第一章 EP-2(終)
「あの方と共にいることが怖くないのですか」
領都へと向かう馬車が街道に出たところで足を止める。
彼は
しかし、直に見る少女は違っていた。本当は魔法の
隣村も領主でさえも見捨てた村人に、名前と記憶を奪われ家族の絆すらも引き裂かれた人々に、人として尊厳ある死を賜ってくれたのは少女であった。神としてではなく、人としての格の違いをまざまざと魅せつけられ、彼の
「私には領地のことは分かりません。でも、あなたが兵士のために抱いた怒り…その強い想いは、領民にだって向けられる筈です」
それは偽らざる彼女の本心であった。短い間ではあったが共に旅をして、彼の持つ不器用な優しさに触れて、厳しく誇り高き姿勢に救われて、
「あなたをお
彼は彼女を見詰めていた。彼女もまた彼を見詰め返す。ミストリアの姿が段々と街道の向こうへと消えていく。彼女は最初の問いに重ねるように満面の笑みで答えた。
「ええ、私の自慢の幼馴染ですから」
彼は満足そうに頷くと、いつかまた…とだけ告げる。彼女は大きく手を振って応えると、ミストリアの待つ街道を走り抜けていった。
西の大地へと沈みゆく恒星に照らされて、朱に染まる彼女の頬を草原を揺らす風が撫でる。旅はまだ続いていく。出会いもあれば別れもある。この先にあるのはミストリアだけの旅ではない、私とミストリアの旅なのだ。
これは、今はまだ何者でもない少女レイネリア=レイ=ホーリーデイと、伝説を生きる神々の忘れ形見ミストリア=シン=ジェイドロザリーが、秘匿された世界の果てに至るまでの物語である。
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