第五章 10-1
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全方位、いや
そこは幾度となく訪れた知覚の世界によく似ており、自己の認識が投影される空間であった。随分と長い夢を見ていたような気がする。一人の人物の嘆き、
それが誰のものであったのか、想起するよりも先に答えは現出した。前方に淡い光が射し込めたかと思うと、そこには彼女に向けて
何故、と考えるよりも先に身体が動き、
「待ってミスティ、こんなことやめてよ!」
彼女の悲痛な叫びに、少女の睨み付けるような眼光が一瞬
火属性『
水属性『
風属性『
土属性『
一介の魔術師であれば、限界近くまでプラナを消耗する上位攻性魔法である。それらが前方と側方の三方に加え上空より、彼女を噛み砕かんと襲来する。回避は不可能、魔法障壁もしくは魔法耐性に懸けるしか生還の道はない。彼女でなくば。
しかし、それもまた想定の内なのだろう。少女は今度は巨大な立体複層魔法陣を空間に描いていく。少女の前方から蠢くように広がる魔法陣は、彼女の側方から後方へと伸び、更には上部から下部までをも完全に覆い尽くす。
「なんで、どうしてこんなことするの…」
彼女は消去に向けた手を止め、魔法陣越しに真っ直ぐと少女の瞳に訴え掛ける。それは決して命乞いなどではない。ただ、彼女は悲しかったのだ。
先ほど垣間見た少女の記憶。最愛の姉を失い、その遺志に従い、束の間の平穏を過ごし、愛憎の再来に涙した。本当はその気持ちが痛いほどに分かる。自分が仇敵であるのなら、そこまで許せないのなら、それで少女が救われるというのなら、この身を喜んで差し出そう。
かつて、死の淵にあった自分を救ってくれた少女。友のように、姉のように、母のように、自分を愛してくれた少女。少女の愛と同じなのかは分からないけれど、自分もまた少女を愛している。
それが女としてなのか、男としてなのか、果たしてどちらの自分に起因するものなのか、よくは分からない。しかし、そこには
ただ、一つだけ少女は誤解している。少女の復讐に意味などない…いや、復讐など最初から存在しなかったのだ。だから、それを少女に伝えるまではやられる訳にはいかなかった。
彼女は決意を固めると、自身を
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