第539話 パーシーとノーラの生徒会デイズ

 園芸部が活動をしている温室は、現在一角が物々しい雰囲気に包まれている。


 というのも卒業研究に必要ということで、遮蔽物を重ねて立ち入り禁止区域を定めたからであった。


 その区域で色々しているのは、黄土色の髪の七年生。






「お疲れ様です」

「お疲れ様ですっ!」

「先輩、お疲れ様です」

「ピッ……? ピッピッ、ピィ!」



 ヒヨリンは土に手を埋めているノーラを突っつき、振り向かせる。


 彼女が顔を上げた先にはサラ、サネット、ジャミルの三人がいた。



「んー……? あー、君達ですか。丁度いい、ここらで休憩にしますか」

「ピィー!」

「差し入れありますよ! 先輩の好きなお饅頭です!」

「うんうん、私のことをよくわかってくれる後輩を持って幸せですよぉ」








 土を入れたプランター、その隣に置かれた白いレース風の装飾が施された椅子にそれぞれ腰かける。


 一緒にあった机には饅頭の入った箱がドンと置かれた。






「あ、下に何か置いてある!?」

「それは研究用のノートですねえ。ほれよっと」



 ノーラが箱の下から引っ張ったそのノートには、土に込めた魔力の配分とそれで醸成した結果が整然と並べられている。



「卒業研究、土に纏わることでしたっけ」

「よく作物が育つ魔力配分の研究ですねえ」

「先輩は卒業したら農家になるんですか?」

「いえ、手頃な商会に事務員として入ろうかと。土の研究してるのは土属性だからです」



 饅頭を食べ、時折ヒヨリンにも与えながらゆったり足を伸ばす。






「事務員かぁ……先輩、卒業したら就職するんですねえ」

「僕気になるんですけど、就職先を見つけるのってどのような感じなんですか?」

「寮の職員さんや先生達と協力して、求人票を漁っていきます。魔法学園には世界各地から人材を引っこ抜こうと、もう両手でも抱えきれないぐらい送られてくるんですよ」

「ふぅん……でも、そうじゃない仕事もあるわけでしょ」


「そうですね。騎士や宮廷魔術師だったら、試験があるのでそれの為の勉強や訓練。一部の魔術協会では、卒業研究の成果を求められることもありますねえ」

「てことはその辺の仕事を希望するなら、前もって準備しとかないときついってわけですね!」

「そういうことですねえ。実際、騎士希望のクラスメイトが追い込んでいるのを見かけてます」

「大変ねえ」


「サラ先輩も今四年生だから、三年後じゃないですか」

「アナタだって四年後でしょうが」

「そんなこと言ったら僕なんて二年後ですよ」

「あっという間ですねぇ……」






 感慨に浸っていると、新たなる客人が。






「よっ! やってる?」

「!」

「そんな居酒屋みたいな」



 顔を出してきたのはパーシーとそのナイトメア、ソロネ。静電気の影響か髪がちりちり逆立っている。



「くんくん、水属性の臭いを感じますねえ」

「わかるか! やっぱりドワーフだな!」

「パーシー先輩も卒業研究とか何かです?」

「ああ、さっきまで魔力回路の研究しててな。効率的に複属性の魔力を流す為の構造とその工夫についてやってた」

「難しそうです……」

「実際難しいから俺じゃないとできないぞー!!」

「何という自信の程。で、順調なんですか」

「まあ仮説通りには進んでるな……順調だ!」

「♪」




 ひょいと渡された饅頭を彼も食べる。




「あ、質問です。卒業研究の成果が就職に影響するって話でしたけど」

「はいはい」

「それって必ず結果残さないといけないんですか? 失敗したらどうなるんです?」

「失敗しても自分の探求心や実力を示せればそれでオッケーだ。おたくでならこの研究の続きができると思って! ってな」

「成程、色々あるんですね!」


「因みにパーシー先輩はどこに就職するんです?」

「んー、魔術協会になんのかな。俺の趣味嗜好志望に合う所となると。まだ細かくは考えてないや!」

「研究を終わらせることが優先ですからねえ」




 そろそろ箱の中の饅頭が平らげられそうになった頃、パーシーはそうだと手を鳴らす。




「ノーラ、偶には生徒会行ってみないか? 後輩達が何してんのか気になるじゃん!」

「ん~……そうですねえ。気分転換というのも……悪くないですねえ」

「ピィ!」

