第12話 神の家庭教師

 俺、グラフィエル・フィン・クロノアスの洗礼から1か月が過ぎた。

 ここ1か月は特に変わり映えのない日々を過ごしている。

 だが父は非常に困った状態だ。

 俺の家庭教師が未だに候補すら決まらないからである。

 そもそも、全属性持ちの魔法使いなど他にいるのかすらわからない。

 なので父は、1属性に特化又は突出した魔法使いで、無属性と時空間魔法と召喚魔法以外の者を家庭教師にお願いしようと探していた。


 この世界には冒険者って職業があり冒険者ギルドがある。

 魔物を狩ったり素材を採集したり雑用などの依頼をこなす。

 最近では新しくダンジョンと言うものが見付かったのでそれの攻略もある。

 家庭教師は雑用の部類に入るが、他の雑用に比べ高額の依頼が多い。

 我がクロノアス家も俺を除く兄姉全員に家庭教師はいた。


 兄姉達は時空間魔法以外の属性は多い者で4つ。

 父が言うには、子供達の代は全員魔法素質が異常に高いそうだ

 これも神様達の仕業なのであろうか?

 姉達は全員光属性を持っていた。

 光属性の代表的な魔法は回復魔法なので、姉達の家庭教師には教会のシスターを派遣してもらった。

 残りの属性の家庭教師は冒険者だ。


 各人に家庭教師は大変お金がかかる。 冒険者への報酬は勿論の事、教会にも毎月の寄付を今までより多くしなければならない

 更に冒険者は契約で動いている。

 当初の契約を変えるのは結構大変なのだ。

 だから兄姉達の家庭教師は長男・長女・次女(以降1番目)と次男・三女(以降2番目)で分かれている。

 俺は下に弟妹はいないので単独の家庭教師になる。


 1番目は火・水・風・光の属性を教えている。

 火と風を教えていた冒険者は、長男と長女が学校に入ったので次女が学校に入れば契約終了となる。

 2番目は水・風・土・光を教えている。

 三女が4属性持ちで、次男は適性が一番少なく風のみ。

 勿論、時空間魔法以外での話である。

 そして3番目となる俺だが・・・家庭教師探しは困難を極めている。


 何故ここまで見つからないのか?それは魔法神様の加護が高いのでそれなりに優秀で名の通った冒険者を家庭教師につけようとした為である。

 教会にも光属性の優秀な者をと相当無理難題を言ったらしいが光属性に関しては見つかったと言われた。

 教会本部でもあるセフィッド神聖国から派遣するので、到着に時間が掛かってしまうのは仕方ないのだ。


 属性家庭教師については、未だに誰からも依頼受諾が来ない。

 いや、正確には依頼自体は受けてきたのだが、依頼主である父が条件に見合う者ではないと断りまくっているのが一つの原因だ

 断る理由はわからなくもないが・・・。

 父は最近では母二人に。


「勉強が遅れる位なら依頼内容のランクをもう少し下げてみては?」


 と、苦言されているようだ。

 基本母達はこういったことには口を出さない。

 それほどまでに難航しているのだ。

 だが父の言い分もわかる。

 冒険者ギルドに出している依頼内容は。


【高ランク魔法が使える魔法使い。属性は1属性でも可。契約期間は子供が学校に入るまでの約4年。但し教える必要が無くなった場合には冒険者の都合も考慮し早期契約完了もある。要面談あり】


