第151話 騎士と学生・男編

「シュセ神に白手袋投げ付けてアレステナ神の眷属になった皆~~~~!!!! 今日も元気にしているか~い!!!」

「「「うおおおおおーーーー!!!」」」


「さあ今週もやってきました研鑽大会!!! 実況は年齢イズ彼女いない歴の宮廷魔術師ブルーノがお送りいたします!!!」

「ちなみにこいつの年齢は「解説のマッキー!!! 余計なことを言うのはやめてもらえるかな!?!?」

「うっわガチの止め方だこれぇ。んじゃあ早速やっていこぉ~」




「「「ふーーーーー!!!!」」」






「何故あんたも叫ぶんだ」

「オマエにだけは言われたくねえよ!!」




 今日はエリスがどこかに行ってしまった。リーシャと一緒に行動するということで追従はしなかったが、手が空いた隙を突かれ、イザークに闘技場まで連行されてしまった。




「ボクはアレステナ神に忠誠を誓った身!! 戦え争え戦士共、ボクの心の傷を埋めろおおおお!!」

「……何のことだ」

「オマエには!! 絶対わからない!! チョコレートもらえるの確定しているオマエにはなーーーーッ!!!」

「……はぁ」




 そこに見知った顔が一人近づいてくる。




「……おや君達。こうして会うのは久しぶりですね」

「あんたは……」

「カイルの兄ちゃん! あとイズヤもお久!」


「久しぶりに会ったことに感慨深くなりながら、今日は休みなのでこっちに来てみたことをイズヤは説明するぜ」

「まあそういうことですね」



 カイルは座らずに、柵に寄りかかって観戦する。既に試合は始まり、生徒二人が激闘を繰り広げている。それに群がる観客は男子が異様に多い。



「……今日は日曜日ですが、この後のご予定は?」

「特にない」

「ボクも正直ないっす!!」

「そうですか。なら少しばかり自分の手伝いをしてくださいませんか」



 アーサーとイザークは闘技場から視線を外し、カイルの顔を見つめる。



「……手伝いっすか?」

「はい。とは言っても、そんなに疲れることではありません」

「寧ろちびっ子には得しかない手伝いだとイズヤは考えているぜ」

「ちびっ子って何だよ!? ……ってのはさておき、興味はめちゃくちゃあるな! 行くぞアーサー!」


「何故オレも……」

「どうせさー、この後やることないんだろ!? ここに連れて来た時も暇そうな顔してたじゃねーか!!」

「……ああ。わかったよ、行くとしよう」


「オッケーオッケー! つーことで二人で行きますわ! あとこれ終わってからでもいっすか?」

「当然です。この大会が終了したら、自分の部屋にご案内しますね」

「……部屋だと?」

「はい。そこに二人に手伝ってもらいたいものが――」






「――これです」





 カイルは寮にある自分の部屋に、アーサーとイザークを上げる。





「……」

「……」




 紺色を基調にまとめられたリビング。そこの最奥に積み重ねられていた、玄関口からでもわかる物体の山。



 それは綺麗な箱だったり、お洒落な袋だったりと、とにかく様々ではあるが、どれも食品であることがすぐに理解できた。




「お二人もご存知の通り、明日は愛と感謝の祭日です」

「その影響でカイルはあんなにチョコレートやらタルトやらをもらっちまうことをイズヤは説明するぜ」

「騎士になって三年になりますが、毎年増える一方で。去年はギリギリ食べ切れたのですが、今年はそれ以上だったので食べ切れるか心配していたんです」


「……だから食うのを手伝えってことすか」

「はい。自分は手製の物を食べていきますので、お二人は既製品を食べていただければ。どれも美味しそうな物ですよ」

「わかった」

「……うぃーっす……」



 アーサーは無表情で、イザークはこの世の不平等を嘆くような面持ちで靴を脱ぐ。



 すると開けっ放しにしていた扉から、もう一人来訪者が。



「ぬおおおおお!!! 今の話、ばっちり聞こえたぜえええ!!! タダで有名店の菓子を食えるチャンス!!!」

「誰だよ!?」

「この声はダグラスの物だとイズヤは理解するぜ」

「そうだ、王国騎士一グルメな男ことダグラス・クレンだぜ!!」

「自称と直前につくことをイズヤは補足しておくぜ」

「ちょっとぉ!!! 折角格好よく決めたのに!!!」




 煙を吹いてスライディングをしながら、猛烈な勢いでやってきた男性。ピーナッツバターのような髪色で、口の際から生えている牙とやや尖った形状の大きな耳が特徴的だ。




「おお、猪の獣人だ」

「そうだ! 獣人の血が流れていることを活かして、大柄な体型と力が求められる重装部隊に所属している……って誰だお前達は!?」

「ボクがイザークでこっちがアーサーっす。魔法学園の学生っす」


「おお、学生か! 学生は食って体力付けないとな! ということで俺と一緒にチョコレートを食べよう! 俺と一緒に有名店の菓子をタダで食いまくろう!」

「何て自然な流れ且つ白々しい乞食なんだとイズヤは呆気に取られているぜ」

「ですが人が増えることに越したことはないです。ダグラスもどうぞ」

「邪魔するぜ!」





 リビングに入ると、これまたシンプルな配置の家具や荷物が目に入る。紙くずの一つも落ちておらず、そこにカイルの真面目な性格が窺えた。



 そんな部屋で、丸机を囲んで男四人はぼちぼち頂戴品を消化していく。





「このバターカップうめえなあ。どこのだ?」

「リングルスって書いてあるね。第二階層かなあ」

「おー、リングルス。確かお手頃価格の菓子の店だったか。最近地上階にも進出していた記憶がある」

