第340話 それぞれの戦況

「試合――開始っ!!」

「魔法具点灯!!」




 ごぅん、ごぅんと、腹の底から響く音を立てて魔法具が起動する。


 それは色鮮やかな地図を映し出し、横に文字も表示して確実に陣地を分析していく。




「おおぅ、大分色がどぎつくない……」

「パーシー先輩本当にやってくれたんだ……感謝!」

「礼なら後でだ。指令に入れ」

「おうよっ!」






 探知器や投影器と睨み合いながら、生徒会は指示を飛ばす。






「第二混成部隊! 今はとにかく前進してくれ! 属性は火だ、魔力を巡らせて熱に突っ込んでも大丈夫なようにしておけ!」


「えーっと、そっちは雷属性か……んー! 確か氷属性主体の生徒ばっかだよね、第三支援部隊。じゃあそこで待機しておこう、フラッグライトが点灯されたらまた連絡する!」


「流石にリネスやウィーエルは闇雲に突撃するような真似はしないと思うけど……一応警戒していてね。その先は水属性だ、雷魔法を使うと物理的にやばいからな!!」






「サラ、こちらは特に不都合は見当たらない。当初の予定通りに動け」




 雑音が僅かに入った後、伝声器から彼女の声が聞こえてくる。






「……単独で先行して魔法陣を展開するのよね? 任せてよ」

「事前に話したが、他にも魔法陣を展開できる生徒が遊撃班として動いている。彼等とも連携を取って、バランス良く魔法陣を展開するように。トーチライトが間に合わない場合、特に貴様の魔法陣が生命線になる」

