10-2 猫耳猫尻尾の妹
「
「え、ほんまにゃ? でもさなくんはおるんやろ?」
驚いた表情で猫耳をぴこぴこと動かし、首を傾げる女性。廊下を覗き込み、中の様子を伺う。
「さなくんって、真田宗治のことですか?」
姫奈が尋ねると、女性は嬉しそうに尻尾をぴんと立てて頷いた。
「せにゃで! さなくんはうちのおさにゃにゃじみにゃ!」
「おさにゃにゃに……っ……な、なるほど」
「ふふっ……ねえ龍斗、もしかしてこの人、隆一さんの妹じゃない?」
女性に釣られて“幼なじみ”と言えなくなった龍斗に、姫奈は笑いをこらえながら問いかける。
「妹さん? ……ああ、あの人の過去に出てきた、ポニーテールの……」
「ほお? よう分からんけど、君たちは
「ええ、まあ。隆一さんに妹がいるって話も聞いてました」
正確には本人には聞いたのではなく見たのだったが、姫奈は突っ込むことなく黙って聞き流した。
「ほにゃ、話は早いにゃね。うちは隆一の妹、
「黒井龍斗です、こっちが幼なじみの美山姫奈です」
「よろしくお願いします、鈴音さん」
にっと笑って挨拶を交わす姫奈。
だが二人の名前を聞いた直後に、鈴音が曇った表情を浮かべた。
「美山……黒井……もしかして、身内が幸民隊にいらしたにゃ?」
「え……そ、そうね。確かに幸民隊に居ました」
――しまった。苗字は言うべきじゃなかったかも。
そう思ったときは既に遅く、鈴音は悲しそうに目を伏せた。
「にゃんで、にゃんでさなくんはこの子達と一緒に……?」
しゅんと伏せられた猫耳はわなわなと震えていた。過去のことを思い出してしまったのだろう。
そう察した姫奈は鈴音の前に出て、鈴音の両手をきゅっと握る。
「鈴音さん、これには色々と事情があるの。聞いてくれる?」
「……分かったにゃ。聞かせてにゃ」
姫奈に向けられた瞳には、今にもあふれんばかりに涙が浮かんでいた。
姫奈は鈴音を居間に通し、今までの経緯を話した。
宗治と出会ったきっかけや、後に彼が相牙であることを知ったこと。
そして、宗治が姫宮家から去ってしまったこと。
ひとしきり話すと、鈴音は顎に手を当てて考える仕草を見せた。
「にゃるほどにゃあ……射影兎でさなくんの過去を見たんにゃね」
「アタシは真田が話してくれるまで待った方がいいとも思ったんだけど……」
ちらりと、隣に座る龍斗に目を向ける。
「し、仕方ないだろ。あの人自分のことあんまり話さないし、謎が多すぎて何をするか分かんなかったんだよ」
「にゃは、確かにさなくん自分のことあんまり話さへんにゃあ。これはさなくんもあかんかったやつにゃ」
にゃははと笑い声を上げて、鈴音は言葉を続ける。
「相牙であることを隠してたさなくんの気持ちはよう分かるけど、正直に向き合わへんとあかんかったにゃ」
鈴音は頬杖をついて、にっと笑みを浮かべる。
「鈴音さん、なんで笑っていられるんだ……」
「にゃ? 落ち込んでてもしゃーないにゃー思て」
「変にポジティブになるところは隆一さんと似てるのね……」
姫奈と龍斗は苦笑を浮かべる。
「誰が誰に似とるって?」
独特のイントネーションで、男性の声が聞こえてきた。
「うわ、この声は……」
「うわってなんやねん、うわって」
何の断りもなしに姫宮家に上がってきた男性は、鈴音の兄――隆一だ。
「三年ぶりくらいに久々に会うた兄に向かってうわはないやろ」
「ある。人ん家に勝手に上がるとかうわどころかドン引き以前の問題にゃ」
鈴音は中指を立てて、隆一を挑発する。
「実の兄に向かってそれはないわあ」
「妹に中指立てられるくらいのことを今までしてきたっちゅうことにゃ」
「俺はそないな意地悪とかした覚えはあらへんよ」
隆一はそう言って、わざとらしい優しげな笑みを浮かべた。
それは誰が見ても明らかな偽りの笑みだった。
「ほら、その笑い方! そういうところがあかんのにゃ!」
「にゃーにゃーうるさいわ。その口調どうにかならへんのか」
「これは化け猫の呪いにゃから仕方ないねん! ほっといてにゃ!」
猫耳と尻尾の毛を逆立てながら、鈴音は隆一に訴える。
「まあまあ、せっかく久しぶりに再会したんだから、穏やかに過ごしましょうよ」
龍斗少年がそう言うと、飛鳥兄妹は同時に龍斗を見る。
「ひっ……えっと」
二人の剣幕に怯えているのか、龍斗はひきつった表情を浮かべる。
「それもそうにゃね。今日はここまでにしたるにゃ」
「上から目線の言い方するなや……まあ、しゃあないか」
同時にふぅ、と息をついて落ち着きを取り戻そうとする二人。
その後に、隆一が鈴音に向かって問いかける。
「で、その化け猫の呪いっちゅうのはどういう経緯でかけられたどういう呪いなん?」
「これはな、ちょっと複雑なわけがあってん……」
視線を斜め下に向けた鈴音は、ぽつぽつと話し始めた。
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