第二章 別離

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「じゃあ、ここで別れましょう。私の娘によろしくね」


 そうして私は振り返らずに歩いていく。残された彼女はきっと私の後背こうはいを見ているだろう。せめてもの想いで、見えなくなるまでは見送ってくれるのだろう。


 あれは何代前の当主であったか、今となってはもう顔も名前も思い出せない。その場の情景だけが朧気ながらに記憶の片隅に残っているのだが、それもまた同じものではないのかも知れない。殆どそこだけはいつも変わりがないからだ。


 御幸ごこう陪従ばいじゅうと聞けば響きは荘厳だが、大抵は国内で完結してしまうことだ。故に、そもそも陪従者の存在すら認知されていないことも多い。諸侯はおろか平民と比較しても、身体的にも魔法の才としても決して優れてはいない彼女たちでは、この辺りまでが限界なのだろう。


 してや彼女たちはとても聡明だ。私が何も言わずとも、どんなに過保護に守ろうとも、これ以上は旅を続けられない…いや、続けてはならない理由に気が付いてしまう。


 記憶と記録が遺す限りでは、王国内で約半分、その先は長くとも帝国までだ。教国から先ともなればもう数えるほどしかいなかった。しかし、何事にも例外というものは存在し、霊峰タカチホまで付いてきてくれた彼女もいた。


 いま考えてみても彼女はとても強かった。きっと母祖ぼその血を色濃く受け継いでいたのだろう。後にも先にもあれほどの魔術師は見たことがない。私と並び立つことが彼女の本懐であったとするならば、それが成就したことを天人地姫の名において保証しよう。


 もっとも、そんな彼女とも最後には別れてしまった。その先、彼女がどうなったのかは思い出せない。最初から知らないのかも知れないし、今となってはそれすらも思い出せない。


 これは繰り返される運命の輪。私のごうと彼女たちのごうが織り成す、途切れなく続いた一遍の絵巻物。


 しかし、必ず終わりはやってくる。そう、これが私の最後の旅なのだから……。




第二章 別離

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