「へえそうなんすか。んでアーサーは何食べてんの?」


「スコーン。ベリーが程よい甘みを与えて、口当たりがいい」

「マジか。一個もらってもいい?」

「構わない」

「あざっすーぅ」



 カヴァスとサイリ、そしてイズヤに加えて桜色のスライムも出てきて菓子を食べている。



「どうだサイリ? 美味いか?」

「――」


「そうかそうか。カヴァスは?」

「ワン!」


「美味いと言っているな」

「イズヤのほっぺは落ちてゴミクズになっちまいそうだぜ」


「キュ~」

「おうおうマベリ、ついうっかり身も蓋もない表現をイズヤはしてしまったぜ。気分を害して申し訳ないとイズヤは思っているぜ」




 イズヤはラグの上で丸まっているマベリを叩く。ぷよん、ぷよんと彼女の身体が揺れた。




「何か不思議なナイトメアっすね。食った物どこに消えてんすか?」

「それは~、オトメノヒ、ミ、ツってやつさあ!」

「キュルン!」

「色合いも相まって可愛らしいとイズヤはいつも思っているぜ」



 そこでイズヤは不意にベッドから起き上がり、台所まで歩いていく。



「ところで、もしもイズヤだったらこんなに食ってしまうと喉が渇いて仕方ねえぜ。だからイズヤは飲み物を用意しようと考えてるぜ」

「頼む。俺はローディウムブレンドで」

「セイロンのストレート」


「ボクは砂糖とミルクが一対一のコーヒーで」

「レモネードとかあったりしない?」

「確か氷室に……あったのをイズヤは確認したぜ。んじゃあイズヤは滑らかな手付きで用意してくるぜ」





 腹を満たす物に喉を潤す物が加わり、甘味を口に運ぶ手は止まる所を知らない。





「うーんいい香り。ボクは飲めないけど。にしてもローディウムブレンドってことは、あの石だらけの島に住んでいる人はこれ飲んでんすかね?」

「そうでもないみたいです。何でもローディウム出身の人間が調合したからそう呼ばれてるとか」

「へえ……まああの島で植物が育つとは思えないっすからねえ」

「このすっきりとした味わいが、荒涼としたあの島の風景を思い起こさせて「げえっぷ!!」……汚いですよ」


「すまんすまん。やっぱりスパーグリングは美味いな!」

「腹が膨れるので頻繁には飲まないんですけどね。専ら来客用です」

「つまり俺専用ってこったな」

「厚かましいとイズヤは思うぜ」




「……カイルさんとダグラスさんって、いつもこんな距離感なんすか?」



 イザークの何気ない発言から、話は進展する。



「まあそうですね……同期は同期なんですけど、少し特殊で」

「本来なら俺は一つ上の先輩になるはずだったんだ。だけど入団試験でドジっちまってよ……それでも諦め切れなくて、翌年も試験を受けたんだ」

「入団試験の一つに、当日指定された相手と協力して課題をこなすというものがありまして。自分とダグラスはそれで一緒になりました」


「頭は切れるわ指示は的確だわでヤバかった! 俺カイルとペアじゃなかったら絶対合格できなかったぞ!」

「自分の指示を完璧にこなしてくれる貴方も相当でしたよ」

「よっせやぁい!」



 互いを讃える大人二人を、学生二人は眺める。



「……何か、いいっすね。そういう関係」

「ん? お前達もそうじゃないのか?」

「それは……」

「その通りだ」



 アーサーは真っ直ぐ顔を上げ、きっぱりと断定する。



「……あんた、半年前に言ってくれたこと忘れたのか」

「いやっ……覚えてるよ!? でも……」

「あの時言ってくれたことが全てだ。違うか」

「……違わないけど……」




「……オマエの方から先に言われるなんて思ってなかっただけ」




 イザークはコーヒーを流し込み、クッキーをつまむ。ギリギリの所で飲み込めたのでむせない。




「……ははは! 微笑ましいなこういうのも!」

「そうですね……二人共、良い友人なんですね」

「ま、まあね~!?」

「何故照れる必要がある」

「そりゃあね!? いきなり本心聞いたら驚くよね!?」

「……そうか」


「何か盛り上がってる所に水を差すようでイズヤは申し訳なく思っているぜ。しかし部屋の中が色んな菓子の匂いが混ざった匂いでイズヤはむせかえりそうだぜ」

「では少し換気をしましょうか」



 カイルは立ち上がり、一つだけある窓を開ける。



「……ん」

「何だかいい匂いが入り込んできましたなあ」

「チョコレートがとろけるような、香ばしい匂い……今日休みの騎士が作ってんのか?」

「一体誰に向けてのチョコレートなのでしょうね」

「お前なあ!? 白々しいぞお前なあ!?」



「あ、そのことについてなんですけど! カイルさんって、もしかしなくても結構モテるんすか!?」

「その通りだ! 丸刈りなのにモテるんだ! その影響で毎年この時期になると、騎士や魔術師からたんまりと菓子を貰う! ずるいぞー、俺もタダチョコ食いたいぞー!!!」

「そっすか! そしてダグラスさんの性格も何となく理解できたっす! グルメなんすねダグラスさん!」

「そうだ、王国騎士一グルメな男だからな! その割には給料が少なくて食べ歩きとかあんまできねーけどな!!!」


「成程騎士様にも色々あるんすね!!」

「でも自称だから「うるせーぞぅイズヤぁ!!!」

「……ふぅ。賑やかだな、相変わらず」




 こうして冷たく澄んだ二月の空気を受けながら、男四人は菓子をつまんでいくのだった。

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