第355話 魔改造をしよう・その三

 四日目。毎日門限ギリギリまで作業をしている為、結構なペースで作業は進んでいく。






「木材いっちょーあがりー!」

「待ってたよー! こっちこっちー!」




 リーシャやカタリナに先導されて、木材を乗せた台車をずるずる引っ張るエリス。




「先にこの道だけ整備しておいたんだ。どうかな?」

「上出来! 柵とか買ってきたの?」

「うん、小さいのだけどないよりましかなって」




 そして到着した先では、四角く削られた入り口が。




「いやー削るの大変だったねこれ!」

「魔法を使えば無理矢理押し込めることもできるけど、削った方が手っ取り早いわね」

「えっと……これを嵌めるんだよね?」

「その前に機構を取り付けるわ。取り敢えずそこに寝かせて頂戴」

「そうだったそうだった、はーい」






 台車から洞の中に木材を下ろし、サラはその上に座る。






「んーと、真ん中辺りにノブをつけるんだよね?」

「ちゃんと計測して取り付けなさい。ほい定規」

「ありがとー」


「ノブと同じ位置に空錠を取り付けて、ノブを回すとそれが外れて開閉可能になるってわけよ」

「へー、そんな仕組みなんだ」

「まあこの洞にくっつけるならそれが一番。蝶番式は手間かかるから。さあ道具を準備なさい」

「んしょー……」




 鉄釘をばらばら小箱に移し替え、金槌を持つ。




「ふわあ……どきどきする……」

「あたし代わろうか?」

「ううん、わたしが作りたいって言ったんだもん、頑張る……」

「その意気よ。まあ最初はちょこちょこやっても構わないわ。徐々に慣れていきましょう」

「はーい」






 たんたんこんこん、たんとんとん。




 軽快に釘を打つ音が島に響く。






「ふぅー……」

「よし……初めてにしてはいい感じね」

「えへへ……」

「にやにや」


「……何よぉリーシャったら。そっちの仕事は終わったのー?」

「もう大体ね。私のセンスでばーっちし飾り付けしといたわよぉ!」

「凄い綺麗な飾り付けだったよね……あたしにはできないや」

「外観も飾ろうって提案してくれたのカタリナでしょー? そんな卑屈にならないの!」

「……うん」

「照れてるー。かわいー」


「ほいほい、休憩終わりにしなさい。次は空錠をつけるわよ」

「はーい。これ起こしたほうがいいかな?」

「普通に考えなさい、横から打っても曲がるでしょうが。上から打った方が確実よ」

「ですよねー」

「じゃああたし支えるね」

「私も!」

「よーし、せーので持ち上げよう……」








 それから数十分後、また島に来訪者が。






「くぅっ……」

「何ですかヴィクトールさん!! 袋持っただけで音を上げてますか!!」

「貴様も辛いだの何だの言っていただろうが!!」

「はいはい、終わったら二人仲良く湿布族な」

「「何だそれは!?」」




 アーサー、イザーク、ヴィクトールの三人は魔法陣訓練場に大きく膨らんだ袋をどすんと置く。この中ではアーサーだけが涼しい顔だ。




「……やはり設置しないと駄目か?」

「ダメだろ。境界線がわかんないと揉めるだろ」

「貴様……まともに答えるとは……」

「内心わかってる癖によぉー!!!」

「ぐっ……」


「おんやぁアーサー君!!! 君も湿布族かそうか!!!」

「ずっと腰を曲げていたから、肉体にきただけだ……やるぞ」

「ワンワン!」




 カヴァスに続きサイリとシャドウも出てきて、


 主君に発破をかけるだけかけていく。




「って手伝わないんかい!!!」


「――♪」

「俺にどうなってもらいたいのだシャドウ……!!」

「カヴァス、頼む。この通りだ。手伝ってくれ」

「ワンワー……」




          とんとん、かんかん、ぎぎぃ……




「ワオーン!!」

「おい、待て、何処に行く――!?」






 サイリとシャドウもカヴァスに続き、そして森の奥に消えた。






「……あいつ」

「アイツ……!!」

「彼奴め……」




「「「覚えておけ色々と……!!」」」











「ワンワン!!」

「――」

「♪」

「あら、珍しいお客さん」




 二人と一匹が洞まで辿り着くと、扉は殆ど完成済み。


 入り口の空間に設置して、開き具合を調整していた所だった。




「見て見てカヴァスー。これわたしがとんとんしたんだよー」

「ワオンッ!?」

「そんな驚くことないでしょーもー」

「ていうかアナタ達が来たってことは、他の三人も来ているのね」

「♪」



