第132話 十人集えば・その1

「ふぃ~、着いた着いた~……はぁ」

「何かもう……一ヶ月ぐらいあそこにいた気分だよ……」




 エリス達を乗せた船はグレイスウィルの港に到着し、たった今接岸した。


 そして全員が船から降り、数日振りのアルブリアの空気を吸う。




「うむ……先程も言ったが皆は予想以上に疲れている。今週は無理をしないでゆっくり身体を休めるといい」

「言われなくともそのつもりっす」

「あんたはいつも休んでいるだろうが」

「えっオマエそんなこと言う!?」



「あはは……今回は何から何まで、本当にありがとうございました、イリーナさん」

「ああ。では私はこれでお別れだな」



 イリーナは六人の荷物を降ろした後、再び船に乗る。



「また機会があれば会うこともあるだろう。その時はまあ……よろしくな」

「私は会うの確定ですけどねっ!」

「ふふっ、そうだな。ではまたいずれ」



 船はイリーナを迎え入れた後、入り口を板で遮断する。それは生きる世界、数日だけ交わっていたそれが、再び分断されたことを意味していた。




 されど自分達は同じ大地に立っている事実は、この数日の旅で知り得たことである。






「……さて。まずは荷物を置きに行かないとね。いやー大変だ……」

「今は……うーん、正午ちょい前。船の都合とはいえ微妙な時間に戻ってきちまったな……」

「今から授業に出るのは正直……ねぇ」

「それなら島行ってうだうだしようぜー」

「ん? 島?」



 リーシャとルシュドは疑問符を浮かべて四人を見つめる。



「ああー……そうだな。この機会だし教えちまおうぜ」

「うん。旅行に行った仲だし、いいよね」

「お前が言うなら」

「あたしもいいよ」


「え、何々? このリーシャちゃんに内緒で楽しいことしてたな?」

「教えて。ください」



 リーシャは身をエリスの方に乗り出し、ルシュドもきらきら輝く目で四人を見る。



「実はね……わたし達、秘密の島を見つけて色々やってるの。まだ改造はこれからだけど見ていく?」

「え、何それ!? ちょー気になるんですけど!!」

「おれも、気になる。行きたい」

「じゃあ一旦荷物を置いて……それからどっちかの塔のロビーに集合して、一緒に行こう!」

「合点しょーちぃ!」

「おれ、早く、置く、くる!」






「……さて。準備はしてきたわね?」

「勿論だぜー!」

「勿論だよサラ! 何でもぼくに任せてくれ!」

「……」




 一方その頃みたいな雰囲気で、ここは放課後の温室前。




 サラ、クラリア、ハンス、ヴィクトールという、一見不思議に思われる四人組が、その入り口付近に集合していた。




「ところで男子二人。今回は作業しやすい服で来いって言ったのに、どうして制服なのかしら」

「は? 何でぼくが泥臭え作業服着ないといけないわけ? きみいっぺん死ぬか? ああ?」

「……そもそも手伝う気ではないんだが」


「まあいいわ、後悔しようがアナタ達の勝手。そしてクラリア、アナタが言い付けを守ってきたのに驚きだわ」

「動きやすい服装なら武術部で使ってる武道着がいいってクラリスが教えてくれたぜ!」

「ほーんつまりナイトメアの差し金ね。じゃあ把握もした所で行きましょうか」



 サラがそう言うと、隣に控えていたサリアが大きい籠を持って飛び立つ。



 クラリアは四角い形の斧、クラリスはのこぎりを抱え、サラはサリアと同じような籠を片手に移動する。ちなみに男子二人は文字通り手持ち無沙汰であった。




「ちゃんとカバーをかけたままで持ち運ぶのよ?」

「ああ、ばっちり持っていくぜ!」

「とと……おいヴィクトール、君は男子なんだから私と代わってくれよ」

「……だそうだクソエルフ」

「こっち振んな。死ね」






 こんな調子で一時間程歩き、場所を移動した四人。その目的地はというと、



 第一階層にある、魔法陣を通った先にある謎の島である。






「到着だぜー!」

「叫んでないで、とっとと荷物を置くわよ」

「……ん?」



 ヴィクトールが真っ先に島の異変に気付く。



「この気配……誰かいるな」

「あー、何か話し声もするねえ」

「なっ!? まさか、この島のことが他の人にバレたのか!?」

