第440話 参戦表明・後編

「ぜーっ、ぜーっ、はぁ……っ!!」

「ロザリン、無茶しちゃ駄目だよ……!」

「んなこと言ったってぇぇぇぇ……!!」




 ソラの支えを振り払った瞬間、勢いのあまりよろめいてしまう。




 さあ地面にぶつかると、誰もが思った瞬間――






「お嬢さん、危ない所だったな」




 とか何とかキザな雰囲気を出して、受け止める人物が一人。


 中央で割った赤銅色と白の髪を――ドレッドヘアーに仕上げた、ピアスとタトゥーの主張が激しい魔術師。


 何より声だけでわかってしまう。散々嫌悪感を示している先輩。






「げええええええええっ!!! うえええええええっ!!!」

「はっはっはーそんなに暴れないでくれよっ☆」

「アルシェス先輩! イズエルトにいたはずじゃ!?」



 悶えるローザを引き剥がし、ソラが尋ねる。



「女王陛下とイリーナ様にちょっとグレイスウィルに顔出したいですって言ったら、ここは私に任せて行ってきなさいって!」

「お優しい……!」

「なら都合がいいな。今週末にパーティがあるんだ。今からその作戦会議に向かおうとしていたんだよ!」

「パーティ! クワシク!」



        おぉーい!!



「ん!! この実況をやってそうなおボイスは……!!」

「って集合場所中庭だったのか!?」

「多分騎士団管轄区は騎士団が使ってるからだろうね~。行こう!」











 王城の中には、現在大勢の魔術師が詰めかけている。その様は、今年は執り行われなかった収穫祭の、巨大な窯でミネストローネを作るあの光景を彷彿とさせた。


 因みに結界をばっちり張ってあるので、聖教会もキャメロットも侵入できないし会議の内容を聞くこともできていないぞ!






「ローザ・エンシス、ソラ・スカイガーデン、アルシェス・ディック!! ただいま参上致しましたっ!!」

「待ちくたびれたでありますぞー!!!」




 熱烈に歓迎してくれたのはブルーノ、続いて筋肉の主張が輝かしいチャールズ。カベルネとティナが駆け付けて挨拶に参る。




「ローザ先輩、アルシェス先輩……あと一人がわかんないです!」

「ソラ・スカイガーデンだよ~。普段はフリーランス魔術師で、理髪を生業にしてるんだ」

「理髪ですか? ほうほう……」


「ロザリンが古くからの友達で、色々巻き込まれて今の今まで一緒に療養してたんだ……だから最後まで巻き込まれるよ!」

「殊勝な心掛けだなソラァ!! 俺そういうの大好き!!」


「ブルーノさん! お久しぶりです!」






 きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ元に、


 満面の笑みを浮かべながらマーロンとフィルロッテもやってくる。






「フィル! お前も参戦すんのか!」

「何かもう面倒臭いしイライラすっから。以上」

「大変よろしいっ!!!」

「んぎゃー!!!」



 更に背後から詰め寄り、フィルロッテを掲げて万歳するチャールズ。






「ふふっ! こちらも元気そうで何よりだわ!」




 そんな彼らに声をかけてきたのは――






「……え゛っ」

「こ、この只ならぬカリスマオーラは……!!」

「メリエル殿下ぁぁぁぁぁ!?」






 王太子妃を前に慌てて傅く一同。一般人ということもあり、ソラが若干出遅れた。






「まあ、そんな畏まらないで頂戴。確かに私は高貴な身分ではあるけれど、今度ばかりは皆さまを率いる指揮官ですもの。そんな態度じゃやりにくいわ!」

「……指揮官? 指揮官っ!?」


「ええそうよ! アドルフやルドミリアに言ってね、宮廷魔術師隊の指揮を執る許可を貰えたの! 私こう見えても、学生時代は魔術研究部でたくさんの魔術を開発したんだから!」

「ま、まさか魔術研究部伝説の『愛しのメリー』って……!!」

「そんな二つ名までついてるのね! うふふ、嬉しくなっちゃう♪ そうそう、夫のハルトエルも参戦するから、何卒よろしくね!」




「「「……ええええええええーーーーっ!?」」」











 そのハルトエル王太子はというと、騎士団管轄区にて騎士達を相手に当日の予定を確認していた。




 大勢がログレスの復興支援に送り出されていたが、この騒ぎに便乗するという名目で、ぞろぞろと帰ってきたのである。祖国が優先だとかいい感じの理由もばっちり添えて。




 大事な事なのでもう一回言おう。結界をばっちり張ってあるので、魔術師は侵入できないし会議の内容を聞くこともできていないぞ!!