 腰を曲げて痛そうにするシャドウ。ヴィクトールとして表出した、その表情が鬼気迫っていて妙に現実的だ。



「足腰貧弱男子共が……」

「アーサーって武術部なのに……」

「あーこっちはこっちで忙しいからそっちには手伝いにいけないって言っておいてー」

「ワオーン」





 リーシャはスプレー缶片手に扉に絵を描き、カタリナは中に敷いてあった絨毯の汚れた箇所を裁断している。





「この絨毯もそろそろ買い替え時かな。実家から持ってきたから古臭いよね」

「デザインは別に気にしてないよ。でも流石に、毛羽立ちとか汚れとか目立ってきたなあ」

「新しいの買いたいね。だけど皆で出し合って買いたいな。あたしもちょっと厳しくなってきたから……」

「よーし、それじゃあ……」




 早速作った扉を開き、靴を脱いで中に入る。そして紐と出っ張りで取り付けた、伝言板を早速活用。




「『絨毯買い替えますのでお金を募集します エリス』……硬貨入れる貯金箱とか用意しないと」

「募金なの? あのエルフに頼まない?」

「それは……流石に全部任せっきりって言うのも、何か違うでしょ。ここはみんなの島だから」

「一理あるわね。アイツが金全部出したとなると、それを理由に独占される可能性がある」

「そんな卑屈な考えじゃないよぉ」

「合理的に考えるとそういったことも想定されるのよ」


「てかこの感じだと靴箱とか欲しーい」

「あと扉作っても、閉めると中が真っ暗ね……ナイトメアに任せてもらうってのもありだけど、やっぱり光源はあった方がいいわね」

「木の中だからランタンとかいいかな!? 何個も設置して、装飾もそれに合わせて輝くようにして……えー! やっば今から改造しないと!!」

「吹きかけるだけで光を反射するようになる魔術塗料、確かあったわね。それ試してみたら?」

「オッケーありがとー!! あ゛ー肝心のランタンも買わないといけない!!」

「また金がすっ飛んでいくわね~」








「……くすんっ!!」

「ハンス? 風邪?」

「ち、違うよ……ふんっ」

「そうか。これ、明日、持ってく。おれ、わくわく」

「ああ、そうだね……」




 ルシュドは当初の予定のうち、半分の案山子を作成完了。








 そして翌日五日目、作った案山子を全部持ち運んだ。






「ふー……これ、最後!」

「訓練場、これにて配備完了だぜー!」




 打ち合いができる程の空間、武器を入れる倉庫、案山子を取り付けられる区画に簡素な手水場。


 自分達の持てる全力を注いだ訓練場を見て、クラリアは満足気に腕を伸ばす。尻尾も耳もばたばたさせている。ルシュドもハンスも達成感に満ちた顔で見回した。




「うおおおおおお!! 早速訓練したいぜー!! やろうぜルシュドー!!」

「クラリア、やるぞー!!」

「ああちょっと……はあ。まあいいか……」




 手甲と斧を持ち出し、早速打ち合いを始める二人。




 その後ろから、死んだ目をして近付いてくる二人。




「おおう……騒がしいと思ったら、こっち完成したかぁ……」

「ああ……? きみ達何でそんなよぼよぼなの?」

「柵、やはり余分に買ってきてよかっただろう。こっちに設置するのにも役立った……」






 イザークとアーサーが、額に汗を浮かべ、腰を労わりながら打ち合いの様子を眺める。






「うっわくっさ。臭いきついんだけどきみ達」

「これは保健室謹製の特製湿布でな……」

「知るかよそんなこと」

「りょーやく口にテイスティングビターだぞ!! 食ってないけど!!」

「知らねえつってんだろ……で? そこまでしてやった作業の進捗はどうなの?」

「ばっちり完成したぜ!!」

「あの二人は夢中になっているみたいだから、ハンスだけ案内しよう」








 こうして適度に平らな道を通って、到着したのは泉の辺り。



 そこには組み立てられた椅子が三つと、ベンチテーブルが一つ。後者は木陰に位置して程良い日光に晒されている。








「一応こっちの椅子は自由に動かせられるよん」

「……」


「どうやらご満悦のようだな」

「……あ?」


「ボクが気を利かせましてねぇー!? ハンモックの方まで飾り付けといたんですよ!!」

「……ふーん」

「嬉しいんだろ?」

「殺すぞ」

「久しぶりに殺害予告聞いたなぁ!」




 ハンモックの近くにも椅子やテーブルが設置され、羽を伸ばせる環境が整備されていた。それを触りながら眺めるハンス。






「ふん……」



 早速ハンモックに昇って、横になる。



「かなりいいんじゃないのか……」






(なあアーサー、このまま放置して帰っちまおうぜ!)

(お前だけ帰っていろ)