 って内容だ。

 で、来た冒険者はと言うと中級魔法が大多数で、たまに上級の使い手が来る程度。

 父の気持ちも良くわかる・・・。

 教会からの派遣は王級の使い手が来ると父から聞いた。

 父は相当頑張ったに違いない。

 ここまでするのには訳があったりもする。

 この世界の魔法に関する等級だ。


 この世界には初級・中級・上級・超級・聖級・王級・帝級・神話級とわかれている。

 まぁその上に神様が使う神滅級の神滅魔法があるのだが。

 過去の資料には神話級が使えた魔法使いも存在した記録が残されている。

 父は最低でも聖級以上の使い手を家庭教師に雇いたいみたいだ。


 超級と聖級では大きな壁がある。

 超級までは学校でも覚えられる魔法だ。

 だが聖級以上になると高度継承魔法やオリジナル魔法と呼ばれるものが多い。

 それだけ聖級以上のクラスは魔力圧縮や魔力操作が必要になってくる。

 高い加護と才能(全属性の事)なので高度教育をさせたいようだ。



 そんな日々が続いていると一人の冒険者が面接に来た。

 父が面接を終えると俺は応接室に呼ばれ冒険者の男性を紹介されるのだが、その姿を見た瞬間に頭の中に神刀ゼロが浮かんだ。

 目の前の冒険者はゼロに似た力を醸し出していたからだ。

 まさか・・・と思いつつ、お互い挨拶をする。


「クロノアス家三男のグラフィエル・フィン・クロノアスです」


「初めまして、グラフィエル君。俺はゼロだ。よろしくな」


 冒険者の男性はゼロと名乗った。

 やはりそうなんだろうか?

 もし俺の考え通りならこの冒険者は間違いなく原初の神だ。

 何も無いとは思うが、念の為、警戒をしておく。


「そんなに警戒しないでくれ。あ、堅っ苦しいのは苦手だし、親睦を深めるためにラフィって呼んで良いか?」


 こちらの毒気が抜かれるようなことをゼロは言い出した。

 こいつ一体何が目的なんだ?

 まぁ敵意も害意も悪意も無いっぽいしとりあえず話をしてみるか。


「それは構いませんが、自分は何とお呼びすれば?」


「好きに呼んでくれて構わないさ」


「じゃあゼロさんで」


 そんな他愛もない会話をした後、父は席を外し俺は自室にゼロと共に行く。

 明日からの勉強内容の打ち合わせだ。

 当たり前の話だが、どこまで知ってどこから知らないかを聞かないと授業にならないからである。

 打ち合わせにはナリアも同席している。

 ゼロの部屋割と父へ報告する為であろう。

 さて・・どこまで言って良いものか。

 悩んでいるとゼロがナリアに。


「ここから先はラフィの魔法素養に関する話だ。本人以外は席を外してもらいたいんだが」


 と、語尾を少し強めに伝える。

 専属メイドであるナリアは今日あったばかりの男を信用など出来るわけもない。

 それに専属メイドとは護衛も兼ねている。

 ナリアは他のメイドを呼び、父に状況を説明しに行かせて判断を仰いだ。

 ナリアは当然、ゼロの申し出は拒否されると思っていた・・・。のだが意外にも父はゼロの申し出を許可した。

 当主が決めた以上、ナリアは従う他ない。


「御用の際にはお呼びください」


 ナリアは部屋を出て行った。

 ナリアが部屋を出て行き、辺りに人の気配が無い事を確認したうえでゼロは魔法を使う。

 神気を込めた魔法である事は直ぐに分かったので俺の考えは間違っていなかった。

 どのような効果のある魔法なのかは判断できなかった。

 俺は警戒度を一気に引き上げるが・・・。


「そこまで警戒しなくても良い。使ったのは防音と遮断だ」


 ゼロは告げるとルリとハクを見て。


「神獣二匹かよ・・・お前、可愛がられてるなぁ。加護も確か全員だったな?」


 確認するかのように聞いてくる。

 俺が頷くとゼロ・・いや原初の神は更に色々聞いてきた。

 目的が全くわからない。

 質問に答える前にこちらの質問に答えて欲しいと伝えると「答えられる範囲ならな」と言質を取ったので俺は目的を聞いた。


「ここに来た目的は・・まぁ、色々あるが一つは俺の神刀ゼロを受け継いだやつを見に。二つ目はジェネスのガキが図々しくも原初である俺に依頼をしてきやがってな。乗り気じゃなかったんだが神刀を託したって聞いたからな。興味が湧いた」


