第一章 5-1


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 翌朝、レイネリア、ミストリア、オユミ、護衛の兵士、そして村長の五人は『村』に向けて出発した。オオシアには引き続き馬車の管理を任せ、三日経っても戻らない場合には、オイワ将軍のいる要塞に救援を求めるように指示を出した。


 昨夜は薄暗くて気付かなかったが、村の奥には簡素な教会がそびえていた。ヌーナ大陸で教会といえば、まつられているのは天人てんじん地姫ちぎである。どうやら墓地も兼ねているらしく、十字架の墓標が並んでいるのが遠目に観えた。


 出発前に安全を祈願しようかとも考えたが、直ぐにその必要がないことに気付く。何せ御神体ならずっとそばにいるのだ。彼女の視線に気付いたのか、ミストリアが不思議そうに首を傾げていた。


 村長によれば、これから向かう『村』は10世帯ほどの小規模なもので、農業や狩猟、採集によって自給自足の生活をしているそうだ。元を辿れば、隣村から山野部を開拓して移り住んだ者たちであり、惣村そうそんの区分では隣村の出村でむらに当たるという。


 便宜的に代表者も設けており、村長とは古くからの知り合いらしいが、ここ数年は疎遠となっており、今回の騒動によって交流は完全に途絶えていた。


 最初に発見された遺体については、引き取った縁者は壮年の男性であり、多少酒乱のこそあったものの、面倒見の良い性格で村民から慕われていたそうだ。男には妻と成人した息子、それに幼い娘がおり、父親が帰らぬことを心配した息子が迎えに行ったのだが、木乃伊ミイラ取りが木乃伊ミイラになっただけであった。


 残された母娘ははこを不憫に思い、また『村』で異変が起きていることを直感した村長は、荒くれ者として鼻摘みだった三人組に依頼をしたのだが、結果は知ってのとおりである。


 隣村の住民は、五人もの村人が消えてしまったことに大きな衝撃を受け、二度と関わらないと固く誓ったのだという。やがて、その噂は領都にまで知れ渡ることとなり、ツキノア家の調査隊が派遣されるに至った。


 彼女には案内人を買って出た旅人の存在が気に掛かっていた。オユミは相変わらずの苦々しい表情を浮かべていたが、その矛先を村長に向けぬように自制しているようであった。


 オユミによれば、調査隊の馬車には誰も同乗してはいなかったそうだ。調査隊の存在は領都に帰還したときから捕捉されており、既に案内人とは別れた後ということになる。


 役目を終えて旅を再開したのかも知れないし、不幸な犠牲者として何処かで死んでいるのかも知れない。或いは、今回の一件に深く関与している可能性もあるが、現時点では何も分からずじまいであった。


 しかし、調査隊が何もなかったと報告していることから、少なくとも同行時には生きていたと思われる。果たして、調査隊は一体何を見た、若しくは見ていないのだろうか。


 一通り状況を確認すると、彼女は山道に集中することにした。道は徐々に狭く、そして険しくなってきており、案内人なくしては進むことは困難であった。自然と皆は無言となり、先導する村長に列を成して続いていた。


 それからどれほど進んだであろうか。もはや徒行から登山へと様変わりして久しいが、一行はようやく頂上付近の開けた場所に出た。その先は下り坂となっており、麓には集落を望むことが出来る。そこがくだんの『村』であった。

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