「……いいえ。恐らく帰ってきたんでしょう、アイツら」



 サラは大股でずんずんと巨木に向かって進む。





 近付くにつれ徐々に見えてくる、洞の中で飲み食いしている六名程――




「……失礼するわ」

「ぎゃー!!! びっくりしたー!!!」

「……こぼれたぞ」

「やべえ!!! サイリ何とかしてー!!!」


「全く……それで、あんたか」

「ん、貴女は……サラと、クラリア? だっけ?」

「おお! アタシのことを覚えてくれて嬉しいぜ!」



 サラとクラリアに続いて、ハンスとヴィクトールも洞の中に入る。



「あんたら……」

「この女とはどうにもつるむ機会が多くてな。その中で話を聞いて、何を思ったかこのクソエルフはちょっかいを出すようになった」

「いーじゃんいーじゃん面白いしー! あ、その他には一切言いふらしてはないから大丈夫だよ?」

「……」


「ハンス、島、来た。おれ、嬉しい」

「え、ああ、ルシュドもここにいたのか……」

「島、案内された。おれ、わくわく」


「……そうね、アナタ達いい所に戻ってきたわ。これで了承を取れる。あとクラリア、荷物はこっちに置いて頂戴」

「わかったぜ!」



 そう言いながら、サラはクラリアと共に手荷物をどんどん置いていく。



「え、何のこと?」

「……まあそうね、今の状況を見て考えてほしいんだけど」

「状況……?」



 エリスは周囲をぐるっと見回す。現在はお菓子やらジュースやらを持ってきて、絨毯の上に伸びながらパーティを行っていた所だった。



「机の上で食べたいなあとか……思わなかった?」





 その提案に、すっかり浮かれ気分の六人は目を丸くする。





「……ボクは別にかなあ。直ぐ隣に物置いていた方が楽だし」

「でもこのままだと絨毯汚れちゃうよね。現にさっきこぼしてたし」

「ぐぬう……」


「だけど机って言ったって……買うのもお金かかるし、持ってくるのも難しいし……」

「そういうことなら作ってしまえば解決するわよ」

「……成程、作るか」



 サラの言葉に、エリスは改めて彼女達が持ってきた荷物に目を遣る。



「……もしかしてそれ、全部テーブルを作るための道具?」

「そうよ。ワタシが欲しいと思ったから勝手に作ろうと思ったんだけど、戻ってきたからには了承を取るわ。いいかしら?」

「……そうだね。あっても困るものではないし、許可しまーす!」

「よし」



 その時エリスは初めて、サラが満足そうな顔をしたのを目撃した。



「ついでに戻ってきたからには手伝いなさい」

「え~……ボク達旅行から戻ってきたばっかで疲れてるんすけどぉ~……」

「あんたはやれ」

「ちょっとぉ!?」


「えっと、エリス、カタリナ、リーシャ。三人、疲れてる、本当。だからだめ」

「そう。まあ男子の力が借りれればそれで結構」

「本当はアタシが頑張る予定だったからな! 四人いればサンブリカ神の怪力だぜー!」


「……それ、元の諺はシュセ神の御言葉よね」

「武術部では当たり前の言葉だぜ!」

「あっそう、脳筋活動お疲れ様」




 サラはクラリアが持ってきた斧に手をかけ、一切の躊躇いなくカバーを外す。




「……それ伐採用の斧じゃねーか! そこからかよ!?」

「何よ、ここは木が豊富な森よ? 資材の現地調達は当然でしょう」

「ていうか、買えるの? それ……」

「倉庫にあるのを借りてきたわ。ちゃんと許可は取ってるわよ」


「マジかよ……借りれるなんて聞いてねえ……」

「悪用されないように痛烈な制限が付いてるけどね。さあ、十分食事をする時間を与えたんだからいい加減立ち上がりなさい」

「……ハイ」



 アーサーとルシュド、それに続いてイザークも立ち上がる。



「さあ、これから『K・N・S』の始まりよ……」

「……何だその単語は」

「『貴様の望むがままに創造しろ』。子供や学生や若者に向けて、素材と道具とついでにレシピをやるから好き勝手色々作れってジャンル。最近の流行りらしいわ」

「さいっすか……」




 こうして半ば強制的ではあるが机を製作する作業が始まった。当然ながら、一日で完成するわけではないので、じっくりと段階を踏んでいくことになる。

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