第三章 1
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『水の魔法に必要なのはね、アイなんだよ』
目の前の少女が私に向けて
『火の魔法はおぉー、風の魔法はぬぅー、土の魔法はしぃー、って感じかな』
少女は気を良くしたのか、続けて腕を上げたり、眉間に皺を寄せたり、口元に指を当てたりする。ますます意味が分からないが、私もそれを真似てみる。
その日、私は少女に魔法を教えてほしいと
少女は逡巡した様子でじっと私の瞳を覗き込むと、やがて頬を緩めて
私に魔法の才能がないことは、少女と出会う前から自覚していた。曲がりなりにもレイの姓を冠するホーリーデイ家は、王国でも有数の名家であり、一通りの貴族教育は物心が付いた頃から施されていた。
それは王国の各種行事における礼儀作法に始まり、文字の読み書きや算学の習得、国家体制や法制度の認識、周辺国を含む地理や経済の把握など多岐に渡るが、取り分け重要な地位を占めているのが武芸や魔法といった戦闘技術であった。
王国はその成立過程から帝国との安全保障体制が敷かれており、同盟に敵対する勢力からの防衛、或いは派兵が繰り返され、貴族にはその陣頭に立って従軍する義務が課せられていた。
また、今でこそ和平交渉により友好関係が築かれてはいるが、かつて南方を守護するノミネア家に厄災とまで畏れられた脅威、
これらの伝統は現代にも引き継がれており、五大諸侯の騎士団の指揮官は軒並み貴族がその役割を担っていた。
こうしたことから、貴族に連なる者は家柄や年齢、そして性別に関わらず、戦闘における鍛錬を怠らないように戒められてきた。ホーリーデイ家はその特殊な立ち位置から従軍の義務は免除されていたが、決して原則論から除外された訳ではなかった。
そして、私にも武芸や魔法の修練が課せられていたのだが、生憎とお世辞にもまともに身に付いたとは言えず、特に後者に関しては絶望的であった。なにせ、全く魔法が発動しないのである。魔法は才能や属性適正の個人差が激しいが、地道に修練を重ねていけば、ある程度の段階までは会得できるものとされていた。
ヤノロム家のメイラ将軍のような例外を除き、貴族の子女は武芸よりも魔法を嗜む傾向にあり、幼い頃から魔術師に師事して英才教育を受けてきた。そこには王国軍の魔法の運用が後方支援を主としており、敵性体と直接対峙せずに済むという打算もあったのだろう。
しかし、こと私に関して言えば、そのような常道とは程遠い場所にいた。あるとき、母様の
その魔術師はマイナを五感で感知できるという触れ込みであったが、私への評は『マイナに嫌われている』という実に辛辣なものであった。あまりにも情け容赦のない宣告に私は涙し、また両親も憤慨していたのだが、皮肉なことに藁にも
もはや自分は魔法とは無縁であると悟るより他なかったが、少女の
そして、いつしか私は一介の机上の空論者として、少女の魔法を
私は
あの出来事があった日から…ミストリアが旅立ってから、既に三日が経っていた。私たちの距離は日に日に開く一方だ。それなのに、私は今もこんなところで、どこにも行けず、無為に時間を過ごすことしか出来ないでいた。
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