ナイトメア・アーサー/Knightmare Arthur ~Honest and bravely knight,Unleash from the night~
第443話 サタデーナイトパーティ・前編
第443話 サタデーナイトパーティ・前編
一月もそろそろ暮れに差しかかる。今日は昼は晴れていたのに、夜になるに連れて曇りになってしまった。
しかし問題は何一つとしてない。今宵は楽しいパーティだ。飲んで食って騒いで弾ければ、うだるような雲も吹き飛ぶ。
そう、騒いで弾ければね。
「おお!! プレシャスアルーイン!! 君達は実に好みを理解しているなぁ!!」
「仕入れるのに苦労したんですよ~!! さあさあ、一杯!!」
「ほっほっほ……んめええええええええええ!!!」
酒と飯こそが、人の被りし仮面を剥がすのに最も有効な手段だ。
女王と讃えし神に仕える司祭。魔術の真理を求める貪欲な魔術師。そう騙った所で、実際はこの様である。
名声こそが人を評価するに最も効果的な物差しであると、そう思わざるを得ない。
「肉~ぅ! 最近グレイスウィルの連中なぁ!! 肉出さなくなったからなぁ!! 飢えてたんだよ!!」
「やっぱ芋なんて食ってらんねーよなぁ!! ついでに水も飲んでらんねーーーーぇぇぇよなぁぁぁぁぁ!!!」
\ギャハハハハハハハハ……!!!/
下衆を極めた矯声が学園全体に満ちていく。
静かに、影の様に顰めて、
それに反抗する意が走ってふつふつ沸き立つ。
「えー、ご来場の皆様!」
「本日は我々が主催致しましたパーティにいらしてくださり、誠に感謝申し上げます!」
主会場の講堂、そこの照明が全て落ちたと思いきや、壇上のみの照明が灯される。
スポットライトが照らすのは燕尾服で仕立てたマイケル。
普段通っている仕立て屋のおばちゃんが、これで決めてこいと急いで仕立ててくれたもの。
「さて、ここまで申し上げました通り、このパーティは皆様へのお詫びの意も込めております」
<そうだそうだー!!
<ガキは黙って従っときやぁいいんだよー!!!
<何も知らない若造の癖に生意気だー!!!
「嗚呼、こうしている今も正論が飛び交っておいでです……耳を通じて心も痛めております! 偉大なる神道と魔術の先達者、その言葉に耳も傾けなかったなんて!」
<そうだー!!
<俺達は偉いんだぞー!!
<凄いんだぞー!!
<そこの祈ってばっかの
ハゲ共とは違えんだよ!!
<んだと言わせておけば!!
魔術ばっかの引き籠り野郎がよっ!!!
「おやおや、どうやらお客様の間で白熱した戦いが繰り広げられているようで! しかしそれでは折角ご用意した食事に泥が被ってしまいます!!」
「ですのでどうか、どうにか!!! 我々が用意した観劇をご覧なさって心を休ませてくださいませ!!! 我等グレイスウィル魔法学園の中でも一二を争う
\ウオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!!/
「わー!!! 私がご案内するよりも早く!!! 皆様こちらに参られましたね!!! さあ!! さあさあさあさあ!!! 後ろにいらっしゃる方々も、どうぞこちらにいらしてください!!! そんな遠い位置では何をしているのか、身体の部位もはっきりと見えないでしょう!! ほらほら何をしているんですかー!!!」
押すな、押すな!!!
イデッ、イデデッ!!!
てめえ今俺の靴踏んだだろ!!!
このデカブツ!!! 前見えねえだろうが!!!
どけ!!!
キャメロットで魔術研究すること二十年、
年長者の俺が最前列だ!!!
「それでは、只今より開幕致しますっ……!!」
ビィィィィィィィ
「「「おおおお……」」」
シャーッ……
「うおおおおおおおおおお……!!」
じぃーーーーーーーー
「「「……」」」
どうですか~~~~この!!!
見るも嫋やかな、
「そしてまんまと釣られる鼻ぱす伸びまくりんぐの貴様等方は――」
バン
バン
バン
バン
ダァンッ!!!!
