第36話 文治郎の修学旅行
「文ちゃんは来週から修学旅行だっけ?」
「ああ、3泊4日も美哉と会えない…。くそ…行きたくねえ…」
「LINESしてね」
「ああ。……美哉、俺がいない間、学校休むか?」
「もう!なんでそうなるの!? ちゃんと行くし! 文ちゃんは修学旅行を楽しんできて」
*******
「聞いてよパパ! 文ちゃんたら、行くのやめようかって言い出したの!」
「文治郎の言うことも分かるにゃ…」
「パパ?」
「いつもは文治郎がボディーガードにゃ。ボディーガードがいないと登下校でナンパに会うかもしれないにゃ」
「俺…やっぱり行くのやめた方が…」
正宗と文治郎が青ざめてオロオロする。
「もう! 2人ともいい加減にして! 私はもう小さい子供じゃないんだから大丈夫だし、文ちゃんは修学旅行に行くの!」
子供扱いされた美哉が珍しく怒った。美哉に嫌われたくない正宗と文治郎は黙るしかなかった。
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「それで学校を休むように勧められたの?」
「そうなの。いくら獣人が珍しいからって、私ももう子供じゃないんだから誘拐とかされないよ。人族より身体能力が高いから複数人を相手にしても逃げられるし」
「うん……美哉の跳躍とか走りとか凄いよね」
「でしょう!」
ケットシー族の身体能力は、ほぼ猫だ。助走なしに高く跳躍出来るし、走れば早い。爪を出せば立派な凶器になる。要するに強い。
「それなら私と一緒に登下校する? って言おうと思ったけど、私ら人族がいたら何かあった時に返って足手まといだもんねえ」
「そ、そんなことないけど。でも、あの2人がいつまでも、ああだと困っちゃう」
*******
「美哉、本当に休まないのか?」
「休まないよ!」
「……俺、やっぱり…」
「やっぱり何?」
美哉の瞳孔が半分開いた。
「……。」
「文ちゃん、明日は早いんだから、今日はもう自分の部屋に帰って休んで! 行ってらっしゃい、楽しんで来てね!」
ちょっとキレかけた美哉が文治郎を追い出すように帰らせた。
「み、美哉ちゃん…」
似たようなことを言いたくてウロウロしていた文治郎を美哉が睨む。
瞳孔は半分開いたままだ。
正宗の身体がビクンと跳ねる。
「私もお風呂に入って寝る!」
翌朝、いつも通り登校の準備を終えた美哉の周りを正宗がウロウロしていると、LINESの着信音が響いた。
「由香からだ!」
今、下にいるから一緒に登校しようという内容だった。
美哉がベランダに出てみると、下で由香と鉄平と太一が手を振っていた。
「おはよー!」
「由香! いま行くね!」
「美哉ちゃん、これお弁当にゃ」
「ありがとうパパ、行ってきます。昨夜は怒ってごめんね」
美哉が正宗をハグした。
正宗が感動で涙ぐみ、いつまでも玄関で手を振っていたが美哉がエレベーターに乗ったのでベランダに移動して見送った。
── 太一がいたにゃ。鉄平の働きかけで獣人会でも、いつまでも怒っているなよ…っていう流れになってきたけど油断は禁物にゃ。
子供の頃、太一が美哉の尻尾を掴んで泣かせた事を昨日のことのように思い出し、プリプリと怒る正宗だった。
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