストライク?
・・・・・・・・しっくりこないので後々考えよう
その火魔法は魔物たちを徹底的に焼き尽くす
骨すらも残さず全てを灰にして
放った俺も見ていたウォルド達も口を開けていた
予想以上に威力が高かったのである
魔物の群れに少し広く燃える様に範囲を調節して放ったので2次被害などはないが、そのせいか攻撃範囲内の威力が高くなってしまい、それに気付いたのは全てが終わってからである
その火魔法の一撃で変異種も諸共に魔物は全て燃え尽きた
俺とウォルドはお互い顔を見合わせ
「ラフィ・・・・これ、どう言い訳するよ?」
「どうしよっか・・・ウォルド達で何とかならない?」
「今回はラフィの手柄で良いと思う。言い訳も出来る内容だし・・・ただラフィは疲れ切った演技だけしてくれれば」
ムムノが俺の手柄にしてもどうにでもできるそうで、ウォルド達もそれに乗った
ウォルド達に手柄はあった方が良くないかと聞くと「無傷であの数を殲滅とか身の丈に合ってねぇ」「実力以上の事はな・・」「ギルマスにラフィ絡みだと説明しやすい」とバルド・ウォルド・ムムノの順に答える
ヤナは「や~ん!すてき~」と大興奮でナユルは「以前よりも凄さが増してますねー・・・」と遠くを見ていた
尚、褒めてくれたヤナの熱い眼差しに貞操の危機を感じたのが一番怖かった
皆が待つ場所へウォルド達と向かい全員に事の次第を説明すると全員驚いていたが、ムムノが説明をすると教師と冒険者は疑いつつも納得し生徒全員は尊敬の眼差しで見て来た
俺は演技の為、バルドにおんぶして貰っている
それでムムノが説明した内容はこうである
「ラフィは元々魔法の適性と運用方法が極めて高く、学院で更にその素質を開花させたみたいだけど威力調整に若干失敗したみたい。で、魔力はガス欠寸前。範囲調整に気を取られ過ぎたみたい。授業で習ったことを実践もしたと言っていたので今後のラフィの課題は残った感じ」
と説明した
あくまでも偶然の威力と継戦能力が損なわれた事を理由にしたのだ
結果オーライの形に持って行くために俺は演技でぐったりしていた
全員無事に野外実習から帰還し、ウォルド達に「ギルマスへの報告は任せとけ」と言われ解散となる
翌日から先に述べた状況になったのだ
中にはお付き合いを前提に・・・なんてこともあった
その後は何事も無く新年を迎え、春に近付きつつ、卒業式が終わり、春季休暇に入って1週間位経った頃、冒険者ギルドに凶報がもたらされる
直ぐに王城へ凶報は届いたが圧倒的な数と時間の無さに人員が足りなく王都は壊滅すると誰もが思った
もたらされた凶報とは・・・スタンピード
魔物の集団暴走で東・西・北の3方向からであった
唯一の救いは3方向同時到達ではなく時間差がある事だがそんな救いは焼け石に水
時間差があっても1両日中には王都に全て到達するからだ
最初の到着は西で次に東、最後に北だが軍を展開しても西側しか対処できない
強力な個体も確認できているらしく王国は風前の灯火となった
即座に避難命令が出され王城も解放された
本来なら王城の中には避難勧告が出ても入れないが、今回は特災害級のため特例法が適用された
3方向に領地を持つ貴族で現在王都にいる者は招集され事情説明をさせられる
クロノアス家は北に位置する為に当然呼ばれたが全貴族がスタンピードの兆候は無く定期的に討伐や掃討もしていたと報告し混乱は苛烈を極めた
冒険者ギルドの高ランクとギルマス以下職員も呼ばれ騎士・軍を含めた全員が会議室に召集される
その頃、俺達生徒は春季休暇だったので全員が家にいたが、避難場所に学校が指定されており、大部分の生徒の家族が避難していた
教師達が慌ただしく避難を指示し誘導を開始する
俺は主席だったのもあり、教師と共に避難誘導をしている
何が起こったか知らない俺に1台の馬車が目の前で止まり、中から筆頭近衛騎士団長が降りて告げる
「グラフィエル・フィン・クロノアスは至急王城に出向き陛下に謁見せよ!」
良くわからないまま俺は馬車へ拉致られ王城へ連行される
言い方は悪いが傍目から見たらそうとしか見えないのだから仕方ない
そして20分程馬車は走り、王城へと着き、応接室にて陛下と謁見する
何の用事かと思ったが、現在ゼロがどこにいるか知っているかと聞かれる
5年近く前に別れたきりなので「知りません」と答えると明らかに落胆した
応接室には父もいたので何が起こったのかを聞き、初めて今の状況を知る事となる
国が亡ぶかどうかの話であったのでゼロについて聞かれたのだ
応接室の外は慌ただしく動いており、そこかしこから喧騒が聞こえる
父にもう少し詳しく話を聞くと、東・西・北の3方向でスタンピートが発生し王都に向かっているとの事
現在対処できるのは1方向のみで最速到達は西側で次に東側になるとの事
全貴族が兆候は無いと言っているが見落としが無いかと情報を集め、スタンピードした魔物の情報も同時に集めていると言われた
フェル殿下達も会議に参加して情報を精査しつつ、この局面を乗り越えようとしているが妙案はない
大雑把な説明ではあったがそこでふと違和感に気付く
我がクロノアス領も定期的に討伐・掃討を行っている
定期的にと言っているが、他の領地よりも頻度は多めだ
更に冒険者の数も王都を除き、国内では1番多いのに北からスタンピードが発生?