「今!!! わたくし達によって、粛清されるのですわー!!!」
フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
マッスル、サイコーーーーーーーーー!!!!!!
「――来た!!!」
そう叫んだ直後。
ガゼルの耳には爆風と爆音が入る。
「……派手にやるなぁ!!」
「さあ構えろ、こっちから来るぞ!!」
待機してたのは三階階段の裏。
すぐさま、別の部屋で酒に飲まれていた魔術師達が、吐きそうになりながらも駆け付けてくる。
「ここから!!」
「先は!!」
「通さないってなぁ!!」
真っ先に飛び出した自分に続き、シャゼムとクオークも立ち塞がる。
魔術師共は皆一様に渋い顔をした。こうされることが信じられないような驚愕の表情である。
「お、お前らっ、何のつもりだ……!?」
「こういうつもりですけど~~~~!?!? 見てわかんないんですかぁ~~~~!?」
舌を出したり手をひらひらさせたりして煽る。
すると面白いように彼等は顔を真っ赤にして震え出す!
「「「貴様等ああああああああああああ!!!」」」
「ほいっ!! 来たぞ二人共!!」
「ああっ!!」
「よっとぉ」
ひらりと交わす三人。
その瞬間、黒い霧がほんの少し舞った。
「な、何故躱せ――!!」
残念、本命はこっちだよ
「ぐっ」
「ぐおおおおおおおおっ 」
霧の中から魔女が現れる。
冷徹に、いや感情がないその眼で、
彼等を縛り付ける――
「な、何だこの魔法はっ!?」
「魔術……!? いやこれは――!!」
「ふん、そこから先はお口にチャック」
ぶしゃあ
「……エグい音しなかった? 気のせい?」
「骨が折れた音よ。ある程度ずたずたにしたから、そこから生き残れるかは本人次第」
「つまりとどめは刺していない。俺達が咎められることはない!!!」
「発想がえげつねえなあ……」
「あら、クオーク君がぼやいたのを実行してみただけだけど?」
「……へいへい。まあ、連中には拷問を受けた恨みがあるんで」
そこから顎をしゃくり、増援の方に視線を向けさせる。
「やるかー!! モニカにだけ身体張らせるわけにはいかねーぞー!!」
「かかってこいやー!! 貴様等全員スターのゲイジーにしてくれるわー!!」
「死んだ目をしたニシンにするのも……悪かねえな!!!」
嬌声は悲鳴に。阿も鼻も叫んで喚する祝宴だ。
皿が飛び交い机が飛ぶ。料理も巻き散ったが高威力の魔法がすぐに吹き飛ばす。何て合理的な掃除なのだろう。
ついでにうっとおしい連中を大義を背に殴れるんだからこれは堪らないっ!
「おらー!!!」うわあああああああああああ!!!
「にゅーん」ぎゃあああああああああああああ!!!
「なあ!? 入れていい!? ねえーもう爆弾入れていいー!?!?」
「も、もうちょっと、勢いを削って……ほい!」
「いいぜ!!!」
「くらえー!!!」
火を点けた木製の小型の球体が――
魔術師共が詰めかけていた教室でボォン!!!
「くっせ~~~~!!! こりゃあ効くわ!!!」
「現に悲鳴がしなくなりましたねぇ」
「ざまーみろ!!! パンジャンを馬鹿にした報いだ!!!」
身体を起こし、指を突き立て煽り散らすパーシー。ヒルメとノーラも鼻をつまみながら起き上がる。
「パーシー!」
「カル! どうした!」
「その爆弾を寄越せ!!」
「ほらよ!!」
「礼を言う!!」
礼を言いながら華麗に火を魔法で点け、教室に投げ入れる。
「鮮やかなフォームだったぜ!!」
「そりゃあどうも--「んげえええええ!!」
カルがマーマイト爆弾を投げ入れた教室から、命からがらネヴィルが這い出てくる。
「……カルさん!? カルさーん!?!?」
「済まない! 失念していた! 忘れていたっ!!!」
「うわあああん!!! 僕への当て付けですかぁー!!!!」
<今だ襲ええええええええ!!!
