第9話 名付けと修練

 朝から驚きの連続であったが、俺はいつも通り早朝修練の為に庭に出た。

 軽いランニングに腕立てと腹筋運動。

 当然魔力修練も同時にしている。

 小1時間程鍛錬して朝風呂に入る。

 汗かいたままじゃ嫌だし。

 そして朝食だ。


 産まれた二匹を皆にも見せようと一緒に連れて来たのだが、予想した通りナリアと同じく皆固まってしまった。

 再起動には5分程かかった。

 両親達から二匹は暴れないのか? とか危険なら最悪……とか色々言われたが二匹はそんな言葉を聞くたびに首を横に振っていた。

 これには俺も含め、全員が驚いた。

 二匹は生まれて直ぐなのに、人の言葉を理解していたのだから。

 両親達は驚き、兄姉達は興味津々といったところだ。


「ねぇ、この子たちの名前は?」


 ルラーナ姉様が名前を聞いてきたのだが昨日? 今日の朝?かは分からないが生まれて直ぐなのでまだ決めてないことを伝えると。


「じゃあ皆で朝食の時に決めちゃいましょうよ」


 とエルーナ姉様が言うので朝食を食べながら二匹の名付けが始まったが、父は兄姉達に一つ注意をした。


「皆で名前を考えるのは良いが、二匹はグラフィエルに贈られたものだ。グラフィエルが決めたなら文句を言ってはダメだぞ」


 一応の注意なのだろう。

 兄姉達も皆わかってますって顔をしながら頷いている。

 それから色んな名前が出た。

 短い名前から呼ぶのに大変じゃね?みたいな名前まで……ホント良くそこまで出るもんだと感心する。

 俺は全く出てこなかったが……。


 当事者の二匹は我関せず的な感じでご飯を食べている。

 ミルクではなく離乳食と言うにもおこがましいが一応は食べやすくミンチ状にして火を通した肉だ。

 当然野菜も食べやすくして出してある。

 そして名前は一向に決まらない。

 最終決定権のある俺がピンと来ないので未だに決まらないのだ。

 俺は二匹をじっと見る……ピンときた名前は一応あるのだが、安直すぎるので言いづらい。

 そんな雰囲気を感じたのだろうか?

 母様達が助け舟を出してくれた。


「グラフィエル。私達に気を遣わず思いついたのなら言いなさい」


 母様達の助けもあり、俺は思いついた名前を言う事が出来た。


「竜の方はルリ。狼の方はハクにしようかと」


 そう答えると兄姉達がなんでその名前? って顔をしてたので続けて答える。


「ルリは青白い竜なので似たような色の宝石の名前から。ハクは真っ白な毛並みで雪を連想させてです」


 説明すると皆納得し、呼びやすいのも良いと言う事で二匹の名前は決定した。

 その後、朝食を食べ終えて食堂を皆が去る前に二匹を俺のテーブルの前にお座りさせ名前を伝えた。

 二匹とも名前を気に入ったらしく嬉しそうにしながら首を縦に振ると、二匹は名前を受け入れたと言う意思表示みたいに淡く光を発し、光は二匹に吸い込まれるように消えていった。

 食堂で見ていた家族やメイドはまたも固まっていた。




 ……俺なんかやらかした?