 一気に喋ると紅茶を飲んで一息つく。

 後、どうしても気になることがあるのでそれも聞いてみた。


「神がこの世界に降りても良いんですか?」


 これ最もな疑問だと思わね?答えてくれないかもと聞いてみた。がNGは何なのだろうか?これの答えも普通に話して貰えた。


「俺と他の神達じゃ色々違うんだわ。今の俺は神でありながら人だからな。答え合わせをすると神人だな。後、別に神が下りたら駄目って事はねぇぞ」


 え?そうなの・・・何かジェネス様に聞いた話と違う気が・・。

 腑に落ちない顔でもしてたのだろうか?ゼロは話を続ける。


「降りた時のルールはあるぞ。世界のバランスを崩壊させないのは当たり前で神格を用いた力の行使、神としての威圧、この世界で定められてるルールを破る、他にも色々禁止されてるぜ。まぁ俺はいくつか破ってるけどな」


「最後の破ってるはダメでしょうが!!」


 原初の神に思いっきりツッコミを入れてしまった。

 ヤッベー・・と思うが、ゼロはキョトンとした後「ぷっ・・・あははははは」と大爆笑した。


「いやー、超腹いてー。久々に大爆笑したわ。俺にそんな風にツッコむやつなんざ今までいねぇーからな。久々に面白かったわ」


 あ、やっぱりいなかったのね。大爆笑し終わったゼロは話を続けた。


「そもそもルール作ったの俺だぜ。どの程度までなら破っても問題ないとかわかるに決まってるだろうが。安心しろ、世界がおかしくなるような真似はしてねぇからよ」


 それでも破るのはどうかと思うが。

 あれだな・・ルールは破るためにあるとか極大解釈とか俺がルールだ的な。

 原初の神は俺の中でジャイアニスト神へとランクが変わった瞬間だった・・・。

 目的もわかったし、疑問もそれなりには解けたし、ジェネス様の依頼って言ってたし、多分大丈夫だろう。

 俺はゼロの質問に答えるために一応他言無用を誓わせ(この神、口軽そうだから)ステータスオープンして全て見せた。


「これはまた・・・お前、人間辞めて神になれば?今ならジェネスと同格の神に俺権限でしてやろうか?」


 またとんでもない事を言い出すなこの神は・・・。

 それに答えはNO!です。

 神なんて面倒くさそうだし。

 ゼロの冗談?に対し明確な意思を見せてから、俺は何故こうなったかを一から説明した。

 それを聞いたゼロは先程までとは違って真面目な顔で答えた。


「おかしいな・・・そんな状況になっていれば流石に俺が出張る案件だ。俺は神でありながら神殺しでもある。ああ、だから神刀をお前に託したのか」


 ゼロは一人で何か納得した様子だった。

 何となくではあるがゼロになら話した方が良いと思い、転生する時のあの神喰いの言葉をゼロに伝えた。


「そいつの言葉は信用できるのか?」


 当然の反応なので俺は経緯も説明すると神刀ゼロを見せろと言われた。

 言われた通り神刀を出しゼロに渡す。

 ゼロは柄をじっと見つめ、ため息をつきこう告げる。


「浸食されてない神格を核に残したようだな。痕跡が残っている。下の神が俺に話をするのは勿論、会う事も出来ないからな。そいつなりの抵抗だったんだろう」


 そう言うと俺に神刀を返す。

 顎に手を当て、真面目に何かを考えているようだ・・・。

 5分程だろうか?沈黙が流れる中、考えが纏まったのかゼロはとんでもない爆弾を落とす。


「お前、俺の使徒になれ。当然だが加護も与える」


「はい?」





 突然の事で俺は間の抜けた声を上げたのだった・・・。

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