第二章 4-1
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「我が国に御身を
ハナラカシア王国がツキノア領に要塞を構えているように、ディアテスシャー帝国にもシュンプ平野を挟んだ先にそれはあった。リンシ要塞、帝国の威信に掛けて建造された南方の軍事拠点である。規模は王国側の
かつては王国による
帝国の武力が顕在化した荘厳な建造物、そして一糸乱れず整列する兵士たちを背景として、薄手の軽やかな装束に身を包んだ貴人が優雅に一礼する。
不意に一年前の記憶が蘇り、レイネリアは戸惑いを隠せずにいた。また皇女も言動とは裏腹に、その視線はミストリアではなく彼女に向けられているようであった。
「来週、帝都で
本来であれば皇族が案内役を務めるなど、帝国の
しかし、
「
帝国の南端から帝都まではおよそ二ヶ月を要すると見込んでいた。それを来週に挙行するとは、即ち馬車での移動を念頭に入れているということだ。つまりは、
しかし、皇女には到底承諾できぬようで、また美麗な尊顔を露骨に歪めていた。それも無理からぬことではある。皇帝の勅命である以上、独断で
「ニー様、次にお逢いしたときはサニーと呼ぶと約束したではありませんか」
どうやら先ほどまでの睨み合いは思い違いであったようだ。
「レイネリア殿も異なことを申す。あれほど帝国への礼を失すると恐れていたのはそなたではないか」
それは半ば想定済みの問答であった。ホーリーデイ家は天人地姫の庇護者であると同時に、その意思を本人に代わり伝える代弁者でもある。故に、弁が立つこともまた必須の素養であった。
「それは王国の使者だからにございます。此度は天人地姫の
全くの正論であった。ヌーナ大陸において天人地姫に干渉できる者などいない。
しかし、必ずしも正論が
「控えよ、レイネリア殿の申すとおりである。しかし、妾とて陛下より大任を仰せつかった身、
それは旅の同行の宣言であった。皇女の
皇女の突然の宣言に兵士たちは動揺を隠せないでいたが、当の本人は至って平然な顔をしていた。むしろ、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら彼女たちのもとへと近付いてくる。
「二人とも仲が宜しいことね。此処にいたら
荒野から運ばれる熱風に反し、冷淡な言葉が二人を凍り付かせた。先ほどから沈黙を守っていたミストリアが、あっさりと同乗を受け入れたのである。
「どうせ施しはもう済ませてあるのでしょう」
ミストリアの射抜くような視線を皇女がさらりと受け流す。王国や教国と違い、帝国にとって天人地姫による
それは自国の難題、臣民の救済を他者に委ねることに他ならぬからだ。故に、御幸を前に民衆の不平不満を解消し、困窮者に救いの手を差し伸べることが慣習となっていた。
未だ要領を得ない彼女を押し込むようにして、三人は御料車へと乗り込むと、帝都への長い旅路に就いたのであった。
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