第307話 再びログレス平原~晩秋の空にストラム様を添えて~

 十一月に入って寒さは益々厳しくなるばかり。家に籠って熱を放散せずに暮らしていきたい所だが、今年に関してはそうはいかない。




 上旬の終わりから始まる、魔法学園対抗戦は魔術戦。生徒達は駆り出され、再びログレス平原に赴く。






「ふぃ~……疲れたわ」

「天幕張るのなんて久しぶりだねロザリン!」

「こんな腰を痛める仕事だったかなぁ……」



 起き上がって腰をぐるぐる回している所に、三人が戻ってくる。



「お待たせー。薪持ってきたよ!」

「今日の分のご飯も少々持って参りました!」

「ていうかあれじゃない? ウェンディとレベッカは騎士様だから、力仕事任せれば良かったんじゃない?」

「んなこと言ったら他の生徒達に顔が立たねえだろうが。で……」



 ローザは最後の一人、エリスに視線を向ける。






「……」




 結局、魔術戦に出場できる程度まで回復せず――




 今回は出場を見送り、応援だけという形になった。




 天幕も、療養を行っている五人で一緒。心的療法や血液採取も、普段通りに行う。








『自分のことは 自分がよくわかってます』




 肩から下げていたホワイトボードに手をかけ、すらすらと文字を書く。




『訓練もできてないのに 参加しても足手まとい』




『怪我だってするかも そしたら』






「もういい」




 震えながら走らせる手を、固く握って止める。






「……聞いたぞ。お前武術戦の時は凄かったそうじゃないか。皆に声かけて立食会って。いいなあ肉の包み焼き私も食いたかったぞ」

「何だよー、結局その話根に持ってんじゃん!」

「お前がジェスチャー付きで大々的に言うからだよ!! ……まあそんな感じでさ。別に対抗戦に出れなくても、できることはあるだろ?」

「……」




 頭を軽く振って、目を瞑る。




 再び開かれた目は、決意を宿していた。






『わたし頑張ります 何が頑張れるかわかんないけど』




『でもできることをやろうと思っています』




「そうだ、その意気だ……「ふううううううううううう!!!!」






 女子生徒達が楽しく天幕を建てている最中、




 響き渡るはテンションぶち抜けた男性の声。






「この!! ストラム様が!!! 魔法学園対抗戦は魔術戦にやってきてやったぜぅんぐう!!!!!」






 ローザは隣を通り過ぎたのを逃さず、炎を宿した腹パン。




 悶えている所を引っ張って、その辺の木の裏に連行していく。






「……んでてめえこんな時に来やがる……」

「んぎゃおおおおおおお!! お腹が!! あちゅいしいったいのおおおおおおおお!!」

「人の話を聞けよ!!!」

「へぶし!!!」




 今度は背中から殴られたことにより、両面から押されて正気に返る。




「……僕被害者だよね!? 急に殴られたもん!!! ねえ何で僕のこと殴るの恨まれるようなことした!? あっよく見たらもしかしなくてもアルーインの時の人じゃん!!!」

「んだよ、私のこと覚えてやがったか……」

「やさぐれデスボイスダメ女だよね!? めっちゃ覚えてるよあんな声出されたらんどぅばあ!!!」

「おう慈悲深い私が今からかくかくしかじかしてやっから有難く思え???」






~というわけでかくかくしかじかした~






「あーーーーーそういうことなのね僕完全に理解したよ」

「ならてめえが取るべき行動は何だ」

「僕の美しさを広めて、安心できるようにする!!!」

「ネムリン」

「ネムネムネムネム」




 普通の羊よりも尖って凶暴性に長けた角で、ネムリンは頭突きをかます。丁度ストラムの腹の中央に入った。




「んぎゃーーーーーーーっ!!!」

「よーしネムリン、ちょいと一仕事してもらうぞ。よっと」

「ネム~」




 ネムリンは雑にストラムを背中に乗せると、ローザと共に林から四人の元に戻る。








「……」




 エリスは目を見開き、カヴァスを抱き締めたまま、二人と一匹が出てきた場所を見つめていた。




「どうだった?」

「んっとねー、さっきの人が通り過ぎていった辺りで、ちょっと過呼吸になった。多分びっくりしたのもあるんだろうね」

「うちとソラさんで何とか落ち着かせたよ!」

「よしこれでこいつは害悪であることが確定したな」

「何か当たり強くない?」

「アルシェスと同じだ!!! 自己主張強いのは苦手!!!」

「……」




 ネムリンの上に拘束されている、ストラムを観察するエリス。




『この人 知ってます』

「まあそうだろうな。だが知り合いとはいえ、急に来るタイプの男は駄目だろ。現にさっき過呼吸になったじゃねーか」

「……」




 迷う素振りを見せたが、しっかりと頷く。




「んだろ? そもそもなあ、こいつ男なのに女子の天幕区に来るのがおかしいんだよ」

「確かに他の生徒も不審な目で見てたね~」

「というわけでこいつには然るべき場所に行ってもらう。頼んだぞネムリン」

「ネム~」











 そしてここは然るべき場所。






「僕、覚醒!!!」

「口を慎みやがれナルシストハゲ」

「僕ハゲじゃないんだけどー!?!? 君の目は節穴かなイザーク君!?!?」

「ハゲっていうのは単に見た目の問題じゃない、心の有り様のことなんだよ……!!」

「いい話風に纏めようとすんなあああああ!!!」




 こちらは男子の天幕区。ネムリンはアーサーとイザークにストラムの処理を任せてのっそりと去っていった。


 アーサーは今回もイザーク達の活動班にお邪魔している。現在は騎士達の動向に目を光らせつつ、天幕を張っている最中。


 そんな中厄介事をぶち込まれたのだが、何故か至って冷静だ。




「まあまあここは落ち着け……」

「アーサー君!!! 君は僕の味方をしてくれるのかね!?!?」

「折角来たんだ、天幕張るの手伝ってもらうぞ」

「うべっ!?!?」

「でも手伝ってもらったら、この間みたいに吹っ飛ばされないか?」

「騎士に手伝ってもらうのがいけないんだろ。こいつは一般人だから大丈夫だ」




 そう言ってアーサーは杭を一本投げ渡す。


 天幕と地面を接続させる、最も重要な一本だ。




「美しいストラム様、華麗に杭を打って優雅にオレ達の天幕を完成させておくれよ?」

「よっしゃらーーーー任せとけーーーーー!!!」

「扱いやす~……」




「いや一般人だろうが許されるわけがないでしょう」

「おおっカイルさん」

「アーサー殿、まさか貴方が進んで不正に手を染めるとは。少し幻滅しましたが少年らしいということで大目に見ましょう」


「今度は俺も反省したからな!! しっかりと取り締まりと監視だ!!」

「ダグラスさぁ~ん!! そんなのってありぃ~!?」


「状況はよくわからんけど、この僕の美しさに免じて許してくださらないカナ!?」

「イズヤは苛立ちを覚えたからこいつを爆発することをマベリに提案するぜ」

「~」




「えちょっ、爆発ってあああああ~~~~~~ん♡♡♡ぬるぬるしちゃうのぉ~~~~~♡♡♡」








 こうして各地で天幕も張り終え、本格的に魔術戦の幕が上がる。

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