「はいはい。まっ、頑張りましょうかね」




 一旦伝声器の電源を切る。それからハンスの伝声器に回すが、




「……出ない」

「何だって?」

「奴め、こちらの連絡には反応しろと言っていたはずだ……リーシャ」






「……はいはい! 何だしょ!」

「ハンスの奴を見つけたら連絡を寄越せ」

「うぇー!? あいつもう連絡着かないのー!? 何やってんのよもー!!」

「可能な範囲で構わない。目の前で交戦があった場合にはそちらを優先させること」

「りょーかーい!!」











<試合経過三十分 残り時間二時間三十分>




「よーし……状況は?」

「ちょっと怪我しちゃったかな。今から薬草を塗りたくるよ」

「オッケー。んじゃ、それでいいかな……待機だ」



 部隊を率いる生徒の指示を受け、カタリナは杖を降ろす。



「そろそろ属性が変更される。軽く衝撃があるから、構えておけ……」




      三、二、一、




「ゼロッ……くっ」






 地面が白く光ったかと思うと、薄い緑色で風を纏っていた地面は、紫の毒々しい地面に様変わり。



 その際に魔力の波が発生して、煽られて転倒する生徒や眩暈もする生徒も。






「闇属性か……自分の属性が闇の奴は?」

「ん、あたし」

「カタリナか。よし、俺と一緒に他の生徒のフォローに入るぞ」

「了解」



 杖を片手に移動を開始するが、すぐに立ち止まる。






「……向こう。いる」

「まじか? お前こんな距離から気付くなんて――」



 部隊長の生徒は目視で確認した後、伝声器で連絡を取る。



「皆、リネスの部隊が前方から来ている」

「……幻影魔法とかじゃなくって?」

「ちゃんと探知器にも反応がある。結構早いお出ましだったな――とにかく準備をするぞ。動けない奴は無理をせず、後方に回ってくれ」




「……」




 目の前から来ている敵を前に、カタリナは深呼吸をする。




「……セバスン」


「……ええ」


「あたしに合わせてね……」


「承知の上」






 紫色、闇属性の魔力を纏っている地面を一瞥して、






幻想曲と共に有り、ニブリス高潔たる光の神よ・シュセ






 足にクリーム色の光を纏い、



 足取り軽く、とんとんと地面を蹴る。




「あたし、前線に出れるよ。いつでも指示を出して」

「心強いな――では、行くぞ!」











<試合経過五十分 残り時間二時間十分>




「ウチら!」

「赤薔薇!」

魔法攻撃ウィザード部隊~~~~!!!!」




 彼女達の魔法が飛び交う。



 溌剌とした一切容赦のない魔法。



 明るく楽しく軽快に。普段通りの快声が彼女達の呪文だ。






「ち、ちくしょー!! ここまでとは!!」

「だが案ずるな!! 俺達にはこれがある!!」



 敵の生徒は袋から、きつい臭いのする玉を取り出す。



「んっへっへっへえこれにはなんと!! 油がたんまりと入っているのさ!!」

「はぁ!?」

「ぎゃははははははは燃えろー燃え盛れー!!!!」



 地面に叩き付ける、その瞬間を狙って、






円舞曲は今此処に、サレヴィア・残虐たる氷の神よカルシクルッ!!!」




 狙いは油玉を持つ右手――






「ぎゃーーーー!!!!」






 カッチコチに固まる生徒を背に、ピースサインを決めるリーシャ。隣ではスノウも得意気だ。






「いよーっかっこいいよーっ!! さっすがリーシャ!!」

「はっはっはーもっと褒めたまへー!!」   ぽとん


「……んあ? 何の音?」


「ぎゃー!!!! リーシャ後ろー!!!!」




「うえっ?」






 どうやら何かの衝撃で、油玉が落ちてしまったらしい。



 まるで化物かってぐらいの炎がごうごうと――






「に、逃げるぞーーーー!!! 一時てったーーーーーい!!!」

「「「ラジャーーーーーー!!!」」」




 リネスの生徒が逃げ帰るのを見て、ようやく状況が理解できた。




「ちょまーーーー!?!? どうすんのあれーーーー!?!?」

「みみみみみみんなびっくりしてにげちやったのでーーーーす!!!!」

「……リーシャ!! 聞こえるかリーシャ!!!」




 こんな雰囲気だと冷静なヴィクトールの声だけが頼り。




「はーーーーい!!! どうにかして!!!」

「前に逃げろ!!! 二百メートル進めば火属性の領域から脱出できる、そこでトーチライトだ!!!」

「あひいいいい了解いいいいいい!!!」




 スノウにも助けてもらって、しゅばばばばばーっと走り抜ける。








「……あひぃ」

「お疲れ~……」

「何よ真っ先に逃げた癖にー!?!?」

「いやあれどう考えたって自分の身を案じるじゃん!!!」


「よーし曲芸体操部式解決法!!! 五タピオカで手を打つ!!!」

「三にして!!! 三で!!! オカネタリナイデスー!!!」

「馬鹿騒ぎはそこまでにしろ」




 第一攻撃部隊、ヴィクトールによって冷静に立ち返る。




「近くにフラッグライトがある。えー、その位置は……」

「ぷっ、わからないでいる……」

「貴様等なあ……ああ、見つけた。第十三フラッグライトだ」

「十三~? ってどの辺だ?」

「真ん中に近い所っしょ。大分南下してきたね」

「休憩挟んでいい? それからも積極的に進軍していく感じで」

「ああ、その方針で頼む。だがくれぐれも無茶はするなよ」

「りょりょりょ~」




 伝声器を切った後、すぐに魔力水を飲む。浴びるように飲む。




「あと五分ちょい? また属性が変わるっぽいよ」

「んじゃ~それを確認してから移動すっか。マジもぉ火はこりごり……」

「水か氷がいいなー! 私凍らせられるから!」

「いや、それはリーシャだけだろって!! あはは!!」











<試合経過一時間十分 残り時間一時間五十分>






「お疲れサラ。マジショ食べる?」

「ああ……お疲れ。パサパサするからいらない」




 同じく魔法陣を展開していた生徒と合流し、休息を取っていたサラ。上っ面な返事をしてしまったのは、話しかけられるとは思ってもいなかったため。