「!」


「なら片付け手伝いますね!」

「何を弄っていいのか指示をください。ワタシ達の所為で研究が台無しになったら目も当てられないので」

「君達に全部放り投げようと思いましたが、確かにその通りですね。ちょいとお待ちを~……」
















 そしてこちらは生徒会。






「てなわけでー、こちら先日の学園祭企画会議で出された案を纏めた物でーす」




 と配られたプリントをじっくり眺めるヴィクトール。


 彼の隣にはマイクとリリアンが挟み込むようにして座っている。正面にはユージオがどっしり構えている。




「こちらの中から今年のメインとなる出し物を決めていきます。今年は特に新体制ですからね。既存の体制ではできなかった出し物をやっていきたいですね! 特に生徒が参加するやつとかをメインにしていきたいですね!!」

「……」




 やや深めの溜息をつくヴィクトール。


 ここに挙げられた案は、彼の感性ではどうにも理解し難いものばかりだったのだ。




「魔法音楽対抗戦とは……」

「文字通り普通の学生からも募って、魔法音楽の演奏会をやるみたいだです」

「そこまでやれる奴がいるのか……?」


「私これいいなー。漫才コンテスト」

「そもそも漫才とは何だ……」

「何か二人か三人で会話してその内容で笑わせるらしいよ」

「くだらん……」


「俺これがいいなー。飛び入り参加歓迎二人三脚競走」

「何故飛び入り参加の一般人と組まなければならんのだ……」

「じゃあ先輩は何かいいのはあるのだですか」

「俺は……」




 改めてプリントを眺める。



 魔法学園借り物競争、パン食いウォーズ、女装コンテスト等々--




「一切ない。強いて言うならこの中に挙げられている物以外だ」

「そんなぁ~」






 そんな状況でガラガラと扉が開く音が。




 ノーラとパーシーが、このタイミングでやってきたのである。






「ふぅ、皆さんお疲れ様です」

「今日も元気に生徒会してるかー!」

「ノーラ先輩、パーシー先輩! お疲れ様です!」



 生徒会長が頭を下げてる間に、パーシーは机の上のプリントに目を通す。



「成程、今年の出し物! それなら俺さ、提案したいのがあるんだよ!」

「何ですかそれは!」

「パンジャン転がし祭りだ!」




            どんがらがらしゃーん




「嘘嘘、冗談! パンジャン転がしたら大惨事大戦不可避だ!」

「先輩が言うと冗談に聞こえないんですよ!」

「転がすのはパンジャンじゃなくってチーズだ! チーズ転がし祭り!」


「転がす? もしかしてあれですか、カマンベール?」

「そうそう、作り立てのでっかいやつな! あれを坂の上から転がして、それを追いかける速さでレースするんだ!」

「ああ、思い出しました。それパーシーの出身地の恒例行事じゃないですか」

「そうだよー! 何か騒ぐんならこれしかねえなって!」




 その話を聞きながらふうむと頷く生徒会長。


 すらすらと動かし出したペンで、パーシーの提案を実行するに必要な予算を算出していた。




「……何かが会長の琴線に触れてしまったらしい」

「ええええー」

「……マイク。貴様はそれでいいのか。何も反論しようと思わないのか」

「今の生徒会長、自分を押し通す所ありますだので……」

「ああ……「決まりました!!! メインイベントはチーズ転がし祭りです!!!」





 話していた側からこれである。





「賛成です!! 面白そうですしね!!」

「でもこれだけだと味気ないので何かサブイベントを作りましょう!! 案はこの中から……」



 とんとん拍子で話が進んでいきそうなのを見て、はぁと溜息が零れる。



「でもようヴィクトール」

「何ですかユージオ先輩」

「お前、案外楽しそうにしてるよな」

「……」


「素直になっちまえよ~。俺は自分からは提案しないけど周囲がやる気なら全力便乗するタイプだって言っちまえよ~」

「よ~よ~へいよ~」

「ああもう……マイク、行くぞ」

「ああはいっ!?」








 日常が戻ってきたことを噛み締めて。祭とは、平和の象徴であるのかもしれない。

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