 それぞれ改造の成果に浸っている中、彼もまた悦に浸っていた。




「……」


「ふん……」


「さて……」




「なーにしてるんだよぉオマエはよぉ!!」

「があっ!?」




 魔法陣研究場の中心で、背後から肩を叩かれるヴィクトール。


 振り向くとイザークがにやにやして立っていた。




「貴様なぁ……!!」

「オマエもかなり満足してんだろ!? わっかるよぉーそん気持ち!! ボクも今そうだもん!!」

「わかったから肩を叩くな!!」



 手を振ってほどいた後、ヴィクトールは魔法陣研究上の中央に向かって歩いていく。そこには風呂敷が一つ置いてあった。



「それって魔法陣描くやつか?」

「そうだ。折角ここまで仕上げたのだ、試しに一つは描いてもいいだろう」

「いいぜー何の効果か気になるしな!」

「効果……そうだ、アーサーも呼んでこい。奴にも協力してもらう」

「了解したー!!」






      ~そして呼ばれた~






「協力してほしいことって何だ」

「貴様ではなく、貴様のナイトメアだがな。そしてイザークのナイトメアもだ」

「サイリに何か用なの?」

「カヴァス、出てやれ」



 一人と一匹が繰り出し、最後にシャドウも飛び出す。



「ワオンッ!」

「全員この中に入れ。そうしたら起動するぞ」

「?」

「魔力供給はなくていい。俺が予め供給しておいた分で完結する」

「――」




 こうして三人が魔法陣の中に入る。






「ええと、この魔法陣は……闇属性か。よし、夜想曲の幕を上げよ、カオティック・混沌たる闇の神よエクスバート




 すると――




「ヴァーーーッ!?!?」

「――!!」

「!!! ~~~~!!!」






 吠えて飛び回るカヴァス、必死に手で振り払うサイリ、身振り手振りで主君に抗議するシャドウ。


 それもそのはずで、魔法陣が発動した瞬間、紫の茨が二人と一匹を襲い出したのだ。






「この間主君を見捨てた罰だ」

「ぎゃーーーっはっはっはっは!!! やっぱそうか!!! よくやった!!!」

「くっ……あははっ」

「ワンヴァンッ!!!」

「!!!」


「もっと出力を上げてもいいんだぞ」

「ワッホーンッ!!!」

「――」




 これに懲りた二人と一匹は、一晩中宿題や掃除をやらされたとか何とか。











 そして六日目。土曜日にして最後の仕上げにかかる。






「道の整備ってこんなに疲れるもんなんだぁ……」

「そりゃあ手作業でやってるからねぇ」

「アタシ知ってるぜ。この後に結界をばーってやるんだろ?」


「そうだ。保護結界をかけて、野生の動物や魔物が侵入できないようにする。そうして通行の安全が保障され、経済の安定も保障されたのだ」

「重要な役割を担ってたんだなぁ」

「歴史の授業でやったと思うのだが、イザーク」

「う゛っ」

「ヴィクトールゥ、アナタ口だけ動かして手を休めないで頂戴?」

「……」






 スコップや軽めの魔法を用いて、土や草を避けていく。それを均して柵を立てるだけでも、立派な道の完成だ。