「悲しいからお前ら蹴散らすー!!!」
ネヴィルが握った指揮棒――ナイトメアのタクティを振り回すと、
周囲の空気の流れが乱れて、魔術師は宙に浮かぶ塵のように振り回される。
「……お前やるな!? 二年生とは思えない程やるなー!?!?」
「一応良いとこの出身なんでね!!! ハッ!!!」
「とと、二人共何やってんですか!」
角を折れた先からミーナとナイトメアのシンシンがやってくる。
パンダのシンシンは爆弾の衝撃ですっ飛んできた瀕死の魔術師を、剛腕を用いて煩わしそうに弾き返した。
「ミーナさん!! 何ってリーシャさんにいい所を「リーシャには傷一つ触れさせんっ!!」
「こ、い、つ、は、あぁ~~~~~~~!!!」
「謎テンションの所申し訳ないですけど、外見てください?」
ノーラに言われて、全員が硝子が割れた穴から外を覗く。
「……来たか……」
「祭はまだまだこれからですよぉ!」
「こっからマーマイト爆弾で先制攻撃仕掛けていい!?」
「いいんじゃね!?」
「どうするかは爆発してから考えますか」
「ミーナさんまでそういうこと言うー!!!」
そして全員がパーシーから爆弾を受け取り、火を点ける。
「喰らえー!! パンジャンの恨みー!!」
「恨みはないけど喰らえー!!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥン
ボォォォォォォォォォォオオオオオン!!!
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
「あつ!! あっつい!! 服に!!! 火が!!!」
「くせえよ!! 何だこのクソぶちまけたような臭いは!!!」
「きゃああああああああああああ!! わたくしの!! 服に!! 火と臭いがあああああああああああああああ!!!」
狼狽えるのは身分の高い生徒。普段からよくしてもらっているので、聖教会やキャメロットを支持している、いわば少数派の生徒だ。
中でもカトリーヌは他の生徒よりも狼狽え、生徒と聖教会の司祭を先導していたクリングゾルに抱き着く。
「……」
「ひゃあっ!!! クリングゾル様!!!」
「……少し、離れてもらおうか?」
「あ……あ……さ、流石ですわっ!! 今目の前に立ち塞がる逆境も物ともしないとはっ!!」
もはや絶賛してしまう、如何なる時でも忘れない媚びに別方向で感嘆しながらも、クリングゾルは校舎の左側を見遣る。
(……カルディアス。やはりここにいるか……今私と視線が合ったのに気付いて、頭を下げたな?)
「クリングゾル様。あの包囲網を潜り抜けたはいいものの、ここから先はどう致しましょうか」
「そうだな――」
考えを巡らせる中、未だ周囲に纏わりついていたカトリーヌの首根っこを掴み――
前方に押し出して、無謀にも襲ってきた生徒の一撃を防ぐ。
「っ……!?」
「ぎゃあああああああっ!!」
「ふむ、君は七年生か? 確か総合戦の時の懇談会で、顔を見た気がする」
詰まり気味の呼吸を繰り返すカトリーヌに一瞥もくれてやらない。
「カトリーヌ嬢。ここは何人か反逆者共を抹殺してくださいませんかね。偉大なるディアス家の血を引いておられる貴女なら、赤子の手を捻るように捻じ伏せてくれるはずだ」
「……」
「殺らないのなら実家がどうなるかわからないぞ?」
「……!!!」
今にも泣き出しそうな顔で起き上がるカトリーヌ。
「さ……」
「さ、さあ!!!!!! わたくしが!!!! 相手してやりますわああああああああああああああああああ!!!!!」
人によってはその姿に同情するのかもしれない。
見栄を張ろうと、何とか心を奮い立たせるその姿。
しかし悲しいかな、今までの行いを踏まえて、彼女に同情してやろうなんて奴は、酔狂だと言われてしまうのがオチだ。
