第34話 祖母の恨みと和解

「正宗さんのブログのコメント欄でお爺ちゃんとやり取りしていたでしょう?それでアクセスが激増したからって、その分の広告収入を全部私にくれたのよ。当然の権利だって。

 私が肩身の狭い思いをしないように、家での役割もいろいろ任せてくれたし、かなりの額の収入まで…。正宗さんのサポートが無かったら戦いきれなかった。本当に感謝しているのよ」

「パパ、カッコいい!」

「照れるにゃ」


「お爺ちゃんたら、正宗さんのブログで、私が快適に暮らしていることが紹介されたら、私のせいで自分はこんな酷い生活をさせられてるってコメント欄に書いてくるの。

 洗濯機に入れるだけなのに洗濯に失敗したとか、食器洗いに失敗したとか…いったい、どうやったら失敗出来るのか…本当に意味が分からなかった。もちろん、お爺ちゃんを叩くコメントが殺到したわ」


美哉がウンウンとうなずく。


「少なくとも、まともに家事を出来るようにならなければ帰ってはダメだと思ったわ。

“だから何?相変わらずクズね、そんなことも出来ないの?” これ以外のコメントはしなかったわ。

 お爺ちゃんは負けず嫌いだし、擁護者は完膚なきまでに叩かれて晒されて消えてゆくから、残るコメントはお爺ちゃんを批判するものばかり。それも大量にね。

 すぐに負けず嫌いなお爺ちゃんが “それくらい自分にも出来る” ってコメントを返してくるようになったの。しめしめと思ったわ」


「お爺ちゃん、やれば出来るじゃん!」

「あ、ああ」

美哉の言葉に答える祖父に元気がない。


「ブログ読者たちとの売り言葉に買い言葉で、お爺ちゃんは1人暮らしスキルを身につけたわ。帰ってもいいかな…って思ったんだけど、正宗さんが “まだ早いにゃ” って止めたの」


「な、なんだって!」

美哉と祖母に睨まれて祖父が黙った。


「それからも引き続きお爺ちゃんはネットで叩かれて…露子が妊娠8ヶ月になるころ、遂にお爺ちゃんが、 “自分が間違っていた。認識を改めた。これからは自分も家事を受け持つから帰ってきて欲しい” って書いてきたの。ようやく正宗さんのオッケーが出たわ。

 それで帰ってみたら、私たちのことはすでにご近所でも有名になっていて…まるで英雄の凱旋のようだったわ。お婆ちゃんが人生で1番輝いていた日よ。帰ってみればお爺ちゃんはげっそりとやつれていて、家はそれなりにきれいで片付いてた。それなりにね。

 その後は定期的に正宗さんのブログで状況を報告したの。お爺ちゃんを叩いていた読者の皆さん、とても喜んでくれたわ。修復出来るならそれが1番良いって。間違いを認めて変われたお爺ちゃんは素晴らしいって。

それでお爺ちゃんは妊娠中の露子にようやく会えたのよ」


「お爺ちゃん、変われて良かったね!」

「…うん」


強気な祖母だが、帰宅した日は祖父の好物のシュウマイを山ほど買って帰り、2人で仲良く食べたのだった。

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