「ジョンソン、兵の配備はこれでいくつもりか?」

「えっまっまあそのつもりでございますが……王城の警備に割いた方がいいでしょうか!?」

「寧ろもっと増やしてくれよ。警備は……後で僕の方でも調整しておくけど、近衛を数人配備するだけでいいから」

「……」


「ジョンソン? 話を聞いているかい?」

「……あえー」

「もうジョンソン様ったら! 折角のパーティなのに、どうしてそんなにぼーっとしてるんですかぁ~」

「あひいいいいいいレオナ様っ!!! 至極真っ当にその通りでございますっ!!!」

「うふふ~。やっぱりしゃきっとしているジョンソン様、素敵だわぁ~……」

「おぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!」






 どうしてカンタベリーに行ったはずのレオナがここにいるかと言うと、上層部の教育がグダグダだったのに嫌気が差して、糸がぷっつんと切れて全員殴り倒して来たらしい。




 お陰で気分がすっかり元通りになったジョンソン。レオナの前では相変わらず見栄を張ったり恰好つけたり好意があるのがバレバレだが、部下の騎士達はそんな彼を頼もしく見守っている。






「んー……やっぱり団長はああじゃないとな!」

「恋愛クソザコだからこそ輝く人間……うえっ」

「アルベルト先輩! まだ脇腹の怪我が治っていないんですから、無理はしないでくださいよ!?」




 参戦に向けた礼儀作法戦闘技術を振り返りながら、語り合うのはカイルとダグラス、そして病み上がりのアルベルトとレーラであった。




「うう……くっ。鉄剤鉄剤……」

「レーラ先輩も無理しないでくださいね? 休んでてもいいんですよ?」

「いいえ……後輩達にだけ楽し……負担を負わせるわけにはいかないわ……鉄剤はどこ……?」

「これをお飲みください! 医療班謹製女性専用鉄分供給タブレットです!!」

「ああ……ありがとう、レベッカ……」




 そうして右手にタブレットを握らせてきた人物の方を振り向く。






「……」






「……レベッカ!?!?」

「お前、診療所にいたはずじゃ……!?」

「うちもいるよん!」


「ウェンディ!! お前っ、昨日見舞いに行った時はまだ目覚めないって……!!」

「パーティと聞いて死ぬ気で起きてきたわコノヤロー!!!」

「うちも!!! 魔法学園で暴れ回るつもり満々でいた!!!」

「あ、ああ、くっ……!!!」




 武器を落とし泣く泣く地に伏すカイル。




「え゛っカイル君!?」

「何よカイル!?」

「す、済まない……嬉しくて、嬉しくてな……」


「おい二人共、参戦するのはいいがくれぐれも気を付けてくれよ!? これ今度は永眠になっちまったら意味ないからな!?」

「じゅーじゅー承知っ!!!」

「焼肉じゅーじゅー!!!」

「今夜は焼肉っ、天に会食の炎を轟かせんっ!!!」




 会話に混ざるようにしてやってきたユンネ、そしてデューイ。



 更にその後ろには、明らかに鎧を着ていない、傭兵と思われる人物が五人。




「おらー!!! テメエら何勝手に帰っとんじゃー!!!」

「あー!!! おめえはいつぞやの大酒豪!!! エマっつったなあ!?」

「そういうお前は狐のアルベルトォォォ!!! 起きてたんかいワレェェェ!!!」


「傭兵のマットです。祭があると聞いてやってきました」

「傭兵のイーサンです。動機は兄者に同じ」

「傭兵のジョシュだ! 何かもう色々と兄弟に同じ!」

「アビゲイルだ。私はそれに加えてチャールズ殿に恩があるからな。返すつもりで便乗するぞ」




「そうそう!!! 私らは騎士共に顔が知れてるからこうして来たが、他にも傭兵ギルドに詰めかけてるぞ!!!」

「ソーいうことだぜマイマスター。アンドグレイトマスター!」






 ハルトエルとジョンソン、レオナがそれを聞き付け、うずうずしながら傭兵達に近付く。






「市井の間にも広まっているのですか……!」

「ああ。最初は私らと一緒に来た傭兵にしか知られてなかったが、そいつらを経由して一般人にも広まってるぜ!」

「まあ、一般の方も? それはいけませんわ~」


「や、やっぱり、聖教会に属する司祭という点から?」

「一般の方々はきっと戦闘訓練を積んでいないはずですわ。気休め程度にしかならないかもしれませんけど、わたくしが戦闘の極意を教えてやらないと~!」

「ふぁあああああああ!!! それでこそっ!!! レオナ様でございますっっっ!!!」




「貴女はそれなりに戦える方と。ふふ、是非とも手合わせをしてみたい……」

「このパーティが終わりましたら、後夜祭で楽しみましょう~!」

「それはいい提案だ。とにかく……ああ、やることが多すぎる! 手が空いている者を集めてくれ、レオナの提案を実行に移そう!」

「了解っ!!!」











 騎士も貴族も魔術師も。一般人も商人も!



 人という者は、祭りが大好き!



 それが暫く抑圧されていたってんなら、尚更だ!

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