 皆がまた再起動するまで、内心で冷や汗だらだらな俺は再起動した父に説明された。

 今の現象は魔物や動物が眷属化し、主と認めた現象だと。

 ただこの現象は、詠唱を用いてから名付けをし、魔物や動物が名前を受け入れ、更に自分の主として認めないと、今回みたいな現象は起きないらしい。

 名前だけ受け入れた場合は、テイムとなり、別の現象が起こるとの事。

 またスキルはテイムだけであり、眷属化のスキルは存在しない

 本来すべき詠唱を飛ばしているので、名前を告げただけで起きた眷属化現象に驚いたそうだ。



 やっちゃってたのね、俺……。

 そういうことはもう少し早く教えて欲しかってよ。

 そして神様達と言うか手紙を書いた神と二匹を贈った神達はきちんと説明を書いといてくれよ。

 心の中で愚痴りつつやっちまったなぁ後悔するのであった……。


 この後、父から言われたのが「どちらも生まれて間もないから出来たことかもしれんな」である。

 父は「ナリアに手伝って貰いながら今回の事を纏めて魔法ギルドに論文を提出するように」と、当主命令を出した。

 この当主命令は、俺が将来困らないようにする為らしいので、渋々だが論文を作って提出する事にした。


 朝食が済み、いつも通り過ごそうと行動しようとすると、父から呼ばれた。


「グラフィエルは三歳になったな。クロノアス家では、男子は三歳から武術と体術の基礎修練を始めることになっている。今日から、お前も兄達と一緒に修練に参加するのだ」


 父は告げると俺を庭に連れて行った。

 庭には兄達が修練の準備をしている。

 父も交じり男四人は軽く走り込みをして体をほぐし、各々修練を開始する。

 兄二人は向かい合い、長兄は回避と防御のみで次兄は攻撃のみだ。


 これは覚える順番があるらしく、基礎>攻撃>防御・回避の順に覚えるらしい。

 攻撃を先に覚える理由はは二つ。

 一つは攻撃系の武術の中にいくつか防御・回避からの反撃技術があるからで、もう一つは至極真っ当な理由で攻撃できなければ勝てる戦いも勝てないからである。

 長男の兄は現在防御系技術の習得中で次男の兄は攻撃系技術の研鑽中なので試合形式の修練になっている。

 俺は基礎からなので、今日は父が兄の様子を見ながら俺の方を優先して教えるようだ。


 基礎は素振り・重心移動・基本的な体術だ。

 神界で修練してた俺は頭の中では父が教える以上の技術があるわけなのだが、身体は子供なわけで当然その技術に身体がついてこれない。

 何とも、もどかしいものだ。

 身体を鍛えて慣らすためにも、父の教えをしっかりと学ぼう。


 基礎修練開始から1週間が過ぎた。

 今日は、一番上の兄姉達のお披露目会出発の日だ。

 父に母二人も行くので、屋敷には子供達とメイドと執事だけ。

 3週間近くは、この人数だけで過ごすことになる。

 皆で見送った後、いつも通りに修練をしたり本を読んだりして過ごす。


 この3週間、特に何もなかった……訳ではない。

 俺はどうしても今の自分の魔力が知りたくなって、1人で近くの森に行こうとしたのだが、ナリアにことごとく見つかり、失敗に終わっていた。

 だが! 俺はそれでも諦めなかった!! 遂にはナリアが折れた。

 条件付きで、森まで行けることになったのだ。

 ただその条件は、俺の目的には一番邪魔な条件であった。

 条件とは〘ナリアが一緒に行く事〙だったのだ。

 多分、両親がいないから外に出て遊びたい位に思われているのだろう。


 俺は屋敷の者全員から、聞き分けが良くて良い子と思われている。

 逆に言えば、子供らしさがないとも言えるが中身は20歳……いや、転生して3年だから23歳――神界の時間を入れれば確実にジジィ――か。

 とは言え、肉体に精神がある程度は引っ張られるので、父が本を買ってくれた時は年相応の喜び方になっている。

 あれだ――知識は大人、身体は子供ってやつだ。

 ……これは怒られるやつだから封印だな。


 まぁそんなわけで、とりあえずは森に来ることには成功した。

 ただ、ナリアは両親が居ない時にこんなことをして大丈夫なのだろうか?

 解雇とかされると嫌なので、聞いてみることにする。

 すると、意外にもナリアはこうなることは想定していた。

 なので、ナリア同伴で森の奥に行かなければ、2回程なら行っても良いと両親を説得してくれていたようだ。

 ナリアってスゲー……感心しつつ、ルリとハクを連れてナリア同伴で森に来たのであった。


 さて、ここで問題だ。

 どうやってナリアにバレずに魔力量の実験を試すかだ。

 だが、問題は直ぐに解決した。

 ナリアは「私は何も見ておりませんし聞いてもおりません」と、言い出したのだ。

 初めは「何を言ってるんだ?」と、思った。

 バレると困るし、両親に報告されても困る。

 そう思っていたのだが、ルリとハクの件もあり、色々と試してみたいと思われていたようだ。

 超完璧メイド恐るべし……。

 だが、それでも躊躇った。

 そんな俺に見かねたナリアは、交換条件を出してきた。


「では、グラフィエル様がメイドを必要とされた時、私をメイド長として指名してください。その代価として、ここでの秘密は他言しませんので」


 ここまで言われては、目の前で実験しないと言う選択肢はなかった。

 しかもナリアの提案は、俺自身を納得させるように仕向けた建前だ。

 どこまで完璧なんだろう、この超完璧メイドは……。

 俺はもう、ナリアならバレても良いやって気持ちになったので、今の魔力を試すことにした。

 試し方は簡単で二つだ。

 ただひたすらに、手の平に魔力を込めて圧縮して放つか、火炎放射器みたいに魔力を放出するかのどちらか。

 後者は森に多大な被害が出る恐れがあるので、俺は前者にした。

 火ではないので、森林火災にもならないので安全なのだ。

 で、試した結果だが……。


「マジか……」


 俺もナリアも絶句した……。

 俺の魔力は非常に、とても非常にヤバいレベルだった。

 日が暮れるまでには屋敷に戻らないといけないので、放出範囲は狭く、魔力濃度は非常に濃くして、大体6時間程ぶっ通しで放出していたのだが、一向に衰えない。

 しかも、魔力残量は超余裕がある。

 減った感じがまるでしないのだ。

 これはあきませんわ。

 俺、やっちゃいましたわ。

 俺は魔力を放出しながら、ナリアと共に再起動まで暫くかかるのであった。

 これが3週間の間にあった、一番の出来事である。



 尚、お披露目会は、兄はモテモテで他の貴族の子供から嫉妬を受け、姉は俺以上に可愛くてかっこいい男の子がいなかったから面白くなかったと、聞かせてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る