第492話 近況報告

「青春だねえ」

「お熱いねえ」

「ホッカホッカやな!!」

「火傷してしまうどすえ……」



「「……からかうの止めてくれませんか」」



       \あっはっは!/








 訊く所によると、現在は哨戒任務中だった二人。騎士権限で城下町の店に入り、お高めのパンケーキをご馳走になっていた。




「でもいいですか。仕事中なのに」

「アルベルト先輩なんて、店入って葉巻吸って帰るってしょっちゅうよ!」

「ダグラス君も食べ歩きメインになることがあってカイル君に怒られてたなぁ~」

「それでいいのか騎士団……」


「上っ面硬いよりはこんぐらいやわかい方がええやろ!?」

「まあ……確かに」

「お代わり、いるどす?」

「流石にそこまでは」

「あーうちクリームソーダでー」

「あんさんにはぁ訊いておらんのですがぁ?」

「チェスカ、うちが悪かった。だからドスを利かせないで怖い」




 そんな間に、ごちそうさまと食事を終える生徒二人。




「あれ? もう食事終わり?」

「まだ食べない? ねえ食べない?」

「自分達がまだ食べたいだけでしょう」

「でも、奢ってくれてありがとうございました」


「んなーんなーこんなもん! 今のグレイスウィルにはお金を流していかないとね!」

「ところでこの後の予定は~?」

「いえ、特に決まってはいません」

「それならさ、ちょっと寄っていきたい場所があるんだけど」



 最後のパンケーキを食べ終え、口を拭くウェンディ。



「何処でしょうか」

「二人にはきっと縁のある場所よ!」











 そうして連れて来られたのは、第二階層である。




「ここは……」

「宮廷魔術師の寮区画。確かここの部屋だったかな?」




 扉が連なる集合住宅、その一室の扉をコンコンと叩く。




 すると出てきたのは――






「……ソラさん!」

「おおっ、久しぶり! 誰かと思ったら君達かぁ!」

「何だぁ……?」



 向こうの部屋にあるベッドから、ローザが顔を上げようとしているのが目に入る。そして自分達が視界に入ったらしく、軽く首をしゃくった。



「折角会ったからさ! 経過どんな感じなのか話そうって思って!」

「ああ……いいぞぉ。中に入ってくれ。最もソラに接待は任せっ切りだが……」

「ロザリンはお仕事上がりで疲れてるんだぁ。お手柔らかにね!」








 こうして四人は、ローザが生活している部屋に上がらせてもらった。


 棚の中には小難しい魔術書が無造作に並び、床にも幾つか転がっている。ベッドにはローザがうつ伏せで転がっている。






「何もねえ部屋だけどな……」

「ロザリン、このビスケットサンドさ。お茶菓子に出すね~」

「ああいいぞ……」



 中央にある応接用の机に四人が座り、ソラがいそいそと紅茶と菓子を出す。



「ローザさんの部屋……意外とさっぱりしていますね」

「僕が来る前はゴミだらけで足の踏み場もなかったんだけどね~」

「余計なこと言うんじゃねえ」



 ローザも起き上がろうとしたが、断念して枕に顔を埋めた。



「あ゛~」

「何かあったんですか?」

「今日に限っては月の使者ぁ……」


「最近の宮廷魔術師は忙しいんだぁ。何か儀式の準備だとか何とかで」

「儀式?」

「その日になれば……あーでもなあ。別に隠す必要はない気もするんだよなあ。というか知っておかないといけないっていうか……」

「うちら騎士だし、そのことについては知ってるよ。説明する?」

「頼む……」



 じゃあ、と向き直るウェンディ。






「今ね、王国全体で守護結界の構築に向けて動き出しているの」

「守護結界?」

「名前は……忘れちゃった。何でも帝国時代に造られた、帝都防衛の為の結界だったらしいよ。初代皇帝マーリンが退位した後に国家施策として造られたんだって」



 その名前が出ると、わかってはいても顔が暗くなる。



「……どうしたの?」

「いえ……」

「暗い気持ちになっちゃうならお菓子を食べよう」

「そうします……む、これはすっきりとした味わいのコーヒー」

「セイロン切らしちゃってさあ」

「それは仕方ありませんね」





 ウェンディとレベッカも口を潤し、説明を再開する。





「新時代に移り変わるに当たって結界は解除された。でも再び展開する為の術式は王家に伝わっているんだって」

「それを引っ張り出して、そこに書いてある通りに準備を進めているってこと。今度は帝都だけじゃなくって国全体も覆うからねえ、昔とは比にならないぐらい膨大な魔力が必要みたい」