更にここ数年で上位変異種の確認と増加に、群れとの遭遇率の上昇が偶然なのか?
俺は学生であるが会議に参加させて欲しいと陛下に直訴する
妙案があるのかと聞かれるが、その前に確認したいことがあると伝え、父同伴で参加を許された
父同伴で会議室に行くと、妙案がないフェル殿下が唸っていた
本来王太子とはいえ、未成年でまだ子供なフェル殿下が軍議に参加すること自体あり得ない
事態はそれほど最悪で可及的速やかな解決が望まれていた
そんな中、フェル殿下がこちらに気付き、近寄って来て声を掛ける
「やぁ、ラフィ。一体何の用だい?」
「フェル殿下、お力をお貸しいただきたい」
「何か妙案があるのかい?」
「その答えを出すために確認したいことがある。問答とかしている時間が勿体無いから殿下の力で貴族達の問答を抑えて欲しい」
その言葉を最後にフェル殿下の目が細められる
普段は貴族のゴタゴタをどうにかする頼み事をしないのが俺だ
なのに今回はその頼みごとをしたので計りかねている様子
フェル殿下はそんな中で一つだけ聞いてくる
「何で今回は、そんな頼みごとをするのかな?」
「理由は二つ。一つは時間が無いから。もう一つは犯人探しではなく疑問に思ったことへの回答にどうしても情報が欲しい」
数秒の静寂の後、フェル殿下は口を開く
断られるか?と思ったが、その心配は杞憂だった
会議室に陛下を始め、現在王都にいる貴族と各軍団長が集められた
先ずは情報の取得、そこから整理と推察する
貴族達は何か言いたそうではあったが、陛下と殿下が先手を打っていた為、何とか治まっている
俺が欲しかった情報は
一つ、最新の討伐・掃討の時期と場所と範囲
二つ、生息する魔物の種類
三つ、討伐した魔物の数
四つ、以前に起きたスタンピード兆候の年数と場所
五つ、現スタンピードの全情報
これを全て聞き出し、思案する
隠しているスキルもいくつか使い、情報処理していくと一つの答えが浮かび上がる
まさか・・・と思い、あり得るのか?と思うと同時につい言葉に出してしまった
「誰かが・・・・意図的に発生させた?」
この言葉に場は一気に剣呑な雰囲気に包まれる
だがそれはある意味想定内でもある
なので次の言葉にて場を落ち着かせる
「意図的に発生させたとしてもこの場にいる者は問題無いですよ」
その言葉に反応した陛下が理由を求める
理由は至極簡単で二つ
スタンピートを制御出来ていないから
制御出来てなければ慌てるのにそう言った人間がいないから
誰かに唆されて起こしたのならば、必ず制御できると伝えているはずで、王国に反旗を翻したのなら、制御不可ならば慌てるか安全な場所で高みの見物をするはず
そう言ったものがない以上この場にいる者は限りなくシロに近い
解決案でもなく、陛下の疑問に応えただけであったが剣呑な空気は無くなった
その後も色々と話し合い、意見が出されるが妙案は出ない
気付けば夕方で、明日の朝には西に第1陣のスタンピードが来る
このままでは王国は終わる・・・・
そう結論付けた俺は、仕方ないので賭けの一手を陛下に進言した
失敗すれば王都は蹂躙されるが、成功すれば被害甚大の可能性はあるかもしれないが立て直せることは可能
王都を守り切れるわけだが、これに貴族が反発すると思っている
陛下に賭けの一手を伝える為に発言の許可を貰い、進言する
「陛下。かなり危険な一手ですが、手はあります。先ず王国軍を西の第1陣に全軍配備します。東には冒険者ギルドへ依頼をし、報酬割高で全員を東に配備します。これで北の3陣が来るまでに半日以上の時間が稼げます。その間に今から王都に近い領地持ち貴族に援軍を要請。応じなければ反逆者として扱うと告知します。これには陛下の強権が必要な案件なので、無理であれば王国軍が西の魔物の軍勢を北の群れが到着する前に殲滅させ、北に移動し展開となります。東の冒険者は殲滅後は北に合流し、挟撃とします。強権を発動した場合は援軍に来た人数の数だけ王国軍を北に移動させて展開し、時間稼ぎを行い、西と東を殲滅後に挟撃するか西を王国軍と援軍で一気に殲滅させた後に北へ移動し、殲滅をする位しかありません」