「サラは凄いね。あんな回復に長けた魔法陣、僕らの仲間でも作れる人はいないよ」

「アナタも結構なの作ってるじゃない。仲間って、魔術研究部?」

「そうだよ。今回魔法陣張ってるのだって、殆どが魔術研究部だ。だから……どう?」


「何が?」

「園芸部よりも魔術研究部の方が居心地いいんじゃない? って」

「悪いけど、ワタシは草花と触れ合ってる方が好きだから」




         ずどん




「この爆発音……」

「引っかかった敵がいるみたいだ。見に行こう」






 二人が音のした方角に進んで行くと、そこには――






「キィィィ!! な、何なのよこれはー!!!」

「杖が、杖が!!! ああああ、熱いーーーー!!!」

「だ、誰か助けてくださいまし~~~!!!」




 学生服の着用を拒んだ貴族令嬢達。








「……魔法陣ぐらい配慮しながら進むだろ……」

「ほれ、救出救出」




 魔力を魔法陣の周辺に張り巡らせ、


 引っぺがすようにしてそこから解放する。




「た、爛れますわ……!! もっとまともな救出はできなかったんですの!!!」

「これ、拘束罠か。じわじわと痛めつけるのね……」


「トラバサミをイメージしたんだ。上手くできただろ?」

「そうね、叢に隠れていい感じに見えなかったわね」

「あなた達!!! わたくしの話を聞いていますかしら!!!」




 面倒臭い、と二人で杖を向けたその時、






「……都合がいいな。敵だよ」

「ひぃっ!?」

「わ、私達は下がっているから!!! あなた達で好きにして!!!」

「うん、足手まといは下がってくれた方が助かるよ――」






 のらりくらりと現れたのは、ウィーエルの生徒達。



 サラともう一人を見つけると、すぐに杖を構えて臨戦態勢を取る。






「こいつらは……」

「――」

「そうね、少し緩めていきましょう」

「!」




 サリアと合図を取り合い、一歩駆け出す。






小夜曲を贈ろう、セラニス・静謐なる水の神よマーシイ……うん、これで」




 地面から水が湧き出て、相手に流れ込む。






「うわあああああっ……!」

「ひぃぃぃ、き、聞いていない……!!」




 それに流される形で、生徒達は退散していった。








「……僕が行かなくても良かったみたいね」

「……」


「……やっぱりサラも気付いてる?」

「ええ……何というか、手応えがないわよね」

「ああ。何だか統制が取れていないみたいだ。今だって、まるで防衛をするかのようだったし」

「敵地に放り込まれて彷徨ってるみたい……」




 そこではっと思い立ち、ヴィクトールに連絡を取る。






「……何用だ」

「ねえ、ウィーエルの勢力分布って今どうなってるの。さっき数人と交戦したけど一分足らずに終わったわ」

「ふむ……」




 首を伸ばして探知器を見る。会話がそのまま入ってくるように、敢えて繋いだままの伝声器を持ちながら。






「おお、何だ何だ。こっちは順調に南下しているぞ。さっきリネスに四個ぐらい強奪されたけど、まあまだ何とかなるなる」

「……リネスか」

「そうそうリネス。ウィーエルは……あれ? そういやウィーエルに何か動きあったか?」

「今第十七フラッグライトを……取ったね、うん。これが初めての目立った動きかな?」

「分布は探れるか?」

「ええと……」




 つまみをかちゃかちゃ動かすと、地図上に緑色の点が表示される。




「ん……んんー? 何だこの分布?」

「部隊もあるけど個人で動いてるのが……えっ、半分ぐらい個人で動いていない?」

「何だこれ……そこまでエルフと人間って仲悪いのか?」

「それだけじゃない。こっちの初期位置付近、第一から第七の周辺にもちらほらいる。でも奪いに来る気配がない……?」

「それって個人? だったらこっちは補給部隊扱いで生徒会から出せるし、それを恐れてる可能性もある」

「そういうことかな……でもまだ半分も終わってないのに、不自然だよこれ」


「何か有り得ない動きしてんなあ。これは警戒しておいた方が……」

「では何人かウィーエルの動向に注視しておいてくれ。不穏な動きがあったらすぐに言え」

「了解」






 再び椅子に戻り、伝声器に呼びかける。






「……以上だ。満足したか?」

「ええ十分……そっちに伝えて。多分連中、統制が取れてない可能性がある」

「生徒会が仕事していないと?」

「まあそういう言い方もできるわね。だからリネス対策を重視して、ウィーエルはほっといてもいいんじゃないかしら。実際あの三下被れクソウザいし」

「ふむ、検討するか……」


「……そろそろワタシ行くわ。また、何かあったら」

「健闘を祈る」






 電源の切れた伝声器を置く。そして顎の前で両手を組む。仲間の取り留めのない会話が聞こえてくる。






「……やっぱり、あの生徒が関わってきてるんじゃねーの?」

「要監視の名は伊達じゃねーってことか」

「嫌な言い方だけどな……」











    ?????何をしているんですかね?????




「そっ、その……」




   ?????早く見つけて来いって言ってるんですけどね?????




「……本当にいないんです! 風に乗って、掴み所がなくて――!!!」




       ぐぎゃあ――




「ひっ……!!!!」




いるんですよね奴は?????だったら早く発見してくださいね?????発見するだけですからね僕が確保しますからね?????????




「ああああ……!!!」




しかし生意気ですね奴はやはり害悪ですねやつは滅ぼさないといけませんねヤツハクビヲハネテツブサナイトイケマセンネやーーーーーーーーーつーーーーーーーーはーーーーーーーーー






やつはし!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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