第26話 パパとママの出会い

それは17年前の春だった。


正宗と露子が出会ったのは、正宗が常駐することになった出版社だった。お互いに一目惚れだった。



「ちょっと! 京子! あの激カワな猫ちゃんは!?」

「露子が北海道で取材している間に着任した正宗くん。純粋なケットシー族だって。モコモコだよね」

「ヤバイよ! グッドルッキングにも程があるよ!」

子供の頃から猫を飼ってきた猫大好きな露子が大興奮だ。


「ちょっといいかにゃ?」

「はいいいい!」

「露子ちゃんでいいかにゃ?」

「私が露子で間違いないですう! (激かわ! 激もふ!)」

「前任者宛に依頼をもらってた、夏フェスファッション特集のレイアウト変更とバナー各サイズのデザイン案についてにゃ。僕が引き継いで対応したので、今日の夜までに確認してメールで返信して欲しいにゃ。メルマガの原稿は今週中にFixだから明日の夜までに原稿を送ってにゃ」

「分かりましたあ。(激かわ!)」


「それから…」

「なんでしょう!」

「お昼を一緒にどうかにゃ? 今日はお弁当を持ってきちゃったから、もし露子ちゃんが外食なら明日にでも」

「私も持ってきているから大丈夫!」

「嬉しいにゃ! ランチルームで13時に待ち合わせするにゃ」

正宗が機嫌良く自分の席に戻っていった。


お互いに一目惚れだった。

ちゃんと堂々と誘う正宗は可愛い見た目に反して男らしい。



*******


「はい、あーん」


蕩けそうに嬉しそうな露子。

正宗に、あーんしているが差し出されたのは、ソフト・パウチタイプのカツオだった。


「それは猫のエサにゃ」


尻尾でテーブルをタンタンする正宗の瞳孔が開いている。


「うん、これは美味しいやつだよ。実家のタマとクロも大好きなやつ」

「猫は美味しく食べるかもしれにゃいけど、ケットシーは猫じゃないから人間と同じものを食べるしお酒も飲めるにゃ」


「ええー、あーんで食べてくれないの?」

「ケットシーは猫じゃないにゃ」

「残念…」

残念と言いながら、ソフトタイプのカツオ(猫のエサ)を食べる露子。


「ちょ! 露子ちゃん! ペッペしなさい! それは猫のエサにゃ! ペッペするにゃ! ああ、言ってる側からばくばく食べているにゃ!」

大慌ての正宗を尻目に美味しく完食した。


「猫のご飯は人間が食べても美味しいんだよ。うふふ、尻尾を膨らませて可愛いね」

日本人形のように可愛い露子が嬉しそうに微笑むが、正宗は精神を消耗し過ぎてボロボロだ。まだ昼なのに。


「ご飯食べよ?」

露子に呼びかけられてお弁当箱を開く正宗。曲げわっぱのお弁当箱はご飯が美味しいのだ。今日も正宗の手作り弁当は美味しい。


「露子ちゃんは、おむすびだけにゃ?」

「うん。おむすび好きなんだ。おむすびが美味しいお店があって、具を一巡するのに1ヶ月は掛かるんだけど、毎月限定の具もあって食べ逃さないようにするのが大変なんだ」


おむすびの話でお昼休みが終わった。


「ふふふんにゃあ。露子ちゃんの好きなものが分かったにゃ。明日も一緒にお昼を食べる約束したにゃ。これはもう付き合うフラグが立ったも同然にゃあ」

楽天的にもほどがある正宗だった。


「今日もおむすびにゃ?」

「うん、今日は今月限定で数量限定の筍ごはんのおむすびが買えたんだ」

「それは良かったにゃ」


「今日もおむすびにゃ?」

「うん、昨日までで限定を制覇したから、今日は定番のメニューで1番好きな焼きタラコ」


「……今日もおむすびにゃ?」

「初心に帰って昆布!美味しいよね」

「露子ちゃん、朝食と夕食で、ちゃんと栄養をとってるんだろうけどお昼も栄養バランスを考えた方がいいにゃ」

「大丈夫だよ! 具は毎日違うし、海苔は野菜だから!」


ぶわっ!

正宗の尻尾が大きく膨らんだ。


「正宗ちゃん! 尻尾がぽんぽこ! 超可愛い! 触ってもいい?」

「ダメにゃ!」

「ええ、ケチ〜」

「そんな屁理屈はダメにゃ! 露子ちゃんはいつも朝ご飯に何を食べているにゃ?」

「朝はコンビニのおむすび!」


正宗が青ざめる。

「コンビニのおむすび…?」

「うん。鮭とか梅以外にもオムライスとか焼肉とか種類が豊富でいいよね。すぐに消えちゃうメニューもあるから全コンビニの全種類を制覇するのは大変なんだ」


正宗がプルプルと震える。

「ば、晩ごはんはどうしているにゃ?」

「朝と昼だけだと制覇しきれないから、朝と昼に食べられなかったおむすびを買って帰ってる」


いったいどうしたら露子の食生活を変えられるのか…正宗の挑戦が始まった。

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