一気に説明し終わると、まぁ当然貴族連中は反発が激しいわなぁ
特に強権の部分についてはめっちゃ噛みつきやがるが、そんな貴族達を黙らせたのは陛下ではなく、父とギルマスにウォルド達だった
「陛下。息子の意見に賛成します。間に合うかは分かりませんが、我がクロノアス領から援軍を出しましょう」
「ギルドも協力しましょう。今回の報酬は必要ですが、国のみに負担はさせず、各ギルドから資金を提供してもらいます。国には全報酬の6割をお願いしたいと思います。残り4割はギルドが負担します」
「冒険者代表としてだが、ここにいる高ランク全員が、『勝利後に陛下が美味い飯と美味い酒を奢ってくれるなら動く』と言ってくれた。俺達への報酬はそれで良い。後、こいつは前払いで出来たらで良いんだが、陛下とギルマスと俺達のパーティーメンバーとラフィを含めて少し会話がしたい」
最後のウォルドの前払いにまた貴族が噛みつき、流石にイラッっとして殺気を出しそうになったが
「静まれ!もう夜だ。30分の食事休憩とする!ウォルドと言ったな?食事しながらで良いなら話を受けようではないか」
「礼儀はなっていないんでその辺りはご勘弁を」
「構わぬ。非常時故に礼儀に関してはこの際不問とする」
そう陛下の一声があり、一度休憩になった
俺達は別室にて話をするため移動するがフェル殿下もついてくる
「お主は別室にて食事せよ。話が終れば使いをやる」
と陛下が告げ、殿下は別室へと向かった
今回は会議室に近い部屋で話をするようだ
部屋に入り話をしようとするウォルドに
「すまんがもう一人来る。この提案を受け入れぬ場合、この話は無しだ」
と言われ渋々了承する
数分後、部屋に来たのはヴィルノー先代だ
彼が席に着くと同時に話し合いが始まる
食事は既に配膳済みで食べながら話をする
「で、お主達はどこまで知っておる?」
始めにそう告げたのは陛下だ
その答えにウォルド達は
「そう聞かれると言う事はラフィの力を知っていると言う事で良いんですね?」
と返し、好都合と言わんばかりに話を進める
「先のラフィの提案ですが一部変更したい。北にはギルマス・俺達のメンバー・ラフィのみで先行して殲滅したい。出発は夜が明ける前にして、夜が明けるとともに殲滅戦を開始。西のが来る前に終わらせる。西は冒険者含めた全軍で殲滅。東は北から帰ってきた俺達が殲滅でどうでしょう?」
それを聞いた陛下だが当然却下する
当たり前だよなぁ・・・そう思っていると次に出た言葉は予想外のものだった
「北にはグラフィエル一人でやってもらう。西は王国軍、東は冒険者で組む。クロノアス家の援軍は断り、北はゼロに依頼したことにする。どちらか突破された場合はグラフィエル・フィン・クロノアスに動いてもらう」
陛下の言葉にギルマスとウォルドが噛みつく
「陛下!いくらグラフィエル君でもあまりにも無謀です!私は直接見てはいませんが話は聞いています。彼の力がいくら凄くても、それは無謀すぎます!!」
「陛下。俺も同意見です。ラフィは確かに強い。俺達よりも強いと思いますが、それでも無謀です。せめて俺達だけでも北に配置してください」
二人は陛下に再度進言するが、陛下はそこで最初の質問を再びして告げる
「君達がした最初の質問をしよう。君たちはどこまで知っている?余とヴィルノーは君達よりも知っている。それが答えだ。グラフィエル・フィン・クロノアス!勅命である!北の魔物どもを殲滅せよ!!」
陛下はそう告げ、話は終わりだと告げる様に席を立ち、部屋から出て行く
ギルマスとウォルド達は苦い顔をしていたが俺はそれどころではなかった
(どこまでバレてるんだ?)
俺は内心で冷汗を掻きつつ、頭の中でそう考えていた
その後、会議が再開されるも良い案は出ず、陛下の一声で西に王国軍、東に冒険者と決まった
北に関しては公表されず、そのままお開きとなる
翌日早朝、陛下の計らいもあり王城に一泊した俺は北へと一人出陣する・・・
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