「だからつって宮廷魔術師から吸い取る必要ねえだろ……」



 ソラが持ってきた茶と菓子を持っていき、それをベッドでつまんでいるローザ。



「騎士も提供を強制されたからそこはどっこいどっこいよ」

「うっせえ……騎士はそれっきりだからいいだろうが……こちとら当日天候操作する術式とか、国王陛下に魔力供給する為の魔法陣構築とか、更に細かな術式構築とか……色々手間暇かかってんだぞ……」

「毎日夜まで働き詰めだよねえ」

「その分こちらは街の復興作業頑張ってるのよ。どっこいどっこいよ」

「なーにがどっこいどっこいどっこらしょじゃボケが」



 よいしょーと力み、遂に起き上がることに成功したローザ。






「というわけで。騎士様宮廷魔術師様はこんな感じで頑張ってるけど、生徒様はどうしてんの」

「授業を頑張ってます。四年生なので上級生科目が始まりました」

「あ~空きコマできるやつだ。なっつ」

「ロザリンが全休を作ろうとして、それを妨害するアルシェス先輩!」

「やめろや!!」


「というか一つの科目につき二つ時間を空けないといけない都合上、全休って難しいんじゃない?」

「偶ーに片方の時間しか授業やらないって先生もいるんだ。それは『アタリ』だよ」

「実質全休ってやつだな。私もそれ狙ってたのに、あの野郎課外活動に引っ張り出しやがって……」

「でもロザリン、全休取ったら一日中部屋に籠るつもりでいたじゃん。それは健康に悪いよ」

「アルシェスさんもそれを見越していたんですね。優しいです」

「エリスー!! お前あの野郎の味方するのやめろー!!」




 ふと、アーサーの背後から唸り声が聞こえる。



 カヴァスがソラのナイトメア、大型犬のブレイヴに向かって威嚇をしていたのだ。




「……何してるんだお前は」

「コイツはー!! ボクよりもー!! 愛らしいのが気に食わないっ!!」

「何を言ってるんだ」

「ブレイヴは体格の割におっとりしてるのが魅力だよ~」

「ばうぅん」

「愛らしいのはボクだけで十分!!!」

「そう思うならその口の利き方をどうにかしろ」




「……ん? ん?? 何でカヴァス君喋ってるの???」






 ごく自然に話していたので、説明を忘れる所であった。




「色々あって言葉を身に付けました」

「色々とは」

「先の戦闘です」

「あっはーい。生死の境を彷徨って極限状態に陥ったとかそんなんね」



 こう納得してくれるもんだから、ある意味あの戦いはいいことをしてくれたのかもしれない。



「色々と言えばローザさん」

「何だエリス」

「わたしも色々あって、もう一度魔法を使えるようになりました」





 するとあれだけ苦しそうにしていたのが嘘のように、すっと起き上がるローザ。





「……もっと詳しく?」

「えーと……わたしも生死の境を彷徨ったとか、そんな感じで。何か魔法使えるようになりました」

「……」



 両手を握り締め、何も言わないが頭をうんうん揺するローザ。



「……ローザさん。心配おかけしましたが……わたしは元気です。だから、ローザさんも元気で頑張ってください」

「……ああ。ありがとうエリス……」



 残った四人は二人を微笑ましく見守っていた。








「……あ。すっごい大事なこと伝えるの忘れていた」

「え、何々」

「エリスちゃんとアーサー君がね、恋人繋ぎをしておりまして」

「えっ!」


「ああ、それは……はい」

「お付き合い!」

「……そ、そうですね」



 ヒュー! と囃し立てるソラ。


 話を聞いたローザが、再びエリスを見つめる。からかう気満々のうっすい三白眼だ。



「おうおう良かったんじゃねえのかおお~ん!?」

「……ローザさんもアルシェスさんと仲良くなれるといいですねっ」

「お前なぁ? 私はあいつに気があるわけじゃねえんだぞ?」

「あとウェンディさーん! レベッカさーん! カイルさん争奪合戦奮闘してくだいねー!!」

「ねえこの子ー!!」

「ここぞとばかりに反撃に出てきたー!!」


「……カイルさん、大変だなあ」

「アーサー君ったら他人事のように~」








 こうして何やかんやではじめてのデートは、割といい感じに進んでいったのだった。

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