 イザーク、カタリナ、ヴィクトール、サラの四人でせっせとする作業。アーサー、エリス、ルシュド、リーシャは料理部、クラリアは武術部で遅れるそうで――




「何処行きやがったあのエルフ」

「あー、多分ハンモックの所じゃね? 随分気に入ってたみたいだし」

「フン……」




「ちょっと魔法の実験台になってもらいましょう」




 サラは杖を取り出し、明後日の方向に向け、口をもぞもぞ。






「……ん?」

「雨音……? 近いかな?」

「まるですぐ隣で降っているかのよう――そういうことか」




 ヴィクトールが納得したのに合わせて――



 森の方からハンスが駆け付けてくる。






 雨に濡れて身体を温めようと擦りながら。






「どういう領分だてめえ!!!」

「アナタの方こそ白昼堂々とサボるのやめてくれる?」

「どうしようがぼくの勝手だろうが!!!」

「ここは皆が集まる島だ。故に協力するのが「サボっていたなんてルシュドが聞いたらどんな顔すっかなー!!!」


「……」





 ヴィクトールの言葉よりも、イザークの言葉の方が効いたようだ。





「……貸せよ」

「え、あ、はい」

「……」




 黙々とスコップで地面を均していくハンス。道具を取られたカタリナは茫然。




「……オマエ、いい加減アイツの扱い方覚えた方がいいぜ?」

「今ので少し理解できたように思えたが、あんなことを言うのは俺の性分ではない」




 ふと空を見ると、雲に隠れて霞んでいる太陽が、頂点に達しようとしていた。




「そろそろ正午に差しかかるか」

「ええっ、ボク飯持ってきてねーぞ。午前で終わると思ってたもん」

「ワタシも持ってきてないから人のこと言えないわね」

「何故そこまで楽観視してるんだ貴様等……」

「しゃーない、何か買ってきてよサイリ」




 黒子はそれに対して頷いた後、すたすたと走り去っていく。




「アイツら来るまでにどれぐらい終わるかしらねぇ……」

「終わらなかったら手伝わせるまでだ」

「おい、こっち終わったぞ」




 だらだら駄弁っている間に、洞の入り口までハンスは掘り進め、真っ平に均していた。






「んー、上出来。後でクッキーでもあげるわ」

「ふん……」

「ルシュドとかこれ見たらびっくりするだろうな!!」

「ふん……!!」


「サイリが帰ってくるまで休むのはどうだ。その間魔術を組み立てておきたい」

「え? 魔術って保護結界っしょ? 魔物とかいないのにいらなくない?」

「雪や雨が積もらないようにする防寒結界だ。実際、今も雪が積もっていて苦労しただろう」

「ああ~そういうね。何か手伝える?」

「手数が必要かもしれない。まあ様子を見ていろ」

「ういーっす。んじゃあとにかく休むか~」








 この後アーサー達も無事に合流し、道を整備する作業は着々と進んでいった。




 そして翌日、七日目には――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る