そして同情を誘うように誘導したそいつは、興味を無くしたのか、部下を伴い立ち去っていく。
「あ~……!!」
「こいつら蛆虫のように沸いてくるなぁ!?」
魔法学園に続く大通り。騎士や魔術師の何人かは残って、こちらに向かってくる勢力を削ろうという手筈になっていた。
最も、敵もそれに気付いたようで執拗に結界の上を飛び越えたり、外壁から回り込んできたりして、段々と意味をなさなくなってきたのだが。
それでも一部を食い止めるには十分な効果があった。
「ブルーノさんっ!!! 左です!!!」
「あいよぉ!!!」
カベルネの指示通りに、丁度脇を通り抜けようとした魔術師に――
これまた身体から出てきたマキノをクリーンヒット。
「ぎゃあああああああ!!! 何だこれ!!! 何だこれええええええええ!!!」
「青肌ゾンビのマッキーだよぉぉぉぉぉ!!!」
顔に組み付いたまま生温い吐息を吐き出して、そのまま魔術師はずやずやと魘されていく。
「また一人撃退したねぇ!」
「一人撃退したら十人襲ってくるんですけどね」
揚げ足を取ったティナが、隣にいた教師との連携魔法を決める。
「ぎゃああああああああああああ……!!!」
幾数の泡に顔を覆われ、何人かの魔術師達は苦しそうにもがく。
「……ミーガン先生。あんた宮廷魔術師になった方がよかったんでは?」
「んーそのお誘いは十年前にしてほしかったですねぇ」
「というかごめんね。兄さんきっと学園の方行きたいでしょ。生徒と暴れられる機会なのに。私の心配なんてしてくれて……」
「ティナ、お前なら私の性格をわかってくれているだろぉ。私は縁の下の何ちゃらなんですよぉ。こうして生徒達が暴れられるように舞台を整えてやるのが、私の役割。あと身内が心配にならないわけがないでしょうがぁ」
「ワンヒットツーエモノ? ってやつですか!」
「無理に知的ぶらないで――」
その刹那、
空から魔術師が飛んでくる。
その手に煙を吐く球体を携えて――
「っ!? あの黒い煙……!!」
「まさか、『くろいあめ』――させるかっ!!!」
ブルーノの放った魔法が、既に落下を始めた球体の進路を妨害する前に、
輝きを纏った火炎が、渦を巻きながら焼き尽くす。
「ぎゃあああああああああああああ……!!!」
「ふん……何が三騎士勢力だ。大したことないじゃないか」
そうしてすたすたと歩いてくるのは老婆であった。
「……ゼラさん!?」
「おやおやハインリヒ先生ぃ。大層な御方も連れてきたようでぇ」
「貴女は確か……シスバルドのトパーズ会長」
「うふふ、こんばんわっ! 今夜グレイスウィルでパーティがあるってお誘いを受けたの~~~!!!」
「そして後ろの方は……」
「私が連れ出しました」
「珍しいこともあるものですねえ。ご機嫌よう、ハインライン陛下」
そう言われたハインラインは、慌てて頭を下げる。現況がどうなっているか、きょろきょろと観察していたのだ。
「……もっと堂々としろよ。この国で一番偉いのは誰だ、名前を言ってみろよ?」
「……申し訳ありません。うむ、皆の者――大義である!」
その声に反応し、鬨の声が鳴り渡る。
「ふん、パーティだなんだと言ってるけど、やっぱりこれは戦争じゃないか。上官の来訪で士気が上がってる」
「そういうゼラちゃんもウキウキしてるんじゃないの~!」
「まあねえ……あの目の上のタンコブ共を殴れるってんなら、そりゃあ楽しくならんわけがない」
「学園までの道は……空いているな?」
「はっ! 陛下ともあれば一声で通れるかと!」
「ならば進ませてもらおう。先行しているハルトエルとメリエルが心配だ」
「ファルネアもだねえ。あとゲルダの奴もだ、恐らく後方支援に回ってるとは思うが」
独特の威圧感を放ちながら、国王達は堂々と戦場に向かっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます