第32話 転んでもただでは起きない新婚旅行

「その次の週末は青砥の実家に行って、うちの家族に露子ちゃんを紹介したにゃ」


※ 青砥は“せんべろの街”京成立石の隣に位置する。タカラトミー 青戸オフィスがある。

今現在、正宗&美哉の暮らす北越谷からは押上で乗り換えが必要。


「うちの両親と兄さんも露子ちゃんを歓迎したにゃ。普通に会って帰ったにゃ。特に話すほどのエピソードはないにゃ」

「お爺ちゃんもお婆ちゃんも吉宗おじさんもマイペースだもんね」


「結婚式も普通だったにゃ。特に話すほどのエピソードはないにゃ」

「新婚旅行は北欧だっけ?」

「そうにゃフィンランドがメインの旅行にゃ。オーストラリアとかボラボラ島とか、もともと獣人が暮らしてきた地域の中から新婚旅行で人気の南の島を薦められたけど暑い場所は苦手にゃ。だから涼しい国を選んだにゃ。でも、もともと獣人族が暮らして居ない国の旅行はトラブルを避けられないにゃ」


「ペット扱いされちゃったの?」

「それもあるにゃ。僕と露子ちゃんの好きなイッタラとマリメッコ目当ての旅にゃ。記念にいろいろ買って、買い物は大満足だったにゃ。でも、どこにいってもその施設の新しいキャラクターとかイベントのスタッフに間違えられたにゃ」

「えええ…」


「レストランでスタッフにペット扱いされたにゃ。 “人をムーミンのように扱うのはやめてほしいにゃ!” と訴えたら、

“ムーミンはスウェーデンさ、ここはフィンランドだよHAHAHA” って笑われたにゃ」

「ひどい!」

「新婚旅行が台無しにゃ、悔しくて涙がこぼれたにゃ」

「パパ…。」


「すぐに宿に帰って、泣きながら世界中の旅行口りょこうくちコミサイトに書き込みしたにゃ。こんなこともあろうかと撮っておいた録画もフルバージョンでYouTube に公開したにゃ。世界中の獣人コミュニティの力であっという間に拡散されて12時間以内に差別的な施設やレストランは炎上したにゃ」

「さすがパパ!」


「Youtubeの差別動画は1日で100万再生にゃ。広告収入が美味しかったにゃ。獣人コミュニティから抗議の声明が出されて、差別的な扱いのあった施設からは謝罪があったにゃ」

「…パパ。」

美哉が力づけるように正宗の手を握る。


「泊まって居たホテルは、もともととても親切にしてもらっていたから、くちコミサイトで良いホテルにゃと書いておいたら無料でスイートにアップグレードくれたにゃ」

「良かったね!」


「1日で社会問題になったから翌日からは問題なく旅が出来たし、Youtubeの広告の他、ブログのアクセスも急激に伸びて、その広告収入もウハウハだったにゃ。いろいろあったけど全体的にオッケーな旅行だったにゃ。一番許せにゃいと思ったレストランは、その後、割とすぐに潰れてザマアにゃ。にゃっ! にゃっ! にゃっ!」

正宗が愉快そうに笑う。


「楽しかった?」

「良い新婚旅行だったにゃ。美哉ちゃんは、獣人の少ない国に行くのは薦めないにゃ」

「うん、1人では行かないようにするね」



ケットシー族や人狼族など、古くから獣人が暮らしてきた国は台湾や日本の他、オセアニアや南北アメリカの太平洋側など、太平洋に接する地域に固まっている。その他アジアやアフリカ、ヨーロッパに獣人はいなかった。

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